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664、一人足りない
「そういやユキヒラいねえのな」
辺りを見回して、雄太がポツリと呟く。
「ユキヒラ?」
勇者たちが顔を見合わせて首を捻ったことで、実はあれだけがっつり王宮に入り込んでるのに、この人たちとユキヒラの面識がないんだということを知った俺。マジか。
「あれか? 宰相の手足」
「確か、マックの友達で、ロミーナに貢いでる異邦人だっけ」
勇者とクラッシュのユキヒラ認識に、思わず吹き出す。何気酷い。
「プレイヤー唯一の聖騎士で、聖剣持ってる奴」
「聖剣ならマックも持ってるけどね」
雄太に便乗する様に海里が茶化す。セイジさんは俺が聖剣持ってるのを知ってるからか、そのまま「聖剣か……」と呟いている。
「魔王を消し去るためには確実に必要になってくるな……」
「あ、ユキヒラ『時の輔翼者クエスト』で魔大陸に行かないといけないって言ってたから、いい返事を貰えると思う。連絡してみるな」
早速雄太がチャット欄を開き、何かを打ち込んでいる。
そのクエストって、聖剣をゲットした時に舞い込んだやつだよな。詳しい内容は聞いてないけど。
王宮で貰ったアイテムも闇関連だから、絶対に行かないといけないメンバーなんだと思うけど。
それを言ったら、ヴィルさんもそれに該当しそうなんだよな、とふと思う。だって、魔王が使っていた剣と盾を所持してるし。なんかどこかしらで関わってくる気がする。もう、一度はその地を踏んでるし。
そう思うと、ここに集まったメンバーじゃ、足りない気がする。
「時の輔翼者と言えば……俺もうシークレットダンジョン見つけることが出来ねえから」
セイジさんがあっけらかんと重大なことを勇者とエミリさんに報告した。
二人とも、その言葉を聞いてびっくりした顔をしている。
え、どういうこと?
「もしかして……力を手放したの?」
「ああ。もう必要ないからな」
「ってことは、これからは能力も伸びるってことか」
「もう伸ばしてきた。獣人の村でな」
セイジさんは、だから、と口元を緩めて、笑みを浮かべた。
「早く迎えに行かねえと、俺だけおっさんになっちまうんだよ」
目を細めたセイジさんに、エミリさんが抱き着く。そして、勇者は豪快に笑った。
さっぱり意味の解らない会話を繰り広げる三人をただ見ていることしかできなかった俺は、色よい返事を貰えたらしい雄太のガッツポーズを目の端でとらえていた。
「ちょうどユキヒラ、長光の工房に来てたらしい。ここに顔出したいって言ってるけどいいか?」
「ああ。すぐにな」
勇者の返答をそのまま雄太が返したところ、すぐに勇者の家のドアはノックされた。
本当にすぐだった。何でだと思ったら、隣に長光さんがいて、手を振ってたから、送って貰ったらしい。
「途中参加を認めてくださりありがとうございます」
キリッとした顔で頭を下げたユキヒラは、相変わらず白い鎧を身に着けていて、腰にはしっかりと聖剣がぶら下がっていて、どこからどう見ても聖騎士だった。
しかも目上に対する敬語が板についている。宰相さんとか王太子をおっさんっていうユキヒラはどこ行った。オランさんたちと同じスタンスで対応してるよ。
「なるほど、聖剣の持ち主か」
勇者は、ユキヒラの前に立ち、じろりと上から下まで視線を動かした。威圧まで発動している。ビンビン感じるけど、相変わらず雄太たちは全く気にしていなかった。白金の獅子も。強い。
勇者の威圧にも屈せずまっすぐ見つめていたユキヒラは、早々に部屋へ招き入れられた。臆さず平常心だったのが気に入られた秘訣みたいだ。俺とは真逆だなあ。
全員が当日の動きを確認し、クリアオーブの使い方、セイジさんの動き、そして自分たちの役割を把握した。俺はもちろん、セイジさんが水晶を消し去った瞬間サラさんを蘇生させる役。ううう、責任重大だ。その後は、サラさんを避難させつつ、俺も避難。「ちゃんとサラには内緒で軽くなる魔法陣を描いてやるよ」なんて言われたけど、それ、サラさんにはバレそう。隣にいたエミリさんも聞こえていたみたいだったけど、セイジさん大丈夫かな。
それにしても、戦闘には基本的にかかわらないことを言われて、正直ほっとした。足手まとい以外の何物でもないからね。後ろの方からちまちま聖魔法を飛ばすくらいでいいんじゃないかな。ユキヒラもいることだし。戦闘職の皆さん勢ぞろいだし。勇者だって、貰った剣を手に絶対先頭に立ちそうだし、エミリさんなんか絶対に全力で行くと思う。
ここにいるメンバーの全力……。
阿鼻叫喚の地獄絵図しか想像つかない。こんなのにフルボッコにされる魔王……。
容易に想像できたその光景に、俺は絶対に前線に出ないと誓った。
でも、本当なら、ここにヴィデロさんもいて欲しかったな、なんて思うのは贅沢かな。ヴィデロさんが無事俺たちの世界に来れたなら、ログインして異邦人枠として一緒に魔大陸に行けたのにな。端っこで魔王を追い詰める戦略を話し合う皆を見ながら、俺は出そうになった溜息を呑み込んだ。
かなり話を詰めて、夜も遅くに解散になる。皆仕事が終わってからログインしてるんだよな、と自分を棚に上げて『白金の獅子』の二人を見ていると、一緒にドアを潜ったドレインさんがそうだと俺を見下ろした。
「ねえねえマック。謎素材ここで納品してもいい? すっごい薬欲しいんだけど」
「あ、いいですよ。貯めたんですか?」
「貯めたよー。『マッドライド』にエルフの里に行く道が一番採れるって聞いたから行ってきたんだ」
ほい、と大量に渡されて、俺は首を傾げた。でもハイパーポーションって、魔大陸では普通にクラッシュが売ってるんじゃなかったっけ。そっちで買えないのかな。
そう思ってるのに気付かれたのか何なのか、ガンツさんが笑いながら「こいつな、買うよりもマックから直接貰った方がご利益高そうとか言ってるんだよ。なんか言ってやってくれ」とドレインさんの背中を豪快に叩いた。ご利益……ええと。ご利益って。
「効果は一緒ですよ?」
「そうじゃないんだよ」
もう、みたいなノリでドレインさんが唸る。
「マックがラブラブ状態で作ると、なんか付加価値つきそうっていうか、門番さんと一緒だといい物にブチ当たる的な、気分的問題なんだよなあ!」
あ、もしかして、ヴィデロさんのラック系の御利益かな、と納得しつつ、俺はインベントリから報酬品を取り出した。でもそれ、ヴィデロさんがいなくなってから作ったやつだから、ご利益あるかな。なかったらごめんなさい。もうしばらく待って。俺も待つから。
「ごめんな、ドレインが迷惑かけて」
「全然迷惑じゃないですよ」
月都さんに謝られて、俺が手を振ると、でもな、と月都さんは肩を竦めた。
「顔に滅茶苦茶迷惑、って書いてある」
「困ったような顔してたよな」
「ごめんね、うちの不良魔導士が」
三人に次々頭を下げられて、本当に迷惑だとは思わなかった俺は驚いた。
マルクスさんも変な顔してるって言ってたっけ。でも、俺、笑ってるよね。
「大丈夫。何なら、もし皆謎素材持ってるなら交換してもらえませんか。俺、当日までにもう少しアイテム増やしたいんで」
務めて口を持ち上げてそう言うと、いの一番に雄太が「俺俺!」と名乗りを上げてくれた。
「大量に貯めといた! あっちで買うと高いんだもん。だったら、交換してもらった方が確かにご利益あるじゃん! 30くらいあるから、6個くれ。あ、ハイポーションも欲しい」
「ハイポーションそんなに持ってないよ。あとでいい?」
「なんなら全部ハイパーでもいいんだぜ?」
いい笑顔でそんなことを言う雄太に、なんとなく助けてもらった気分になった俺は、表情を苦笑に変えて、「仕方ないなあ」と報酬ランクアップに頷いた。ありがとうの意を込めて。雄太のお陰で呼吸が楽になった気がした。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。