文字の大きさ
大
中
小
515 / 706
連載
636、助けてお兄ちゃん
たとえ笑顔で送り出されても、俺たちは笑顔というわけにはいかなかった。
あんな酷い行為を目の前で見せられて、気分がいいはずがない。
「……こんな時にだけ頼るのもどうかと思うけど」
「でもこういう行為を何とかしてくれる可能性があるのは、兄しか思い浮かばない」
二人で顔を見合わせると、周りも関係なくトレに跳んだ。
工房に戻ってくると、俺は早速フレンド欄を見た。名前は灰色になっている。仕事でもしてるのかな。
ヴィデロさんに断って、ログアウトすることにした。
寝室に向かってベッドに転がってログアウトすると、俺はヴィルさんにメッセージを送った。「たすけて、お兄ちゃん」と……送りたかったけど自重した。でも気分は助けてお兄ちゃん。
ヴィルさんはすぐに返事をくれた。
そして、すぐにログインする様に言われて、ホッとしながらログインすると、ヴィデロさんがベッドサイドに座って待っていた。
「ヴィルさん、すぐにログインしてくれるって」
「そうか」
ホッとしたような顔をするヴィデロさんは、すっごくヴィルさんを頼りにしてるように見えた。兄弟羨ましい。
俺もすぐに起き上がってキッチンの方に向かうと、同時くらいに連絡通路のドアがノックされた。
「何かあったのか? ヴィデロも健吾も顔つきがいつもと違うぞ」
俺たちの表情を見た瞬間、ヴィルさんは顔を曇らせた。そんなに表情に出てたのかな。でも今はニコニコなんてできない。
俺がお茶を淹れている間に、ヴィデロさんがヴィルさんにさっきの工房のあらましを話した。しかも前から起こっているみたいだってことも。
ヴィルさんは俺が差し出したお茶を手に、視線を少しだけ落とした。
俺が席に着いたのを見て、「健吾は『USM』というゲームを知ってるか?」と訊いてきた。
名前だけは知ってると答えると、ヴィルさんはそうかと頷いた。
「あのゲームは昔のレトロゲームと同じシステムを採用しデータ容量を節約しているんだ。その他の容量はほぼモンスターデータにつぎ込んでいると言っても過言じゃない物だ。俺はやったことがないが、あれはモンスターを倒して手に入れて合成して自分だけの最強モンスターを育てる育成ゲームだな。最大の魅力が、モンスター同士を戦わせる闘技場。強さランクがあり、強ければ強いほど名誉とされて、称号が与えられる。そのために『USM』ユーザーはモンスターの討伐と合成をひたすら繰り返しているという。そういう育成物が好きなユーザーにとってはとんでもなく面白いゲームだそうだな」
そういうのは聞いたことがある。俺は戦い自体が苦手だったから、食指は動かなかったけど、雄太がしっかりと持っていて、一度だけ招待枠でやらせてもらったことがあるんだ。でも一日で止めたけど。だってモンスターを合成ってなんかどうも好きになれなかったから。可愛いモンスターを手に入れても、強くするために合成して全く違うモンスターにしちゃうんだよ。しかも懐かせた方が強くなるとか言って、可愛がったモンスターを躊躇いなく合成させちゃうっていうのが苦手で。雄太もあんまりハマれなかったのか、早々に止めていたけど。
でもなんでここでそんなゲームの話が出て来たんだろ。
神妙に聞きながら、内心首を傾げた。
「そのゲームは、飲食店の壁に貼ってある依頼書で、クエストを受けることが出来るそうだ。その中に、こういうものがある。『このモンスターを隣の店の男性に渡して来てくれ』。依頼を達成するとその依頼の人物からモンスターの餌を貰えるらしい。でもその餌は他の店でも売っている餌で、通貨があれば買える物だ。依頼は一度受けるとクリアして消えていくんだが。たった一度餌を貰うために隣の男にモンスターを届けるのは馬鹿らしい、と考えたとあるユーザーが、裏技を考え出した。どういうものかわかるか?」
ヴィルさんに質問されて、俺は首を横に振った。全然わからないっていうか、裏技ってそんな簡単に思いつくもんなのかな。
ヴィルさんは『USM』の話自体に顔を顰めているヴィデロさんに、「君には信じられないような話だとは思うよ」と苦笑して見せた。
「さて、このクエストなんだが。レトロゲームのシステムを採用していると言ったよな。だから、依頼を受けてもキャンセルをすれば、また同じ依頼が掲示板に乗るわけだ。そのユーザーは、一度依頼を受けて、依頼人からモンスターを受け取った。そこでどんな行動をとったと思う?」
「……全然わかりません」
俺が答えると、ヴィルさんは嬉しそうに笑った。
「それこそが、健全な精神が宿る子の反応だな。いいか、真似はするなよ。そのユーザーは依頼を受け、モンスターを受け取った。そして、あろうことか、モンスター商会にそのモンスターを売りに出したわけだ。ちょっとしたレアモンスターだったからか、モンスターはそこそこの値段になる。そこで金を手にして、依頼をキャンセルする。すると、また掲示板には同じ依頼書が貼られる。また依頼を受けて、モンスターを受け取る。それをまた売って、と繰り返して、財を築いたようだ」
「最悪な稼ぎ方だ……」
「しかもそのユーザーは裏技サイトにその方法を載せた。そのせいか、『USM』で通貨を得ることは難しいことじゃなくなったそうだ。あくまで、『USM』での話だぞ。その話があったからこそ、母はその点を問題視して色々と対策を講じている。多分、君たちが見たプレイヤーは、確実に『USM』のユーザーでもあると思われる」
「納得はしますけど、何とかならないんですかああいうの」
ゲームと銘打って売り出してるわけで。だからこそ、プレイヤーは皆ゲームだと思って行動してるわけで。そうなるとこういうのもアリって言われちゃうとなんかもやもやする。
ヴィデロさんも苦い顔をしている。
「『USM』はもちろん、それで文句を言うようなNPCはいない。店側は依頼モンスターもにこやかに何度でも買い取るし、依頼人も何度でもにこやかにモンスターを渡す。でも、それは『USM』でのことだ。『ADO』ではハラスメント関係は厳しく取り締まることは、しっかりと明言している。双方納得済みのPVP、及び、非道な敵対する者に対する攻撃はまた違った規約等あるんだが、それとこれとはまた別問題だな。教えてくれてありがとう。具体的な行動を把握できてよかった」
ニコ、と微笑むヴィルさんが、とても頼もしかった。俺たちじゃ波風立てることしかできないから。
感想 555
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結済。
おまけのお話を時々更新したりしています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
ふたりの動画をつくりました!
もしよかったら、プロフのwebサイトからどうぞです!
表紙や動画にはAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
【8月書籍化♡】キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
※表紙その他のイラストはAIにて作成致しております。(文字指定のみで作成しております)
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】憧れの先輩アルファに告白されたんだがどうやら罰ゲームだったらしい
ある日の放課後、校舎裏で花壇の手入れをしていた上田凛斗に告白してきたのは、憧れの先輩であり校内の人気者でもある上條蘭世だった。
目付きの悪さと暗い性格のせいで恋人どころか友達もいない凛斗は、戸惑いながらもお試しで蘭世との交際をはじめたのだが……
美形溺愛アルファ×三白眼平凡オメガ
ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました
ごく普通のベータとして生きてきた村井圭太(むらいけいた)は、ある日突然、希少な「後天性オメガ」に転化してしまう。
不安な日々が始まる……かと思いきや、幼馴染アルファの白河泰雅(しらかわたいが)とはまさかの両思い。
早々に『番(つがい)』となり、幸せな日々を送っていた。
「オメガになっても俺は俺」と持ち前のポジティブさで新しい生活に向き合っていく圭太。
だが、晴れて番となった泰雅は、今まで以上に過保護になっていく。
どんなトラブルも二人なら大丈夫!
過保護で執着強めなスパダリ幼馴染攻め(α) × ポジティブで男前な元ベータ受け(β→Ω)
明るくて幸せいっぱいオメガバース!
私の大好きなオメガバース。
愛をたくさん詰め込んだので、みなさまにも楽しんでいただけますように。
辺境食堂の隠れΩなのに、拾った皇帝陛下が嫁になれと迫ってくる
元宮廷料理人で隠れΩの青年レオは、帝国の辺境で小さな食堂兼農園を営みながら、誰にも縛られない平穏なスローライフを送っていた。
ある日、レオは裏庭の不思議な洞窟で、血まみれになって倒れていた大柄な青年アレクを拾う。
彼の正体は、お忍びで辺境を訪れていた帝国最強のα皇帝だった。
身分を隠してレオの家に居候することになったアレクは、レオの作る絶品の手料理と、彼から漂う穏やかな香りに冷え切った心を溶かされていく。
一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。