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596、うさ耳採掘
何度か錬金を繰り返して、『真黒宝石』を5個ほど作った時点で、空き瓶の数に呆れたヴィデロさんに無理しすぎ、とストップを掛けられてしまった。
この短時間で錬金術師レベルも錬金スキルレベルも数レベル上がっている。やっぱり初めての物を作るときが一番経験値高いんだなあ、なんて思いながら錬金釜をしまった。
『真秘黒宝石』はまたチャレンジしよう。全然『真秘黒宝石』は作れなかったから。っていうかここまで引っ張っといて実は『真秘黒宝石』だけはこの流れじゃないんだよ、とかいうオチだったらすごく嫌だ。レベルが上がるのは嬉しいけどね。
テーブルの上を片付けた俺は、同じく本を片付けたヴィデロさんと共に錬金の部屋を出た。
この後、ヴィデロさんと鉱石関係の素材採取を一緒にする予定なんだ。とはいえ、鉱石素材がどこにあるのかさっぱりわからないけど。
それを言ったら、ヴィデロさんが「長光に訊けばいいんじゃないのか?」という助言をくれたので、装備付加可能石をお土産に聞いてみようと思う。
ちなみに、長光さんからは定期的にアイテムが送られて来て、それをもとに作った錬金アイテムを送り返す仲になっている。前に約束したからね。そのせいか、ヴィデロさんの鎧のメンテナンスは最重要項目に入れてくれてる。今の所そこまで鎧を着込むことがないから、メンテナンスには出してないけどね。
というわけで、善は急げ、とばかりに俺たちは辺境に跳んだ。
ヴィデロさんがヴィルさんからの贈り物ローブをご所望だったので、鉱石が手に入る場所に行ったら、と約束している。きっとそんなに人はいないだろうし。
事前に連絡を入れていたので、長光さんの工房に行ったら、すでに本人が待っていてくれた。
「よ、顔を見るのは大分久しぶりだな」
「ほんとに。忙しいっていうのは海里から聞いてました」
「海里ちゃんの鎧、この間納品したぜ。なかなかに骨が折れる注文でな。楽しかった。たまにそういう難問吹っかけてくるやつがいるけど、燃えるよな」
ニヤリと笑う長光さんは、前と変わりなく職人だった。
今日はヴィデロさんも長光さん作の鎧を着てきて、めちゃくちゃかっこいい。鉱石を取る場所に行くなら、魔物は硬いのが多いから装備はしっかりと、という助言を長光さんから貰ってたから、今日のヴィデロさんはシャープなパールグリーン。翻る黒いマントがほんとかっこいい。最高。これが俺の色だっていうから、前後不覚に陥るよね。
「んじゃ、行くか」
「って、え? 場所を教えてくれるんじゃなくて一緒に行く気満々だった……?」
長光さんが手を差し出したのを見て、呆然とした俺。
そんな俺を見て、憮然とする長光さん。
「一緒に行くのはNGか? まあデートだろうから俺はお邪魔なのかもしれねえけどな。マックが採掘の上位スキル持ってるならそれでもいいが……採掘系の上位スキルがねえと、まともな物掘れねえよ」
「あ、いえ、あの、そういうわけじゃなくて、一緒に行ってくれるのはすごくありがたいんだけど……じゃあ、俺がどんな装備してても、見て見ぬふりをしてくださいね……」
ヴィデロさんとの約束はたがえられない。でも、あのうさ耳を長光さんに見られるかと思うと、汚点が増えていく気がしてならない。
俺の言葉に、ヴィデロさんが手で自分の顔を覆う。それは呆れてるのかな。笑ってるのかな。
「装備?」
首を傾げる長光さんに、俺はもうどうにでもなれ、とローブをお披露目した。
ピコン、と耳が立つ。それが自分でもわかって、溜め息が出そうになる。
絶対この耳、何かと連動してる気がする。
「お、うさ耳。なかなかいい毛皮使ってるな。ちょっと鑑定してみてもいいか?」
長光さんに聞かれて頷くと、鑑定したらしい長光さんは目を剥いた。
「こ、これは……!」
長光さんは言葉を詰まらせて俺のローブをガン見した。
そして、徐に震える手を伸ばした。
そっと肩付近を触れて、更に目を見開く。
「これ……! 幻の毛皮じゃねえか! 知る人ぞ知る、『スノウイーターラビットの上毛皮』じゃ……!」
「え、そこまで驚く毛皮だったの……!?」
予想外の長光さんの驚きに、俺の方が驚きを禁じ得なかった。
確かに、エミリさんはそんなことを言ってたけど、エミリさんもヴィルさんもさらっと出してきたから、この毛皮の世間の価値っていう物をかなりスルーしてたよ。ヴィデロさんは知ってたのかな。ちらりとヴィデロさんを見ると、特に長光さんの反応に驚いているわけじゃないらしかった。ってことは、知っててヴィルさんから受け取ったってことか。ヴィルさんもきっと、この毛皮の価値をヴィデロさんが知ってるのをわかっててさらっとプレゼントしたんだろうなあ。何だろうこの兄弟。仲良すぎだろ。
「すごいなんて物じゃねえよ。その毛皮をドロップする『スノウイーターラビット』ってのはな、出てくる場所は決まってるんだが、本当に運がよくないとエンカウントなんて絶対にしない代物で、もし見かけたとしても、気配に聡いからすぐに逃げちまうんだよ。その足の速さも一級品でな、あらゆる知識と罠と運と腕を駆使して何日も張らないと絶対に倒せないっていうとんでもない魔物だ。それの毛皮の価値、考えただけですげえだろ。しかも最高級で触れたら二度と放したくなくなるほどの手触りとその光沢。それがなあ……多分なんかしらの加工がなされてるんだろうが、ぱっと見じゃそこまですげえ毛皮に見えねえのが逆にすげえな……」
「それはきっと、俺が着てるから安っぽく見えるだけであって……」
こんな俺が着てる物がそんな上等な物なんて、誰も想像しないだろうしね。うさ耳だし。
ため息とともに、視界に兎の耳が見える。耳もがっくりして垂れてたりして。
「そんなことない。これを身に付けたマックは世界一可愛い」
「そうだな。似合ってる」
二人はそんなことを言ってうんうん頷いてるけど、うさ耳が似合ってるって言われてもちょっと複雑。俺、成人男子なんだけど。今度アバターをムッキムキにしてこれを装備して見せようかな。間違っても似合ってるなんて言えないから。あ、でもヴィデロさんが着たらそれはそれで絶対に可愛いと思うけど。ヴィルさん、サイズを俺用にしちゃったんだよなあ。
気を取り直して、ヴィデロさんとうさ耳俺と長光さんは、採掘場所に移動することにした。
長光さんに触れて、長光さんの転移魔法陣で移動。
出た先は、どこかわからない山道だった。横穴があって、その中で採掘できるんだという。他の人は来れない穴場なんだって。どうやってそんな場所見つけたんだろう。
「ああ、この中央山脈の下の採掘場所巡ってたら、崖の上に出っ張りがある気がしたから、そこにちょいと転移かましてな。そしたらここに来る道を見つけたんだ。かなり上の方で、しかも崖がつるっつるの岩場だから特殊スキルがない場合ここに来れないと思うぜ。今の所誰かとすれ違ったことはねえな」
なるほど。転移魔法陣をそんな風に使うことも出来るんだ。でも飛翔とかあれば来れると。確かに特殊スキル必要だな。
納得しながら洞窟を進む。たまに壁に生えている草は、立派な素材だった。
それを採取すると、長光さんが苦笑した。
「それ、素材だったのか」
「はい。これ、採取スキル高くないと認識できないやつです」
「単なるオブジェだと思ってたよ」
俺は採取スキルの方は最低限だからな、と言いながら、長光さんが懐からつるはしを取り出す。そして、何もない壁にカツンと打ち付けた。
コロン、コロンと何かが落ちていく。
それを拾って、長光さんは俺に差し出してくれた。
「こんな風に、鉱石類が手に入るんだ。採掘の上位スキルである発掘スキルがねえとここいら一帯はほぼ素材なしにしか見えねえはずだ」
「確かに、単なる石壁にしか見えないな」
ヴィデロさんも、近くの壁をコンコンと叩いてみている。壁にしか見えないし、採取場所がわからない。
俺一人でここに来ても、何一つできないってことか。なるほど。
「しかもここは聖域の中らしく、ほぼ魔物は出てこねえ。出てくるとしたら、全てボスレベルだな。この間久し振りに死に戻ってがっくりしたぜ」
「長光さんが死に戻るほどの魔物って……」
「今日は出て来るかもなあ。そいつが身体の中に結構なお宝を貯め込んでてな、倒すとドロップ品が極上品ばっかりなんだ。聖域に生息してるくらいの魔物だしな」
「うわあ……でも来なくていいかも。ドロップ品よりも鉱石が目当てだし」
ポツリと呟くと、長光さんとヴィデロさんの笑い声が洞窟に響いた。
その時は俺に任せろ、といい笑顔を見せてくれるヴィデロさんの騎士っぷりが最高。好き。鎧が眩しい。カッコいい!
しばらくは順調に鉱石をゲットしていった。今日出た物は、長光さんがあとで好きなだけ選んでいいって言ってくれたので、俺はもっぱら応援部隊と、周りに時々ある素材採取組。ヴィデロさんは周り警戒部隊。でも魔物は出ない。
「散歩してるみたいだな」って伸びをするヴィデロさんも可愛い。
隅に群生していた花をしゃがみ込んで採取していると、何かが奥から聞こえた。うさ耳が、『コツン』っていう遠くで石が転がる音を拾った。耳がピクッと動いて、そっちに全神経を集中させられる。顔を上げて、音がした方に向くと、俺の動きに気付いたヴィデロさんもそっちに視線を向けた。
そのまま感知を使うと、何かが奥で引っかかる。長光さんはまだ気付いてないらしく、壁をつるはしで掘っていた。
立ち上がって一歩奥に足を向けると、ヴィデロさんが「長光」と声を掛けた。警戒している声音だった。何か、奥にいる。
長光さんの言うボスクラスのお出ましかな。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。