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696、ヴィデロさんにとってはデートも勉強みたい
ヴィルさんの用意した服を着たヴィデロさんは、斃れるかと思うほどにかっこよかった。
シャツはまだ見慣れてたからよかったけど、ジャケットの様な上着を着たヴィデロさんは、それはそれはかっこよかった。もうかっこいいしか出てこない。好き。
思わず連発すると、ヴィデロさんは苦笑して、「ケンゴもその服似合うよ」とパーカーのフードを直してくれた。
二人で玄関を出て、エレベーターで一階まで降りる。
外に出ると、ヴィデロさんは辺りを警戒するような眼つきでビルの周りを見た。
「もしかして外に出るのは初めてだったりする?」
「ああ。ずっとこの建物の中にいたから。明日は母と共に出かけるが……すごい景色だな。緑がない。冷たい建物ばかりだ。それに、あれはなんだ?」
ヴィデロさんが指さしたのは、駐車場に停まってる車。
乗り物だってことを説明すると、ヴィデロさんはすごく不思議な顔をしていた。
「兄に見せてもらった車というものはもっと形が違ったが」
「かなり種類は多いから。俺も普段は自転車に乗ってるしね」
「ジテンシャ……」
「向こうに置かれてるのが自転車」
「ああ、あの薄い魔道具か」
「魔道具……ではないかな」
足でペダルを漕いで進むんだよ、と教えつつ、駐車場を横切って道路に向かう。
ヴィデロさんは真剣な顔で俺の説明を聞いている。
「こうも違うと混乱するな。兄の仕事場を見た時も同じ気分になったが……迷惑を掛けたらすまない」
「迷惑じゃないからいいよ。なんでも聞いて」
「じゃあ、あの車というものは馬に引かれているわけでもないのにどうやって走ってるんだ?」
「ええと、エンジンがあって、ガソリンを燃料にして、それで走るんだよ」
最初から難しい質問が来た。
もっと詳しくエンジンとは何だとか聞かれたら、早々に教えられなくなりそうだよ。ドキドキしていると、ヴィデロさんは今度は道路に視線を向けた。
歩道、車道、信号、とか呟いてるから、そこらへんはヴィルさんにすでに教え込まれたらしい。
「魔物はいないが、車は魔物並みに危ないから、車道は歩くなと言われたが……確かに、あの勢いで鉄の塊に当たられたら痛そうだな」
「痛いでは済まないと思うよ」
この世界では死に戻り出来ないからね。
ヴィデロさんにこまごまと教えながら、近くのショッピングモールまで歩く。
ある程度はヴィルさんから説明を受けているらしいけど、聞くのとみるのとでは全然違うな、とヴィデロさんは困ったように苦笑していた。
もう少しで目的のショッピングモールに着く、というところで、ファーストフード店が目に入った。
「あの店が、俺が初めてヴィルさんに会ったところなんだ」
「兄に?」
「うん。ヴィルさんの足に躓いてさ」
奢って貰ったと説明すると、ヴィデロさんは真顔で「知らないやつに奢ってもらうな。下心があるかもしれないだろ」と忠告してきた。下心……俺が可愛い子だったらそういうのもありかもしれないけど、ないよな。うん。
「ヴィデロさんはナンパとかされそうだから気を付けてね」
「俺はケンゴ以外目に入らないからな……じゃあ、俺がナンパされないように、ケンゴが手を繋いでいてくれないか? 自分の物だとアピールすればナンパもないだろ」
「うん!」
ヴィデロさんの提案に頷いた俺は、ヴィデロさんの手をしっかりと握った。顔が緩む。デートって感じがするよね。
魔物狩りデートでも素材採取デートでもないから、今日は不測の事態は起こらないよね。
……って思ったのはフラグだったらしい。
お目当て、というかヴィルさんお薦めの服屋さんでヴィデロさんにすっごく似合う服を数点買って、ついでにヴィデロさんがこれがいいと選んでくれた俺の服も一着だけ買って、少しカフェで喉を潤してから、モールの中にあるドラッグストアに寄ったところで、俺とヴィデロさんは、ばったりと腕を組んで歩く雄太とユイに出くわした。
「あ、ヴィデロさんだ! 本物のヴィデロさんがいる!」
ユイは俺たちを見かけた瞬間目を輝かせてこっちを指さした。
そしてその場所は、意図せずスキンとかローションとか置いてある棚の前。
決してそこで物を選んでいた訳ではない。あとでそっとカゴに忍び込ませようと思っていたけど、今はただほんとに通りかかっただけなんだけど。よりによってその場所で、俺たちと雄太たちは運命的な出会いを果たしたのだった。
雄太は普段と変わらない顔のまま、ヴィデロさんに「っす」と挨拶をし、ヴィデロさんも淀みなく「また会ったな、高橋」と返す。
ヴィデロさんが普通に日本語を使ってるのを聞いて、雄太はちょっとだけ目を瞠り、少しだけ口元を上げた。
「こうして改めて会うと、不思議な気分っすね」
「ああ。でも、こちらでもよろしくな」
「もちろん」
ヴィデロさんと雄太が握手しているのを見て、雄太が本当に全ての話を呑み込んで理解してくれてたんだなって言うのがわかって少しだけ感動する。
持つべきものは親友だ。
ジーンとしていると、雄太はチラリと棚を見て、スッと手を伸ばした。
「こっちには香油とかそういうのないんで、これを使って慣らしてこれを装着するのがマナーっす」
そう言って、ヴィデロさんの手にあるカゴに、ローションと特大サイズのコンドームをそっと入れる。
待て。どうしてそうなる。さっきの感動を返せ。
「これはどう使うんだ?」
ヴィデロさんが雄太の入れたコンドームを見下ろして首を傾げると、雄太が懇切丁寧に説明を始めようとしたので、俺はストップをかけた。ここ、店。公共の場。そういう話はダメ、絶対。
っていうか何教えようとしてるんだよ雄太。
ヴィデロさんはここでは説明してもらえないとわかると、「わかった。じゃあ兄にでも聞いてみる」と頷いた。そういう系はお兄ちゃんに聞くのやめて。次から顔を合わせるのが辛いから。身体の心配なんてされたら居たたまれないからほんとやめて。ヴィデロさん、最近ヴィルさんを滅茶苦茶頼りにしてるよね。でもさすがに兄弟でコンドームの付け方レクチャーはよろしくないと思うんだ。
目まぐるしく照れたり青くなったりしていると、雄太は首を横に振った。
「いや、健吾に聞けばいいっすよ。使い方くらいはわかるから。……多分使ったことねえだろうから、一つ二つ壊すかもしれねえけど」
「壊す……? ああ、わかった。ケンゴ、使い方は知ってるのか?」
「ああ、うん……」
サイズも多分それで合ってるよ……。
でもヴィデロさん、雄太に選んでもらった物がヴィデロさんのヴィデロさんに被せる物だってわかったら、どういう反応するんだろう。ちょっとだけ気になる。
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