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608、長老様に納品
一つ一つ丁寧に素材を投入していく。まだ液体はサラサラしている。
さっきのから考えると、かなり粘度が低いせいか、抵抗はほぼない。
何が出来るんだろ。貰ったレシピは素材と作り方が書かれているだけで、完成図は載ってないから、楽しみすぎる。
俺を支えるようにして一緒に棒を握ってくれるヴィデロさんの腕があるから、すごく安心して錬金が出来る。一応MPが切れそうなとき用にマジックハイポーションも用意してあるし、俺が一声かけたらヴィデロさんがちゃんと掛けてくれることになっている。もちろん、掻き混ぜてる間はヴィデロさんもMPが減ってくから、くらくらしてきたらヴィデロさんもしっかりと魔力回復してもらって。
液体の色がだんだんと変化していくのも楽しみながら、また一つ素材を投入する。ヴィルさんから貰ったとても希少なアイテムが、謎液体に消えていき、液体の色がサッと青くなる。
残りは二つ。どこかのプレイヤーが納品してくれた錬金素材と、『真秘黒宝石』。
「軽いな」
「うん」
問題なく混ぜられることに、ヴィデロさんは戸惑ってるみたいだった。いつも手伝って貰うときはすっごく腕力使うときだからね。
でも固形にならない場合はそこまで重くはなかったりするんだよ。ってことは、これは液体かな。
目を凝らしながら、納品謎素材を投入すると、ようやくぐいっとした手ごたえを感じた。でもヴィデロさんがいるから、『真秘黒宝石』を作った時みたいな抵抗は本当に感じない。
素材が溶けてさらに色が濃くなったのを確認すると、俺は最後の素材を投入した。
段々と抵抗が増した液体が、素材が溶けていくにしたがって真っ黒に近い色に変化していく。
最後まで素材が溶け切った瞬間、ドロドロだった液体が、サラッとした手ごたえになり、キラキラと小さな光を発した。出来上がり、かな。
手を止めて、棒を取り出して、釜を覗き込む。
「出来たのか?」
「うん」
「綺麗だな……」
「うん」
中には、『真秘黒宝石』をそのまま液体にしたような、漆黒と言っていい色合いの中にやっぱり言葉で言い表せないような光がキラキラと輝いている液体が入っていた。なんていうか、液体が神秘的。
これは普通の瓶に入れるのはもったいない気がする。
レガロさんの所から買ったすごく綺麗な瓶に入れてみよう。
早速釜の中身を掬って瓶に詰め込んでいく。釜の中身を全て瓶に詰め込むと、瓶5本分出来上がった。
『闇月の雫:闇の中で使うことによって魔力を高めることが出来る雫 作用範囲(大) 運上昇補正による特殊効果あり 効果(不確定)』
鑑定眼で見てみると、なんかよくわからない内容だった。でも凄いのだけはわかる。そして、絶対に特殊効果っていうのはヴィデロさんの力によるものだと思う。
これを一本長老様に渡すと、更なるクエストが貰えて、あの守護樹ももっと力が付くってこと、でいいのかな。
「これ、長老様に一本渡さないとなんだけど」
さっきの続き、という思いでヴィデロさんを振り返ると、ヴィデロさんは目を細めてほれぼれするような優しい目をしながら、「じゃあ、行くか」と俺ごと立ち上がった。
続きはお預けかあ、とちょっとだけがっくりしながら、ヴィデロさんに抱っこされたまま、俺は魔法陣を描いた。
ヴィデロさんに抱っこされたまま現れた俺を、長老様はくすくす笑いながら迎えてくれた。
「仲の良いことは、とても素敵なことね。いらっしゃい」
「こんばんは」
ヴィデロさんに下ろしてもらって頭を下げると、長老様は早速目の前に座るよう促してきた。
すぐにいつものエルフさんがお菓子とお茶を出してくれる。今日のお菓子は、すごく綺麗な寒天が、スポンジの上に載ってるものだった。その寒天はオレンジから白に変わっていくグラデーションがとても綺麗な物で、中に散りばめられた金粉のようなものが華やかだった。美味しそう。
「前にヴィルフレッドさんに言われて、どうやら独自のお菓子を追求し始めたのよ。よければ感想を伝えてあげて」
ニコニコとそう言われて、俺は早速いただきます、とお菓子に手を伸ばした。
スポンジは食べてみるとカステラのような甘めのもので、上に載った寒天が甘さ控えめでとてもマッチしている。小さく添えられた花は、塩漬けっぽい味がしていて、より甘さを引き立てている。美味しい。
「滅茶苦茶美味しいです。レシピ欲しいくらい」
「あら。よかったわ」
長老様は俺がそう言うと、手をパンパンと叩いた。
スッとエルフさんが入って来て、長老様の斜め後ろに膝をつく。
そして、深々と頭を下げた。
「お褒め頂き、ありがとうございます」
そして、スッと俺の前に紙の束を差し出した。
「よければお持ちください。マック殿だったら、きっと私以上の物が作れるかと思います」
「この子ねえ、マック君のタルトの信奉者なのよ。また、お菓子を作ってくれないかしら。レシピの対価はそれでいいわよね」
「もちろんです」
勢い込んで頷くエルフさんの手からレシピを受け取って中を見てみると、今まで作ったらしい和洋折衷的お菓子のレシピが書かれていた。うわあ、凄い。作ってみたい。
代わりのお菓子って今はないんだけど。
俺は顔を上げると、エルフさんと視線を合わせた。
「今度とっておきのお菓子を作ってきます。今は……お菓子ではないんですけど、じゃあ、デザートをいかがですか」
まだインベントリには新鮮ペスカパフェが入っていたので、それを長老様とエルフさんとヴィデロさんに差し出す。ヴィデロさんが「俺にまで?」と苦笑してたけど、こういうのは皆で食べるのがいいんだよ、と自分の分も出す。いくらでも食べれる美味しさなんだよ。
長老様もエルフさんも、興味津々でパフェに手を伸ばした。
ペスカパフェは大好評だった。お礼にエルフの里でよく使われる果実を貰ってしまったくらい好評だった。貰った実は『ウーヴァの実』と言って、皮ごと食べられるブドウみたいな物だった。甘い中にちょっとだけ酸味が入っていて、すごく美味しい。エルフさんは、これも凍らせて食べたら美味しいかもしれない、と真剣に考えていた。ついでに、ペスカについて訊かれたけれど、まだ売り出されていないというと、今度トレアムさんの所にエルフを派遣しようかと呟いていて、よほどペスカが気に入ったようだった。美味しいからね。
皆が甘味を堪能したところで、ようやく本題に入ることが出来た。
空は既に黒く、部屋の中の明かりが柔らかい光を発している。
俺は長老様に、さっき出来上がった物を一瓶差し出した。
「前に頂いたレシピを作ってみたら、こんなものが出来上がりました。なので、一瓶お渡しします」
「御丁寧にありがとう。素晴らしい物が出来たみたいね」
長老様が瓶に手を添えた瞬間、ピロンピロン、と立て続けに通知音が鳴った。
「よく出来ているわ。私も、これを見たのは何百年も前よ。きっとサラは作れる腕を持っているのでしょうけれど、あの子にはこれは作り得なかったわ」
「サラさんでも作れないんですか」
「ええ。マック君にはヴィデロ君がいる。サラにも好いた人がいるけれど、サラもそのお相手も2人そろって足りない物があったの。そのせいで魔王討伐メンバーに選ばれてしまったのでしょうけれど」
「足りない物って……」
「自身の運命を勝ち取る運、とでも言うのかしら。この神の欠片には、そんな要素もとても大事になるのよ。……それが少しだけ足りないがゆえに、あの子達は過酷な運命に巻き込まれてしまったのね……。魔王の元に向かった4人は、少なからずそういうちょっとだけ足りないところがあったの。でも、それは、私達にもあの子達にもどうすることもできなかった……」
長老様は口を閉じると、視線を外に向けた。まるで、サラさんの身を案じるかのように、西の方を静かに見つめる。
「若い子が命を懸ける世界なんて、本当に間違っていると思うわ。若い子のこの先を潰して生きながらえることが、どれほど傲慢なことか……」
それでも、と長老様は瞼を閉じた。
「あの子たちがいなかったら、私たちは闇に覆われていた。そして、ヴィデロ君、あなたがいなかったら……」
長老様のため息は、なぜか、すべての事情を知っているがゆえに出てくるため息のような深さがあった。
キーはアリッサさんで、もしヴィデロさんがお腹にいなかったら、すぐにアリッサさんは俺たちの世界に戻ってしまって、もうここに来ることもなく生きていて、ヴィデロさんも生まれることがなくて、そして、この世界は。
そんなもしも話のことを考えていると、長老様がヴィデロさんに視線を合わせて微笑んだ。
「辛気臭くなってしまってごめんなさいね。早速、マック君とヴィデロ君が作ってくれたものを使ってみましょう。丁度夜ですし」
長老様はさっきまでの憂い顔を綺麗さっぱり消し去って、屈託ない笑顔を見せた。
そして、手をパンパンと叩く。
今度は、さっきまでのエルフさんじゃなくて、外からロウさんが「呼びましたか」と現れた。
「ロウ、これを、あの子の周りに撒いてくれないかしら」
「わかりました」
長老様は『闇月の雫』の使い方を知ってるみたいだった。躊躇いなくロウさんにそう指示すると、ロウさんは一度部屋へ上がって、俺たちに挨拶してから、長老様から瓶を預かって、反対側に出ていった。そして、言われた通り守護樹の周りに『闇月の雫』を撒いていく。
すると、地面がキラキラと光りはじめて、守護樹がそのキラキラに包まれた。
風もないのに、木がわさわさと揺れる。揺れる度に包まれた光が撒き散らされて、それはそれは幻想的な光景が目の前に広がっていた。
「まあ……」
長老様が声を上げる。
揺れる度に、枝が広がり、葉が茂り、幹が膨らんでいく。
それはまるで、樹の成長を超スピードで早送りしている映像みたいだった。
それまでもかなり大きくて太い幹を持っていた守護樹が、更に大きく成長していった。
細胞活性剤でも使ったみたいだ。
「特殊効果って……この子には器の成長が当てはまるのね」
長老様が嬉しそうに口元を押さえる。そして静かに目を閉じた。
しばらく俺たちも守護樹の様子を堪能していると、長老様がゆっくりと目を開いた。
「もう、立派な一人前ね」
長老様の呟きに、守護樹がひときわ大きく揺れた。そして、はらはらと部屋の中に葉っぱが降り注いでいく。
コロン、と俺の手の中に、木の枝が落ちてきた。
「あの子が、ありがとうって。この葉はあなたたちのものよ。その枝も。持っているとそれだけで加護が付くから、2人で分け合って持っているといいわ。それとね、お二人に図々しくも更なるお願いがあるのだけれど、いいかしら」
長老様はそう言うと、俺の手の中にある枝を見つめて、目を細めた。
『錬金しよう
エルフの里で手に入れた秘蔵のレシピを錬金しよう
出来上がった物を一つエルフの長老に納品すること
クリア報酬:更なるクエスト レシピ 守護樹の落ち葉
【クエストクリア】
クリアランク:S
クリア報酬:更なるクエスト レシピ 守護樹の落ち葉 守護樹の守り木』
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。