これは報われない恋だ。

朝陽天満

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518、クエスト報酬

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「何とか被害も広がらずに倒せたな」



 獣人プレイヤーが宙を見据えながら呟く。ピロンと通知が来たから、クエストクリアの内容を確認してるんだと思う。

 俺も同じようにクエスト欄を開いて確認する。



『緊急! 炎虎亜種を討伐せよ



 サウ村の森に炎虎の亜種が出現した。このままだと村が焼かれてしまう

 魔物を討伐し村を守れ



 タイムリミット:11時間04分

 クリア報酬:サウ村特産果実 炎の種 サウ村好感度上昇

 クエスト失敗:時間内に討伐出来なかった サウ村半焼 サウ村消滅



【クエストクリア】



 炎虎亜種が村に到達する前に早急に討伐することが出来た

 被害が最小限に抑えられた



 クリアランク:A



 クリア報酬:サウ村特産果実 炎の種 サウ村好感度上昇』



 報酬欄を見て、「炎の種?」と呟くと、ほぼ同時くらいに獣人プレイヤーも同じことを呟いた。

 炎の種って何だろう。

 インベントリを見ても、『炎虎の熱爪』というドロップ品しかない。



「ねえ、虎が消えたところ、なんか赤い葉っぱがにょきにょき生えてきてる! なにこれ気持ち悪い」



 LLさんの声が聞こえて、クエスト欄を開いていた俺を含むプレイヤーたちは一斉に声のした方に視線を向けた。

 今まで焦げと濡れた地面しかなかった場所から、確かに赤い葉が出てきている。しかも成長速度が半端なかった。



「鑑定眼」



 調べてみると、それは炎虎の純粋な炎の魔素が地面に零れ落ち、とある条件下に置かれたために生えた『炎果実の蔓』という物だった。蔓が成長すると実がなって、その中に炎の種が入っているらしい。

 そしてその条件下とは。魔素をふんだんに含んだ水の染み込んだ大地と火種燻る肥料が必要だとか。確かに水魔法を増幅させたから、魔素はたらふく含んでいる。そして火種燻る肥料っていうのは、炎虎が周りに炎を飛ばしまくって燻っていた焦げ草のことだと思う。そうとしか考えられない。っていうか何その条件。もし水魔法で倒さなかったら、この蔓は生えてこなかったってことか。しかも普通の水魔法くらいの量じゃダメっぽい。すげえ。

 生粋の獣人さんたちも、生えてきた赤い蔓を見て大興奮していた。



「すっげえもん生えて来たなあ! サウ村名物になるんじゃねえの!?」

「確かにこれは珍しいもんだけどな、増やし方とか育て方とか全く分からねえだろ。誰かわかるやつ呼んで来いよ」

「ヒイロじゃね?」

「いや、植物関係ならミニだろ」

「どっちでもいいから呼んで来いよ。でもってこれ増やせたら増やそうぜ」



 そんなことを言い合っている間にも、蔓はにょきにょきと伸びて行っている。このまま地面を際限なく這っていくのかな、なんて見ていたら、人族のプレイヤーがインベントリから槍を取り出して、地面にさくっと刺した。

 すると、蔓がその槍に巻き付いて上に伸び始めた。



「こういうのってなんかほら、ブドウ畑みたいにすりゃいいんじゃねえの? 枠組み作ってそこを這わせるみたいな」



 手を広げて「こうドバーッと」とか説明している。

 四方に広がっていた蔓は槍を地面に突き刺した瞬間から槍に向かって伸びていってるから、もしかしたら上に伸びるのが好きなのかもしれない。



「なんか槍一本じゃ足りねえみたいだな。なんかねえか?」

「木の素材じゃダメだな。見ろよ、槍の持ち手の所が焦げてきてる。金属だな。でもこれまだ伸びたそうにしてる」



 獣人さんたちも首を傾げて、どうしようかと話している。

 槍に炎耐性を付けたらしばらく持つかな、なんて何の気なしに戦闘開始時にヴィデロさんに飛ばした魔法陣を槍に飛ばしてみた。

 そして俺は、見たこともない光景を見た。



 飛ばした魔法陣は、槍に届くことなく、蔦にからめとられて、宙にある魔法陣が蔦に捕獲されるというありえない現象が起こった。



「うわあああ、すげえ!」

「なにこれ面白い!」



 人族プレイヤーの二人が歓声を上げる。 

 LLさんは驚いて目を見開いていて、獣人プレイヤーは隣に立っている獣人さんと共に口をパカっと開けている。

 多分俺も同じ顔をしてると思う。そんな風になるとは思わなかった。



 赤い蔦はひたすら魔法陣を捕えて這うようにウネウネしている。

 ハッと我に返った獣人さんの一人が「何もっと欲しいのか?」なんて呟いて、魔法陣を描いて飛ばしてみれば、それもまた蔦にからめとられて、光の文字が宙に浮いたまま蔦で装飾されているという幻想的な光景が更に広がる。

 ちなみに飛ばした魔法陣は、俺の魔法陣と全く同じものだった。あの一瞬で同じものを描くのって凄い。



「なんか非効率な魔法陣だな。もう少し節約しようぜこれ」



 そんなことを呟いて、獣人さんはもう一度魔法陣を描く。中の文字を少し変えて。

 またも蔓に飛ばすと、こっちを見て、「次からは今のを描いてみろよ」とニヤリと笑った。



「すげえ! 薬師マックが魔法陣使えるってのも驚くけど、そっか。ここで教わったのか。なるほど納得」



 獣人プレイヤーさんがうんうん頷いてるけど、違うからね。俺が魔法陣魔法を習ったのはトレだからね。言わないけど。

 ヴィデロさんと二人苦笑して顔を見合わせていると、プレイヤーたちが魔法陣を描いた獣人さんに詰め寄っていた。



「俺も魔法陣描いてみてえ! 教えてくれないか!?」

「俺も!」

「僕も知りたい」

「俺も俺も」



 全員からぐいぐい来られて、獣人さんは面白そうに皆を見下ろした。



「別にいいぜ。あとで教えてやる」



 簡単に請け負った獣人さんに、プレイヤーたちから歓声が上がる。

 まずは古代魔道語からだけど。皆読めるのかな。最近では辺境には読める人増えてきてるけど。雄太たちもばっちりって言ってたし。



「あーあ」



 ヴィデロさんの横に立っていた豹の獣人さんが腕を組んでそんな溜め息を漏らした。



「何かあるのか?」

「あるも何も。あいつから習い事するなんて命知らずだなと思ってよ」



 ヴィデロさんの問いに苦笑しながら答えた豹の獣人さんは、「あいつはまずなんでも基準が自分だから、教わる方には覚悟がねえとだめなんだ。そうでなくても理論馬鹿なのによ。スパルタが待ってるぜ」と遠い目をした。

 でももしついていけるなら、習得は滅茶苦茶早いらしい。いいのか悪いのか。ついていけないと無理やり基礎から叩き込まれるとか。しかも本人はそうやって教えるのが結構好きらしく、とどまるところを知らないとか。頑張れプレイヤーさんたち。ついていけたら魔法陣魔法を使える日はすぐだよ。



 赤い蔓は、魔法陣を5個ほど絡め取ったところで、花を咲かせた。

 花は小さく、薄い水色をしていた。赤い蔓に囲まれた中に無数の小さな水色の花は、なかなか見ごたえがあって綺麗だった。スクショしよ。

 花は、満開になると今度は花弁を散らして、少しずつ実になっていった。

 膨らんで来た実は、表面が少し凸凹していて、赤いアボカド、と言われたらなるほどとうなずけるような見た目だった。

 コロリ、と実が地面に落ちたのを、プレイヤーの一人が拾う。そして、「マックさ、鑑定できる?」と俺に渡してきた。

 頷いてから、鑑定眼で見てみる。



「『レッドガルスパイスの実』。香辛料の原料になる実。魔素が込められた水をたっぷり含んだ地面に種を植えると増える。伸びた蔓は魔力のある物に絡ませることで成長する。そのまま食べるととても辛い、だそうです」

「うおおおおおお! 香辛料! ってことは、これ、唐辛子みたいなやつか! 胡椒みたいなスパイスはあるの見たけど、ADOで辛い系のスパイスってなかなか出会えねえから最高だぜ!」



 踊り出さんばかりに喜び始める獣人プレイヤーに、LLさんがこっそり「あの人おかしいくらい辛党なんだ」って教えてくれた。

 次々ぽろぽろと実が落ちていくので、皆で拾っていく。獣人プレイヤーは早速がぶっと齧り付いていた。



「っかー! これだこれ! 俺はここでこの味を求めていたんだよ!」



 大喜びの獣人プレイヤーを見て、好奇心に駆られた獣人さんの一人が、同じようにがぶっと齧り付いて悲鳴を上げた。



「口から火を吹きそうだ! 水、誰か水! 何だこれ……っ!」



 涙目で悶える獣人さん。周りは笑いに包まれた。ちなみに水は魔法陣得意な獣人さんがざばっと頭から掛けていた。

 ベロを垂らして涙目の獣人さんは、がぶがぶ実を齧るプレイヤーを見て、「お前すげえな……」と疲れ切った顔をしていた。

 なるほど。この実が報酬にあった『サウ村特産果実』か。いい物手に入れた。今度料理に使ってみよう。楽しみ。



「ヴィデロさん、この実を使って今度料理するね」

「……火を吹くほど辛い料理か……?」



 俺の言葉にヴィデロさんが身を竦める。顔は笑ってるから半分冗談ぽいけど、ちょっとだけ本気で怖そうだった。いまだに直接実を食べた獣人さんはベロを出してヒーヒー言ってるから。



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