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527、当時のセィ城下街は
「ウル老師、聞いてください。もちろん、その素材の在処は知ってます。素材自体は揃えるのはそこまで難しくないです。でも、今回のこの話は時期尚早ってことで俺、断ろうと思ってたんです」
俺がはっきりと言うと、ウル老師は最初惚けたような顔をして、その後、目を見開いた。
「な、なぜかとお聞きしてもよろしいですかな?」
「ええと、言いにくいんですが、『蘇生薬』っていうのは、『魔力増強薬』とは段違いに難しいんです。俺も師匠の元でひたすらダメ出しされて必死で覚えました。その神の領域の技術を持つ師匠の下でです。一日やそこら講習を受けただけで作れるようになる代物じゃないです。侯爵様がどこからどのようにその話を聞いてきたのかわかりませんが、このお話自体に無理があるんです」
「……」
俺の言葉に、ウル老師は黙り込んでしまった。
レシピまで見たんなら、その難しさはわかってるはずなのに、やっぱり薬師魂が疼いちゃったんだろうなと思う。
その後、深く息を吐いたウル老師は、「……そうですか、そうですな」と小さな声で呟いた。
「私如きの腕で、あの神の領域に手を伸ばすのはおこがましいですな」
「いえ、そうじゃなくて」
年甲斐もなくはしゃいでしまいお恥ずかしい、と頭を下げるウル老師は、俺の言葉を薬師としてのダメ出しととっちゃったみたいだった。違うんだけど、でも腕が追い付いてないのは本当だし、どういっていいのかわからないよ。
俺もウル老師も口を閉じて、一瞬静寂が辺りを包む。さっきとは打って変わった重苦しい空気だった。
「……そもそも、この話を持ち掛けたフレード侯爵は、そこまで調薬に関して詳しくないんじゃないですか? だからこんなおかしなことを提案したと。もし本当にこの様な話が出ていたとしたら、まずは宰相閣下が何を置いてもマックに持ちかけるでしょう。何せ懇意にしてるんですから。それをしないのに、フレード侯爵はどうしてこんなことを言い出したのか、ということが俺は気になります」
ふと、ユキヒラが口を開いた。
そして、確かに、と思う。
モントさんだって宰相さんと仲いいし、その伝手でヒイロさんの話は伝わってるだろうし。
この話が宰相さんから来るなら、もう少し前向きに検討もするんだけど、あの王太子の部下の人だから、信用はないんだよなあ。
冒険者ギルドに行ってさらっと「受けません」って終わりにしようと思ったのに、なんかウル老師の言葉だとそう簡単にはいかないんじゃないかな。俺が頷かざるを得ないように周りに吹き込んでそうで怖い。
「彼は、私達王宮に住まう薬師の後見人でもあります。私たちが作ったポーションを騎士団に手配していたのも彼でした。彼がいなかったら、私たちはこうして薬師を続けて行くことは出来なかったでしょうし、たくさんの弟子を取ることもできなかったと思います」
「うちも前は恐れ多くも王宮薬師様たちの作るハイポーションを卸してもらっていたんですよ。本当にありがたかったです」
ロミーナちゃんがウル老師を気遣ってか、助け舟を出す。でもその言葉にちょっと引っかかる一言が。
「前は?」
「ええ。一時期、セッテの農園で植物の病気が騒がれた時があって、その時期はモントさんも作っていた薬草を二つの街両方に出荷しないといけなくなるから、品薄になるかもしれないって言われてて、その時までは王宮から卸してもらっていたんです」
「ああ……」
ふと思い出した。クラッシュが大量のポーション類を抱えてセッテの街に行ったこと。俺も護衛として付いて行って、途中襲われたこと。
あの時は俺、本当に弱くて。雄太たちとセイジさんが助けに来てくれなかったら、クラッシュが今も生きてたかどうかわからなかったんだよ。
もしかしたら、ウル老師は何か裏の話を知ってるのかな、と思って、俺は老師に話を振ってみた。
「ウル老師は憶えてますか? その時のこと」
「その時とは、セッテの農園が休園になった時のことですかな」
「そうです。確かあの時は、セッテに薬師が不在でとかなんとかって聞いてた様な」
「もちろん憶えております。あの時は薬草の入手が危ぶまれましたところ、フレード侯爵様がどこからか薬草を入手してきてくれましてな。街にもしっかりとポーションを卸そうとセッテの薬師を王宮に呼んで作業していましたな」
あ、これは、と俺は息を呑んだ。あの時セッテの流通を止めたの、フレード侯爵だったのかも。もしかして、フレード侯爵とあのレイモンド侯爵って繋がってるのかな。でも繋がってたら王太子の下で今も働いてるなんて無理だと思うんだけど、どういうことなんだろう。わけわからないけど、あの大変だった緊急クエストの原因の一端がフレード侯爵だっていうのはなんとなくわかった。
「あの時は私もほんとに助かったんですよ。ポーションがなくなったら魔物退治も大変になるでしょうし、そうなると魔物は増えるしお店にも魔物素材が入らなくなるし、何より回復できないのって怖いですよね。でもその後は色々とあって、モントさんに勧められた場所から納品してもらうようになっちゃったんですけど。それまでが破格過ぎたんですよね」
「私としてももっと沢山の方に安全に生きて欲しいと思っておりましたが、王太子殿下が薬師の規模縮小を決めてしまいましてな。本当に申し訳ない」
「いいえ、ウル老師も大変だったんですよね。あの王太子殿下に食い下がったと聞きました」
さすが城下街在住の雑貨屋さん。ロミーナちゃんは結構な情報通だった。っていうかもしかして、と俺はちらりとユキヒラを見た。
ユキヒラはそんな俺に気付かずに、ロミーナちゃんをデレ顔で見ていた。
「あの時、ユキヒラさんも色々と口添えをしてくださったんですよね。王宮でポーションを止めるのを阻止するために」
「あの時は力になれなくてごめんねロミーナちゃん」
「いいえ、そんなこと。それにいい薬師さんと契約出来ましたから気にしないでください」
あの時、裏に色んな事情があったんだ。っていうか、セッテの街の方も気にして欲しかった、って思うのは俺だけかな、なんて大変な思いをした俺としては思う。
でもそういうのを管理するのが王宮で仕事してる貴族のはずなんだよな。なんか、複雑すぎてちょっと考えたくらいじゃ全くどうしていいかわからないよ。
「教えてくださってありがとうございました」
溜め息を呑み込んでお礼を言う。
すると、ウル老師は「いいえ、私もあの時は自身をとても不甲斐ないと悔やんでおりました」と肩を落とした。
なんか、これは本当にフレード侯爵にちゃんと会ってしっかりと説明した上で断らないといけないやつなんじゃないかな。なんてことはユキヒラも考えていたらしく。
「それにしても、フレード侯爵とマックがちゃんと会って話をしないと埒が明かなそうな気がするな、これは」
「ほんとにね」
ユキヒラの言葉に同意すると、ウル老師も複雑な表情ながらも頷いた。
ロミーナちゃんの雑貨屋を後にして、俺は王宮に行くことになった。急展開……ってわけでもないのかな。ユキヒラは先に戻って詳細を宰相さんに告げて、もし揉める場合は仲裁を頼むことにする、と白馬に乗って先に王宮に行ってしまった。走り去る姿がすごく王子っぽかったし様になってたのがやっぱりおかしかった。馬に乗れるのいいなあ。
一応インカム着けとけとユキヒラに言われたので、装備しておく。これでタイムリーに連絡を取れるのがなかなか楽だ。失言だけはしないようにしないとだけど。前に多大なる失敗をしたからな。しかも王宮で! って思い出すのは止めよう。
王宮薬師たちの進捗状況を聞きながら王宮を目指す。
前はポーション一辺倒だったのに、今では色んなレシピを開発する部門まで作ろうかと話が出ているらしい。でも薬師の数が足りないらしいけど。皆、自分の腕を磨こうと外に出始めたんだって。可能性が広がるから止めることもできないんだってウル老師は語っていた。でも、その顔、ちょっと誇らしそうだよ。王宮を守るのは我々老いぼれた年寄りで十分だとか言ってるけど、ウル老師はまだ現役バリバリだから。
貴族門をウル老師の顔パスで通り、王宮の入り口もウル老師の顔パスで通してもらう。一応薬師棟に入るときには身分証を提示するよう言われたけど、それは宰相さん通行証でパスしたから大丈夫。王様たちの所には入れないけど、入る予定も何もないから何の問題もなかった。
ウル老師に招き入れられて足を踏み入れた薬師棟は、凄かった。
一階が貴族との会談をする場所とか、素材を入れる場所とかそういう場所で、二階が保存場所、そして、三階と四階は調薬スペースで、五階から上が居住スペースらしい。
今ここで暮らしている薬師が、50人くらい。全員薬草取り扱い講座に参加してくれたらしく、俺は無条件で受け入れられた。
そして今は応接セットに座って歓待を受けている。
周りを取り囲むのは、メモ用紙を手にしたここに所属する薬師たち。
待って、四方八方から質問攻撃されても答えられないから。せめて一人一人にして欲しい。俺、こんな一気に質問されても答えられないからあああ。
俺がはっきりと言うと、ウル老師は最初惚けたような顔をして、その後、目を見開いた。
「な、なぜかとお聞きしてもよろしいですかな?」
「ええと、言いにくいんですが、『蘇生薬』っていうのは、『魔力増強薬』とは段違いに難しいんです。俺も師匠の元でひたすらダメ出しされて必死で覚えました。その神の領域の技術を持つ師匠の下でです。一日やそこら講習を受けただけで作れるようになる代物じゃないです。侯爵様がどこからどのようにその話を聞いてきたのかわかりませんが、このお話自体に無理があるんです」
「……」
俺の言葉に、ウル老師は黙り込んでしまった。
レシピまで見たんなら、その難しさはわかってるはずなのに、やっぱり薬師魂が疼いちゃったんだろうなと思う。
その後、深く息を吐いたウル老師は、「……そうですか、そうですな」と小さな声で呟いた。
「私如きの腕で、あの神の領域に手を伸ばすのはおこがましいですな」
「いえ、そうじゃなくて」
年甲斐もなくはしゃいでしまいお恥ずかしい、と頭を下げるウル老師は、俺の言葉を薬師としてのダメ出しととっちゃったみたいだった。違うんだけど、でも腕が追い付いてないのは本当だし、どういっていいのかわからないよ。
俺もウル老師も口を閉じて、一瞬静寂が辺りを包む。さっきとは打って変わった重苦しい空気だった。
「……そもそも、この話を持ち掛けたフレード侯爵は、そこまで調薬に関して詳しくないんじゃないですか? だからこんなおかしなことを提案したと。もし本当にこの様な話が出ていたとしたら、まずは宰相閣下が何を置いてもマックに持ちかけるでしょう。何せ懇意にしてるんですから。それをしないのに、フレード侯爵はどうしてこんなことを言い出したのか、ということが俺は気になります」
ふと、ユキヒラが口を開いた。
そして、確かに、と思う。
モントさんだって宰相さんと仲いいし、その伝手でヒイロさんの話は伝わってるだろうし。
この話が宰相さんから来るなら、もう少し前向きに検討もするんだけど、あの王太子の部下の人だから、信用はないんだよなあ。
冒険者ギルドに行ってさらっと「受けません」って終わりにしようと思ったのに、なんかウル老師の言葉だとそう簡単にはいかないんじゃないかな。俺が頷かざるを得ないように周りに吹き込んでそうで怖い。
「彼は、私達王宮に住まう薬師の後見人でもあります。私たちが作ったポーションを騎士団に手配していたのも彼でした。彼がいなかったら、私たちはこうして薬師を続けて行くことは出来なかったでしょうし、たくさんの弟子を取ることもできなかったと思います」
「うちも前は恐れ多くも王宮薬師様たちの作るハイポーションを卸してもらっていたんですよ。本当にありがたかったです」
ロミーナちゃんがウル老師を気遣ってか、助け舟を出す。でもその言葉にちょっと引っかかる一言が。
「前は?」
「ええ。一時期、セッテの農園で植物の病気が騒がれた時があって、その時期はモントさんも作っていた薬草を二つの街両方に出荷しないといけなくなるから、品薄になるかもしれないって言われてて、その時までは王宮から卸してもらっていたんです」
「ああ……」
ふと思い出した。クラッシュが大量のポーション類を抱えてセッテの街に行ったこと。俺も護衛として付いて行って、途中襲われたこと。
あの時は俺、本当に弱くて。雄太たちとセイジさんが助けに来てくれなかったら、クラッシュが今も生きてたかどうかわからなかったんだよ。
もしかしたら、ウル老師は何か裏の話を知ってるのかな、と思って、俺は老師に話を振ってみた。
「ウル老師は憶えてますか? その時のこと」
「その時とは、セッテの農園が休園になった時のことですかな」
「そうです。確かあの時は、セッテに薬師が不在でとかなんとかって聞いてた様な」
「もちろん憶えております。あの時は薬草の入手が危ぶまれましたところ、フレード侯爵様がどこからか薬草を入手してきてくれましてな。街にもしっかりとポーションを卸そうとセッテの薬師を王宮に呼んで作業していましたな」
あ、これは、と俺は息を呑んだ。あの時セッテの流通を止めたの、フレード侯爵だったのかも。もしかして、フレード侯爵とあのレイモンド侯爵って繋がってるのかな。でも繋がってたら王太子の下で今も働いてるなんて無理だと思うんだけど、どういうことなんだろう。わけわからないけど、あの大変だった緊急クエストの原因の一端がフレード侯爵だっていうのはなんとなくわかった。
「あの時は私もほんとに助かったんですよ。ポーションがなくなったら魔物退治も大変になるでしょうし、そうなると魔物は増えるしお店にも魔物素材が入らなくなるし、何より回復できないのって怖いですよね。でもその後は色々とあって、モントさんに勧められた場所から納品してもらうようになっちゃったんですけど。それまでが破格過ぎたんですよね」
「私としてももっと沢山の方に安全に生きて欲しいと思っておりましたが、王太子殿下が薬師の規模縮小を決めてしまいましてな。本当に申し訳ない」
「いいえ、ウル老師も大変だったんですよね。あの王太子殿下に食い下がったと聞きました」
さすが城下街在住の雑貨屋さん。ロミーナちゃんは結構な情報通だった。っていうかもしかして、と俺はちらりとユキヒラを見た。
ユキヒラはそんな俺に気付かずに、ロミーナちゃんをデレ顔で見ていた。
「あの時、ユキヒラさんも色々と口添えをしてくださったんですよね。王宮でポーションを止めるのを阻止するために」
「あの時は力になれなくてごめんねロミーナちゃん」
「いいえ、そんなこと。それにいい薬師さんと契約出来ましたから気にしないでください」
あの時、裏に色んな事情があったんだ。っていうか、セッテの街の方も気にして欲しかった、って思うのは俺だけかな、なんて大変な思いをした俺としては思う。
でもそういうのを管理するのが王宮で仕事してる貴族のはずなんだよな。なんか、複雑すぎてちょっと考えたくらいじゃ全くどうしていいかわからないよ。
「教えてくださってありがとうございました」
溜め息を呑み込んでお礼を言う。
すると、ウル老師は「いいえ、私もあの時は自身をとても不甲斐ないと悔やんでおりました」と肩を落とした。
なんか、これは本当にフレード侯爵にちゃんと会ってしっかりと説明した上で断らないといけないやつなんじゃないかな。なんてことはユキヒラも考えていたらしく。
「それにしても、フレード侯爵とマックがちゃんと会って話をしないと埒が明かなそうな気がするな、これは」
「ほんとにね」
ユキヒラの言葉に同意すると、ウル老師も複雑な表情ながらも頷いた。
ロミーナちゃんの雑貨屋を後にして、俺は王宮に行くことになった。急展開……ってわけでもないのかな。ユキヒラは先に戻って詳細を宰相さんに告げて、もし揉める場合は仲裁を頼むことにする、と白馬に乗って先に王宮に行ってしまった。走り去る姿がすごく王子っぽかったし様になってたのがやっぱりおかしかった。馬に乗れるのいいなあ。
一応インカム着けとけとユキヒラに言われたので、装備しておく。これでタイムリーに連絡を取れるのがなかなか楽だ。失言だけはしないようにしないとだけど。前に多大なる失敗をしたからな。しかも王宮で! って思い出すのは止めよう。
王宮薬師たちの進捗状況を聞きながら王宮を目指す。
前はポーション一辺倒だったのに、今では色んなレシピを開発する部門まで作ろうかと話が出ているらしい。でも薬師の数が足りないらしいけど。皆、自分の腕を磨こうと外に出始めたんだって。可能性が広がるから止めることもできないんだってウル老師は語っていた。でも、その顔、ちょっと誇らしそうだよ。王宮を守るのは我々老いぼれた年寄りで十分だとか言ってるけど、ウル老師はまだ現役バリバリだから。
貴族門をウル老師の顔パスで通り、王宮の入り口もウル老師の顔パスで通してもらう。一応薬師棟に入るときには身分証を提示するよう言われたけど、それは宰相さん通行証でパスしたから大丈夫。王様たちの所には入れないけど、入る予定も何もないから何の問題もなかった。
ウル老師に招き入れられて足を踏み入れた薬師棟は、凄かった。
一階が貴族との会談をする場所とか、素材を入れる場所とかそういう場所で、二階が保存場所、そして、三階と四階は調薬スペースで、五階から上が居住スペースらしい。
今ここで暮らしている薬師が、50人くらい。全員薬草取り扱い講座に参加してくれたらしく、俺は無条件で受け入れられた。
そして今は応接セットに座って歓待を受けている。
周りを取り囲むのは、メモ用紙を手にしたここに所属する薬師たち。
待って、四方八方から質問攻撃されても答えられないから。せめて一人一人にして欲しい。俺、こんな一気に質問されても答えられないからあああ。
感想 555
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。