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584、俺は未熟だから
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ぐっと拳を握った俺をちらりと見たヒイロさんは、はぁ、と溜め息を吐いた。
「そりゃマックが錬金釜使えるのは知ってるけど、そのレシピは門外不出でエルフの里にあるらしいし、万が一見せてもらえたとしても、マックの錬金術の腕でそれが出来るかどうかもわからねえ。でもって、異邦人だろ。まあ異邦人じゃなかったら錬金釜自体を持つことも無理だったってのがまた微妙なところなんだけどな。この世界を守る樹を手助けってかなり重要なんだよ。そしてそれはかなりの重責だし、精神的負担もデカいってのはわかるだろ。マックはまだ成人したばっかりだ。そんな若造に世界を背負わせるなんて鬼畜なこと、あの長老様が出来るわけねえ。自分たちがやらねえといけねえことを、異邦人にやらせて、しかも重責に潰れるかもしれねえ、なんてことは、絶対に出来ねえんだよ。わかったか」
ヒイロさんの言う一言一言が、地味に胸に刺さる。確かに、俺に何とかしてくれ、なんて頼りなさ過ぎて言えたもんじゃないよな。錬金術師のジョブレベルだってまだまだだし。謎素材を手に入れられるようになってから大分上がったけど。それでもメインで上げてる薬師レベルなんかよりは大分育ってない。
何より、潰れそうになるほどの重責を俺に背負わせられないって、長老様。
「でも……俺は異邦人だから、失敗しても今までと変わらないだけで、俺は自分の世界に逃げればいいだけとか言って手伝っちゃだめですかね」
「それが出来るんだったら、そもそもその釜を使い続けてられねえよ。俺だってわかる。マックはこの世界のために潰れるまで頑張るやつだって」
「そんな……だってここは、ヴィデロさんの世界だから、それは当たり前ですよね」
それだから余計に長老様はお前に頼まねえんだよ。とヒイロさんはもう一度溜め息を吐いた。
でも、と口を尖らす。
「そのレシピを知りたいだけ、っていうのはダメかな」
まだ俺の持ってるサラさんレシピですら網羅してないのに。エルフの里のレシピなんてそれこそ鬼難易度なのはわかるけど。
農園のレシピはエルフの里から流れて来たレシピだっていうから、そういった関係のレシピなんだとは思う。でも守護樹には葉っぱを貰っちゃったしエルフの里では色々お世話になったし、何かお礼代わりになるようなことをしたいんだけど。
どうにか出来ないかな。……ニコニコしながらその話にすら触れてくれない長老様しか想像できない。
きっと俺がもっと余裕があって技術もあってでんと構えてられる人だったら良かったんだろうけど……。自分が未熟なのは自覚してるから……。
俺もヒイロさんの横に並んで、はぁ、と溜め息を吐いた。
「どうした、マック殿。溜め息なんか吐いて」
いきなり話しかけられて、俺はハッと顔を上げた。
周りには俺たち以外いなかったはず。『リターンズ』も『トランス』も各個撃破に行っちゃったし。
と、目が合ったのは、エルフの里の守護者のロウさんだった。
「もしかして、エルフの里からの助っ人って、ロウさんでしたか?」
「ああ。よろしく頼む。マック殿とヴィデロ殿、そして獣人族の方々がいるのはとても心強いな」
「俺は戦闘は専門外だけどな」
「俺、魔法使うだけだから」
ヒイロさん、ヨシューさんが順に答えていく。ロウさんは獣人族たちの答えを聞いて苦笑した。
「では、僭越ながら、私も前衛として張り切るとしよう」
腰の剣を手にしながら、ロウさんは口角を上げた。
ヒイロさんの予想通り、魔物の樹は中央の山に向かって生息していた。
本体を攻撃しようとすると、地面の中を移動した根っこが後ろから攻撃してくるという技を使って、俺たちも何度もひやりとする。ヨシューさんはその都度威嚇しながら爪でひっかき、根っこの先端をキラキラさせている。充分物理攻撃だと思うのは俺だけかな。
タタンさんとガレンさんがまだ合流してないから、俺も少しだけでも、と戦闘に加わる。
短剣を構えて聖魔法を唱えて、インベントリから『感覚機能破壊薬センスブレイクドラッグ』を投げつけてみたり。魔物だからか、なかなかに効いて、しかも根っこが地面だから移動するわけじゃなくていい的だったりする。
ロウさんとヴィデロさんが連携で幹を切り倒すと、魔物はすぐにキラキラと消えていった。
「これが大量にいるっていうことか。ここまで守護樹が見逃してしまうというのも、おかしな話だ……」
ロウさんは眉間にしわを寄せながら、まだ遠くに見える魔物の樹を一瞥して、唸った。
「……もしや、大陸の力が、強くなっている……?」
微かに聞こえた呟きに、俺たちは全員が息を呑んだ。
大陸の力って言うと、魔王の力ってことだよな。エルフの人たちは、魔王がまだ倒されてないっていうの知ってるはず。長老様からしっかりとそんな感じの話を聞いたことあるから。
ロウさんの言う魔王の力が強くなったっていうことは、サラさんの抑え込む力が弱くなったってこと……?
もしかして、まだまだ時間だけはある、と思っていたけど、実はタイムリミットは近付いてたりするんじゃ……。そのこと、セイジさんは知ってるのかな。
勇者と、エミリさんは、もう気付いてるのかな。報告案件だ。
なんか、色々な問題がずるずると出てきたな。俺は、何をすればいいんだろう。とりあえず蘇生薬は作るとして。
「やっぱり今度エルフの里に乗り込んで行こう」
そう呟いた瞬間、ロウさんに「物騒だな」と苦笑された。
一時間ほど5人で魔物を倒していると、ようやくケインさんがタタンさんとガレンさんを連れて来た。
辺境の方から手伝いに来てくれた人たちに三人で色々と情報を伝授してたらしい。現場を実際に見た人じゃないと、正しく情報は伝わらないとかって。タタンさんとガレンさんは、辺境から来た『高橋と愉快な仲間たち』『白金の獅子』『ブルードルフィン』『獣同盟』に魔物の特徴と戦闘方法を教えて、ケインさんは幅広い魔物分布場所に点々と皆を置いてきたらしい。朝から一仕事お疲れ様。
ロウさんとガレンさんたちは旧知の仲らしく、顔を合わせた瞬間拳をぶつけ合っていた。
そこからの魔物駆逐は、今度こそ俺とヒイロさん、ヨシューさん、ケインさんの出番がなくなるほどに楽になった。
ヨシューさんはついでだからと魔物の場所を浄化して回ってるけど、ガレンさんが言うには、別に浄化しなくても魔物が消えれば嫌な臭いも一緒に霧散するとのこと。魔物自体に問題があるから、その土地自体は特に大丈夫だとか。
「だって暇になっちまったんだもん」
手をプラプラとさせながらついて来るヨシューさんは、そんなことを言っては適当に浄化の魔法をかけていた。自由だね。魔力なくならないのかな? 水分取る代わりにヒイロさんからマジックハイパーポーションを貰って飲んでるから大丈夫なのかな。贅沢すぎて笑える。
とはいえ、俺も確かに手持無沙汰になってきた。
俺の役目は、どれだけの範囲が正常に戻ったかを調べること。これはクエストを貰った俺たちプレイヤーしかできないから。っていうかレガロさんの仕事ほんとに凄すぎて何も言えない。このクエストもレガロさんが撒いたクエストの一つなんだよね。先見の魔術師の能力って底知れない。
「今39%になりました。この分だと、明日くらいで収束するかな」
魔物を倒さなくても徐々にパーセンテージが増えてるってことは、違う場所を進んでいるプレイヤーたちが頑張ってるってことだよね。
ホントならすべてをプレイヤーに任せた方がいいんじゃないかな、なんて思う。こっちはパーセンテージでどれだけ減ったかはわかるし。マップで魔物の位置も把握できるから。でも、一度乗りかかった船だ降りるなんて俺の矜持が許さねえ、なんてガレンさんが気合十分で、ロウさんもエルフ代表として状況の把握をしないといけないと言って、誰一人引かない。
さっき全員でヒイロさんのシックポーションを飲んでたのは、予防なのかな。予防なんだったらいいけど。特に顔色も変わりないヴィデロさんを見上げながら、ちょっとだけドキドキする。薬一つで治るとは言っても、お父さんが命を落とした病を体験なんて、俺がさせたくないのに。
帰ろうって言っても絶対聞かないんだろうな、と周りの人たちを見回してから、俺は半分諦めの気持ちで前を向いた。
「そりゃマックが錬金釜使えるのは知ってるけど、そのレシピは門外不出でエルフの里にあるらしいし、万が一見せてもらえたとしても、マックの錬金術の腕でそれが出来るかどうかもわからねえ。でもって、異邦人だろ。まあ異邦人じゃなかったら錬金釜自体を持つことも無理だったってのがまた微妙なところなんだけどな。この世界を守る樹を手助けってかなり重要なんだよ。そしてそれはかなりの重責だし、精神的負担もデカいってのはわかるだろ。マックはまだ成人したばっかりだ。そんな若造に世界を背負わせるなんて鬼畜なこと、あの長老様が出来るわけねえ。自分たちがやらねえといけねえことを、異邦人にやらせて、しかも重責に潰れるかもしれねえ、なんてことは、絶対に出来ねえんだよ。わかったか」
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何より、潰れそうになるほどの重責を俺に背負わせられないって、長老様。
「でも……俺は異邦人だから、失敗しても今までと変わらないだけで、俺は自分の世界に逃げればいいだけとか言って手伝っちゃだめですかね」
「それが出来るんだったら、そもそもその釜を使い続けてられねえよ。俺だってわかる。マックはこの世界のために潰れるまで頑張るやつだって」
「そんな……だってここは、ヴィデロさんの世界だから、それは当たり前ですよね」
それだから余計に長老様はお前に頼まねえんだよ。とヒイロさんはもう一度溜め息を吐いた。
でも、と口を尖らす。
「そのレシピを知りたいだけ、っていうのはダメかな」
まだ俺の持ってるサラさんレシピですら網羅してないのに。エルフの里のレシピなんてそれこそ鬼難易度なのはわかるけど。
農園のレシピはエルフの里から流れて来たレシピだっていうから、そういった関係のレシピなんだとは思う。でも守護樹には葉っぱを貰っちゃったしエルフの里では色々お世話になったし、何かお礼代わりになるようなことをしたいんだけど。
どうにか出来ないかな。……ニコニコしながらその話にすら触れてくれない長老様しか想像できない。
きっと俺がもっと余裕があって技術もあってでんと構えてられる人だったら良かったんだろうけど……。自分が未熟なのは自覚してるから……。
俺もヒイロさんの横に並んで、はぁ、と溜め息を吐いた。
「どうした、マック殿。溜め息なんか吐いて」
いきなり話しかけられて、俺はハッと顔を上げた。
周りには俺たち以外いなかったはず。『リターンズ』も『トランス』も各個撃破に行っちゃったし。
と、目が合ったのは、エルフの里の守護者のロウさんだった。
「もしかして、エルフの里からの助っ人って、ロウさんでしたか?」
「ああ。よろしく頼む。マック殿とヴィデロ殿、そして獣人族の方々がいるのはとても心強いな」
「俺は戦闘は専門外だけどな」
「俺、魔法使うだけだから」
ヒイロさん、ヨシューさんが順に答えていく。ロウさんは獣人族たちの答えを聞いて苦笑した。
「では、僭越ながら、私も前衛として張り切るとしよう」
腰の剣を手にしながら、ロウさんは口角を上げた。
ヒイロさんの予想通り、魔物の樹は中央の山に向かって生息していた。
本体を攻撃しようとすると、地面の中を移動した根っこが後ろから攻撃してくるという技を使って、俺たちも何度もひやりとする。ヨシューさんはその都度威嚇しながら爪でひっかき、根っこの先端をキラキラさせている。充分物理攻撃だと思うのは俺だけかな。
タタンさんとガレンさんがまだ合流してないから、俺も少しだけでも、と戦闘に加わる。
短剣を構えて聖魔法を唱えて、インベントリから『感覚機能破壊薬センスブレイクドラッグ』を投げつけてみたり。魔物だからか、なかなかに効いて、しかも根っこが地面だから移動するわけじゃなくていい的だったりする。
ロウさんとヴィデロさんが連携で幹を切り倒すと、魔物はすぐにキラキラと消えていった。
「これが大量にいるっていうことか。ここまで守護樹が見逃してしまうというのも、おかしな話だ……」
ロウさんは眉間にしわを寄せながら、まだ遠くに見える魔物の樹を一瞥して、唸った。
「……もしや、大陸の力が、強くなっている……?」
微かに聞こえた呟きに、俺たちは全員が息を呑んだ。
大陸の力って言うと、魔王の力ってことだよな。エルフの人たちは、魔王がまだ倒されてないっていうの知ってるはず。長老様からしっかりとそんな感じの話を聞いたことあるから。
ロウさんの言う魔王の力が強くなったっていうことは、サラさんの抑え込む力が弱くなったってこと……?
もしかして、まだまだ時間だけはある、と思っていたけど、実はタイムリミットは近付いてたりするんじゃ……。そのこと、セイジさんは知ってるのかな。
勇者と、エミリさんは、もう気付いてるのかな。報告案件だ。
なんか、色々な問題がずるずると出てきたな。俺は、何をすればいいんだろう。とりあえず蘇生薬は作るとして。
「やっぱり今度エルフの里に乗り込んで行こう」
そう呟いた瞬間、ロウさんに「物騒だな」と苦笑された。
一時間ほど5人で魔物を倒していると、ようやくケインさんがタタンさんとガレンさんを連れて来た。
辺境の方から手伝いに来てくれた人たちに三人で色々と情報を伝授してたらしい。現場を実際に見た人じゃないと、正しく情報は伝わらないとかって。タタンさんとガレンさんは、辺境から来た『高橋と愉快な仲間たち』『白金の獅子』『ブルードルフィン』『獣同盟』に魔物の特徴と戦闘方法を教えて、ケインさんは幅広い魔物分布場所に点々と皆を置いてきたらしい。朝から一仕事お疲れ様。
ロウさんとガレンさんたちは旧知の仲らしく、顔を合わせた瞬間拳をぶつけ合っていた。
そこからの魔物駆逐は、今度こそ俺とヒイロさん、ヨシューさん、ケインさんの出番がなくなるほどに楽になった。
ヨシューさんはついでだからと魔物の場所を浄化して回ってるけど、ガレンさんが言うには、別に浄化しなくても魔物が消えれば嫌な臭いも一緒に霧散するとのこと。魔物自体に問題があるから、その土地自体は特に大丈夫だとか。
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魔物を倒さなくても徐々にパーセンテージが増えてるってことは、違う場所を進んでいるプレイヤーたちが頑張ってるってことだよね。
ホントならすべてをプレイヤーに任せた方がいいんじゃないかな、なんて思う。こっちはパーセンテージでどれだけ減ったかはわかるし。マップで魔物の位置も把握できるから。でも、一度乗りかかった船だ降りるなんて俺の矜持が許さねえ、なんてガレンさんが気合十分で、ロウさんもエルフ代表として状況の把握をしないといけないと言って、誰一人引かない。
さっき全員でヒイロさんのシックポーションを飲んでたのは、予防なのかな。予防なんだったらいいけど。特に顔色も変わりないヴィデロさんを見上げながら、ちょっとだけドキドキする。薬一つで治るとは言っても、お父さんが命を落とした病を体験なんて、俺がさせたくないのに。
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