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641、ギルドランクが上がった
とうとう俺も冒険者ギルドで講習を受けた。
講習を担当したのは、エミリさんの秘書さんだった。きりっとした顔で、講習を受けているプレイヤー15人に、淡々と説明してくれた。しっかりと質疑応答もあって、下地は万全って感じだ。
そして、追加要素もあった。
一度皆でジャル・ガーさんの洞窟に移動して、無事プレートを貰った人全員が獣人の村に移動。その時に出たのは、今まで行ったことのなかった空間で、森の中に開けた場所があり、ただ転移魔法陣が設置されているような感じの場所だった。秘書さんが付いてきたのはここまでで、あとは次からは冒険者ギルドの転移魔法陣から直接この魔法陣の村に跳べるということを説明されて解散になった。でもまだ森の中の魔法陣は起動していなくて、指定の日以降にならないと魔大陸に跳べないんだそうだ。もうこれ、運営だけじゃなくて国全体というか世界全体の大プロジェクト状態だよね。
そこまで説明された俺は、他の獣人の村に行きたいという人たちと別れて、トレに戻って来た。一度行ってしまうと、あとは魔法陣に乗って行先を指定すればそこに跳べるギルドの固定魔法陣と同じだから便利だ。
ついでだからとギルドの講義各種の案内を見たり、依頼表をチェックしたり、更に増えた『謎素材』を受け取ったり追加報酬を払って品物を預けたりしていると、奥からエミリさんが顔を出した。
「あ、マック。いいところに来たわ。ちょっと来てくれない?」
「あ、はい」
エミリさんに手招きされて、俺はそっと奥に入っていた。
ソファーに案内されて座ると、さっき講習を担当してくれていた秘書さんが俺の前にお茶を出してくれた。
「とうとう魔大陸に異邦人たちが行くのね。村を浄化してくれたんでしょ。クラッシュから詳しく聞いたわ」
「あ、はい。流れでっていうか、もともと守護樹を植えたかったですし」
「そう、それもお礼をしたかったの。私達にとって、守護樹っていうのは、あらゆる種族が生命を育むためになくてはならない樹なの。とはいえ、そんなことを思ってるのはエルフだけっていうのもわかってるんだけど。それをあの大陸に植えてくれたんでしょ。ということは、あのでか物を消し去れば、また大陸で生命を育むことが出来る足がかりが出来たということなのよ。守護樹は穢れ物から生命を守るのを命としている聖樹だからね。本当にありがとう」
深く頭を下げたエミリさんは、流石エルフというかなんというか、守護樹のことは詳しかった。でもこれからもっと見守っていかないといけないんだよね。でも今は、俺はあの村に入れないからなあ。
そのことを呟くと、エミリさんはそのことなんだけど、と口元を緩めた。
「クラッシュがすでに向こうの大陸で活動を始めてるじゃない。その時出来る限り私も一緒に行って、守護樹を見て来るわ。異邦人には入れなくなった村も、私達なら関係ないんでしょ。アリッサに聞いたわ。だったら、私が責任もって守護樹を見守るわ。もともとエルフの仕事ですしね。でもここまでしてくれて本当にありがとう。私達だったらそれこそできなかった偉業よ」
「エミリさんが? それだったら安心です」
任せといて、と胸を叩くエミリさんがとても頼もしく見える。じゃあ、きっと守護樹はお願いしても大丈夫だよね。ちょっとだけ肩の荷が下りた気がする。
「なんにせよ、これからもよろしくね、マック。あと、クラッシュのことを少しだけ気にかけておいて欲しいの。マックは心にわだかまる魔素を払うことが出来るんでしょ」
「あ、はい。覚えました。何ともなくても、たまにクラッシュを綺麗にすればいいんですね」
「あはは、言い方。そうそう。クラッシュを綺麗にしてあげて」
エミリさんは声を出して笑うと、お茶のおかわりを秘書さんに依頼した。
そして今度は違う話に移った。
「向こうの大陸の素材の汚れを落とす方法を確立してるんですって? 情報を売ってくれないかしら。それをギルド内で共有したいの」
エミリさんは少しだけ声を落として、お願い、と顔の前で手を合わせた。
そして、破格の情報料を提示してきた。
なので、すぐにディスペルポーションのことを教えて、情報共有も問題ないことを伝えると、エミリさんはすぐに俺の口座にお金を振り込むように秘書さんに依頼した。
「ディスペルポーション……ディスペルハイポーションの劣化版。これなら、見習薬師でも作れるのね。あとは聖水は教会に依頼して。ニコロ導師と一度話し合わないといけないわ。一旦セィ城下街ね。沢山作るにしても、出回るのは魔大陸でのみ、の方がいいわね……ってことは、扱いはクラッシュに……クラッシュに出張でギルドの売店も兼業してもらおうかしら。職員たちを派遣できないのはちょっと痛手だけど」
ブツブツ独り言をつぶやき始めたエミリさんは、もう一杯淹れて貰ったお茶を俺が飲み干す頃に顔を上げた。
「そうよ利益なんて二の次よ。マック。今日はとても有意義だったわ。ありがとう。これからも色々と頼むと思うけど、ぜひよろしくね。もちろんこの貢献はギルドカードに反映させてもらうわ。下の受付でカードの更新をしていってね」
「いいんですか? っていうか俺、ほとんど依頼板の依頼受けてないんですけど」
「あれだけが貢献度ってわけじゃないのよ。個人的にギルド統括としての私の依頼を受けてくれたり、自ら依頼を出して冒険者たちの活性化に貢献してくれてるでしょ。そういうのも評価されるのよ。戦って魔物を倒した者だけが功績を上げるわけじゃない組織なのよ、ここはね」
ね、とウインクしたエミリさんは、言葉の中に何かを含ませていた気がした。心当たりがありすぎて思わず苦笑する。
エミリさんに言われた通りにギルドカードの更新を依頼したら、ギルドランクがとうとうBになった。
Aランクになると素材買取を優遇されたりするんだっけ? 楽しみでしょうがない。
思わず力いっぱいお礼を言うと、受付の職員さんがにこやかに「これからもギルドに貢献して上を目指してくださいね」と俺の心を抉って来た。すいません、あんまりギルドに貢献してなかったかも。個人でばっかり動いてたから。
首から貰ったプレートをぶら下げて、俺は固まった笑顔でそっとギルドをあとにした。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。