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472、ヴィデロさんの所にも
錬金レシピ集と展開魔法陣の本、そして聖短剣スキルの本プラスおまけで地下で見つけた他の信者の人たちはだいたいマスター済みの聖魔法の初期本を手に、俺は一人ギルドの魔法陣魔法を使ってトレに帰ることにした。
モントさんの所で素材を入手して、その足でセィのギルドに向かい、魔法陣を登録して、登録してあるトレまで跳ぶ。ギルドの転移魔法陣は初めて使ってみたけど、獣人の村の森にある魔法陣みたいだった。行きたい街を思い浮かべて、そこの魔法陣の魔素の名残があれば跳べるとかなんとか説明を受けたけど、俺たちプレイヤーは普通に選択肢がウインドウに出てきた。どこに行きますかって。トレとクワットロしか選択肢がなかったけどね。
行先を選択して魔法陣に足を踏み入れると、目の前の受付の人がいきなり変わって、部屋を出るとトレだったというすっごい違和感が発動していた。
そっか。部屋の作りがどれも同じだから、受付の人がいきなり変わったようにしか思えなかったんだ。そしてその部屋を出るともう違う街っていう違和感もまさに部屋が全く同じ雰囲気だったからだ。顔を顰めながら魔法陣の部屋から出ていくと、受付カウンターは大分賑わっていた。
特に賑わっていた掲示板みたいなところに、この間ゲームフェスタで公表した内容が詳しく書かれた紙が貼ってあった。
これ、確か公式の方でもがっつり発表してたよな。ここでも見れるようにしてくれてるんだ。便利。
となんとはなしに眺めて、足を進める。隣の掲示板は今度は講習一覧がずらっと貼られていた。
その中の一つが、とても目についた。
「釣り講習、一回2000ガル。初心者用釣り竿付き。コースト村……へえ、こんな講習があるんだ。初めて見た」
とりあえず詳細をチャット欄に書き込んで、雄太に送ってみる。俺も釣りしたい。前にコースト村で貰った釣り竿の出番がなくて泣いてるよ。
ヴィデロさんと釣りデート行こうって言ってたの、いつ実現するのかな。っていうか、そうだった。ヴィデロさん、今ヴィルさんと一緒にいるんだった。
俺は掲示板を見ることを切り上げて、急いで工房に走った。
工房からヴィルさんちへの渡り廊下に向かい、ドアをノックすると、ヴィルさんの返事が返ってきた。
「どうぞ。勝手に入ってもいいんだよ」
「お邪魔します! ヴィデロさんは」
「マック」
いますか、と訊く前に、簡易キッチンの奥の方にいたヴィデロさんが顔をひょこっと出した。可愛い。
両手を広げたので、遠慮なく飛び込んでいく。
「王宮はどうだった? 無茶なこと言われなかったか?」
「全然大丈夫。ヴィデロさんとヴィルさんのおかげでスムーズに依頼もこなせたよ」
抱き着いたまま会話をしていると、苦笑顔のヴィルさんが俺にコップを差し出しながら、そういえばと口を開いた。
「さっきいきなり片手用の盾が現れたんだ。弟の所にも、マントが」
「片手用盾……? マント……?」
ヴィルさんの言葉を聞いて、俺は二人の手に渡ってきたアイテムに、眩暈がしそうになった。
ヴィルさんはわかるよ。ぐいぐいレベルが上がってるし、重要文化財的な物を色々発掘するし、何よりプレイヤーだから。でも。
「み……見せてもらってもいい……?」
ヴィデロさんの手にはどうして飛んできたんだろう。ヴィデロさんは、魔大陸に行けないのに!
ヴィデロさんが出したマントを鑑定眼で恐る恐る見た俺は、もしかしたらそのマントを羽織ったら魔素に負けない系のレアアイテムかな、なんて希望を無残にも打ち砕かれることになった。
『ダークネスアクワイヤマント:闇、漆黒の属性を奪い取る外套 着けていると%に応じて漆黒に溶けることが出来る(隠密A) 闇吸収0% 吸収と共にHP回復 聖属性で吸収した闇が浄化される』
これって、これを着て魔王に挑めってことじゃないよね。今まで大分歯車回収に尽力したヴィデロさんに、その報酬みたいな形でこれが手元に届いたんだよね。
まさかね。だって行けないよ、ヴィデロさんは。絶対に。
マントを持つ手が震える。
「いいマントだね。さっき王宮でレガロさんが大陸からのアイテムを皆に分けたから、ヴィデロさんの所にも来たんだよきっと。ヴィルさんのもね。俺も、貰ったよ」
嘘は言ってない。動揺してるように聞こえないといいんだけど。
俺は漆黒のマントをヴィデロさんに返した。
「きっと今までいろんなことに貢献してきたから、その報酬だねきっと」
必死で明るくそういうと、ヴィルさんとヴィデロさんがじっと俺を見た。そして、顔を見合わせて口元を緩めた。
「そうだな。きっとマックと沢山探索したからだな」
「うん!」
ヴィデロさんの言葉に頷くと、ヴィデロさんがギュッと抱きしめて来た。
ヴィルさんは苦笑しながら盾を取り出して、「ちょっと見てくれないか?」と盾をテーブルの上に置いた。
その模様はどこかで見た事のあるようなデザインで、すごくかっこいいんだけど、何となく何かが足りない、っていう感じがした。
黒いベースに、模様が金色。かなり豪華絢爛って感じなんだけど、真ん中にくっつけられている宝石は、ヴィルさんとヴィデロさんの瞳の色にそっくりの、深緑。
ヴィルさんはその後、宙を操作すると、パッと手に剣を顕現させた。
「あ、覇王の剣とおそろいのデザインだったんだ」
並べてみるとよくわかる。
二つは、絶対に同じ人の手によって作られてるはず。だって意匠も同じ、多分材質も似たような物で、何より、気配が同じ。
「それ、面白いんだ。インベントリの中で、必ず横に並んで収まるんだ。普通は入れた順に並んでいくだろ。でもそれだけは、必ずその剣の横に入るんだよ。対なんだろうな」
「対かあ。どんな効果があるんだろ」
「盾一つだけの時は『偉大な鍛冶師が作った片手盾』という説明だったな。今初めて並べてみたけど……うん? 説明が変わった……?」
ヴィルさんは鑑定をしているらしく、じっと剣と盾を見詰めた。
そして、なるほど、と一つ頷いた。
「やっぱり対だ。『覇王の盾』に名前が変わった。剣と共にこの世を覇するために作り上げられた盾。対になる剣があって初めて本来の力を発揮するとなっている。剣もだな。剣はステータスに補正がつくようだ。両方一緒に装備すると……」
ヴィルさんが左手に盾を、右手に剣を持ってみる。そして宙に視線を走らせる。
「スキルが追加された。剣スキルだな。「ドミネイトクラッシュ」ズバリそのまま相手の威圧を壊すスキルだ」
うわあ、まんま、魔王が覇気を出した瞬間それを叩き壊せって言われてるみたいだ。ヴィルさんも魔王討伐メンバーに決定されちゃってるのかなもう。
でもヴィデロさんのは違う。ヴィデロさんのは。
「すごいですね。もう『覇王の剣』もヴィルさんに馴染んでるみたいですし」
「この剣、面白いんだよ。他の剣を使って戦闘しようとすると、勝手に装備替えされるんだ。いきなり持っている剣が変わるのははっきり言って悪手なんだが、何度装備を外してもまた装備されてしまってな。天使が「呪われてるんじゃない?」なんて言ってたよ。俺もそう思う」
ははは、なんて笑いながら剣を見ているけど、それ笑い事じゃないから。
勝手に装備されちゃう剣って。ほんと呪いの域に達してるんじゃないかな。
しかも他の剣を装備してても勝手にそれを外しちゃうって。どれだけ自信満々なんだよこの剣。
耐久値とかどうなってるんだろう、と思って鑑定眼をしても、前と同じで名前くらいしか教えて貰えなかった。とことん俺この剣に嫌われてるよね。
「そんな剣は捨ててしまってもいいんじゃないか?」
ヴィデロさんが真顔でそんなことを言っている。絶対冗談じゃないよ。今の言葉。目が本気だったよ。
ヴィルさんもそれに気付いたのか、声を出して笑った。
「心配してくれてるのか? ありがとう。お兄ちゃんは嬉しいよ。でも、もう少しこの剣を育ててみようと思ってね。相棒もここにやってきたことだし。何かあれば叩き折るから大丈夫」
「目の前で俺の大事な人のことを傷つけるようだったら、止められても折るからな」
「その時は止めないよ」
「……お前のこともだ」
ポツリと付け足したヴィデロさんは、ふいっとヴィルさんから視線を逸らした。うわ、ヴィデロさん、ヴィルさんにデレた!
どうしよう、胸が高鳴る。可愛い。好き!
ヴィルさんもはいはいとか答えながらも、にんまり笑っていた。なんかすごく嬉しそう。いいなあ兄弟。
外は大分夜の帳が下りてきている。でもまだログアウトの時間には早くて、ヴィデロさんが宿舎に帰るのもまだ先で。
俺は、ヴィデロさんにそっとデートのお誘いをすることにした。
「ヴィデロさん。なんか、延び延びになっちゃったけど、一緒にこれから神殿に行かない? 今の時間なら混んでないだろうし。あ、それとも閉まっちゃってるかな」
「いや、神殿はこの時間に閉まることはないが……うん、行こうか」
ヴィデロさんの嬉しそうな顔を見上げて、ハッとする。
記念のプレゼントを用意しようと思ってて、すっかり忘れてた。
「あ、待って、やっぱりも少し先で」
「マック?」
言い出しっぺの俺がそういうと、ヴィデロさんは怪訝な顔をして俺を覗き込んできた。
「あ、のさ、何も、用意してなかった……。なんか記念になるようなの、用意しようかなって思ってたの、すっかり頭から抜け落ちてて……」
それよりも先に既成事実だけでも、なんて思っちゃったりして。
なんとなく不安が沸き上がってたから。だから。
「いいよ、行こう。大丈夫俺が用意しているから」
「ヴィデロさん」
「気に入ってくれるといいんだけど」
「俺、ヴィデロさんにもらったもので今まで気に入らなかったことなんて一度もないよ」
「なら、大丈夫。ちゃんとリサーチ済みだから」
手をとられて、「行こう」と促される。
後ろではヴィルさんが「思い立ったが吉日っていうだろ」と、笑顔で俺たちの背中を押してくれた。
もしかして、ここでその話をヴィルさんとしていたのかな。二人の時はどんな話をしてるんだろう。
まだまだプレイヤーたちが歩く大通りを抜けて、俺とヴィデロさんは手を繋いだまま、神殿への道をゆっくりと進んだ。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。