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514、寝込んでいる間のヴィデロさん
ギアを充電器に置くと、確かにほんの少しのログインで疲れていた。
昨日まで高熱で寝込んでいたから当たり前なのかな。
かといって二度寝できるほど眠くないしな、と携帯端末を開く。
たまには色んな掲示板を見るのもいいかもな、と掲示板一覧が載っている場所を探すと、いつも通りというかなんというか沢山の掲示板がずらっと並んでいた。
お気に入りにしている『アイテムスレ』『素材スレ』『料理レシピスレ』なんかを開いていくと、たくさんの新しい書き込みがしてあって、それだけで楽しくなる。
『トップランカースレ』なんかもたまに目を通しているけど、雄太たちのことは大抵笑い要素満載で載っていたりするのが楽しい。例えば『今日の『高橋~』は勇者に蹴散らされて飛んでいた。リアルで攻撃されて飛ぶのを見るのは笑える』とか『今日も海里の素晴らしい谷間を拝めた』とか。その後すぐに『俺の海里をよこしまな目で見るやつは許さねえ』っていう書き込みはもしかしてブレイブかな。
俺は一言も書き込んだことはないけど、結構皆書き込んでるらしいんだよな。でも見るだけでも手いっぱいだから書き込む気にはならないんだよなあ。
つらつらと見ていくと、『薬師スレ』を発見し、そのすぐ下くらいに『薬師マックスレ』を発見した。
……うん。スルーで行こう。なに書かれてるかわからないし怖いし。
でも雄太たちもこれを見てるって言ってたよな。悪口とか書かれてたらどうしよう。
やっぱり読まない一択……でもどうしても気になってしまって、俺は初めて自分のことが書かれている掲示板を開いた。
ドキドキしながら文章に目を向けると。
『今日トレの門の所で門番さんに喧嘩売ってる新人がいたんだけど見た人』
「え!?」
『薬師マックスレ5』の一番上の文を読んで、思わず声を出してしまう。
ヴィデロさんに喧嘩を売ったプレイヤーがいたって。
書き込みの日にちを見てみると、昨日の日付だった。
内容は、いまだに門番さんとかをNPCって呼んでるプレイヤーが剣を振り回した時に、その剣が当たりそうになった街の人を庇って剣を受けたヴィデロさんの兜が飛んじゃって、ヴィデロさんはそのプレイヤーを槍一振りで押さえつけたっていうものだった。ヴィデロさん兜飛んだ時怪我しなかったのかな。さっき、顔とか怪我してたかな。してなかったと思うけど……。
寝顔と笑顔を思い出しても、どこにも怪我がなかった気がしてホッとする。
それよりも気になったのが、ヴィデロさんの様子。いつもとは全く違う雰囲気だったって、俺が心配かけちゃってたからかな。
すぐに疲れるのはわかってるんだけど、もう一度ヴィデロさんに会いたいな、と携帯端末の画面を消した。
もう一回だけログインしようかな、とギアに手を伸ばして、ヴィデロさんが門に立ってる姿だけ見てログアウトしよう、と決めて被る。
ログインして、工房を出る。
走ると結構すぐ息切れすることにびっくりして、スタミナゲージの減りの早さにヴィルさんの言葉を思い出す。
諦めて歩いていくことにして、息切れを落ち着けながら門を目指す。
ああ、鎧を着てヴィデロさんが立ってる。
久しぶりに門番さんなヴィデロさんを見た気がする。カッコいい。
ヴィデロさんは、ちらりと顔をこっちに向けて驚いたみたいに面を上げた。
そして、走り寄ってきてくれた。
鎧の腕に抱きとられて、持ち上げられる。
待って、これ、子供抱っこなんだけど。
ふわりと足が浮いて、思わずヴィデロさんの頭に腕を回す。
「どうしたんだマック。今日はゆっくり休まないとダメだろ」
「うん。でも、ヴィデロさんの顔を見たくなっちゃって。朝ゆっくり見れなかったから。仕事邪魔してたらごめんね」
「いや、大丈夫。なんかふらついていたけど、まだ体調悪いのか?」
「ちょっとスタミナの減りが早くて」
ヴィデロさんが俺を子供抱っこしたまま門に戻ると、他の門番さんより一回り大きなタタンさんが身体にだけ門番さんの鎧を付けて、「よう」と挨拶してくれた。
「ようやく顔出したなマック。よかった。ここ数日、ヴィデロの雰囲気が悪くてどうしようかと思ってたんだよ」
「タタン」
ヴィデロさんがじろりとタタンさんを睨んだけど、全然気にもしてないタタンさんは、楽し気に教えてくれた。
「あれだっけ。ヴィデロの兄ちゃんが『マックはちょっと調子が悪いらしいから、2、3日顔出せないかもしれない』って教えてくれてからだよな。俺おっかなくてちょっとヴィデロに近寄れなかったぜ」
「タタン黙れって」
「いいや黙らねえ。だってまたこういうことがあるかもしれねえだろ。マックだって人族なんだから、調子悪くなることだってあるだろ。そのたびにあんなトゲトゲされちゃこっちだって敵わねえよ。兄ちゃんちゃんと『特効薬もあるから心配するな』って言い置いてったんだぜ? でもこいつ聞かなくてよ」
「ヴィデロさん……ごめんね心配かけて」
タタンさんの話を聞いて、胸が痛くなった俺は、ヴィデロさんの頭に回した腕にギュッと力を込めた。
ヴィデロさんが腕の中から「マックが謝ることじゃない」と呟く。
「でもまあ、今日は朝から滅茶苦茶楽しそうな顔をしてたから、マックが復活したのはわかってたよ。まだ休んでなくていいのか? 何なら、そのままヴィデロに家まで連れてってもらえよ」
「でもヴィデロさん仕事中だからそんな迷惑かけられないよ」
「あのなあ。マックまだ本調子じゃねえだろ。身体辛そうな感じしてるぞ。そういう時は仕事より番の体調優先なんだよ俺らは。ここは違うのか? ロイだってしばらく産後で弱った番についてるって今休んでるぜ」
「番優先に決まってるだろ」
俺の腕の中からきりっと返すヴィデロさんに、タタンさんは「ほらな」と笑った。
そして、詰所の入り口のベルを鳴らす。
すると、中からよく食堂で見かける門番さんが顔を出した。
そして、ヴィデロさんと俺の状態を見て、すぐに「ちょっと鎧着てくる」と引っ込んでいった。
本当にすぐに鎧を身に付けたその人が出てきて、ポン、とヴィデロさんの肩を叩く。
「送って行って来いよ。少しの間俺が代わってやるから。お礼はマックの手料理でいいぜ」
「恩に着る。が、手料理はダメだ」
「なんだよ。いいよなマック」
笑いながら俺に手を振る門番さんに返事をしている間にも、ヴィデロさんは俺を抱っこしたまま工房までの道のりを歩き始めた。
俺がヴィデロさんに会いたいなんて思っちゃったから、ヴィデロさんの仕事を邪魔しちゃったなあ。反省。
「ごめんね」
ポツリと呟くと、「マックが謝ることじゃないって言ったろ」とヴィデロさんが軽く笑った。
「顔を見たいと思ってくれて嬉しかった。でもなマック。そんなフラフラしながら無理して来なくても、仕事が終わったら工房に帰るから」
「うん。そういえばヴィデロさん、今日も工房で寝てたね。ご飯とか大丈夫だった?」
「ああ。飯は詰所に行ってから食ってたから大丈夫。でもそれよりもマックの近くにいたかっただけだから。……心配した。兄にもそこまで心配する病じゃないって言われたんだけどな。ダメだな俺は。どうしてもマックの目が開かなくなる想像しかできなかった。だから、いつマックの目が開いてもいいように、とついつい工房で寝起きしてたんだ」
「ヴィデロさん……」
鎧を身に纏って俺を抱っこしててもゆるぎない足取りのヴィデロさんは、俺を下ろす気はさらさらないらしく、自分で歩けるよと言っても「俺がマックを運びたいんだ」と言って聞いてくれなかった。
嬉しいけど。嬉しいんだけど。申し訳ないことしちゃったなあ。
門に帰るときに沢山食べ物持って帰ってもらおうかな。それはそれで邪魔かもしれないけど。
抱っこ状態のまま工房に着くと、ヴィデロさんは片手で俺を抱っこしたまま玄関を開けて、キッチンを通り抜けて、寝室まで俺を運んだ。
そしてベッドにそっとおろして、ちゅ、とキスをした。
「仕事が終わったらここにまっすぐ帰ってくる。だから、マックはそれまで休んでろ」
「うん。お仕事邪魔しちゃったね」
「邪魔じゃないって。マックを運べて役得だ」
跪いて俺のブーツを脱がせたヴィデロさんは、素足になった俺からカバンとローブを外し、近くのテーブルの上に置いた。そして自分の腰にある小さなカバンから瓶を数本取り出して、枕元に置いた。
スタミナポーションとハイパーポーション、それとマジックハイパーポーションの3本セットだった。
「一応置いておくから無理だけはするなよ。飯も、何かを買ってくるから、今日は作るの禁止な」
「ありがとう」
「じゃあ、あとはゆっくり寝てろよ」
ベッドに座っている俺の腰まで毛布を掛けたヴィデロさんは、俺の頬とおでこを撫でてから、手を振ってそっと部屋を出ていった。
看病慣れしてるのが一つ一つの行動を見ていてわかる。
それがなんだか悲しくて、申し訳なくて、愛おしかった。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。