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727、入手したレシピは
籠を横に置いて、貰ったレシピを並べてみる。
前に本人から貰ったレシピと、ヴィルさんに貰ったレシピ、そして、レガロさんから貰ったレシピは、全て違うお菓子のレシピだった。
貰ったからには作ってみたい。
ということで、今日は調薬錬金じゃなくて、お菓子作りを敢行することにした。
材料を見てみると、エルフの里にある素材、モントさんの所にしかない素材、砂漠都市にしかない素材等々、あらゆる名産を使っていた。あのエルフさん、ほんとに勉強熱心なんだ。
書かれているままにカクトゥスを切ってすりつぶして、そこから出てくる液体をゼラチンがわりに使う。スライムゼリー系の物よりも味がいいらしい。色合い的にはスライムゼリーの方が綺麗だったりするんだけどね。
その液体と絞ったばかりの果汁を混ぜて、色合いを出すためと食感のためにその果肉を入れる。最後に小豆に似た豆を甘く煮たものを詰め込んで冷やす。
固まったらゼリーの出来上がり。この小豆みたいな豆が秀逸で、どの果物とも相性バッチリ。めちゃくちゃ美味しいんだ。酸っぱい果実なんて合わない気がするのに、その酸味を豆の甘さが包み込むようにまろやかにして、しかも元の味を打ち消さない。どんなお菓子でもプロ級の味に仕上がりそうな感じ。この豆はエルフの里特有の物で、もちろん錬金素材じゃない。
でも煮物に使おうとすると、途端に一味足りなくなるという面白い豆なんだ。お菓子専用と言っても過言じゃないくらい。
簡単なのに美味しくできるゼリーを作り、そこからがレガロさんから貰ったレシピの本領発揮。このゼリーをさらに発展させるレシピだった。
出来上がったゼリーを小さく切って、グラスに入れ込む。そこに果実酒をほんの少しと、果汁を入れて、果物を飾る。隠し味に、リモーネの実を凝固させた酸っぱさ100%の物をクリームの上から載せて出来上がり。簡単なんだけど、見た目が凄く綺麗なんだ。アルコール分がほぼない果実酒の中に入っているゼリーが赤くて綺麗だし、果汁はオレンジ色なのにとても澄んでいて中のゼリーが余すことなく見えるし、上に飾られたクリームは、たんまり入れられたゼリーによって掻き混ぜない限り混ざることが無いし、上に載ったリモーネの飾りは柔らかいので好きな形に出来るから飾りとしても可愛いし。
出来上がったフルーツポンチ的な物をスクショして、早速スプーンですくって食べてみる。
「あ、うま……。小豆がめちゃくちゃ合うって面白過ぎる。これ、絶対に向こうで作ってもこんな風にならないよ……豆、万能すぎるだろ」
思わず感想を零してしまう程美味しかった。何より、小豆の優しい甘さとリモーネの酸っぱさがとてつもなく合っていて、幸福になる。
ついついチャットを開いて、ヴィルさんとヴィデロさんにスクショを添付して「これすごく美味しい」と送ってしまった。
雄太に送るノリで送った後で、あ、日本語だったと後悔したけれど、すぐに返って来たヴィデロさんからのチャット内容に顔が綻ぶ。『いいな』って可愛すぎかなヴィデロさん。すぐにもう一度『つくつて』と送られてきて、俺は思わずテーブルに突っ伏してしまった。いくらでも作るとも。可愛い。好き。
悶えていると、隣の建物の連絡通路からノックの音が聞こえてきた。
「健吾、入るよ」
入ってきたのはヴィルさん。
名前の欄が灰色だったからログインしてないと思ってたんだけど。
と首をひねると、ヴィルさんが種明かししてくれた。
「ギアとパソコンを連動させていたから、健吾のチャットメールにすぐ気付いたんだ。俺にも一つ作ってくれないか、言い値で払う」
そう言いつつ、キッチンテーブルの椅子に座り込んで、ふと、テーブルの上にある籠に目を止めた。
「この卵……」
ヴィルさんが目を見開き、そっと手を伸ばす。
触れる直前に躊躇う様に手を止めて、俺の方に視線を向けた。
「これは、健吾が?」
「はい。クラッシュに貰いました。ヴィルさんと一緒に行ったところで手に入れたって聞いたんですけど」
「確かに、俺と天使で聖域に足を踏み入れた時に見つけたものだ。そこら辺の異邦人プレイヤーに売ったって言ってたが、巡り巡ってここに来たのか」
触れても? と訊かれて頷くと、ヴィルさんは優しい手つきで卵を持ち上げた。
「前よりもしっかりと体温を感じるな。初めは、とても生きているとは思えないくらいに冷たかったんだ。でも、一角獣が闇に染まりながらも必死でそれを守っていて、だから、まだ生きているんだ、と。俺にはそれを孵す力はないから、天使に託したが。そうか。健吾の手に渡ったのなら、安心だな」
そっと卵を手で包み込み、生きていることを確認するように撫でるヴィルさんの前に、俺はそっとスクショで送ったフルーツポンチもどきを置いた。
「どうぞ。レシピを貰ったので作ってみたんです。めちゃくちゃ美味しいです。ヴィルさんのお気に入りの豆も入ってるのでお勧めです」
「あのエルフの里で食べた豆か。楽しみだな。いただきます」
ヴィルさんは卵をそっと籠に戻すと、早速スプーンでゼリーを掬って口に入れた。
「~~~~っ、んん」
スプーンを持ったまま、呻き、上を向き、突っ伏して、悶えるヴィルさん。どうしたんだろ。不味かった? 口に合わなかったかな。
ドキドキしながらヴィルさんの行動を見守っていると、テーブルを軽くバンバンしたヴィルさんは、ようやく顔を上げて、ほぅ……と息を吐いた。
「……健吾、最高だ……なんだこの至福の食べ物は……こんなものがこの世にあったとは……素材は俺がたんまり仕入れよう。健吾、これを、大量に作ってくれないか。お礼にこの工房を増築しよう。弟も錬金釜を手に入れたんだろう? 二人で錬金しても狭くない錬金工房を作ろう」
「ええええ、大事になってる!?」
ヴィルさんが悶えたのは、とてつもなく美味しかったかららしい。だからってフルーツポンチもどきで工房増築とかやり過ぎだから。
作るけどね。そこまで手間暇かからないからいくらでも素材がある限り作れるけどね。そこまでお気に召してくれたのはちょっと嬉しい。
ヴィルさんはまたしてもゼリーを口にした後悶え、食べ終えるのが勿体ない、とポツリと呟きながらも次々口に入れていった。
すっかりグラスが空になると、名残惜し気に中を覗き込む、シュンとした顔で溜息を吐いたヴィルさんは、グラスから意識を背けるかのように卵に視線を動かした。
「早く生まれて来い。こんな美味しい物が食べられないのは人生損してるぞ。お前の親はとても料理上手だぞ」
「いやいや、卵に何言ってるんですか」
「何が生まれるのか楽しみだな。守っていた一角獣はとても綺麗だったから、彼の様な一角獣が生まれるのか」
ヴィルさんがにこやかに呟く。
そうか。ヴィルさんはこの卵が何の卵か知らないんだ。
「その卵、一角獣じゃなくてブルーテイルの卵ですよ」
俺がそう教えると、ヴィルさんは楽しそうに目を輝かせた。
「どうしてわかったんだ? 鑑定で見れたのか?」
「鑑定眼では『???の卵』ってしか出ませんでした。なので、王宮にいる聖獣に聞きに行ったんです」
「聖獣……王宮にいるのか。テイマーは誰か聞いてもいいか? どんな聖獣だろう」
「テイマーはユキヒラです。時の歯車の部屋をずっと守ってたらしいですよ。見た目は白地に白の縞の虎です」
「ユキヒラか。今度聖獣を紹介してくれるよう頼んでみよう。でも、そうか。時の歯車の部屋の守護獣なら、色々と知識もあるんだろうな……」
あ、とヴィルさんの様子を見て、やっちゃいけないことをしてしまったということを悟る。
ヴィルさんにネーヴェを会わせたら、ネーヴェが大変なやつだ。ごめんネーヴェ。ユキヒラ。
俺はヴィルさんの気を逸らすために、残りのゼリーでもう一杯フルーツポンチもどきを作ってヴィルさんの前に差し出したのだった。
-・‐・‐・‐・‐・‐
『けんご
ちようやく
がんばつて』
というチャットがヴィデロさんから届いたマックは一日中調薬レベルを上げていたとかなんとか……
※ヴィデロさんのメッセージは仕様です
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