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731、ヴィデロさんはやっぱりスマート
ヴィデロさんの錬金は、なんていうか、スマートだった。
文句なしだった。
でも難題は、素材の名前がわからないこと。謎素材としか現れないんだって。錬金術師じゃないからなのかよくわからないけれど、ヴィデロさんは一度素材を見せて名前を教えると、完璧にそれを覚えた。アリッサさんの血、おそるべし。
なので、俺が持ってる素材は片っ端から教えることにした。
すると、レシピと素材を見比べて、素材名がわからなくても錬金が出来るようになった。えええ、優秀過ぎる。
多分新しい謎素材を手に入れても、レシピで確認してそれがどんな名前の素材なのかとか、判別できそうな感じがする。
素材名を呟きながら錬金釜に放り込んでいくヴィデロさんは、真剣な面持ちで釜を掻き混ぜている。
今作ってるのは、農園関係の錬金レシピで、『育成補助剤』というもので、本当に簡単だから俺も錬金初期はかなりお世話になった代物。全てカイルさんに買い取ってもらっていて、いい小遣い稼ぎになってたんだ。全て薬草に消えていったけれども。
そして今、ヴィデロさん作『育成補助剤』が出来上がった。ただ単に栄養が不足しがちな植物に与えるとそれを補う薬なんだけど、農園では馬鹿に出来ないんだって。錬金できる人が全然いなかったから、錬金系農園レシピの薬は半ば伝説化してるらしいけれど、農園の人たちは大げさに騒いだりせずに、秘匿すべきところは秘匿するように教えてくれながら買い取ってくれる。優しい。
「思ったよりは簡単だな」
出来上がった液体を瓶に詰めながら、ヴィデロさんがホッと息を吐く。
最初から最後まで、どこも危なげなくスマートに錬金出来ていた。
あれ、俺、最初の時は「ボンッ」って釜から盛大な煙が出てた気がしたんだけど。
なんていうか、スマート。流れが完璧っていうか。見てて、教えることは素材のこと以外何もない、と俺は錬金もスマートにこなすヴィデロさんに何度目かわからないけれど、惚れ直していた。
謎素材は俺から買い取るとか言ってたけど、いくらでも使っていいのに、と好きな物を好きな時に使うよう、工房インベントリはヴィデロさんと共同にした。そしたら使った素材分は端っこの引き出しに入れておくな、とヴィデロさんがお金をそこに入れた。
じゃあそのお金が溜まったら、ヴィデロさんと豪遊デートしよう、と手を握りしめて誓うと、ヴィデロさんは笑って「じゃあ沢山錬金しないとな」とさらにお金を追加していた。
次は何を作ってみようか、とレシピとにらめっこしているヴィデロさんを愛でながら、俺も隣で新しいレシピに挑戦してみようと、自分のレシピ集を開いた。
二人でひたすら錬金をして、何個かアイテムを作ると、ヴィデロさんはふう、と息を吐いて椅子の背もたれに寄り掛かった。
「思ったよりも魔力を取られるんだな。そして、素材が全てマック任せなのはやっぱり厳しいな……」
本格的に集めるか、謎素材、と呟いたヴィデロさんは、錬金釜をインベントリにしまい込んだ。もう今日は終わりってことかな。
キリが良かったので俺も錬金釜をしまって、二人でキッチンに移動する。
お茶を淹れるから座ってて、とカップを用意していると、ヴィデロさんが卵を手に乗せて優しく撫で始めた。
「やっぱり少しだけ大きくなってるな」
「え、ほんとに? 全然わからなかったけど」
見た目全然変わってないよね、とカップを手にヴィデロさんの横に行くと、ヴィデロさんが手の平に乗せた卵を俺に見せた。
「最初はここの関節までの大きさだったんだ。でも今はほら、関節半分くらい成長してる」
最初から大きさを見てたんだ、と感心して、そして少し大きくなった卵に嬉しくなった。
でも、卵って育つんだっけ。普通は生まれたら生まれた大きさのまま中の子が出て来るんじゃなかったっけ。
鑑定眼で見ても、まだまだ眠っている状態らしくて、起きる気配がないのが残念。
ヴィデロさんの手の卵を一緒になって撫でていると、ヴィデロさんが「そうだ」と視線を向けてきた。
「母が、今度家族でどこかに美味しい物を食べに行かないかと言ってた。ケンゴのご両親も誘おうって」
「アリッサさんが。そういえば結婚するときってお互い両親を紹介したりするんだよね。え、どうしよう」
「どうしたんだ? 何か不都合でもあるのか?」
「えっと、ないけど、ヴィデロさんをうちに連れてく時より緊張しそう」
ドキドキする、と胸を押さえると、ヴィデロさんは声を出して笑った。
大丈夫だろ、と頭にキスをされて、思わず抱き着く。
「それと、式はどうする、と言われたな。式ってケンゴの世界ではどんな感じでやるんだ? 神殿……はないんだろ」
「式……俺も詳しくはないんだけどね、様式によって違うみたい。でも一律同じなのが、神様の前で愛を誓って、指輪を交換して、誓いのキスをするんだったと思う。その後、披露宴をして、皆で豪華な料理を食べる」
「皆……? 誓いはこっちと同じような感じなんだな。母に聞いたら笑いながらケンゴと二人で調べるものだって言われたから。ブライダル関係に相談、とも言われたが、何のことやらさっぱりなんだ」
「ここは婚姻の儀を受けるだけだからね。式かあ……なんか、ヴィデロさんと結婚できるの嬉しい」
「ふふ、もうしてるだろ」
「そうだけど」
「こうして、俺たちの子供もいる」
二人の手の平の中にいる卵に視線を落としながら、ヴィデロさんが優しい笑顔を浮かべる。
そうだね。なんていうか。
ふと、頭の中に、レガロさんの言葉やエルフの長老様の言葉が浮かんできた。
これが『縁』っていうのなんだろうな。って、そう実感する。
「ヴィデロさんと『縁』が出来て、嬉しい。好き」
「俺も。こんなに穏やかな気分で毎日を過ごせるようになるなんて、ほんの少し前までは想像もつかなかった」
「俺が幸せにするね」
「もうなってるよ。マックは?」
「幸せ過ぎてこれがデフォになっちゃってるから、もしこの後不幸になったりしたら再起不能になりそう……」
「しないよ。絶対に不幸になんてさせない」
その自信がかっこいい、と呟いた唇は、ヴィデロさんの唇に塞がれた。
俺が両親に連絡を入れるまでもなく、ヴィルさんがうちの母さんに今度家族同士でご飯を食べようという打診をしていたらしい。
母さんに連絡を入れたらそう言われて、すでに日にちを調整中なんだそうだ。皆フットワーク軽すぎ。
「というわけで、食事会の日は会社も休みにするから安心してくれ。ヴィデロも特別休暇出るはずだし、母も無理やり休んで来ると言ってるから」
段取りも完璧だった。その日を待つだけだった。
そして目の前に出される結婚関係の雑誌。必要だろってウインクされて、ヴィデロさんへの入れ知恵は、アリッサさんとヴィルさん二人の共謀だということが分かった。用意良すぎだろ。
ヴィデロさんは横から俺の持ってる雑誌を覗き込んで、「こんなものまであるんだ……」と少しだけ驚いていた。向こうの婚姻はお金もかからないから、こういう物はいらないんだよな。
それにしても、とぺらっと雑誌をめくって、ページに視線を向ける。
ほとんどがドレスの紹介みたいだった。数ページだけ男性用の燕尾服みたいなものが載ってるけど、これってもしかして女性用雑誌じゃないかな。チョイス間違いかな、と首をかしげていると、ヴィルさんが苦笑しながら手を伸ばしてページをペラペラと捲った。
「最後の方に、通常及び簡易式に関する流れが載っているから、それを参考にと思ったんだ。健吾も全くこういうのはわからないだろ」
「全く全然わからないです」
そういうことだったのか、と納得した。
そこには値段も載っていて、簡易式と通常式の比較まで載っていて、かなり見やすい状態になっていた。
「今日は二人でそれを見ながら相談したらいい。それと、あとで部屋に来てくれ。健吾にも手伝って欲しいことがあるんだ」
「あ、はい」
言われるままに頷いて、雑誌片手に自分のデスクに戻る。実はこんな話をしてるけど、仕事中だったりする。ヴィデロさんもお昼を食べ終えて、またひと仕事をしに行くらしい。ヴィルさんから印刷されたマップを受け取って頷いている。
もしかして、ヴィルさん探知機に引っかかるものはヴィデロさんが調べるとか……? 危なくないかな。少しだけ心配になりながら別の部屋に向かうヴィデロさんに手を振って、俺もまた仕事を再開するのだった。
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