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連載
480スノウグラスさんの仲間たち
「マルクスさんは相変わらずですね」
頭をさすっているマルクスさんに、スノウグラスさんが笑いながら近づいていく。
マルクスさんも久々にスノウグラスさんの顔を見て、笑顔で手を上げた。
「久し振りだなスノウグラス。あの後何か困ったことはないか?」
「はい。おかげで楽しんでます。今は仲間も出来ましたし」
「そいつあよかった。心配してたんだぜ」
「マック君もヴィルさんも良くしてくださいましたから。それにあなたも」
「ヴィデロの兄ちゃんはなんだかんだ色々出来るらしいからなぁ。俺は何も出来なかったけどな。でも、この状況はすげえな」
「ええ」
マルクスさんは大きな山のような獣を感嘆の声をあげながら見上げた。
敵意は全然感じないし、しっかりと抱え込んだ霧吹さんを舐め上げたり頬擦りしたりして友好的ですらある。
でも問題なのは、この場所から街に帰れないってことだけ。
「皆俺に掴まったらすぐトレに戻れるんだけどね。その子をどうするかだよね。タタンさん、獣人さんの中にはこういう獣系の子と意思疎通できる人はいない?」
「全く同じことをヴィデロにも聞かれたぜ。いないことはねえけど、連れてくる手段がなかったんだ。それでもう詰んでたんだよ」
「誰?」
「オラン様だ」
なるほど。声を聞ける人をここに連れてこれないから動くに動けなかったのか。
「じゃあ俺が連れてこようか。とりあえず街に帰りたい人は先に連れ帰るけどどうする?」
俺が皆を見回してそう訊くと、皆は誰一人手を挙げなかった。一人置いては帰れないとか思ってるらしい。じゃあやることは決まりかな。
「獣人の村に行ってオランさんにお願いしてみる。あと、一度詰所に寄って全員無事だったってことも伝えないと。まだブロッサムさんとブロスさんは森を探してるんだよね。迷子メンバーに俺とマルクスさんの名前も入っちゃったと思うし」
「え、薬師マック君そんなこと出来るんだ」
「薬師マックってもしかしてスノウの知り合い? ってことは、やっぱりそっちの門番さんって、あの門番さん?」
スノウグラスさんのパーティーメンバーが驚いているのを見て、俺はスノウグラスさんに視線を移した。
「どうしてこんな状況なのに俺を頼ってくれないんですか。俺が転移使えたの知ってますよね」
スノウグラスさんを見上げると、スノウグラスさんは肩を竦めて「すまない」と謝ってきた。
「いや、一度は助けを求めようかとも思ったんだけどな、こんなことでマック君を煩わせるわけにもいかないし、何より俺の仲間がマック君のファンだっていうことを知ってたから、どう対処していいかわからなくて。しかもそこまで切羽詰まった状況でもないしな。でも、もし俺たちが危なかったらきっとマック君に甘えてたと思う」
「こういう時に助け合うのがフレンドでしょ。呼んでくれていいんですよ。俺がログインしてる時は。どうしても手が離せないとき以外は助けに来ますし、俺も一人じゃどうしようもない時は助けてってお願いしますし」
「そう言ってもらえると、次からは助けを求めやすくなるよ。ありがとう」
「はい! よければパーティーの人たち紹介してもらってもいいですか?」
「もちろん。自慢の仲間なんだ」
「おい俺たち自慢だってよ」
「照れるよなあ」
背後でこれから紹介してもらおうとした人たちが大騒ぎを始めて、スノウグラスさんが苦笑した。
まず獣に保護されているのが霧吹さん、照れてたのがヨロズさん、その隣にいるのがけんたろさん。
パーティー名は『ミスマッチよせあつめ』というらしい。皆、適当に集まって気が合った人で組んだパーティーだからって。なんかそういうのいいよね。
次々自ら名乗り上げてくれたので、俺も「マックです」と頭を下げたら一斉に「知ってます」と返ってきた。うん。知ってた。
なんでも、俺がスノウグラスさんを助けるためにあのストーカーと戦った動画を先頭にして立ち上がった『薬師マック掲示板』の愛読者らしい。やめてくれ。
でも俺とヴィデロさんがおそろいの指輪をしているのを見て、「おめでとう!」とすごく祝ってくれたのは素直に嬉しかった。スレにすでに俺たちが婚姻の儀を受けた情報が載ってたらしい。どこから手に入れるんだろうそんな情報。怖い。
「ってこんな和んでる場合じゃなくて、オランさん連れてくるんだった……ってそうだ。ジャル・ガーさんの所からだとちょっと行き辛いかも」
「何かあったのか?」
「なんか、よくわからないけど絡まれそうになったからサッと逃げて来たんだ。だから何もないよ大丈夫。でも、もしあの人たちが獣人の村に行けなくてまだうろうろしてたらちょっと時間をくいそうだから違うところから行ったほうがいいかも。北かな」
「ああ……厄介な異邦人か……一応護衛としてタタンがついていった方がいいかもな」
ヴィデロさんが俺の話を聞いてそんなことを言い始めた。
確かに獣人の村に行くんだったらタタンさんが最適なんだけど。
俺が行くってヴィデロさんが言ってくれないことにちょっとだけがっくりした俺。でもこういうときでも最善を選ぶヴィデロさんがすごくかっこいいとも思う。好き。
タタンさんはヴィデロさんの視線を受けて「おいおい」と溜め息を吐いた。
「オラン様に頼むんだったらヴィデロの方が適任だろ。俺らはオラン様に頭が上がらないんだからものを頼むなんて絶対に出来ねえよ。でもヴィデロなら対等だろ? マック、ヴィデロを連れて行けよ。さすがに一人で行って来いなんて言えねえから。夜の森は本当に物騒だからよ」
「いいの?」
「もちろん。なあ皆」
タタンさんが見回すと、皆よくわからないノリで「おー!」と拳を上げていた。スノウグラスさんは一人苦笑していた。
ということで獣人の村に逆戻りすることになった俺は、ヴィデロさんとしっかり恋人ツナギで手を繋ぐと、皆に「すぐ戻って来るね」と言って魔法陣を描いた。
跳んだのは、北の洞窟の守護者、ワインズさんの部屋の目の前。
ヴィデロさんとそっと二人で扉を開けると、やっぱりというか、二組ぐらいの人が押しかけていた。
お酒を掛けられたワインズさんが動くたびにプレイヤーたちの間から拍手と歓声が飛び交っている。なんか盛り上がってるね。
俺たちが入ってきたことに気付いたワインズさんが、困り果てたような顔をしてこっちを向いた。
「ヴィデロ殿、マック殿……すみません。今は取り込み中でして。もし村に行くのでしたら、誰か呼びますがどうしますか」
「呼んでもらえるならありがたいです。でも、ワインズさん大人気ですね」
「はあ……どうもこういうノリは苦手でして」
すっげえカッコいい! ライオンが生で喋る所を見ただけでもう満足だ! 的なノリのプレイヤーたちに、ワインズさんは本気で戸惑っているようだった。確かに獅子の獣人さんたちは真面目な人が多いから。これがモロウさんだったらきっと一緒に盛り上がって酒盛りとかすると思う。
遠巻きに盛り上がりを見ていると、ワインズさんの横にケインさんが現れた。手にはユイル。
そして、ケインさんたちが現れたことにより、さらに洞窟内は大盛り上がりを見せたのだった。
皆獣人好きの空気がめちゃくちゃ醸し出されてるなあ。
結局全員合格だったらしくて、ケインさんは皆を村に連れて行くことになった。ちらりと見えたワインズさんは、小さく安堵の溜め息をついていた。お疲れ様。
村につくと俺とヴィデロさんは急いでオランさんの所に向かった。
オランさんは家で読書をしていて、俺たちを歓迎してくれた。知的なライオンってかっこいいなって思ったのはちょっと秘密だけど。
「聖獣が異邦人に懐いた? それは……信じられないな」
「今まさに一人捕獲されている状態だ。敵対されてるわけじゃないから、懐いたとしか言えないな」
「そうか」
ヴィデロさんに経緯を聞いて、オランさんは椅子から立ち上がった。
テーブルの上に置いてあった腰ポーチ風カバンを身に付けると、「連れて行ってくれないか?」とまっすぐ俺を見た。
もちろん。そのつもりで来たんだよ。
「それにしても……聖獣か。どのような聖獣だったんだ?」
「聖獣って何匹もいるんですか?」
俺の質問に、オランさんは頷いた。
聖獣とは、主にこの国の真ん中の山の中で生きている、大きな獣のことを言うらしい。魔物とは違って、穢れた魔素から生まれたんじゃなくて、山の聖なる魔素から生まれたから聖獣っていわれているとか。普段は絶対に人前に現れないらしい。どうして山の下に降りて来たのかオランさんはしきりと気にしていた。
「黒くて大きな狼型の聖獣……そうか」
ヴィデロさんがあの黒い塊の獣の特徴を教えると、オランさんは深く頷いた。
「なんにせよ、このままにしておくわけにはいかないな。よし、マック、行ってくれるか」
「はい。あ、でもその前に、トレの詰所によって一応皆無事だってことを伝えないと」
「では、ジャル・ガーの所へ行くか」
「……はい」
確かに近いんだけど、ワインズさんの所からだとトレに寄るよりまっすぐ戻った方がいいくらいの場所なんだけど、でもあの人たちがいたらどうしよう、なんて思いながら足を進めるオランさんの後を追った。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。