文字の大きさ
大
中
小
566 / 706
連載
687、勉強のレベルが……
唇を離して見上げると、ヴィデロさんが目を細めて俺を見下ろしていた。
久しぶりのキスと、抱擁。
そういえば最後に愛し合ったのってどれくらい前だったっけ。
「好き」
ギュッと抱き着いて、ヴィデロさんの胸に顔を埋める。
いっそのこと、ログインしてもらってマックとしてヴィデロさんを襲おうかな。それとも俺の部屋に連れ込もうかな。
そんなことを真剣に考えていると、頭の上にちゅ、とキスが降って来て、優しい声が囁いた。
「明日、一緒にログインして、母の所に行こう。無事は兄が伝えてくれたんだけれど、まだ母には会ってないから。だから、今日はゆっくり休んで……」
な、と言われたら、愛し合お、なんて言えないじゃん。
そっか。アリッサさん。まだヴィデロさんの無事な姿見てないんだ。
同じ道を通って、大変な想いをしたアリッサさんはきっと、ヴィデロさんの無事な姿を見るまではずっと心配し続けてると思う。
もし愛し合って寝坊してアリッサさんの元に行けなかったらと思うと、俺は安易にヴィデロさんに抱かれたいと言えなくなってしまった。
ああでも。
と確かに腕の中にあるヴィデロさんの感触に、ここでももう愛し合うこともできるんだ、と気付く。
「うん。明日朝一でアリッサさんの所に行こう。きっと心配してるよね。そうだよね、今日、ここに着いたばっかりだもんね」
それを考えると、きっとヴィデロさんにも色々と時間が必要かもしれない。
こっちと向こうでは勝手が違い過ぎるし、それに慣れないといけないかもしれないし。こっちの方が便利なこともあるし、不便なところもあるし。俺たちの場合はADOだから、で切り替えができるけど、ヴィデロさんはどっちも本当の世界なわけだし。
俺、全力でサポートするから。
気合いを入れていると、ヴィルさんが部屋から出てきた。
ヴィデロさんの腕の中にすっぽりと納まってる俺を見て、ヴィルさんが面白そうに顔を緩めた。
「そうしていると、健吾が全く見えなくなるな。頭一つ分の差か」
確かに! マックの時よりもさらに数センチ低いからね! この差が憎い……けれど、目の前に惜しげもなく晒された、シャツ越しの鍛え抜かれた胸筋が、うん。屈むことなく堪能できるのは、身長が低い特権だ。と思うことにする。
「でも目の前に垂涎の胸筋が発展されてるのはとても俺的に最高です」
腕の中からヴィルさんにそう答えると、ヴィルさんは声を出して笑った。ついでにヴィデロさんも肩を震わせていたので、笑ってたのかもしれない。揺れる胸が最高。低身長も悪くない……かも。
これからヴィデロさんはヴィルさんについてこっちの世界の勉強をする、ということで俺はお茶を淹れて自分の部屋に戻ることにした。
二人の前にカップを差し出すと、二人とも首を傾げる。仕草がシンクロしてるよ。可愛すぎか。
「どうして二つなんだ? 健吾の分は?」
「え、だって勉強の邪魔になるだろうから、部屋に戻ろうと思って」
「ケンゴも一緒に教えてくれないのか?」
「ええと、俺が教えられるのって、多分そんなに多くない、よ」
いいから座れ、とヴィルさんが目の前にあったお茶をヴィデロさんの横に移動する。
そして、自分でキッチンに向かうと、棚の下の方から高そうなお酒の瓶を取り出した。
「俺の飲み物はこれでいいから、そのお茶は健吾の分な」
グラスを二つ抱えてくると、少しだけ飲まないか、とヴィデロさんに差し出した。
「じゃあ、少しだけ。俺はケンゴが入れてくれた茶があるから」
「あはは、惚気か?」
「いいだろ」
「悪いとは言わない」
二人は酒の入ったグラスを手に取ると、軽くチンと合わせて口に運んだ。やり取りがすごく大人のそれに見えて、そういう関係の兄弟っていいな、なんて思う。
たとえ何年一緒にいたとしても、ああいうやり取りって、俺には出来ない気がする。雄太とだと……、無言で飲み勝負しちゃいそうだ。身体に悪そうだからやめとこう。クラッシュも俺と同じ歳なのに、ヴィルさんとヴィデロさんと一緒に飲んでるとちゃんと大人に見えるんだよなあ。ずるいなあ。
ヴィデロさんの勉強とは、こっちの世界での常識と、あと、ひらがなの書き写しなんだそうだ。
ヴィデロさんがメモする文字は、あまり見たことのない文字で、グランデ王国では一般的な文字だというのを教えてもらった。英語とも違うなと思ってみてたら。すらすらと流れるような文字を描くヴィデロさんはとても知的に見えて、俺はうっとりしながらヴィルさんの話をメモするヴィデロさんを堪能した。帰らなくてよかった。
「魔法はなくて、この部屋を照らす光は火ではなくて雷……よく壊れないな」
「雷とはまたちょっと違うからな。人工的に作られる電気が供給されているんだ」
「ほう……? どういう仕組みでだ」
ヴィデロさんの質問に、ヴィルさんが淀みなく答えて行く。
発電所がどうのこうの、ライフラインがどうのこうの、そこから教えるの? ってくらい深く取り下げて説明するヴィルさんに、ヴィデロさんもメモを取りながら色々と掘り下げていく。ああ、そこまで聞き出すんだ、なんて、俺が普段関心もなかったことを、ヴィデロさんが次々と質問していく。なんていうか、俺、自分が今まで住んでた世界なのに、こんなに物を知らなかったんだ、と認識させられるやり取りに、ちょっとだけ落ち込んだ。これ、俺にとってもすごい勉強になるんじゃないかな。っていうか聞かれたことほぼ全て淀みなく答えられるヴィルさんって、やっぱり頭脳ヤバい。そう思えるような質問をするヴィデロさんの頭脳も、ヤバい。どうしてヴィデロさんは古代魔道語が読めなかったんだろう。すぐに出来る様になりそうなものなのに。
俺はただ二人の会話を聞いているだけで、難しい言葉が次々飛び出していく。
専門用語までバシバシ飛び出して、流石アリッサさんの血を継いでるな、と思いつつ、欠伸を噛み殺す。
今日は色んなことがありすぎて、なんだか疲れた。
話についていけなくなった俺は、時折フッと頭の力が抜けて、首がガクンとなる。そこでハッと気付くんだけど、またしても。ヴィルさんとヴィデロさんの静かに話す声がとても耳に心地よくて。
気付くと俺は、心地のいい布団にくるまれていた。
そして、横にはとても心地のいい腕が。
ハッと目を開けると、すぐ隣でヴィデロさんが寝ていた。
「あれ、俺ログイン……」
そう呟いて、部屋の様子に覚醒する。
この天井、ヴィルさんの部屋の天井。
えっと。
静かにパニックを起こしながら心地よい腕の持ち主を覗き込むと、そこには、いつも朝ログインするときに見る寝顔が見えた。
ヴィデロさん。
ああ、なんていうか。
昨日の夜までちゃんとヴィデロさんがここにいるってことを見ていたのに。
寝ているヴィデロさんと部屋がミスマッチなことで、ちゃんとヴィデロさんがこの世界に来たっていうことを自覚するなんて。
鈍いにもほどがあるだろ、俺。
自分の髪に手を添えると、マックのアバターよりも少し短い自分の髪の毛がある。視線を下に向けると、昨日着ていたままの普段着。
靴下だけは脱がされていたけれど、インナーでも何でもない、そこらへんで売ってる長そでTシャツを着ている自分の身体があった。
改めて思う。
目の前のこの寝顔が失われなくてよかった。
じわ、と目元が熱くなる。
起きがけに泣きそうになるとか、何なんだろ俺。
そっとヴィデロさんの胸に手のひらをくっつけると、しっかりと鼓動が伝わって来て、さらに目が熱くなった。
きっと、昨日は浮かれまくっててちっとも冷静じゃなかったんだ。
そして、一晩寝て、ようやく頭が回り始めて、色々なことを考えることが出来るようになった気がした。
魔王が討伐されたこと。
雄太たちが真実を知ったこと。
未消化クエストの行方とか。
そして、目の前にしっかりとヴィデロさんがいること。
ああ、夢じゃなかった。
ホッと息を吐くと同時に、目に溜まっていた物が一滴流れた。
それがヴィデロさんの腕に零れ落ちると同時に、スッとヴィデロさんが目を開いた。
そして、俺と同じようにホッと息を吐いて、じっと俺の顔を見つめた。
「夢じゃなかった」
朝一で呟かれたヴィデロさんの言葉は、俺と全く同じ思いが込められていて。
俺は堪え切れずに、ヴィデロさんの胸に顔を埋めた。
ギュッと背中を抱え込まれて、すっぽりと腕の中に包まれた俺は、その腕の包容と体温、そして心臓の音に酷く安心したのだった。
感想 555
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結済。
おまけのお話を時々更新したりしています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
ふたりの動画をつくりました!
もしよかったら、プロフのwebサイトからどうぞです!
表紙や動画にはAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
【8月書籍化♡】キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
※表紙その他のイラストはAIにて作成致しております。(文字指定のみで作成しております)
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】憧れの先輩アルファに告白されたんだがどうやら罰ゲームだったらしい
ある日の放課後、校舎裏で花壇の手入れをしていた上田凛斗に告白してきたのは、憧れの先輩であり校内の人気者でもある上條蘭世だった。
目付きの悪さと暗い性格のせいで恋人どころか友達もいない凛斗は、戸惑いながらもお試しで蘭世との交際をはじめたのだが……
美形溺愛アルファ×三白眼平凡オメガ
ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました
ごく普通のベータとして生きてきた村井圭太(むらいけいた)は、ある日突然、希少な「後天性オメガ」に転化してしまう。
不安な日々が始まる……かと思いきや、幼馴染アルファの白河泰雅(しらかわたいが)とはまさかの両思い。
早々に『番(つがい)』となり、幸せな日々を送っていた。
「オメガになっても俺は俺」と持ち前のポジティブさで新しい生活に向き合っていく圭太。
だが、晴れて番となった泰雅は、今まで以上に過保護になっていく。
どんなトラブルも二人なら大丈夫!
過保護で執着強めなスパダリ幼馴染攻め(α) × ポジティブで男前な元ベータ受け(β→Ω)
明るくて幸せいっぱいオメガバース!
私の大好きなオメガバース。
愛をたくさん詰め込んだので、みなさまにも楽しんでいただけますように。
辺境食堂の隠れΩなのに、拾った皇帝陛下が嫁になれと迫ってくる
元宮廷料理人で隠れΩの青年レオは、帝国の辺境で小さな食堂兼農園を営みながら、誰にも縛られない平穏なスローライフを送っていた。
ある日、レオは裏庭の不思議な洞窟で、血まみれになって倒れていた大柄な青年アレクを拾う。
彼の正体は、お忍びで辺境を訪れていた帝国最強のα皇帝だった。
身分を隠してレオの家に居候することになったアレクは、レオの作る絶品の手料理と、彼から漂う穏やかな香りに冷え切った心を溶かされていく。
一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。