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633、ソファー発注したよ
隠密は、羊鳥を探す間にレベルが2も上がった。
そして、だいぶ素材も集まった。
「問題は、これをどこに持って行けば作ってもらえるかだよね」
「だな。形は決めてるのか?」
「この間『ロウラー』で気に入った形がいいなって思ったんだけど」
「あの、長くて背もたれがゆったりしているやつか」
「あれだったら二人で並んでもゆったりできるかなって。弾力とかもこれだ! って感じだったし」
「だとしたら、作った場所に行った方がいいんだけど……断られたからな。どうしようか」
「なんで持ち込みダメなんだろうね」
「……多分、素材を客が持ち込んで作ってもらったとしても、それをひっくり返そうとする客がいるからじゃないか、と思う」
なんでも、ヴィデロさんが小さいころそういう話でもめたことがあるんだって。家具屋が来ている時に断れない間柄の伯爵夫人が顔を出し、アリッサさんが注文していた家具を「気に入った」の一言で譲り受けようとしていたとか。貴族相手だと爵位がすごくめんどくさいらしくて、自分たちより上の位の人には簡単には「ダメです」って言えないんだって。
でもその家具は実は体調の思わしくなかったヴィデロさんのお父さんのためにアリッサさんが特注で作ったベッドで、譲るとなると次いつ納品されるかわからない素材を使った品物だったんだそうだ。しかもアリッサさんが作った魔道具を組み込んだものだったから特注中の特注。タイミング悪く、納品時を見られてしまったらしい。うん、貴族ヤバい。
結局は宰相さんまで巻き込んで問題になり、そのベッドはアリッサさんの元に返って来たらしいけど、貴族相手だと、そういうことも想定されるからと、持ち込みはダメになったんじゃないかってヴィデロさんは言っていた。
「なるほど……この上なく納得する」
「俺たちが集めたこの素材も、すぐ欲しいという貴族がいたら、金品と交換で持って行かれるかもしれないんだ。ちょっと腹立つだろ。俺も爵位はないし、マックの場合も貴族ってわけじゃないから、立場的には下に見られる」
「確かに腹立つ。じゃあどうしよう……あのヴィルさんが紹介してくれた家具屋って、この間怒鳴ってた人だけが職人ってわけじゃないよね」
「職人と言うと一つの工房に何人もいたりするが……あそこにするのか?」
「あの人はちょっと、って思うけど、他に工房知らないんだよ。もう一度ヴィルさんに訊いてみる?」
「うーん……」
二人で頭を悩ませながら、森を歩く。
木工関係とかそういうスキルはないから自分では作れないしな。クラッシュは知ってるかな。
でも雑貨屋だからちょっと畑違いかな。
「……じゃあもう一度オットの街の工房に行ってみるか」
ヴィデロさんが考えた末、そう提案した。俺としてはまた違う場所を探してもいいんだけど。家具を作る職人ってどれくらいいるんだろう。
さすがに考え込みながら魔物と戦うのは危ないので、俺とヴィデロさんは近場の街、オットに跳んだ。
食堂でお昼ご飯を食べながら、俺はヴィデロさんに断って、ちょっとだけ掲示板を開いた。
『ADOお薦め拠点とお薦め家具!』っていう掲示板を開いてみてみると、家具屋は各街に一つはあるらしい。でも街ごとに使われる素材は違っていたり、やっぱり辺境の職人さんの方が腕がいいらしく、価値が高い物が多いとかそんなことが書き込まれていた。その中には『ロウラー』も入っていて、ユキヒラみたいに王宮に行くのが普通のような活動をしているプレイヤーがお薦めしていた。
そして、あの店の名前も入ってないオットの家具屋もしっかりと紹介されていて。
「あ……この家具……」
ヴィデロさんには見えないのに、思わず呟いてしまった。
だって、『ロウラー』では貴族風にゴージャスな装いだったあのソファーが、青めの布で覆われていてとてもシンプルな装いで載ってるんだもん。実際に大きさを見たわけじゃないからほんとに同じような物なのかはわからないけど、見る限り、だいぶ形状が似ていた。これで、座ってみた感じと触れた感じが良かったら完璧なんだけど、と思うような物が、紹介されていた。ヴィルさん、おそるべし。
「……理想のソファー、裏通りの家具屋にある、かも」
しかも紹介には『材料持ち込んで作って貰ったら安くなった!』とか書かれてたから、持ち込みオッケーっぽい。
「じゃあ、食べ終わったら行くか。そろそろ食わないと冷めるぞ」
ヴィデロさんに言われて、初めて料理が運ばれてたことに気付いた俺は、慌てて閉じるとスプーンに手を伸ばした。
二人でお腹いっぱいになるまで食べて、俺たちはまたしてもこの間の家具屋さんの前に来ていた。
ヴィデロさんがドアをノックすると、前とは違ってのんびりしたような声が「どうぞー」と中から聞こえて来た。
ドアを開けて中に入ると、そこには所狭しと家具類が並んでいた。どれもこれもシンプルで、でも飽きのこなそうなデザインの物ばかりだった。
「いらっしゃい。今すぐ売れる分はここに並んでる物、素材持ち込みしてくれれば時間はかかるけど、安くなるよ」
怒鳴っていた人とは違う人が、ゆったりとした口調で「好きに見てね」とにこやかに立っている。この人も職人さんなのかな。
お言葉に甘えて、俺とヴィデロさんはソファーが置いてある場所に向かった。素材はあるけど、いいのがあればそのまま買うのも手だしね。
でもそこには、掲示板で載せられていたソファーはなかった。
ないね、そうだな、と話していると、さっきの人が近付いてきた。
「どんな感じのが欲しいの? 受注もできるよ。時間かかるけどね。素材持ち込み大歓迎だしね。最近ちょっと素材の入りが悪いから、持ち込みじゃないとかなり待たせちゃうかも。あ、でももっと安価な物だったらすぐにでも作れるんだけどね。どう?」
その人は、どこから出したのか、いつの間にやら手にはボードとペンが握られていた。ボードにはしっかりと紙が貼りつけられていて、要望を書き留められるようにいくつかの項目が書かれていた。
ヴィデロさんと二人、あのソファーを思い出しながら、外見と大きさと長さと座り心地を説明していく。
「なるほど。前に僕が作ったソファーに似てるかも。座り心地は……と、そっちの緑色の物に座ってもらってくれる? そんな感じの硬さ」
指を指されたソファーに座ってみると、ちょっとだけ硬い気がした。その微妙な俺の表情を見たのか、お店の人はちょっと首を傾げた。
「納得いかないか。そうだね……もっとどうしたいか、だね。ちょっと弾力が足りないのかな?」
俺が何かを言う前に、何かをサラサラと書き込んでいく。
そして最後に、こんな感じでどうかな、と書き込んだ紙を見せてくれた。
形と色、そしてよくわからない数字と使われる素材。その数字っていうのは、硬さとかそういうのを表す専門的な数字らしい。
俺たちが具体的な理想を持っていることに気付いたこの人、理想のソファーがどこの店の物かを聞き出して、そこから使う素材を決めていった。そういうの把握しているっていうがもう専門的。この間の人は何だったんだろ。
「こんな感じ。お値段は……素材有無によって変わって来るかな。あと、使う木材の種類と、布の種類で全然違ってくるけど。『ロウラー』さんからお買い求めしようとしてたなら、レア素材を使っても大丈夫そうだね。希望はある?」
「『羊羽毛』を使いたい」
「『羊羽毛』か。専属で契約してくれてる護衛の人たちが来れるのが明後日だから……納品までひと月くらいかかるかもだけど大丈夫? お薦め木材は『モーガノ』か『ティーク』か……明るめがいいなら『ファッジョ』ってところかな。木材は在庫があるんだけどね、『羊羽毛』がちょっと品薄で」
「『羊羽毛』ならあるが、どれだけ必要なんだ? 木材は、特に指定はしないので、そちらで決めて欲しい」
「『羊羽毛』はね、40ほど必要なんだ。全てが『羊羽毛』ってわけじゃなくて、ある程度は硬さも必要だから他の素材も混ぜるからね」
「なら、ある。素材があればいつ頃出来上がる?」
「3日で行けるよ。僕が承るけどいい? 他の指定の職人っている?」
「いや、大丈夫だ。ぜひお願いしたい」
交渉はヴィデロさんが進んでしてくれて、とんとん拍子に発注が済んだ。
二人で集めた素材を渡して、値段を聞く。もっとかかると思ったら、そこまでは高くない料金だった。値段設定の大部分が、『羊羽毛』の値段になるらしかった。なるほど。お金は実際に品物を見て納得してから払って貰えばいいらしい。ちなみに、納得できなくて買い取って貰えなかったものは、ちゃんとこっちの展示場で売られるらしい。
「はいはい。三日後、どこに運べばいいかな。住んでる街は?」
「トレだけど、マックは持てるか?」
「うん。だから取りにくれば大丈夫」
「運び代はなし、と。了解。この僕リーデンが承りました」
じゃあ三日後にね、と送り出されて店を出る。
何とかソファーが手に入りそうでほっとしながらヴィデロさんと顔を見合わせた。
戻ろうか、と話していると、そんなに広くない通りの向こう側から、集団が向かってきた。
そして、その中の一人が、俺たちの方を指さして「お前ら!」と声を上げた。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。