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561、もうほんと自分の掲示板に書き込むのはある種苦行だと思うよ……
工房に帰り着いた俺は、増えた布を洗って地図と共に聖水漬けにしてみた。そしたら地図が広がった。
でもまだ所々に欠けがある。けど、大部分の大陸の形は映っていた。
これ、本当に全部埋まるのかな。
そう思って報酬のハイポーションを……とインベントリを開いて気付く。
そういえば最初に布をくれた人には、何もお礼してなかった。
確か、『薬師マック掲示板』でダンジョンに行くときに壁の休憩所にいた人が何かコメントを残していたような気が……と、確かめるために躊躇いつつ自分の掲示板を開くための操作をする。
どうして俺の掲示板なんかあるんだろう。リザのスクショは可愛いけど。
他の人は自分の掲示板を見かけたときどうしてるんだろう。
長光さんの掲示板は見たことあるけど、今度特定のプレイヤーの掲示板でも見てみようかな。誰か知り合いの人の掲示板とかあるかな。雄太たちのもあるって言ってたし。
まずは雄太のを見て笑うのもいいかもしれない。
恥ずかしすぎてみたくない気持ちが、現実逃避させようと誘惑してくる。
でもお礼したいし。
こういうのを後回しにすると、余計に開くの躊躇うんだよな。海里がいれば有無を言わさず目の前に突き出されるのに。
人任せじゃダメだ、と諦めの溜め息を吐いて、気合を入れて自分の掲示板を開く。
「コメント伸びてる……って、あ。門番さんと幸せになってくださいってコメントがある。なんか、こういうのちょっと嬉しいな。って違う違う。布くれた人」
ログを辿って行くと、あったよ。
俺が壁の所にいたことを掲示板にコメントした人がいた。
『辺境の壁で墓地ダンジョンのドロップ品を集めてる』ってこの掲示板を見てる人にコメントしているのを読んで、そこまで行動が筒抜けなのか、と顔を覆う。長光さんとかの行動チェックならわかるんだけどね。偶然会って意気投合して鎧を予約出来た人とかもいるらしいから。あああなんでしがない薬師の俺の行動がこんなに筒抜けなんだ。
「これ、特定のコメントに返信できないのかな。よくわからないや。ええと、なんてコメントすればいいんだろう……っていうか自分の掲示板にコメント残すプレイヤーとかいるのかな」
普通は自分の掲示板とか、堂々とコメントとか残さないよね。恥ずかしいよね。
「あああああ恥ずかしい。でも他にどうしていいのか思い浮かばないんだよな」
覚悟を決めてコメントを残す。
何も考えずに無心にコメントを残すことにする。
『辺境の壁の所で俺に布をくれた人いますか。ただで貰っちゃったので何かお礼したいんですけど』
それだけを書き残して、しばし待つ。
ただ待つだけっていうのも居たたまれないので、ヴィデロさんの大好きな食べ物を用意することにした。
新鮮野菜と魔物肉を取り出して、鍋に投下する。
グツグツ煮込んで味を付けていると、ピロンと何かが鳴った。
何だろうと思ってステータス欄を開いてみると、ログに『コメントが返信されました』と通知が来ていた。
自分で書き込んだコメントに返信されると通知されるんだということを、俺は初めて知った。
掲示板を開いて覗いてみると、「≫わざわざありがとう。でも本当に何の役に立つのかわからないドロップ品だったから、そのまま貰っていいよ。他の奴もそう言ってる。役立てて欲しい」とコメントが来ていた。すっごくいい人だ。
たくさんいすぎて顔を覚えてないんだけど、もし今度会ったらお礼しよう。そうしよう。
やっぱり返信の仕方がわからなくて、そのまま「今度会ったとき声をかけてください。お礼させて欲しいです、ありがとうございます」とコメントを残して掲示板を閉じる。
いい人だったな、と感動しつつ味付けを終わらせると、コンコンとヴィルさんとの連絡通路がノックされた。
「はい」
返事をすると、ドアが開いて、ヴィルさんが顔を出した。
「やあ健吾。高橋君から連絡を貰ったんだけど、もしかしてこれから夕食か?」
「はい。一緒に食べますか? たくさん作ったんで。っていうか高橋もう連絡入れたんだ。行動早すぎだろ」
「行動が早いのはいいことだよ。機を逃がさないという意味でね。まあ、早すぎると失敗する場合っていうのもあるから、状況には依るんだろうけど。高橋君からのチャットには、『マックがヤバい物を手に入れたから、ちょっと確認して欲しい』って書かれていたけれど、ヤバい物ってなんだ? 危険物か?」
「危険物と言えば危険物ですけど……」
そう言いながら、更に完成に近づいた地図をインベントリから取り出した。
あれだけ大量の布なのに、地図になるとバスタオル一枚分くらいの大きさっていうのがちょっと解せないけど、この世界ではそういうのが結構普通なんだよな、と開きながら思う。
「これは、魔大陸の地図か。こんなものをどこで手に入れたんだ?」
「辺境の端に、大陸から逃げて来たオランさんの仲間たちのお墓があるんですけど、その墓地ダンジョンの魔物がドロップするアイテムを洗ったらそんな形になっちゃいました」
「墓地ダンジョン……今かなり話題のダンジョンだな。健吾も行ってきたのか」
「はい。俺的には経験値わんさかだし聖短剣のレベルは上がるし魔物はそんなに強くないしですっごく楽なダンジョンだったんですけど、高橋なんかは超難易度ダンジョンだって言ってました。物理攻撃がほぼ効かなくて」
「なるほど」
俺の説明に頷きながら、ヴィルさんはうーん、と地図を見下ろした。
「これは何かのキーアイテムだろうな」
「やっぱりわかります? これを持ってそのダンジョンの出口に向かったら、大陸に跳ぶかどうか聞かれました」
「ここに戻ってきてるってことは、行ってないってことだよな」
「はい。高橋に止められちゃって」
もし俺一人だったら、あの時の問いにイエスで応えちゃったかもしれないと思う。
ヴィルさんはホッとした顔をして、地図を持ち上げた。
「……これは、俺が少しの間預かってもいいか? ちょっと健吾が持っているのはよくない気がするから」
「あ、はい。お願いします」
ヴィルさんによくないと言われると、特に明確な理由がなくても怖くなる。
預かってくれるというから、俺は預けることにした。
「これは迂闊に手を出さない方がいいかもしれないな。これはまだ完成はしてないんだろ」
「はい。今アイテムを集めてるところで」
「集まったら、この地図を完成させてくれないか?」
「もちろん。そのつもりです」
俺が頷くと、ヴィルさんはよかった、と顔を綻ばせ、地図を懐にしまった。
そして、ところで、と椅子に腰を下ろした。
「この地図の存在を、弟は知ってるのか?」
テーブルに肘をつきながら俺を見つめるヴィルさんに、俺は首を横に振って見せた。
「そこまで大きくなったのは、今日なんです。アイテムを洗ってるのは見られたけど、オランさんからのクエストをクリアしたらその洗ったアイテムがその形になったんで」
「なるほど。もし、隠し事をしていて心苦しいなら申し訳ないが、これは弟にはまだ教えない方がいい。ずっと君が魔大陸に行くのを気に病んでいるから」
もしかして、ヴィルさんはそのために地図を預かるって言ってたのかな。
お茶を出しながらちらりとヴィルさんを見ると、ヴィルさんは少しだけ難しい顔をしながら、頬杖をついていた。
「しかめっ面してますね。何かあったんですか?」
「何かも何も、こんないい匂いを充満させた部屋で、弟の帰りを待っておいしいご飯のお預けとか、腹が減ってる身としては、辛すぎる……」
深い溜め息とともに、ヴィルさんが悔しそうにつぶやく。
そのしかめっ面の理由に、俺は思わず笑ってしまった。
ヴィデロさんが帰ってきたのは、もうだめだ、耐えられない……と呟いたヴィルさんが席を立って、つまみ食いに俺の横に立った時だった。
顔を合わせたヴィルさんの満面の笑みと、俺の横に立っていたヴィルさんを見るヴィデロさんのしかめっ面が、なんだかすごく平和で楽しかった。
ご飯は美味しく三人でいただきました。
感想 555
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。