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623、俺たちの貯金額
ソファの情報は、ヴィルさんによってもたらされた。
最高の家具職人がオットにいるらしい。
これは行かないといけない。値段は普通に売っている家具の何十倍っていう感じらしいけど、でも、一度その最高と言われる家具を見てみたい。
俺は早速ヴィデロさんを伴って、冒険者ギルドに向かった。
俺が預けているお金の残金を確認するために。
手持ちのガルは素材を買ったりして大分減ってるけど、クラッシュに物を売れば生活には困らないくらい入ってくるから。
勇者からのお金も、今はギルドに送金してもらってるから、多分結構まとまったお金にはなってるはず。
預かったお金の管理をしている部屋に通されて、俺はヴィデロさんと二人で椅子に座った。先にヴィデロさんが呼ばれて、貯金額が示された紙が渡される。その下には色々書く欄があって、大きい金額の場合、そこにちゃんと書いて申請しないといけないんだ。
ヴィデロさんは、俺が食費を入れるのを断ったせいか、生活のお金がほんの少ししかかからないらしく、貯金は貯まりまくっていたらしい。ヴィデロさん遊ぶってことしなさそうだもんなあ。
貯金額を見せてもらったけど、凄かった。工房を改築した時にかかった金額以上の貯金があった。しかも最近は騎士団の給料も上がったらしく、更に使う機会がないからたまる一方だとか。これだけあれば、たとえ二人で職なしになってもしばらくは生活できるだろ、とヴィデロさんがはにかむ。可愛い。
「特に貯める気はなかったんだけど、マックに生活費を入れるのを断られるし、使い道がなくてな。何か贈ろうと思っても、探しに行く時間もあまりないから」
なんて肩を竦めるヴィデロさん、カッコ良すぎか。好き。
「俺だってヴィデロさんに色々沢山プレゼントしたいのに」
白い鎧を買ってあげるという野望すら、まだ叶っていない。二つの鎧くらいじゃ足りないよね、戦士としては。どんな鎧もきっと似合うよヴィデロさんは。あ、なんか鎧を集める雄太の気持ちがわかってきた気がする。ヴィデロさんを飾りたい。俺が買った物で身を固めて欲しい気がする。っていうか単純にかっこいいからかっこいい鎧のヴィデロさんを見ていたい。
俺が口を尖らせてそう呟くと、ヴィデロさんは苦笑した。
次いで俺が呼ばれて、同じような申請書を貰った。
「え……」
貰った紙を見て、俺は絶句した。
ええと、一、二、三、四……九桁。
ヴィデロさんよりさらに高い金額の貯金に、俺の思考は停止した。
待って。前に大々的に工房を改築した時、ほぼ空になるくらい使ったよね。
「桁……間違えてませんか?」
思わずその紙を渡してくれた職員さんにそう訊くと、職員さんはいいえと真顔で否定した。
個室なので、周りには誰もいない。大きな金額が動くときは、こうして個室で手続きをすることになっている。
だからこそ堂々と貯金金額を二人で見てられるんだけど。
「内訳は、『石の宴に獣は咆える』の売上、及び、ディエテ辺境街アルフォード様からの送金、ノヴェ街エアイン様からの送金、セィ王宮アンドルース様からの送金、そこから依頼料を差し引いた内容になっております。ご確認お願いいたします」
「宰相さん……?」
何で宰相さんから送金されてくるんだろう、と首を傾げていると、ヴィデロさんが俺の横に立って、「多分母だ」と耳打ちした。
あ、そうか、アリッサさん本人の名義じゃ送金できないから。
と納得しかけて、ストップがかかる。
まだ俺、アリッサさんを連れ出してないんだけど。何で何もしてないのに送金されてるんだ? 内訳を見ると、定期的にまとまったお金が振り込まれてるし。なんでだ。
首を捻っていると、ヴィデロさんが「今度ゆっくり理由を聞いてみよう。うちに招待して」ととても素敵な提案をしてくれた。そうしよう。おもてなししよう。
結局俺たちの総資産額は、かなりの物になっていた。
これで言える。
ソファを買うときに。お金に糸目はつけません、って。
最高のソファを買おう。
ヴィデロさんの貯金はそのままに、俺の貯金だけある程度まとめて下ろすと、今度こそ俺たちはオットに向かった。もちろん、ギルドの魔法陣で、ではない。登録してないからね。それっぽく見える様に、魔法陣の近くで自分が魔法陣を描いて、オットのギルドのすぐ近くに跳んだんだよね。しっかりオットの転移魔法陣を登録してきたよ。
二人で並んで街を歩く。
周りには強そうな鎧を着たプレイヤーが沢山街を行き交っている。メインストリートだからね。
家具屋さんはこのメインストリートの裏路地に位置するらしい。大雑把に教えてもらった位置情報じゃ、全くわからない。
「こういう時は誰かに訊いてみるのが一番だな」
そう言うと、ヴィデロさんは早速通りにある果物屋さんに声を掛けた。
「すまない、このメイレの実をひと籠くれないか? とても美味しそうだ」
「毎度アリ。これなあ、隣の街の農園で作ってるやつだから、最高に美味いぜ」
籠に載っていた5個のメイレの実を網に詰め込みながら、果物屋のおじさんが笑顔を見せる。トレアムさんが作ってるなら美味しいに決まってるよね。
ヴィデロさんはおじさんにお金を払うと、そういえば、と続けた。
「ここらへんで最高級の家具を作る職人がいるって聞いたんだけど、知ってるか?」
「家具? ああ。そこの道を入ってった所から行くことはできるけど、何か理由がねえと作らねえっていう偏屈が店主だぜ。作ってもらえるかはわからねえぜ?」
「俺たち、新婚なんだ。だから、最高の家具で部屋を飾りたくて。ダメもとで行ってみる」
ヴィデロさんが囁くと、おじさんはヴィデロさんを見て、俺を見て、ニヤリと笑った。
「成程なあ。それならあいつも作るかもしれねえな。おめでとさん。あいつな、すげえ厳つい顔して口も悪いけどよ、実はセッテの農園で作られる果実酒に目がねえんだ。それを持ってきゃ多少は融通してもらえるかもしれねえぜ」
「成程。情報ありがとう。偶然果実酒なら持ってるんだ。最愛がとても好きな酒だから。そっちのリモーネの実も貰えるか?」
「毎度アリ。いいねえ最愛ときたか。幸せそうで何よりだな。作ってもらえることを祈ってるぜ」
「ありがとう」
ヴィデロさんはメイレの実とリモーネの実を手に、にこやかに俺の背を押して、店を後にした。鮮やか。
おじさんはニヤリ顔で俺たちに祝福を送ってくれているので、俺も手を振っておく。いい人だった。
そのままおじさんに教えてもらった路地に入ると、ヴィデロさんは手に持っていた果物を、「ほらマック、プレゼント」と俺に差し出した。
嬉しい。
「嬉しいから今度リモーネタルトとメイレパイ作るね」
「楽しみにしてる」
プレゼントしたはずなのに俺の方が嬉しくなるな、なんてヴィデロさんはニコニコと俺の手を取った。
そのまま手を繋いで進んでいく。
レンガの壁の細道を通り抜けると、職人街のような通りに出た。ここの通りにあるみたいだ。メインストリートの店構えとはまた違った雰囲気の通りを進んだ俺たちは、しばらく歩いて、それっぽい店を見つけた。とはいえ、「家具」と書かれた看板が一つぶら下がっているだけの、何の飾りもない建物だった。特に何かを展示しているわけでもなく、普通の家の玄関みたいな感じのドアが看板の下についているだけ。
「ここか?」
「うん……」
全然店っぽくないけど。
躊躇いつつも、2人でドアをノックした。
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