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528、最強の助っ人
一階の入り口に近い応接セットで歓待を受けていると、薬師棟の入り口の呼び鈴が鳴った。
お弟子さんの一人がドアを開けると、そこには意外な人物が立っていた。
「おや、マックさん、こんなところでどうなさったんですか? ……ああ、とうとう王宮の薬師になってしまわれたのですか」
「違いますから!」
穏やかそうな物腰で俺に声をかけてきたのは、ニコロさん。
ニコロさんはニコニコとそんなことを言い出した。違うから。
「ニコロさんはこんなところでどうしたんですか?」
「猊下をさん付けで……!」
「マック様、それはあまりにも猊下に対して失礼では……!」
ニコロさんをニコロさんといつも通り呼んだところ、周りの弟子さんたちからすごい形相で注意されてしまった。
え、あ、そうか。教皇ってそんなに偉い人だったんだっけ。忘れてた。
「え、と。猊下……? って呼んだ方がいいですか?」
俺が戸惑いながらそう訊くと、ニコロさんは困ったように眉尻を下げた。
「私は弟子にそんな他人行儀な敬称で呼ばれたくはありません。いつも通りでいいですよ」
ニコロさんが首を振ると、周りが更にざわざわざわ、と動揺していた。
「薬師であるマック様が、猊下の弟子……? どういうことですか! マック様は薬師ではなかったのですか……!」
「薬師ですけど。ニコロさんの弟子です」
すごい形相になっている弟子さんに、腕にいつもつけているニコロさんから貰ったブレスレットを見せると、弟子さんは小さく「ひっ」と声を上げた。
「も、申し訳ありません……! 出過ぎたことを!」
ザッと後ろに下がって土下座をする弟子さんにビビっていると、どうしました、と少し席を外していたウル老師がやってきた。
「猊下ではありませんか。ディスペルハイポーションは出来上がっております。わざわざ猊下にお越しいただくなど、恐れ多い」
「でもですね、もう一人の弟子であるユキヒラさんにマックさんがこちらに来るということを聞いてしまったら、やはり可愛い弟子の顔は見たくなるのが心情というもの。たまには私が足を延ばしてもいいのではないかと思いまして」
「マック殿が猊下のお弟子さん、とな」
「はい。まだ私がここに来る前からマックさんには何かとお世話になっているんですよ。私が師などと名乗るのは間違っていると思うのですが、マックさんはこの朗らかなお人柄で、私のことを師匠、と。ありがたいことです。そして、少しくすぐったくもありますね」
ほわっと笑うニコロさんの雰囲気は、周りの人たちをも丸くさせる効果があるのかもしれない。慌てたりしていた人たちが、なんか和んでいる。
「私も少し、ここでマックさんとお話をしてもよろしいでしょうか」
「ぜひ。猊下がここでお休みされるのはとても名誉なことでございます」
「ありがとうございます」
ニコロさんはニコニコと頭を下げると、俺の横にスッと腰を下ろした。そして、ちらりと俺を見て、一つだけ頷いた。
あれ、と思う。ユキヒラは、もしかして宰相さんだけじゃなくて、事の詳細をニコロさんにも教えたのかなって。
だってそうじゃなかったら、教会と薬師じゃ全然分野が違うから行き来なんてトップがするはずないし、皆もいつもは来ない人が現れた時のビビり具合だったから。
「ニコロさん……もし」
かして、と続けようとしたら、ニコロさんが口元をくっと上げて、俺の声に被せるように「お茶が美味しいですねえ」と声を発した。
「こんなおいしいお茶を出してもらえるなんて、嬉しいですね。さすが薬師棟は、茶葉もいい物が沢山あるのでしょうか」
「もちろんにございます。お気に召しましたなら、ディスペルハイポーションの納品と共にこの茶葉も定期的に納品いたしましょうか」
「それは素晴らしい提案ですね。でもよろしいんでしょうか」
お茶を飲み干したニコロさんのカップを、弟子さんがさっと下げる。
そしてすぐに新しいお茶が用意された。
ウル老師は俺たちの斜めに当たる場所に腰を下ろしている。後ろに立っている弟子さんは、もしかして俺たちの世話役かな。
俺も一緒にお茶を堪能していると、またも呼び鈴が鳴った。
すぐさま弟子さんが対応し、今度は初めて見る立派な身なりをしている人が入ってきた。
「おや、フレード殿ではありませんか。フレード殿も薬師棟に用事があったのですか? 奇遇ですね。私もです」
にこやかに声をかけるニコロさんに、例の侯爵は驚いたように目を見開いた。
でもすぐに表情を取り繕うと、温和そうな表情で丁寧に頭を下げた。
「これはこれは、教皇猊下ではありませんか。ご機嫌麗しゅう。お会いできた幸運に感謝します」
「そうですね。今日はとてもいい日なのです。久方ぶりに私の弟子に逢うことが出来ましてね」
「弟子、ですか。それは素晴らしい日ですね。して、今日はここに薬を取りにいらしたのですか?」
「ええ。ついでですのでなくなりかけているディスペルハイポーションをいただきに上がりました」
「そんな猊下が足を運ぶほどのことではありませんのに。ウル老師、あなたは納品を滞らせていたのですか?」
にこやかな表情のまま、ちらりとウル老師を見る侯爵の目はしかし、そこまで笑ってはいないように感じた。
言い回しも、なんか。
「いいえいいえ。誤解を生んでしまい申し訳ありません。私の弟子がここに来ていたので、私が勝手に来てしまったのです。だからウル老師を叱責することはやめてくださいね」
「そうでしたか。それは失礼しました。ところで、猊下の弟子というのは」
侯爵が周りを一通り見回す。部外者は俺とニコロさんと侯爵だけなんだけど、侯爵の中で俺は薬師だっていう位置づけだから、弟子だとは思えなかったらしい。
「私の横に座っている、マックさんですよ。とはいえ、私の方がマックさんには多大な恩があるので、どうぞフレード殿もよろしくお願いいたしますね」
「……は」
ここに来て、ようやくフレード侯爵は動揺したようだった。だって俺を利用しようとしてたんだもんね。それが教皇猊下が自ら足を運ぶほどの愛弟子だったとわかったら、利用なんて出来なくなっちゃうよね。ユキヒラ、もしかして宰相さんよりも強力な助っ人をよこしてくれたってことか。
「初めまして。薬師マックです。今日はあの依頼についての話し合いに来たんですけど、思わぬニコロさんとの再会に、俺もすごく喜んでました。こんな機会を下さってありがとうございます」
俺が頭を下げると、フレード侯爵はまだ動揺を残しながら自己紹介してくれた。
ウル老師の勧めで俺たちの前に腰を下ろしたフレード侯爵は、ちらりとニコロさんを見て、「猊下はこの後のご予定は」と訊いていた。いなくなって欲しいのかな。
それに気付いてか、ニコロさんはニコニコと「マックさんに逢えるとあっては、公務は後回しにしてもらっています。何せ教会の救世主。教会の皆はマックさんが最優先です」と大打撃を与えていた。
「それとも、私がここにいては邪魔でしょうか」
「そんなことは」
「では、私の弟子が今度はどんな素晴らしいことをしてくださるのか、すぐ近くで見守っていたいと思います」
これが、ニコロさんの政治的駆け引きなのか素なのかいまいちわからない俺は、ただ黙って隣に座っていた。
でもフレード侯爵は今のニコロさんの言葉に目を輝かせた。
「そうなのです。とても素晴らしい腕前の薬師マック殿に、どうしてもお願いしたいことがありまして。人族の夢であり、希望であるアイテムの調薬を、この薬師棟で、皆に伝授して欲しいと思いまして。それの話し合いなのです」
「人族の夢と希望のアイテム、と言いますと」
「『蘇生薬』です。死者すらよみがえらせるという、獣人族秘伝のアイテムを」
「死者すらよみがえらせる……?」
侯爵の言葉に、俺とニコロさんは同時に顔を顰めた。
待って、蘇生薬の効能に、多大なる誤解があるよ。死者をよみがえらせるようなアイテムじゃないよあれは。死にそうになってる魂を起こすアイテムなんだけど。
「待ってください。『蘇生薬』っていうのはそんなアイテムじゃないです」
「死者をよみがえらせるアイテムとは、もしかして手を伸ばしてはいけない禁忌のアイテムではないのですか……?」
俺とニコロさんが同時に口を開く。
そしてお互いがお互いの言葉に驚く。何その禁忌のアイテムって。気になる。
ニコロさんも死者を生き返らせるアイテムじゃないと聞いて驚いている。
俺はインベントリから『蘇生薬』ランクAを取り出して、テーブルの上に一つ置いた。
「俺の腕じゃ、まだ人に教えることは出来ません。そして、上級まで腕をあげてもまだここが限界です。そして、蘇生薬の効能は」
蘇生薬。生命維持が限界を迎えた者を蘇生させる薬。ただし生命維持活動停止後一定時間が経過していると効果は出ない。
俺が蘇生薬の効能を口に出すと、その場にいる皆が息を呑んだ。
お弟子さんの一人がドアを開けると、そこには意外な人物が立っていた。
「おや、マックさん、こんなところでどうなさったんですか? ……ああ、とうとう王宮の薬師になってしまわれたのですか」
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ニコロさんはニコニコとそんなことを言い出した。違うから。
「ニコロさんはこんなところでどうしたんですか?」
「猊下をさん付けで……!」
「マック様、それはあまりにも猊下に対して失礼では……!」
ニコロさんをニコロさんといつも通り呼んだところ、周りの弟子さんたちからすごい形相で注意されてしまった。
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「薬師であるマック様が、猊下の弟子……? どういうことですか! マック様は薬師ではなかったのですか……!」
「薬師ですけど。ニコロさんの弟子です」
すごい形相になっている弟子さんに、腕にいつもつけているニコロさんから貰ったブレスレットを見せると、弟子さんは小さく「ひっ」と声を上げた。
「も、申し訳ありません……! 出過ぎたことを!」
ザッと後ろに下がって土下座をする弟子さんにビビっていると、どうしました、と少し席を外していたウル老師がやってきた。
「猊下ではありませんか。ディスペルハイポーションは出来上がっております。わざわざ猊下にお越しいただくなど、恐れ多い」
「でもですね、もう一人の弟子であるユキヒラさんにマックさんがこちらに来るということを聞いてしまったら、やはり可愛い弟子の顔は見たくなるのが心情というもの。たまには私が足を延ばしてもいいのではないかと思いまして」
「マック殿が猊下のお弟子さん、とな」
「はい。まだ私がここに来る前からマックさんには何かとお世話になっているんですよ。私が師などと名乗るのは間違っていると思うのですが、マックさんはこの朗らかなお人柄で、私のことを師匠、と。ありがたいことです。そして、少しくすぐったくもありますね」
ほわっと笑うニコロさんの雰囲気は、周りの人たちをも丸くさせる効果があるのかもしれない。慌てたりしていた人たちが、なんか和んでいる。
「私も少し、ここでマックさんとお話をしてもよろしいでしょうか」
「ぜひ。猊下がここでお休みされるのはとても名誉なことでございます」
「ありがとうございます」
ニコロさんはニコニコと頭を下げると、俺の横にスッと腰を下ろした。そして、ちらりと俺を見て、一つだけ頷いた。
あれ、と思う。ユキヒラは、もしかして宰相さんだけじゃなくて、事の詳細をニコロさんにも教えたのかなって。
だってそうじゃなかったら、教会と薬師じゃ全然分野が違うから行き来なんてトップがするはずないし、皆もいつもは来ない人が現れた時のビビり具合だったから。
「ニコロさん……もし」
かして、と続けようとしたら、ニコロさんが口元をくっと上げて、俺の声に被せるように「お茶が美味しいですねえ」と声を発した。
「こんなおいしいお茶を出してもらえるなんて、嬉しいですね。さすが薬師棟は、茶葉もいい物が沢山あるのでしょうか」
「もちろんにございます。お気に召しましたなら、ディスペルハイポーションの納品と共にこの茶葉も定期的に納品いたしましょうか」
「それは素晴らしい提案ですね。でもよろしいんでしょうか」
お茶を飲み干したニコロさんのカップを、弟子さんがさっと下げる。
そしてすぐに新しいお茶が用意された。
ウル老師は俺たちの斜めに当たる場所に腰を下ろしている。後ろに立っている弟子さんは、もしかして俺たちの世話役かな。
俺も一緒にお茶を堪能していると、またも呼び鈴が鳴った。
すぐさま弟子さんが対応し、今度は初めて見る立派な身なりをしている人が入ってきた。
「おや、フレード殿ではありませんか。フレード殿も薬師棟に用事があったのですか? 奇遇ですね。私もです」
にこやかに声をかけるニコロさんに、例の侯爵は驚いたように目を見開いた。
でもすぐに表情を取り繕うと、温和そうな表情で丁寧に頭を下げた。
「これはこれは、教皇猊下ではありませんか。ご機嫌麗しゅう。お会いできた幸運に感謝します」
「そうですね。今日はとてもいい日なのです。久方ぶりに私の弟子に逢うことが出来ましてね」
「弟子、ですか。それは素晴らしい日ですね。して、今日はここに薬を取りにいらしたのですか?」
「ええ。ついでですのでなくなりかけているディスペルハイポーションをいただきに上がりました」
「そんな猊下が足を運ぶほどのことではありませんのに。ウル老師、あなたは納品を滞らせていたのですか?」
にこやかな表情のまま、ちらりとウル老師を見る侯爵の目はしかし、そこまで笑ってはいないように感じた。
言い回しも、なんか。
「いいえいいえ。誤解を生んでしまい申し訳ありません。私の弟子がここに来ていたので、私が勝手に来てしまったのです。だからウル老師を叱責することはやめてくださいね」
「そうでしたか。それは失礼しました。ところで、猊下の弟子というのは」
侯爵が周りを一通り見回す。部外者は俺とニコロさんと侯爵だけなんだけど、侯爵の中で俺は薬師だっていう位置づけだから、弟子だとは思えなかったらしい。
「私の横に座っている、マックさんですよ。とはいえ、私の方がマックさんには多大な恩があるので、どうぞフレード殿もよろしくお願いいたしますね」
「……は」
ここに来て、ようやくフレード侯爵は動揺したようだった。だって俺を利用しようとしてたんだもんね。それが教皇猊下が自ら足を運ぶほどの愛弟子だったとわかったら、利用なんて出来なくなっちゃうよね。ユキヒラ、もしかして宰相さんよりも強力な助っ人をよこしてくれたってことか。
「初めまして。薬師マックです。今日はあの依頼についての話し合いに来たんですけど、思わぬニコロさんとの再会に、俺もすごく喜んでました。こんな機会を下さってありがとうございます」
俺が頭を下げると、フレード侯爵はまだ動揺を残しながら自己紹介してくれた。
ウル老師の勧めで俺たちの前に腰を下ろしたフレード侯爵は、ちらりとニコロさんを見て、「猊下はこの後のご予定は」と訊いていた。いなくなって欲しいのかな。
それに気付いてか、ニコロさんはニコニコと「マックさんに逢えるとあっては、公務は後回しにしてもらっています。何せ教会の救世主。教会の皆はマックさんが最優先です」と大打撃を与えていた。
「それとも、私がここにいては邪魔でしょうか」
「そんなことは」
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これが、ニコロさんの政治的駆け引きなのか素なのかいまいちわからない俺は、ただ黙って隣に座っていた。
でもフレード侯爵は今のニコロさんの言葉に目を輝かせた。
「そうなのです。とても素晴らしい腕前の薬師マック殿に、どうしてもお願いしたいことがありまして。人族の夢であり、希望であるアイテムの調薬を、この薬師棟で、皆に伝授して欲しいと思いまして。それの話し合いなのです」
「人族の夢と希望のアイテム、と言いますと」
「『蘇生薬』です。死者すらよみがえらせるという、獣人族秘伝のアイテムを」
「死者すらよみがえらせる……?」
侯爵の言葉に、俺とニコロさんは同時に顔を顰めた。
待って、蘇生薬の効能に、多大なる誤解があるよ。死者をよみがえらせるようなアイテムじゃないよあれは。死にそうになってる魂を起こすアイテムなんだけど。
「待ってください。『蘇生薬』っていうのはそんなアイテムじゃないです」
「死者をよみがえらせるアイテムとは、もしかして手を伸ばしてはいけない禁忌のアイテムではないのですか……?」
俺とニコロさんが同時に口を開く。
そしてお互いがお互いの言葉に驚く。何その禁忌のアイテムって。気になる。
ニコロさんも死者を生き返らせるアイテムじゃないと聞いて驚いている。
俺はインベントリから『蘇生薬』ランクAを取り出して、テーブルの上に一つ置いた。
「俺の腕じゃ、まだ人に教えることは出来ません。そして、上級まで腕をあげてもまだここが限界です。そして、蘇生薬の効能は」
蘇生薬。生命維持が限界を迎えた者を蘇生させる薬。ただし生命維持活動停止後一定時間が経過していると効果は出ない。
俺が蘇生薬の効能を口に出すと、その場にいる皆が息を呑んだ。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。