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558、みんなで呪術屋
転移魔法陣で移動すると、前にも出てきたダンジョン入り口の近くの森に出た。
長光さんとユキヒラは「遅かったな」なんて言いながら俺たちを待っていてくれた。
「長光がクワットロの呪術屋に行きたいって言ってるんだけど、お前ら連れてってくれねえか?」
ユキヒラたちは俺たちが出てくるまで呪術屋の話をしてたらしい。
連れていくのはやぶさかじゃないんだけど。
あれ、でも待って。
「長光さん、呪術屋に行ったことないんですか?」
だって、ユキヒラの聖剣製作者、長光さんだよね。
ちらりとユキヒラの腰の剣に視線を向けると、長光さんは何も気づかないみたいで、真顔で「ない」と答えた。
「その聖剣ってどうやって依頼を受けたんですか?」
俺がそっと小声で訊くと、長光さんはどうしてここで聖剣が出てくるのかわからなかったみたいで、首を傾げながら「俺の師匠でもある鍛冶屋の親父に打てって言われてな」と教えてくれた。
そうか。色々経由して頼んだのか。
納得した俺は、そっとそのまま耳打ちした。
「聖剣を仕上げたの、クワットロの雑貨屋さんです」
「マジか。確かあの石、マック君が作ったって言ってたよな」
「はい。それを一つにまとめたのがクワットロの雑貨屋の店主さんです」
長光さんはほぅ、と目を光らせて、ユキヒラの方に向き直って手を差し出した。
「ユキヒラ、行くぞ。その鎧のメンテ無料でするから頼む。クワットロだと……表通りしか行けねえな。そこから道案内頼む」
「あ、ごめん無理だわ。俺はマックに転移で連れてってもらったから、店の前しかマップ開示されてねえんだよ。だから俺はマックに頼んでたんだっての」
途端に、2人が俺たちの方を向いた。
そういえばそうだった。ユキヒラを有無を言わせず連れて行って聖剣を継承させたんだった。
「あ、じゃあ私が連れてってあげるよ。私たちはちゃんとマップ開示されてるから」
ユイが無邪気にハイ、と手を挙げる。
仕方ねえなあ、という顔をしながらも、雄太たちもユイの手に触れた。
「ありがたい。今度君に最高のローブを送るよ」
「そんないいですよ。このローブ可愛いし性能もいいしで気に入ってるので。それに魔法陣魔法のレベル上げになるから」
長光が礼を言いながらユイの腕に触れる。雄太に「すまない」なんて謝ってたのが聞こえた。
全員がくっついた瞬間、ユイが魔法陣魔法を描き、一瞬にしてクワットロの表広場に跳んだ。手つきが俺より様になってたのは気のせい気のせい。
「あれ? 何で表……」
出てきたところに頭を捻ってると、ユイが「道を知りたいんだったらここがいいと思って」と首を傾げた。確かに。俺だったら何も考えずに店の前に跳んでた。流石ユイだね。
皆で表通りを抜けて、プレイヤーが行けるギリギリのところまで進む。ここから先は居住区だから入れないよという狭い通りを抜けて、更に進んでいく。
長光さんは周りをきょろきょろと見回しながら楽しそうに鼻歌を歌っている。
「すっげえなあ。辺境の裏側なら案内もできるけど、こんなところにもあったなんてな。もしかしてマック君はトレの街の裏側も行けるんじゃねえ?」
いけますけど。でも居住区はほんとに用事がないと行かないよ。落ち着いたらフランさんの赤ちゃんも見たいんだけど、その後元気かな。ロイさんは相変わらずだけど。
曖昧に頷くと、長光さんはそうか、と頷いて、また足を進めた。
そして目前には『呪術屋』。
店構えを見た長光さんは、おもちゃを目の前にした子供の様に目をキラキラさせた。
「すげえなあ。趣がある。ぐっとくるもんがあるな」
「それはどうもありがとうございます」
スッとドアが開いて、中からレガロさんが顔を出した。
ちょっとだけ可笑しそうに眼を細めてるのは、長光さんの言葉をしっかりと聞いていたからかもしれない。
っていうか俺たちが来ること、知ってたのかな。
「外観は私もとても気に入っております。しかし、店は外側だけがすべてじゃありません。店の中の商品が重要なのですよ。どうぞ、私自慢の商品をご覧ください」
長光さんを歓迎するように、レガロさんが中に促す。それにぞろぞろと俺たちが付いていくと、レガロさんは俺とユキヒラの腰に差してある聖剣を見て口角を上げた。
店の中に入った長光さんは、歓声を上げて早速物色し始めた。
そして、まっすぐ鉱石の置いてある奥の棚の方に向かうと、楽しそうに一つ一つに視線を向けた。
「すいません、これ、どれくらいなら売って貰えますか?」
その棚を指さしながら、長光さんが振り返る。
「おや、そこらへんは未加工の鉱石ですね。いくらでも在庫があるだけお売りしますよ」
「じゃあ、このペリドットの原石をあるだけ売ってもらえないでしょうか」
「おや、『クリゾリート』ですね。それよりも『エメラルド』の方が色は鮮やかに出ますが」
「いや、エメラルドよりペリドットが欲しいんです。これを基調にして作りたい物があって」
「かしこまりました。それは在庫が裏にございます。未抽出で10キロほどの塊を渡せますが、純度が高い物がどれほど入っているかは定かではありません」
「それでお願いします。ここで手に入るとは思いませんでした」
長光さんは満足げに、手にした岩の欠片をしげしげと眺めた。
見た目には、そこらへんに落ちている岩の欠片にしか見えないそれは、『宝石の原石入り岩盤』となっている。これを10キロ買ったとして、宝石はどれくらい出てくるんだろう。こういうのを加工するのもなんか楽しそうだな、なんてやり取りを見ていると、雄太が「うおお!」と声を上げた。
「店主さん! これ、これ欲しいです! 売ってくれませんか!」
そう騒ぐ雄太が手にしていた物は、大剣。性能のほどはよくわからない。けれど、雄太が興奮するんだからよほどいい大剣なんだと思う。
「おや、それは一週間程前にここにやってきた『ソウルブレイカー』ですね。攻撃力としましては、お客様の背にある大剣の方がかなり上になりますがいかがいたしますか?」
「これは物理特化ですから。俺、物理無効の魔物には全く役立たずで。でもこれだったら普通に攻撃入りますよね」
「よくおわかりですね。しかし、大剣をお持ちの方は大抵物理無効には弱いので、仕方がないと思いますよ。仲間もいることですし、頼ることも考えてはいかがですか?」
「頼りまくってます。でも、いざって時に一番頼りにならないリーダーなんて最悪っすから。どんな魔物にも少しは対応したいっていうか」
銀色に輝く大剣を前に、真顔でそんなことを言う雄太をしげしげと見つめたレガロさんは、わかりました、と頷いた。
「心意気やよし、ですね。お売りしましょう。お代は12万ガルで」
「あざっす!」
雄太は珍しく躊躇いなく12万ガルを払っていた。え、お金あったんだ。いつの間に貯めたんだ。万年金欠男の栄えある称号を手放すなんて……!
そう考えていると、レガロさんの口元が少しだけ綻んだ。またしても心を読まれたのかな、と目を逸らすと、ユイたちも俺を見て笑いをこらえていた。
「マック今すっごく失礼なこと考えてたでしょ。『高橋が現金持ってるなんておかしい!』みたいなこと」
「な、何で気付かれた……!」
「だってすっごく驚いた顔してたもん」
心を読まれたわけじゃなくて、顔に出ていたらしい。いけないいけない。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。