これは報われない恋だ。

朝陽天満

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539、大きくなったリザ可愛い

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 入り口が封鎖されてるから、裏口からそっと抜けて前に回ると、途端にがしっと雄太に捕まってしまった。



「お前なにゲリラ販売してるんだよ。そういう場合はさっさと情報寄越せ。時間に間に合わなかっただろ」

「俺もいきなりでそんな暇ないよ。文句ならクラッシュに言ってくれない? やつは商売の鬼だから」

「マック……英雄の息子にそれを言える人って、多分少ないからね」



 海里に突っ込まれて、そうなのかな、と首を傾げる。ヴィルさんなんかクラッシュをかなり振り回してるけど。



「でも、ハイパー10本でしょ。私も買いたかったあ」

「俺も」

「辺境でも出回らないからな。今度辺境に出張ゲリラ販売に来てくれないか?」

「そしたらすっごい人が群がるよ。もちろん俺も行く」

「それなら俺も辺境一択だな。というわけでよろしく」

「それ、俺じゃなくてクラッシュに言ってください。俺は皆と一緒で振り回される方だから」

「ははは、それもそうだな」



 ガンツさんと月都さんが笑いながら俺の肩をバンバン叩く。

 ユーリナさんがじっとこっちを見て、「こっそり個人売買しない?」なんて持ち掛けて来るけど、それ、周りの人全員とこっそり個人売買しないといけなくなりそうなんだけど。



「ようマック。相変わらず面白いことになってるな」



 後ろから『リターンズ』の陽炎さんが声をかけてきたので、雄太に捕まったまま「こんにちは」と挨拶をする。すると、隣にいたエリモさんの首に巻かれていた大きくなったリザが舌をちょろっと出して手を上げた。



「リザ! 相変わらずかあわいい!」



 既に大きさは30センチを超えるくらいになっていたけれど、可愛さは健在だった。

 ついついインベントリの中から聖水茶の入ったポットを取り出す。そしてカップに注いで少しだけフーッと冷ましてから差し出すと、リザはエリモさんの肩から首をにゅっと伸ばしてぺろぺろと飲み始めた。そして、満足そうにハァ、と息を吐く。



『オイシイ』

「どういたしまして……ってリザ、話せるようになったの!?」

「リザ! お前、もしや今のでレベル上がったか……?」

「マックお前……今の聖水茶、ランクなんだよ……」



 魔法使いさんの突っ込みに、笑って誤魔化す。ランクSだからね。他には出回ってない一品だからね。



『オイシイノ』



 リザが小さな手を伸ばしてくるので、さらにカップに聖水茶を注ぐ。



「お前はテイムできる聖獣まで誑してたのか」



 呆れたような雄太の言葉に、俺はすぐ横にあった雄太の横腹にげんこつで突っ込みを入れた。でも痛いのは俺の手の方だった。鎧ずるい。



「それにしても、ここまで集まったプレイヤーをどうさばくかな、店主さん」



 ブレイブが周りを見ながら冷静にそう呟く。

 でもなんでこんなに人が集まったんだろ。と首を傾げてると、海里が掲示板を見てみて、と助言をくれた。

 海里に言われた通りに『薬師マックスレ』を開くと。

 クラッシュが突発的に言ったことが、寸分違わぬ状態ですべて載っていた。

 アイテム内容、値段、制限時間、そしてアイテムを売る上限の数。

 ああ、うん。なんか、ログインしててもこういうのを覗く人たちってかなりいるんだね。俺はログアウトした時にちょっと覗くくらいだけど。

 リザに聖水茶を飲ませながら遠い目をしていると、店のドアがようやく開いた。中から最後のお客さんとクラッシュが出てくる。



「ごめんねみんな。時間が過ぎちゃった。俺もこんなに集まるとは思わなくてさ。異邦人の情報網ってすごいねえ。で、申し訳ないんだけど、今回の目玉は素材切れのためおしまい。でも、集まってくれた人には次に優遇するチケット渡すね。並んでもらえると嬉しい」



 クラッシュの声が響くと、皆が一斉に列に並び始めた。もちろん雄太たちも『白金の獅子』と『リターンズ』のメンバーも。

 転移魔法陣がギルドに設置されたから、皆の移動がすごく早い。転移魔法陣、いいのか悪いのかわからないよ。俺は全く使わないから余計に。

 なにしてんのマックも手伝って、とクラッシュにとっ捕まって整理券渡しを手伝った俺は、皆に渡し終えると、ようやくクラッシュの店から解放された。





 店の前が大分まばらになっても、俺は辺境のトッププレイヤーたちとおしゃべりに興じていた。

 今俺は、腕にリザを乗せてご満悦である。可愛い。重くなったけど、可愛い。手のひらサイズだったのにここまで大きくなるんだ。と感心していると、リザは成長するとワニより大きくなるんだと教えてもらった。オランさんに早速会いに行ってリザを見せたらしい。

 リザには『白金の獅子』のメンバーも興味津々で、特にドレインさんがすごく羨ましがっていた。テイマーの掲示板も欠かさず見ているらしい。俺も今度見てみよう。ノワールもよくスクショがあげられるらしいから。ノワール元気かな。



「ねえねえ、俺にもリザ触らせて」



 いきなり後ろから声が掛かる。振り向くと、店のドアに『クローズ』の札を下げ終えたクラッシュが後ろに立っていた。



「よう店主さん。今日は残念だったぜ。情報見てすっ飛んできたんだけど」

「リザの飼い主さん。こんにちは。こういうのは思い立った時にやらないと、たまにうちの薬師は納品をサボるからねえ」

「売れるのが早すぎるんだよ。最近はこの街の薬師さんたちも頑張ってるじゃん」

「味が段違いなんだよマック。飲み比べてみてよ。俺だって買うなら美味しい物の方がいいもん」

「だな」



 クラッシュに同意するように、一斉に周りが頷く。味だって最近はよくなってきてるんだけどね、多分。薬草取扱をちゃんとしてる人のアイテムは美味しいらしいし。自分のしか飲まないからいまいちわからないけど。

 リザはクラッシュをちゃんと『おいしい石をくれた人』とわかったのか、クラッシュが手を伸ばすとそっちにのそっと移動していった。そしてクラッシュを覗き込んでキラキラとした円らな目で何かを訴えている。



『オイシイノ』

「え、なになに、あの石みたいな美味しいものが欲しいの? ごめんなんもない……あ、ちょっと待って。この間森の奥に行ったときに摘んできたすっごくいい香りの花がある」



 クラッシュが腰のカバンからピンクの花を取り出すと、リザが目を輝かせた。そして、ぱくりとその花を口に入れる。相変わらず花が好きなんだね。可愛い。



『オイシイ』

「そう、良かった。中央の山に生えてたんだ」



 それってレアアイテムじゃないのかな。そんなお金になりそうなものもあげちゃうんだ。前の『香石』の時もサービスしてたけど、クラッシュってやっぱり小さいの大好きだよね。

 クラッシュと一緒にリザを愛でていると、さらに後ろから声を掛けられた。



「マック?」

「ヴィデロさん!」



 振り返ると、仕事帰りの軽装のヴィデロさんがこっちに向かって歩いてくるところだった。

 分かれ道から向こうが工房で、クラッシュの店は反対側なのに、何でこっちに? と疑問に思ってると、近くに来たヴィデロさんが苦笑した。



「やっぱりまだクラッシュに捕まっていたのか。今日はマックの実演販売をしてもらったって異邦人が騒いでいたから、もしかしてまだいるかと思ってこっちに来てみたんだ」

「捕まったとか人聞き悪いなヴィデロ」

「クラッシュは強引だから信用ならないんだよ」

「いいじゃんたまには貸し出してくれたって。ヴィデロだけ独り占めはずるいっての」

「特権だからな」



 ふふん、と俺を後ろから抱き締めながらクラッシュに得意そうな顔をするヴィデロさんに見惚れていると、周りから「御馳走様!」とか「今日もラッキー貰った!」とかいう声が聞こえて来た。



「ありがとマック、ヴィデロさん。今日は狩り日和よね。出来ればリクエストに姫抱っこして欲しいんだけど」



 海里の言葉に周りの猛者たちが笑う。

 ヴィデロさんも笑いながら、俺の膝裏をすくってひょいと軽く俺を持ち上げてしまった。途端に歓声。待ってちょっと歓声はやりすぎだろ。



「うわあ、ありがとヴィデロさん。私も幸せおすそ分け貰っちゃった」

「どういたしまして」



 にっこり笑うヴィデロさんがかっこよくて海里に突っ込み忘れていると、フッとクラッシュの横に人が現れた。



「なんだって勢ぞろいだな」



 そう言って声をかけてきたのは、ダンジョンサーチャーのセイジさんだった。



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