これは報われない恋だ。

朝陽天満

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550、ダンジョンの姿

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 魔物が消え去ると、先には少しだけ広い部屋が現れた。



「お、宝箱!」

「でもなんかトラップが付いてる。どうする?」



 ブレイブがすかさずトラップを見抜いて訊いてくる。



「お願いしていい?」



 ブレイブはいい笑顔とサムズアップで応えた。すごい、出来るんだ。



「結構複雑な罠だけど、これくらいなら何とか出来ると思うから、ちょっと離れてて」



 ブレイブは一人、気軽な足取りで宝箱に近付いていくと、「リリース率60%。マック、成功するよう祈っててくれ」とこっちを振り返った。

 俺が祈ったところでどうなることでもないとは思うんだけど、とりあえず手を組む。ついでに祝詞を唱えてみる。ほんとは「成功しますように」でいいとは思うんだけどサービス。

 俺の祝詞を聞きながら、ブレイブは宝箱に手を伸ばして「解除リリース」と声を上げた。

 カチン、と音がして、宝箱の箱が自動で開く。



「よし、成功。マック、サンキュ」

「俺祈っただけだよ」



 気休めにしかならないよ。と首を傾げると、皆が「気分の問題だよ」と俺の背中を叩いてブレイブに近付いていった。





 宝箱の中には、5本の瓶が入っていた。



「なんだこれ。ハイパーポーション?」

「待って、見てみる」



 一本を手に取って、鑑定眼で見てみた俺は、その鑑定内容に目を見開いた。



「『ミクスチャハイポーション:服用することでHPMP共に400回復する回復薬』って……新アイテム……? え、俺、現物だけじゃなくてレシピも欲しい……」

「はぁ? 何だそのアイテム。両方回復とかマジありえねえ」



 雄太も驚愕の表情で、手に持ったミクスチャハイポーションを見下ろした。

 こんなものが宝箱に入ってるなんて。このダンジョンにレシピとかは置いてないのかな。ヒイロさんはこれの作り方知ってるかな。

 俄然ヤル気が出てきた俺は、ガランとした部屋の中を見回した。こういう部屋の壁に鑑定眼を掛けたら、秘密の隠し場所とか見つからないかな。

 ワクワクしながら周りを鑑定眼で見てみる。

 そして、俺のその努力とMPは無駄に終わった。何もなかった。

 ちょっとだけテンション下がった。

 でも宝箱はしっかりと雄太が確保していた。



 部屋の奥に道があったので更に進むことにする。宝箱の部屋だけは魔物が出なかったから、もしかして安全地帯だったのかな、なんて思わなくもないけど、とどまってても意味はない。

 またしても俺と雄太先頭で進んでいく。

 普通に出てくる雑魚魔物がHP黄色とか緑ってふざけてるよね。まあ聖魔法何発かで消えていくんだけど。確かに、これは聖魔法がなかったから全然進めないよ。



「うわあ、ドキドキする」

「ここまで進んだことなかったからね」

「ボスまでもうすぐかな」

「どうかしら」



 女の子たちの会話を聞きながら、魔物を倒していく。

 ユイは会話しながらの詠唱に慣れているのか、さっさと詠唱して魔法を飛ばしては続きの会話を楽しんでいる。器用だな。俺は覚えた詠唱の言を反芻するのがいっぱいいっぱいなのに。まるで息をするかのように魔法を打ってる。これが熟練度ってやつなのかあ。

 ユイと二人で魔物を蹴散らしながら進むと、三回目の墓地が出てきた。今度は周りを小さな墓地が埋め尽くしていて、中央に丘の様に地面が盛り上がった場所があり、そこに立派な墓石が置いてあった。でも全ての墓に枯れた蔦が絡まり、供えられていただろう花は枯れて黒くなっていた。



「今回は木がないんだ」

「蔦があるだろ」



 雄太の言葉に、緑に生い茂った蔦が墓を包み込む図を頭に思い描く。それ、ダメなやつじゃない? 墓掃除しないといけないやつだろどう考えても。

 皆で中央のデカい墓の前に立つ。その朽ちた墓標にはやっぱり文字が書かれていたけれど、全然読めなかった。これもまた、浄化したら読めるようになるのかな。

 そう思って短剣を抜くと、ブレイブがストップをかけた。



「ここ、前よりも広いから、ここで浄化魔法唱えても端が全部残ってかえって手間がかかる。中央でやるより確実にすべてを塗り潰すつもりで移動しながら4回くらい浄化したほうがいい」

「そうだね」



 四隅が残っちゃったらめんどくさいしね、と俺は早速ブレイブの指示に従って移動した。

 そこで『サークルレクイエム』を唱える。

 墓地の一角は、とても清々しく……はならなかった。

 雄太の言う通り、枯れていた蔦がみずみずしい緑色に変化して、墓石をひたすら覆っていたから。大きな葉がまるで墓を隠すように表面を覆い、綺麗な黄色い花を咲かせている。

 これ、そのままでいいのかな。

 蔦はまるで、墓地に大きな投網をしたかのような状態になっている。端から引いたら墓石が大漁だよこれ。

 こういう仕様なのかな。

 みずみずしい蔦の網は放置して、俺は次の場所に移動した。

 同じことを三度繰り返し、全体を浄化することに成功した。



「前二つよりかなり広いね……」

「これで追いかけられてたら瞬殺ものよね」

「でもマック君が全部成仏させちゃったし」

「成仏って……」



 確かに成仏と言えば成仏かもしれないけど、と俺はなだらかな丘を登って行った。

 墓石のない丘の地面にも蔦は這っていて、全体を見るとまるでメロンの表面みたいに見える。

 足を進めて、一番大きな墓の前に立った。

 そこには、結構長めの文字が書かれていた。



「うわ、俺これ読めねえ」

「古代魔道語の……古語みたいなやつか?」

「そうだね。古い言葉だ。待って、読むから」



 俺にとってはそうそう難しい言葉じゃなかったけど、雄太たちにとっては難解な古代魔道語だったらしい。そんな日もあったよね、と懐かしく思いながら、俺はその石に書かれた文字を読んだ。



「『迫害されし王者の最愛の者、ここに永遠に眠る。永遠なる安息を同胞に。例え親しき者と袂を分かとうとも、心穏やかに、健やかに日々を過ごすことをここに刻む。願わくば、誰かが最愛の者のために祈りを。黒く、染まらぬよう』」

「誰も祈らなくなって、黒く染まっちゃったのね……」



 俺の言葉に、海里がグスッと鼻を鳴らす。

 ユイはやっぱりインベントリから花を取り出して、手向けていた。

 雄太はじっと墓を見て、険しい顔をしていて、ブレイブが手を合わせている。

 俺は、祈りの形に手を組み、祝詞を唱えた。

 この文章を読んでようやくわかった。

 人族に迫害された獣人とかエルフとかが、ここの墓地に眠ってたんだ。



「この、迫害されし王者の最愛の者って」



 雄太のポツリと零した言葉に、俺は頷く。

 多分、だけど。ここ、オランさんの番さんのお墓だよ。

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