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674、ヴィデロさんの新スキル
しおりを挟むとうとうお出ましか。
勇者たちの誰かが呟いた。
ってことは、これが本来の魔王の姿ってことか。
と確認している間に、魔王はいきなり動き出し、一瞬後には月都さんに切りかかっていた。
その爪を剣で弾けたのはさすがとしか言いようがない。でもその表情はとても驚いていた。今まで全然動かなかったから。
即座にヴィデロさんも勇者も反応して、魔王に切りかかっていく。
魔王の身体が俺たちの三倍くらいの大きさなのにも関わらず、そのスピードはかなり速かった。
でもあの身体から湧き出すように出てきた魔法はなりを潜め、さっきよりも数倍力強い直接攻撃に変わった。
ってことは、俺たちサポートの出番なのかな。
俺はひたすら聖魔法を撃ちまくった。攻撃魔法とか剣に聖属性を付与する魔法とか。ドレインさんはバフがけとデバフがけをしていて、たまに魔王の動きが悪くなるのはそのデバフが効いてる時だっていうのが見ていてわかる、らしい。俺はわからないけれど、近くにいるブレイブが教えてくれる。ブレイブとユーリナさんはひたすら弓を飛ばしているけれど、やっぱりというか弓系の攻撃はあまり効いてないみたい。セイジさんは逆になんだか滅茶苦茶複雑な魔法陣を描いては、前衛たちに飛ばしている。あんな魔法陣見たことないけど、数回に一回魔力回復してるから、恐ろしいほどに凄い魔法陣だっていうのはわかる。あれがなかったら皆かなりの勢いで死に戻ってる気がする。
ユキヒラは相変わらず詠唱しながら剣を振るって物理と魔法両方で攻撃するというアホみたいな攻撃方法を取ってるけれど、さっきほどは効いてないみたい。魔王の身体が実体化してから、物理防御も魔法防御も格段に上がってるのは気のせいじゃない。皆もバフがけでかなり上がってるからトントンだとは思うんだけど、覚悟していたとはいえ、長くなりそう。
俺はチラリとパーティー欄を見て慌てて回復の聖魔法をヴィデロさんに飛ばした。
HPが半分くらいになっていたから。でも俺の回復魔法じゃあんまり回復しないのが申し訳ない。かといって前衛ってハイパーポーションで回復する隙も無いんだよね。回復魔法大事。もっと聖魔法レベル上げよう。俺の聖魔法はどっちかというと浄化とかそっちの方メインだからなあ。ってところで気付いた。
前にコウマ病を振りまいてた魔王の残滓は浄化魔法で弱ったんじゃなかったっけ。
攻撃魔法じゃなくて浄化魔法を使ってみればいいのかな。何もなくてもやってみないよりは全然いいだろうし。
俺は枯渇しそうだったMPを満タンにすると、手に持った聖魔法の本をインベントリにしまった。
「この世界を見守る最上の神よ」
俺が唱え始めた瞬間、隣のブレイブは俺が何の魔法を使おうとしたのかわかったらしく、手は止めずに少し目を凝らして口を開いた。
「マック、あいつを範囲に入れるなら、もう3メートル前へ」
ブレイブに言われた通りに前に出る。存在感が凄すぎて、まだ魔王から離れた場所にいるはずなのにずいぶん近くに感じる。
「その気高き聖なる神気でこの禍なる気を包みこみ給え。『円状鎮魂歌サークルレクイエム』」
唱え終わった瞬間、魔王の周り一帯が光り輝く。浄化してるのがわかる。
魔王が足を止めて苦しんでるように見える。浄化魔法自体は無音だから余計に叫び声だけが響く。
見たところ魔王のHPバーに変化はなかったんだけど、前に出たことで近付いたヴィルさんが俺を見てサムズアップしてくれて、何かがどうにかなったんだということが分かった。
「今ので魔王の弱点が見えた。しばらくの間防御力が下がるから、魔王の胸元に下がっている装飾品を狙ってくれ! あれは肉体を構成する魔石の一部だ!」
ヴィルさんの声で、見えなかった弱点が見える様になったんだとわかった。流石浄化魔法。弱体化に成功。さっきまでは装飾品なんてほんとに単なる装飾だと思ってたけど、実は重要だった。これは定期的に浄化したほうがいいのかな。前衛もその範囲に入っていて、動きが良くなったから。多分この地で感じる粘っこい重力みたいなものが緩和してるんだと思う。
それに、ともう一度ちらりとパーティーメンバー欄を見る。
あのマント、闇属性を吸収して隠密性を上げるやつなんだけど、確か聖属性でその溜まった闇がHPに換算されるんだ。前にチラッと鑑定しただけだから確証は持てなかったけど、本当だった。ヴィデロさんとか雄太ごと浄化したあのサークルレクイエムは、溜まった闇の力でヴィデロさんの回復もしてくれた。かなり闇が溜まってたらしくて、今はHPが満タンになってた。流石闇騎士。カッコいい。俺、浄化バンバン使う。躊躇いなく使うから!
気合いを入れていると、いきなり目の前に魔王の爪が現れた。前に出たことで攻撃範囲内に入っちゃったらしい。
ザクっと肩を切られてフワフワのローブがちぎれる。
痛ぁ、と顔を顰めながら後ろに戻ってハイパーポーションを取り出していると、ちらりとこっちを確認したヴィデロさんの雰囲気が変わった。
「『ウィングパペット』」
ヴィデロさんが何かスキルの名前を呟いた。
すると、ふわあっと背中から何かが生えてきた。
それは、青から白へ綺麗なグラデーションを描いた色合いの、鳥の様な翼だった。
まるで俺の胸元にぶら下がっているブルーテイルの羽根の様な色合いのその翼は。もしかして。
ヴィデロさんはバサッと翼を動かすと、その翼で身体を浮かせた。
「天使だ……」
その神々しいまでの姿に、見惚れる。
ああ、なんていうか、俺の旦那さん滅茶苦茶かっこいい。最高オブ最高。録画録画。スクショも撮る。
魔王そっちのけでヴィデロさんを見上げていた俺にちらりと視線を向けたヴィデロさんは、少しだけ顔を顰めると、手に持ったお父さんの形見の剣を空中で構えた。
「マック、早くそれ治せよ」
取り出したハイパーポーションを握りしめたままヴィデロさんに見惚れていた俺に、呆れたような顔をしたブレイブがハイパーポーションをかけてくれた。肩ザックリのままだった。だって痛みも忘れる神々しさなんだよ。ほんとにかっこいいんだよ。最高だよね!
それは声に出ていたらしく、ブレイブだけじゃなくて近くにいたユーリナさんも声を出して笑っていて、ドレインさんは「リア充爆発しろ!」とやけくその様に魔王にデバフ系魔法を飛ばしていた。
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