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684、途方もない課題
「さっきようやく魔王を倒した。はいエンディング、ではないのがこの世界(ADO)でね。この世界は自由だと謳っているだろ。魔王を倒すのが最終目的ではないんだ」
「そりゃわかりますけど。実際魔王がいるなんて話も全く話題に上がらないくらいだし。でも、なんていうか、誰かにいいように利用されてる気がしてきた」
「いい勘してるな、ガンツ君。それも間違いじゃない」
ヴィルさんは一度口を閉じると、ゆっくりと瞬きをした。そんなヴィルさんの様子をガンツさんと月都さんがじっと見ている。
誰も口を挟まず、ほんの少しの間、部屋の中は静寂に包まれた。
「さっきも話した内容からわかるように、この世界は、ゲームの世界じゃない。本物の人が生きて、生活している世界だ。そして、滅亡寸前の所をギリギリで保っていた。ゲームという名を借りて、この世界を救う手助けをするのが、本当の俺たちの目的だったんだ。薬師は腕を上げることなく、魔物は魔王の影響で段々と強くなり、他の国は全て滅んだからか、貴族への特権はさらに街の者たちとの格差が開き、王は見えない先を嘆き。全てが悪い方に向かっていた。これは母が実際に王宮勤めをして感じていたことなので、本当のことだと思ってくれていい。実際に君たちも感じているんじゃないかな。勇者たちが魔王を討伐したんだから、金のかかる騎士団は縮小されるべき、と訴える派閥の力を」
「そりゃあ、勇者と行動を共にしてれば、な」
「母は魔王がどうなっていたのかは把握していなかったようだが、それでも、たとえ魔王がいなくても国は滅亡に向かっているということには気付いていた。だからこそ、自分の息子の未来が心配だった。国をよくしようなんて大それた考えじゃない。ただ、自分の夫と息子がつつがなく暮らせるようにしたかったんだ。それに巻き込み、純粋にゲームをして遊んでいるプレイヤーたちを利用しているのは、自覚しているし、それに乗じてこの国を何とか存続させようとしているこちら側の協力者に利用されているのもわかっている。持ちつ持たれつ、というのはちょっと違うが、そういうことだ」
ガンツさんが盛大に溜め息を吐く。
「実はゲームじゃなくて現実の世界だった、なんて、これからは純粋にADOで遊べなくなる」
「それはすまなかった。話し始める前に聞くか聞かないかを確認すればよかったな」
「そんな確認されてもここまで来たら聞く一択ですよね。意味がない」
「あはは、そうだな。でも、今まで通りで大丈夫。魔物を狩れば狩るほどこの国は安全になるんだから」
そっかあ、とユーリナさんが声を上げる。
ドレインさんも、いつもの雰囲気はなくて、すごく考え込むような顔をしている。
雄太はいつも通りなんだけど、カップを持つ手は口元で止まっていて、全然お茶を飲んでいない。ユイたちは……あんまり変わりない、かな。想像はついてたって雄太に聞いたけど、本当だったみたい。
隅っこにじっと座って、最初から最後まで黙ってたユキヒラは……ほぼ全部知ってるんだよね。ヴィデロさんが俺たちの世界に来た経緯には驚いてたけど、あとは既知の情報のはず。
「マックは……全て、知っていたのか?」
ズバリ訊いてくるガンツさんに、俺は「はい」と頷いた。
「君は今まで、どんな気持ちでADOをやってたのか訊いていいか?」
「あ、はい。普通に楽しんでました。俺が性能のいいアイテムを作るとヴィデロさんがケガしても安心だし、魔王がいなくなればヴィデロさんが安全になるし。薬師楽しいし」
俺が答えると、ガンツさんは遠い目をした。そして、その目は皆に感染っていく。待って、何その目。
俺ほんとのことしか言ってないのに。そうポツリと呟くと、雄太が盛大に吹き出した。そこ吹くところなのかな。
「あなた方のスタンスはわかりました。でも、なんていうか、やることが壮大すぎてちょっと理解が追い付いてないみたいです……」
ガンツさんの言葉に、周りが同意した。
いきなりこんな話をされても、信用しろって方が難しいんだけどね。
それに、ガンツさんが言う通り、こんな話を知った後では、普通に楽しむのって実は難しいのかもしれない。俺はヴィデロさん会いたさに即ログインだったけど。
「さて、一応こんな経緯でヴィデロがプレイヤーになったことは納得いったと思う」
「納得できなくても目の前の現実が無理やり脳みそを説得しにかかるって感じだけど」
「そうだな。そんな簡単に世界を行き来できるなんて、普通は不可能だろ」
「そこらへんは母とヴィデロが『幸運にも』実現可能だっただけであって、たとえ俺がこっちの世界で生きてきたとしても、無理だと言わざるを得ないな。何せ、俺のスキルには『幸運』系統は備わってないんだ」
ヴィルさんが肩を竦めてそんなことを言うと、ユーリナさんと海里が目をキラキラさせて俺たちの方を見た。
「門番ラッキーはホントのことだったんだね」
「ええ。でも、ヴィデロさんがプレイヤーになっちゃっても、まだ私達恩恵に与れるのかしら」
「そこは二人に協力してもらって検証しようよ」
「了解。楽しみね」
そこの女性? 二人。何不穏な相談してるの。
でも門番ラッキーって……ヴィデロさんはもう門番さんじゃなくなったんだよ。
そういえばマルクスさん、すごくヴィデロさんの心配してたんだった。
俺はそっとヴィデロさんにマルクスさんのことを耳打ちすると、ヴィデロさんは目を細めてわかったと頷いた。
「さて、では話を戻そう。そもそも、魔王討伐がエンディングではないし、この世界が終わるわけでもない。魔王を討伐なんて、本当は俺の意図したところじゃなかったからな。母が知らなかったことは俺も知らないから。でも、俺もプレイヤーとしてこの世界を歩き回って、気になったことが沢山出てきた。それの一つが、魔王がなぜ生まれたのか、ということだ。それまではこの世界では、魔大陸も普通の大陸として、生きている人々が住んでいた。それは『石の宴に獣は咆える』という、魔大陸出身の若者が著作した本でわかっているよな。あれは実際に起きたことであり、その時代からの生き証人もいる。では魔王とは何か。この答えを知っている者はいるかい?」
ヴィルさんが見回す。俺と『高橋と愉快な仲間たち』がそっと手をあげると、他の人たちが驚いたような顔をした。
「俺たちはエルフの里の長老に話を聞いた。その時には多分勇者クエストが舞い込んでたはず。な、ユイ」
「うん。多分そこらへんはエルフの長老様に聞くのが一番だよ。だから多分『マッドライド』辺りは知ってるんじゃないかなあ。皆エルフの里に入り浸ってるもんね」
「な。乙なんかロウさんの妹を口説いてるらしいし」
脱線した話に、険しい顔つきだったガンツさんは少しだけ雰囲気をやわらげた。
ようやく皺のなくなった眉間に、ユーリナさんが笑いながら指をくっつけた。
「リーダー、しわがデフォになっちゃうよ。それもまた渋くて面白いけどね。まだ若いのに」
「学生に言われたくはないな」
「あははは、思想がもうおっさんじゃん」
「若い子にとっては俺はもうおっさんの年だろ」
気の持ちようなんだよ、と笑ったユーリナさんは、そのままガンツさんの眉間を指で撫でた。
「あたしはさ、別に利用されてるなんて思わないし、むしろこういうことに関われてラッキーって思ってるけど。だってこういう秘密を探すのって楽しいじゃん。なんていうかちょっとした特別感とかあってワクワクするし。リーダーはちょっと考え過ぎだよ」
「ユーリナは気楽でいいな」
「いいでしょ」
「褒めてないんだが」
「あたしが褒めてもらったと思ってるからいいの。それでさ、魔王が出来上がったわけっていうのは教えてもらえるの? 今からエルフの里に行けって言われたら即行くけど。気になるし」
がたっと椅子から立ち上ったユーリナさんに苦笑を向けたヴィルさんは、いや、と首を振った。
「もちろんここまで勿体ぶったんだ。教えるよ。それとも自力で探し出したいなら、教えないけれど。でもエルフの里の長老様に会うのは容易なことではないよ」
「そうなんだ。やっぱり難しいのね。前にエルフの里に行ったときは、長老様なんてどこにもいなかったからさ」
今度もう一度ゆっくり行ってみよう、というユーリナさんに頷くと、ヴィルさんは今度は魔王のことを話し始めた。
『神の御使いの欠片』と言われる錬金釜のこと、欲望を持ってそれを使った王が欲望に取り込まれて魔王となったこと、国の民の命すら錬金の糧にしたこと、そこから徐々に魔大陸が闇に染まっていったこと。そのせいもあって、錬金釜はエルフ族が責任もって回収破壊を繰り返していたこと。
もうヴィルさんは知らないこと何もないんじゃないかな、なんて思う。
「じゃあ、魔王を倒しただけじゃまたそのうち出来上がるってことだよね」
話を聞き終えた海里がポツリと呟く。
まさにそれだよね。魔王を倒しただけで魔大陸から帰って来たから。討伐組の四人が何とかしてるのかな。
「まさにそれだ。それを何とか阻止できないか、と考えてるんだ。まあ具体策は全くないし、実際に『神の御使いの欠片』がどんな形なのかもわからないわけだからな。その時に手伝って欲しくて、全てを君たちに話したんだ。俺が頼んでもクエストにはならないけどな」
「それはもちろん、時間が空く限り協力しますけど。まずは具体的に何をすればいいんですか」
ドレインさんの質問に、ヴィルさんが眉を下げた。
「初めから。それは物なのか概念なのか特別な魔素なのか、そこから調べないといけないから、皆はこのことを心にとめておいて、何か情報が入ったらそれを共有する、っていう初歩から始めないといけないんだ。よろしく頼む。とりあえず、共有できるサイトを立ち上げるから、数時間待ってくれ。立ち上げたらチャットで皆に送る」
「了解です。ただ情報を共有すればいいんですね」
「ああ。まずはそこからしか出来ないのが辛いところだな。とりあえず当面の脅威は去ったから、魔大陸を隅々まで堪能することも出来るわけだし」
なるほど、と皆が頷いた。すでに魔大陸に行く気満々だ。アクティブだね。
そっか。でもそうだよね。そこからだよね。錬金釜っていうから、俺が持ってる錬金釜みたいなものが地面に埋まってるっていう想像してたけど、そうじゃないかもしれないんだよね。先は長そうだな。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。