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569、ブレイブの疑問
「すごいねえ。魔大陸。これだけの広さの場所全部歩けるようになるんだ」
ユイが感心したように声を上げた。
するとブレイブが首を傾げる。
「でもリスポーンポイントとか村状態とか、最初から設定したほうが早いんじゃないのかな。どうしてすべてを歩きにくい状態で作り上げるんだろう……」
その言葉にドキッとした俺。
そうだった。雄太以外にはADOの世界のことを伝えてなかったんだ。だって荒唐無稽すぎて信じて貰えないかもしれない。それに、むやみやたらと広めちゃダメなやつだから。
雄太も何か言いたげに俺とヴィルさんと佐久間さんを順に見つつ、口は開かない。
すると、ヴィルさんはにこやかに説明を始めた。
「プレイヤーの手で拠点を取り戻すような状態になっているんだ。魔大陸には誰一人生きている者はいないから。そして、魔力がとんでもなく高くないと精神が蝕まれて魔物化しちゃうような魔素があるからね」
「ああ……なるほど」
ブレイブとユイが納得したのか頷いている。
皆、ヴィデロさんが辛そうだったのを見てるし、現地の人もたまに壁向こうに行くらしいからそれで色々知ってるのかもしれないし。
「ところでヴィルさん。ADOについて少しだけ訊きたいんですけど、いいですか? もし外部には答えちゃいけないことでしたらスルーしてくださって結構です」
ブレイブがヴィルさんを見据えて口を開く。
ヴィルさんは相変わらず笑みを浮かべながらもちろん、と軽くうなずいた。
「ADOの世界って、何ですか。細部が細かすぎてオンラインゲームというには不自然なような気がします。主要なキャラの細部設定ならわかるんですが、あのNPCの感情、生い立ち、その他、一人ひとりまで全て事細かく設定してますよね。しかもNPCがずっと持ち場にいるわけじゃなくて、休日は私たちと同じように休むし遊ぶし出掛けるし。恋をするし、結婚もする。ADOって、何ですか」
ズバリ訊かれたヴィルさんは、真剣な顔をするブレイブに気圧されることもなく、「そうだね」と口を開いた。
「ヒントは、『俺とヴィデロは血を分けた本当の兄弟だ』ってことかな。おかしな話だろ。でも、この事実は本当のことで、嘘を吐いたことは一度もない」
「……それだけでADOは単なるゲームじゃないって公言してるようなものですよね」
「そうか? ADOにログインすれば、死んでもまた生き返るし、魔物を倒してドロップを売って装備を強化する、これは他のゲームとほぼ変わりないよな」
「そうですね。だからこそ不思議でならないんです。限界突破の神殿にしても、実装前に私達で行ったじゃないですか。その半数がNPCだったり、獣人の村にしても実装と言われる前にすでに交流があったりと、色々と矛盾することが沢山ありすぎて。本当に、ゲーム制作を手掛ける人があらゆる物事をプログラムしてゲームに組み込んでいるのか。実は最初からあった物を利用して、実装を装って私達プレイヤーが行っても大丈夫な状態に持って行ってるのではないか……これは、『白金の獅子』のメンバーも常々違和感を感じているところらしいです」
ブレイブの言葉に、ヴィルさんが一つ頷いた。
「貴重な情報だな。ありがとう。自力でその思考にたどり着くプレイヤーもいるんだな。興味深い。健吾はゲームだと思っていながら弟と心を通わせていたしな。人の心っていうのはなかなか面白いよな」
決定的な答えを返すことはなく、ただそう呟いて、ヴィルさんは口を閉じた。
佐久間さんは口を挟まないし、雄太も俺もどう言っていいかわからない状態。
ハッキリとした答えを貰えなかったブレイブは、それでも更に追究することはなく、ただまっすぐヴィルさんを見ていた。
その視線が痛かったのか、ヴィルさんは苦笑した。
「俺は運営に名は連ねていないけれど、言えることは一つだな。プレイヤーは楽しめってことだ。色々なことを楽しんでいるうちにグランデは衰退を免れるなんて、理想だろ」
「それは……そうですけど」
「ミサト、ゲームは楽しい、NPCは私たちとおんなじ、それでいいんじゃないかな。ゲームっぽくないならゲームだと思わなくてもいいんだよきっと。私、勇者も王女様もAIで動いてるなんて思えないもん。あと、騎士団の人たちも。すっごく優しいし面白いし、たまに気難しくて、なんかね、おんなじなんだよ私たちと。ゲーム、とか位置づけちゃうといざっていうときにあの人たちを軽く扱っちゃうかもしれないから。だから、おんなじ」
「ユイ……」
ユイの言葉に、ブレイブが「そうだね」と吐息と共に頷いた。
さっきから本気で思うけど、ユイって凄い。こういうところに雄太は惚れたのかな、なんてふと思う。
「まさに真理だな。高橋君、ユイ君は最高だな」
「っすね。でもやらないっすよ」
ヴィルさんの言葉にかなり本気をにじませて答える雄太に、ちょっと和む。
「というわけで、護衛の約束通り詳しいことを教えたけれど、ここまで深入りしたからにはこれからも協力を頼むと思うからよろしくな」
「まあ、時間の許す限り」
頷いた4人ににんまりと笑ったヴィルさんは、じゃあ、とユイに向きなおった。
「もう少し色々とやってみて、大丈夫だと思ったら今度は行ってもらうかもしれないから、その時はよろしく。もし魔大陸から戻ってこれなくなったら、同一アバター再構築を約束する」
「はい。えへへ、楽しみ」
嬉しそうに笑うユイを見ながら、俺は思わず「魔大陸が楽しみって、ほんとユイって大物……」と呟いていた。
増田、ユイ、ブレイブと駅付近で別れると、俺と雄太は二人で家路をたどる。
雄太に家に誘われて、少しだけ寄ることにした俺は、部屋に通されると、早速雄太に切り出された。
「あいつらに、あの世界のことを教えても大丈夫だったのか?」
「増田達なら大丈夫だと思う。ヴィルさん本人が言ったから、大丈夫なんじゃないかな。まあそんなに気軽に言えることじゃないけど」
「それなんだよな……つうか、ほんと事実は小説より奇なり、だよな。いまだに魔物が出てくるとゲームとして楽しんじまうもん」
「それでいいんじゃないのかなあ。俺にとっては生活基盤の半分はあっちに持って行きたいところだけど」
「もう、一緒に住んでるんだろ」
「うん。詰所から工房に引っ越してきた」
そっか、と雄太がポツリと呟く。
なんとなく俺を見る目が生暖かい気がするけど、気のせいかな。
「まだなんか色々複雑な話がありそうだけど、あれであいつらは気付いただろうから、俺の肩の荷も下りたぜ……」
「巻き込んでごめん」
「おもしれえから問題なし」
俺が頭を下げると、その頭のてっぺんを手の平でぺしっと叩いた雄太は、ニッと笑った。
俺もね、雄太に暴露したことで、大分肩の荷が下りた気がしたんだよ。一人で抱えるのにはかなり重い秘密を親友が知っててくれる、っていうただそれだけで全然俺の心情的にも違うんだよ。照れくさいから口には出さないけど。
その後雄太の家の夕食にお呼ばれしてワイワイとご飯を食べてから、帰宅した。
ログインすると、すでにヴィデロさんは帰ってきていた。
おかえりと抱き着くと、ヴィデロさんも俺におかえり、と抱き返してくれる。
「ご飯は食べた?」
「ああ。兄と一緒に。マックが作り置きしてくれている食べ物をあらかた食べていったな」
「じゃあまた作っておかないとね。ヴィデロさんが食べるものがなくなっちゃう。でも、ほんとは作りたてを食べて欲しいんだけどね」
「どっちも美味いから大丈夫。マックの負担になるのだけは勘弁な」
「負担じゃないよ。料理は趣味みたいなものだし」
俺が作った物が一番おいしいって言ってもらえるのが凄く嬉しいしね。
少しだけ調薬をするために部屋を移動すると、ヴィデロさんも一緒に移動してきて、その場で剣の手入れを始めた。
しばらく無言で作業する俺たち。でも、その空気に気まずい雰囲気は全くなくて。
こういうのが一緒に住むってことなのかな、なんて、安らぎを感じていたのだった。
こんな何気ない幸せを諦めるなんて、出来るわけないよね。ヴィデロさんも同じように感じていてくれるといいんだけど。
ちらりと見たヴィデロさんの表情は、穏やかに微笑んでいて、とてもかっこよかった。好き。
感想 555
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