これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
551 / 744
連載

634、ソファー、最高

しおりを挟む

 ヴィデロさんと共に声を掛けて来た人に目を向けると、そこには、この間怒鳴りつけて来た人がいた。



「お前ら性懲りもなくうちに何しに来た!」



 俺たちを指さして怒鳴りつけた男は、次の瞬間、その隣にいた人に拳骨を落とされて地面に座り込んで呻いていた。

 その声を聞きつけたのか、店の中からはリーデンさんが顔を出している。



「い……ってぇ……っ」



 悶絶する人を見下ろして、リーデンさんがスッと目を細める。



「僕のお客さんに何怒鳴ってるのかな。どう見てもこの間来た異邦人とは違うでしょ。ちゃんと僕が仕事を請け負ったお客さんだよ」



 口調は変わらず、でも呆れたような響きをにじませて、未だ頭を抱えて呻いている男に冷ややかな視線を向けたリーデンさんは、俺たちと目が合った瞬間「不快な思いをさせてすいません」と頭を下げた。



「でも! こいつ俺の事三流って」

「てめえなんざ三流で十分だろ。大方あのクソッタレの異邦人の仲間と勘違いして追い出したんだろ。だからお前はいつまでたっても上に行けねえんだ。腕だけで上がれると思うなよ。もっとその目を養えっていつも言ってるだろ」



 さっき拳骨をくれた人も、腕組をして溜め息を吐く。

 クソッタレな異邦人。もしかして、『夕凪』はこの人たちを妨害してたりして。まさかね。



「ちゃんと素材も持ち込みしてくれたお客さんだよ。ごめんね、ほんとにこいつが嫌な思いさせちゃったみたいだね」



 ほらそろそろ立って、とリーデンさんが男の腕を掴んで結構乱暴に立たせる。



「でも! こいつらだって、俺らが精魂込めて作った家具をばらして素材として使おうとしてるかもしれねえだろ!」

「だから。素材は持ち込みしてくれたって言ってるでしょ」

「お前ら、こういう騒ぎは中でやれ。いい恥さらしだ。お客人、お騒がせしました。こいつにはよく言い聞かせますんで」



 無理やり男の頭を下げさせた人が、しっかりと頭を下げて、集団と共に店に入っていく。 

 それにしても、なんか、嫌な話を聞いちゃったんだけど。

 買った家具をばらして素材に……?

 そんなことしてる人がいるの? それは職人さんにとっては辛いと思う。

 ちょっとだけ顔を顰めていると、ヴィデロさんが俺の背中に手を添えた。







 三日後、ヴィデロさんの仕事が終わってから、俺たちはオットに跳んだ。

 幸いにも店はまだ開いていて、ノックをすると、リーデンさんが迎え入れてくれた。



「遅くにごめんなさい」

「いいよ。作業はまだやってるから、この時間ならまだまだ大丈夫。出来たよ。君たちの家具。座ってみて、触ってみて、気に入ったら買ってくれる?」



 気に入らなければ買わなくていい、というスタンスに、なんていうかちゃんと一流のこだわりを感じた俺。なんか、絶対気に入る気がする。

 ヴィデロさんと二人、早速用意してもらったソファーに腰を下ろしてみる。

 ちょっと明るめの木で足とひじ掛けが作られてて、布はあんまりつるつるしてない綿みたいな感じ。色は薄い水色で、けっこうな長さがあるのに部屋に置いても狭く感じないような色合いだった。

 ふわっとお尻が沈み、でも下の方がしっかりしてるのか、身体が斜めになることもなく。腰掛ける場所はちょっと深めでほんとにゆったりできる幅になってて、背もたれは高めでやっぱりフワッとしている。下部分より柔らかいかも。腰を下ろして思わず「はぁ……」って息を吐いちゃうような、そんなソファーが出来上がっていた。これが一流の仕事かあ。



「買おう」

「買います!」



 ヴィデロさんと同時に声を出すと、リーデンさんは満足げに頷いた。



「色違いのカバーもあるから、部屋の雰囲気に合わせて模様替えもできるよ。ただし、カバーは別料金発生しちゃうから買わなくてもいいからね」

「もちろん買います」



 薄いピンクと、濃いめの紺色のカバーも一緒に買い取り、俺たちはホクホクとお金を払った。そしてソファーとカバーをインベントリにしまい込んで、リーデンさんにお礼を伝える。

 また家具が必要になったら、絶対にリーデンさんに頼みたいな。そう思ってヴィデロさんを見上げた。

 そっか。だから最初に指名しないか聞かれたのか。なるほど。次は絶対リーデンさん指名で。





 お目当てのソファーを寝室に置くと、単なる寝室が寛ぎ空間的な物に変わった。

 ソファーの前に小さなテーブルでも置いたら、こっちの部屋の方がキッチンよりも寛げるんじゃないかななんて考えていると、ヴィデロさんが早速ソファーに座って寛いでみていた。

 背もたれに両手をかけて、長い足を投げ出して、ぐだーっと。可愛い。

 俺も一緒にぐだーっとしよう。

 そう思って、ヴィデロさんの横に座って、ゴロンと転がる。ヴィデロさんの太腿枕最高。

 寝っ転がったまま足を持ち上げてブーツを脱ぐと、解放された足をひじ掛けに乗せてみた。これぞ最高のダラダラだね。

 そんなだらしない恰好の俺を見下ろしたヴィデロさんは、肩を揺らして笑っている。膝枕、すごくいいんだよ。見上げればヴィデロさんのかっこいい顔があるし。頭の下には最高の筋肉があるし。



「このまま寝たいくらいだな」

「ほんとにね。買ってよかった」

「俺の脚の上で無防備なマックも、最高だな」

「ヴィデロさんの膝枕も最高。今度俺も膝枕するね」

「それは楽しみだな」



 くすくすと笑うと、ヴィデロさんはスッと俺の髪を指で梳いた。その優しい手つきにうっとりする。これはアレだ。睡魔が襲ってくるやつだ。心地よすぎて起き上がれなくなりそう。

 寝るなよ、なんて聞こえたけど、ここで寝たらいい夢見そう。



 



 いつの間にやら、俺は本当に寝ていたらしい。熟睡まではいかなかったみたいで強制ログアウトはしなかったけど、気付いたらローブと胸当てが外されていた。

 そして、ヴィデロさんの膝は今も枕になっている。ふと上を見ると、ヴィデロさんが手に本を持って、読んでいた。



「起きたのか」

「あ、うん……ごめん。気持ちよすぎて。足痺れない……?」



 身体を起こすと、まだ覚醒してない頭がもっとヴィデロさんの太腿に転がれと指令を下してくる。それを何とか振り切って背もたれに身体を預けると、転がった時とはまた違った心地よさが身体を包み込んで、更に眠気を誘った。



「眠いならベッドに行くか?」

「ううん、起きる……っていうか、ヴィデロさん夜ご飯どうしたの?」



 時間は既に、ログアウトアラーム直前だった。もう夜中だよ。

 その間ずっと俺に膝を貸していてくれたのかな。と申し訳なく思っていると、ヴィデロさんは大丈夫と微笑んだ。



「途中兄が来たのは覚えてるか?」

「え……と覚えてない、かも。ヴィルさん来たの?」

「ああ。一緒にご飯を食べないかってさっき来たんだけど、マックが寝ぼけながら俺はソファーの魅力に抗えないからとか答えてて、兄を笑わせてたぞ」

「そんなこと言った覚えない……」



 ヴィルさんが来た事すら認識してないのに、と頭を捻っていると、ヴィデロさんが声を出して笑った。



「すごくぽやんとした顔が可愛かった。その時俺は飯を食べて来たんだけど、戻って来た時にはマックは夢の中だったから」

「ううう……」



 恥ずかしい、そんな寝ぼけた覚えないのに。



「本当はベッドに運んで寝かせればよかったんだろうけど、膝枕したくてそのままにしてたんだ。身体は大丈夫か?」

「うん。最高の寝心地だった。ベッドじゃなくて、ソファーで寝てもいいくらい気持ちよかった」

「そうか。じゃあ、今度は俺が膝枕をしてもらう番かな」



 ふざけてそんなことを言うヴィデロさんに、俺は笑いながら「もちろん」と太腿を叩いた。ブーツ脱いだから寝心地は悪くないよ。



 
しおりを挟む
感想 535

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。