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473、婚姻の儀
夜の神殿は静かだった。すれ違う人もいなくて、辺りは静寂に包まれていた。
神殿までの長い道のりが、まるでそこからすでに儀式が始まっているかのような錯覚にとらわれる。
ヴィデロさんの手は温かくて、足取りは俺に合わせたスローなテンポで、心が浮き立つ。
さっき感じた不安が足元から地面に流れ落ちていく気がする。
「今日こそは、婚姻の儀、受けようね」
「ああ。今日は人もいないようだしな」
「うん。あ、でも夜はあんまり儀式はよくないんだっけ」
「そうは言われているけど、出来ないわけではないらしいからな。俺たちはきっと、今が受けるべき時なんじゃないかなと思う」
「受けるべき時……」
そっか。前の時はまだ受けるべきじゃなかったってことか。
握った手にギュッと力を込めれば、同じようにギュッと返される。それが、幸せ。
一本道の夜の風景を楽しみながら歩くと、程なくして神殿にたどり着いた。
入口付近で一人のプレイヤーとすれ違った後は、もう誰もいない。あの儀式のおじいちゃんが婚姻の儀も受け持つのかな。
扉のない入り口から中に入っていくと、中央に成人の儀を受け持ってくれた仙人のようなおじいちゃんが立っていた。
「こんな夜更けにようこそおいで下さいました」
ゆったりとした声は、前に聞いた時と同じ声で、俺はホッとして顔をほころばせた。
「今日は、婚姻の儀を受けに来ました」
「婚姻の儀と。それはそれは嬉しゅうございます」
ヴィデロさんの言葉に、おじいちゃんが相好を崩す。
本当に喜んでくれているのが雰囲気で伝わって、俺まで嬉しくなった。
長いひげを垂らしながら、おじいちゃんが奥へと誘う。
後について行くと、成人の儀を受けた場所とは違うほうの廊下を進んで行った。
そして、長い廊下を歩き、扉の前に立つと、扉の横に咲いていた花にちらりと視線を向けた。
扉の横には、床から天井まで、一面に小さなピンク色の花が咲き誇っていた。
「そこの花が『スタティチェ』という、変わらぬ愛を誓う花です。これぞ、と思う数をお持ちください。もちろん、たくさん摘んでも一本だけでもお好きにして大丈夫です」
ピンクの花を指さされて、俺は花をじっと見た。
一本の垂れさがった枝に、花が複数個ついている状態で、たくさん垂れ下がっている。
手を伸ばして枝を掴むと、その枝が勝手にぽろっと手の中に落ちてきて驚く。
俺は、一本で。手に落ちてきた枝を握ってヴィデロさんを見ると、ヴィデロさんも手には一本だけ持っていた。
なんとなくだけど、一本あれば満足しちゃったんだよね。次の婚姻の儀を受ける人用に沢山咲いてね。
おじいちゃんは俺たちの手の枝を見てにっこり微笑むと、扉を開けた。
「中央までお進み、そこで、2人の愛を宣言してください。もちろん、心の中で誓うだけでも、口に出して呟いても、叫んでも、どんな形でもいいのです。互いを慈しみ、愛することが出来ているのなら」
おじいちゃんは部屋の外で待っているらしい。
しんとした広めの部屋にヴィデロさんと二人で足を踏み入れる。
中央まで行くと、光の円がフワッと浮き上がった。
優しい色合いの光に照らされて、俺は愛の誓いを紡いだ。
「俺は、ヴィデロさんを、永遠に愛することを誓います」
「俺は、マック……いや、健吾を永遠に愛し、慈しみ、護り抜くことを誓います」
二人が言い終えた瞬間、神殿の中にサッと風が吹いた。
風に包まれて、身体の中を何かが通り抜けていく。
それと同時に、2人が手に持っていた枝の花弁がひらひらと部屋中に舞い散った。舞い散った花弁と、手に残っていた枝が光になって、俺たちの身体を包み込む。
それはまるで、喉がカラカラだった時に水をたらふく飲んだような、お腹が滅茶苦茶空いたときにご飯を食べたような、何とも言えない満足感が沸き上がってくる。何だろう、この気持ちは。欠けていたハートの半分を拾い出して、くっつけて貰ったような、そんな不確かで確かな、安定感。
でも、と俺はちらりと横を見た。
ヴィデロさん……。俺の名前をユーザーネームじゃなくて、本名の方で誓ってくれたのが、いきなり心臓に刺さった。今の一瞬で心臓が一回り大きくなったような錯覚に陥るくらいにドキッと胸が高鳴る。
なんだかそのことがより一層満足感を得られているような気分になった。好き。大好き。
ここの世界の俺だけじゃなくて、ログアウトして高校生している俺までひっくるめて愛してるって言ってくれたみたいで、嬉しい。好き。
満ち足りた溜め息を吐いていると、ヴィデロさんが腰のカバンから何かを出した。
ヴィデロさんがそっと俺の前に小さな箱を差しだして、蓋を開けた。
それは、二つ並んだリングで。
ヴィデロさんは俺の左手を取ると、迷わず薬指にそれを填めた。
驚いている間に、大きめのリングは俺の指にぴったりと填まった。
「今度は、マックがこれを俺に付けてくれないか?」
そう言って、ヴィデロさんは残りの一つを俺に差し出してきた。
「ここも指輪を贈り合う習慣があるの?」
「いや、ただここで儀式を受ければ婚姻を認められるんだけどな。兄が、マック達の世界では、こうやっておそろいの指輪を贈りあうものだって教えてくれたから。どうしてもマックとマックの世界の婚姻を挙げたかったんだ」
なるほど、ヴィルさんに教えて貰ったのか。
俺は差し出された指輪を受け取って、そっとヴィデロさんの手を取った。
大きなゴツイ、かっこいい手。
手を見るだけでドキドキするなんて、ほんとヴィデロさんはどこまで俺をメロメロにすれば気が済むんだろう。
掬い上げた手に、ついつい唇を落としてから、薬指に指輪を通す。
指輪はやっぱりヴィデロさんの指に合わせて形を変えた。
「ヴィデロさん、好き」
「俺も、愛してる……」
ヴィデロさんは自分の指を見て、俺の指を見て、感極まったように俺を抱き上げた。
さっきの風が何かをしたのかな。俺の中で、ヴィデロさんへの愛が更に溢れんばかりに膨れ上がってる気がする。
視線の横で、『婚姻の儀の祝福を受けました』とログが流れて来たのが見えて、俺たちはちゃんとこの世界に祝福してもらえてるんだと思ってさらに嬉しくなった。
部屋を出ると、そこで待っていてくれたおじいちゃんが俺たちを見て、満足げに頷いた。
「世界に祝福されたあなたたちは、これから先、安寧と幸福の努力を惜しんではいけません。お互いがお互いを尊重し、慈しまないと、いつかこの祝福も消えてなくなってしまいます。互いが、互いを、思いやる気持ちを、努々(ゆめゆめ)忘れることのなきよう」
「はい」
「もちろんです」
おじいちゃんの言葉に神妙に頷いた俺たちは、廊下を戻って一番最初の広間に出てきた。
おじいちゃんにお礼を言って、俺たちは神殿の外に出る。
何かが変わったわけじゃない。確かにロイさんの言う通り、何か特別なことがあるわけじゃなかった。でも、多分この儀式を受けると、心構えが変わってくるんだ。これからこの人と夫婦になって、家族になって、そして。
ちらりと横を歩くヴィデロさんを見上げると、俺の視線に気づいたらしいヴィデロさんが俺の手を取った。
繋いだ手に、さっき填めたリングの感触があるのが、震えるほどに愛しかった。
ゆっくりと歩いて工房に帰ってきた俺は、キッチンの椅子に腰を下ろしたヴィデロさんの前にお茶を置くと、テーブルをぐるっと回ってヴィデロさんの横に立った。
「お茶、どうぞ」
とお茶を勧めつつ、身を屈めてヴィデロさんの頬にキスをする。
すぐにこっちに顔を向けたヴィデロさんに捕獲されて、本格的に唇を重ねた。
これじゃお茶飲めないよ。キスの合間に笑いながらそんなことを言うと、ヴィデロさんも笑いながら「マックがあまりにも可愛いから」と答えた。
ヴィデロさんの膝に乗り上がって繰り返しキスをする。
「俺たち、世界に祝福されたよ」
吐息と共にそう囁くと、ヴィデロさんが目を細めて「そうか」と口元を緩ませた。
「……っ、ヴィデロさ……好き」
「俺も、愛してる」
ギュと身体を抱き締められて、背中にヴィデロさんの素肌を感じる。重ねられた手には、さっき二人で填めたリングが重なっている。
俺の中を満たしてくれるヴィデロさんにたまらず嬌声を上げると、さらにヴィデロさんが俺の中の快感を引っ張り出して溢れさせて熱を満たしていく。
腕に力を入れていられずにベッドに頬を擦り付けると、顔の横でしっかりと握られた俺たちの手が目に入る。首筋と背中に降って来るヴィデロさんの唇に吐息を漏らしながら、俺は重なった手を引き寄せ、ちゅ、と唇を寄せた。大好き。
「……っ、顔が見たい、けど、手も繋いでいたい」
ヴィデロさんのその呟きは、俺の気持ちをまるっきり代弁しているみたいで、思わずくすっと笑ってしまう。その拍子に中がキュっとなったのが自分でもわかった。
左手同士を重ねたまま、身体を捻る。うつ伏せ状態から横向きになった俺は、首を上向けてヴィデロさんと目を合わせた。ちょっと辛い態勢になっちゃったけど、ここでヴィデロさんの希望を叶えないと男じゃないよね。
と思っていたら、ずるりとヴィデロさんのヴィデロさんが俺の中から抜けていき、ヴィデロさんの身体が密着して、俺の頭の下にヴィデロさんの左腕が敷かれた。手は繋がったままだけど、楽になってちょっとだけホッとする。
顔が近いからキスも楽だね、と目を細めると、途端に口を塞がれた。
片足を持ち上げられて、脚の間にヴィデロさんの片足が割り込んでくる。
キスが気持ちいい。舌を絡め合っていると、またも後ろにヴィデロさんのヴィデロさんが入り込んできた。
脚を絡め合っているせいか、いつもより深い。
動き自体はゆっくりなのが余計に気持ちよさを高めてる気がする。
「あ……っん、ふか……っ」
ぐり、と奥を突かれて、思わず嬌声をあげる。繋がれた手に力がこもる。
ゆっくりと抜かれる感覚に「あ、あ、あ」と声を零せば、その後奥まで挿し込まれる熱に身体を震わす。
思いっきり太腿を持ち上げられて、開き切った足の間から熱を打ち込まれて、俺は早々に体液をベッドに飛ばしてしまった。
「マック……苦しくないか……?」
奥をぐりぐりしながら訊いてくるヴィデロさんにキスで応える。
その深いところにあるヴィデロさんのヴィデロさんが、絶対領域を越えそうなのが苦しい。でも最高にいい。でもその奥はダメ、だと思う。なんか未知の領域に足を突っ込みそうな気がする。
ぐい、とさらに腰を進められて、気持ちいいのが脳髄を駆け巡る。
重ねられた口の端から唾液が垂れる。わけがわからなくなりそうな身体の奥底の刺激に、身体が震える。
「……っ、う……」
ヴィデロさんもたまに吐息を漏らすのがまた、脳みそと心臓と繋がったところを直撃する。
繋がれた手を握りしめて、もう片方の手でシーツを鷲掴む。何かを掴んでないと跳びそう。
身体にも中にも力が入ってるのか、いつもよりもさらにヴィデロさんのヴィデロさんの形がはっきりしてる気がする。
太ももを掴んでいるヴィデロさんの手もちょっと力が入ってるから、きっとヴィデロさんもすごく気持ちいと思う。
でも、なんか。
「……っ、先が、吸われて、良すぎる……っ」
「あぁああ!」
まるで中をこじ開けられたような、そんな感覚の中、俺は何度目かの昇天を極めた。
でも全然熱は収まることなく、腹の奥の奥がガッと熱を発し続けている。
「あ゛、あ、や、もぅ……っ!」
それ以上奥に行かないで、と言おうとしても口は嬌声以外の何も出してくれない。
ヴィデロさんがそこを突くたびに変な声が出て、身体が痙攣する。
よすぎて、よすぎて、頭が破裂しそう。
「ヴィデ、ろ、さ……っ、んんっ深い、深いぃ……っ!」
目の前が真っ白になって、ヴィデロさんを身体の中に飲み込んでしまったような錯覚に襲われる。
奥で小さく動かされて、その刺激だけで俺のモノから体液が零れていく。
なにこれ、こんなの初めて……。
「ごめん……っ、ダメだ、良すぎて、手加減できない……っ」
苦しそうなヴィデロさんの言葉に止めを刺されて、俺は自分では制御できなくなった身体を盛大に震わせた。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。