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連載
740、「ただいま」
鳥が空を飛びまわりながら、一声鳴く。
ピィィィ、と高い鳴き声が響くと、どこからか、ピシッと音がした。
思わず辺りを見回したけれど、特に変わったところはない。
もう一度鳴き声が上がる。
すると、今度はピシッという音と共に目の前に黒い線が見えた。
鳥は旋回するのをやめて、俺の肩にとまると、ぐいぐいと頭を頬にこすりつけてきた。
その力強さと可愛さに、思わず顔が綻ぶ。
「もうすっかり元気だね。なんちゃってポーションで元気になったわけじゃないんだろうけど。でもよかった」
「ピィ」
俺の言葉に返事をした鳥は、肩の上からもう一度、ピィィィと鳴いた。
目の前の黒い線が、亀裂の様にひび割れていく。
もしかして、ようやくここから出られるのかな。
鳥の頭を撫でながら、目の前の亀裂を見つめていると、鳥が俺の指に頭を擦りつけてから、飛び立った。
俺の周りを一周してから、鳥は扉の開いたままだった本堂に飛び込んでいった。
目で追うのもやっとという速さだった。
鳥が飛び込んだと同時に、本堂のドアがパタンと締まり、更に目の前の亀裂が大きくなっていく。
その亀裂の間から、何か光る物が見えた。
次の瞬間。
「ケンゴ!」
胸が熱くなるような、俺を呼ぶ声が耳に飛び込んできて、俺は反射的に「ヴィデロさん!」と返していた。
亀裂から見えた光る物が、こじ開ける様に横に動き、亀裂を切り開いていく。
よく見ると、それがサバイバルナイフの切っ先だということが分かった。
もしかして、ヴィデロさんが亀裂を大きくしてる、とか。
まるで魔物を狩るときのように躊躇いなくナイフが空間を切り裂き、そこから一気に空まで亀裂がパリパリパリ、と入っていく。
まるで現実にはあり得ないような光景に息を飲んでいると、亀裂の入った景色が一気に崩れ落ちていった。まるで、ガラスが割れたかのように景色が割れて、俺を覆っていた世界が崩れ落ちていく。
崩れ落ちた景色の先には、泣きそうな顔をした、ヴィデロさんがいた。
ヴィデロさんは手に持ったナイフを投げ捨て、俺の方に走って来た。
そして、俺を腕に抱き込んで、苦しいくらいに抱きしめてきた。
「よかった、ケンゴ、無事で……っ」
「ほんとに? ヴィデロさん……?」
鳥が見せてくれた都合のいい夢なんかじゃなく?
呆然と抱き締められていた俺は、その力強い腕と、温かくて震えるその身体で、ぼんやりと「本物だ」と理解した。
「ヴィデロさん……」
抱き上げられて、首に腕を回す。
ああ。俺、帰ってきたんだ。
その呟きに、ヴィデロさんの腕が一層力強く俺を抱き締めた。
ヴィデロさんに抱き上げられたまま運ばれた俺は、鳥居の外で何かをしていたヴィルさんと合流した。ヴィルさんも俺を見るなりヴィデロさんごと抱き締めて来て、そのことにヴィデロさんが笑顔を浮かべた。
色々ありすぎて、ちゃんと帰ってこれたんだってことがいまだに実感できない俺は、ヴィデロさんの腕の中でヴィデロさんの体温を感じていた。
改めて中で起きたことを二人に説明すると、ヴィデロさんは渋い顔になり、ヴィルさんは目を輝かせた。
後ろを振り返っても、本堂は既に扉を閉じていて、ただ俺がなんちゃって調薬をした残骸と、ヴィデロさんが作った葉っぱのコップに残っているなんちゃってポーションだけがぽつんとある。
「俺たちがここにいた時には、そんな鍋とコンロはなかったから、空間はある程度繋がっているのか……どの器具を使えばここを調べられるか……」
ヴィルさんはブツブツ独り言を言いながら、何やらどこかに電話し始めた。
ヴィデロさんは、コップの中に入った緑色のなんちゃってポーションの近くに行くと、しゃがみ込んでそれを指先に取った。
そしてペロッと舐めて、目を見開く。
「ポーションだ……本物の」
「え。ほんとに? じゃあ、あの薬草は本物の薬草だったのかな」
「薬草なんてあったのか。こっちの世界にはない物だと思ってたんだけど」
「あっち側の裏手にあったんだよ。鳥に教えてもらって」
「その鳥はもういないのか? そういえば俺が出した水を飲んだって」
「え? うん。ええと、昨日、俺が言ったこと聞こえてた?」
「ああ、微かに。雑音が酷かったが。声で、無事なことがわかってホッとした」
「俺、ヴィデロさんの声聞こえなかったよ」
雑音しか聞こえなかったというと、ヴィデロさんが「仕方ないだろ。俺もほんの少し聞き取れただけだったから」と苦笑した。
鳥に教えてもらった薬草の場所にヴィデロさんと向かってみると、そこには何もなかった。
やっぱりあそこは別空間だったんだな、と顔を上げると、ヴィデロさんがすぐ近くで「残念だったな」と俺の頭を撫でた。
その手の感触、間近にいるヴィデロさんに、俺はなんだかわからないけれど、一気に「帰って来たんだ」という安堵がこみ上げてきた。
今度こそ自分からヴィデロさんに抱き着いて、帰ってこれた、と呟く。
きっと、あの鳥が力を貸してくれたんだ。だって鳥が鳴いたら空間が割れたから。
ヴィデロさんが空間をナイフで切り裂く姿もかっこよかったけど。
俺は本堂の方を向いて、ありがとうと呟いた。
あの後回る予定だった場所はキャンセルして、俺とヴィデロさんは帰路についた。
ヴィルさんは現地に残ると言って、二人分の旅費をヴィデロさんに握らせて、忙しそうにどこかに連絡を入れていた。
石段を下りると、そこに停まったオフロードバイクが目に入り、これでヴィルさんはここまで来たのか、と本当に何でもできるヴィルさんにちょっと感心してしまった。本人は既に神社の中を走り回っているのか、姿が見えなかったけれど。ヴィデロさん曰く、凄い音が森に響いていたんだそうだ。そして、これをかっ飛ばしてきたヴィルさんを見て、脱力したんだとか。
それ、ヴィルさんの姿を見て安心したからじゃないのかな、なんてちょっと思ったけれど、口には出せなかった。
道中、そしてバスの中、新幹線の中。ずっと俺とヴィデロさんは手を繋いでいた。
我が家、というか、ヴィルさんの持ちビルに帰ってくると、ドッと安堵感がこみ上げてきた。
もしかしたら、こうして二人でこの部屋帰ってくることが出来なくなるかもしれない、なんて、全然考えもしなかった。でも実はそんな普通が全然当たり前の事じゃなくて。
繋いだ手の温かさが、今はすごく稀有で大事な物なんだっていうのがわかる。
たった一晩離れていただけなのに。
でも、帰ってこれる保証もなくて。もし鳥がいなかったら。もしヴィデロさんが空間を切り裂いてくれなかったら。俺はあそこにとらわれたままだったのかな。なんて思ったら、いてもたってもいられなくて。
その大事な愛しい背中に抱き着いていた。
ピィィィ、と高い鳴き声が響くと、どこからか、ピシッと音がした。
思わず辺りを見回したけれど、特に変わったところはない。
もう一度鳴き声が上がる。
すると、今度はピシッという音と共に目の前に黒い線が見えた。
鳥は旋回するのをやめて、俺の肩にとまると、ぐいぐいと頭を頬にこすりつけてきた。
その力強さと可愛さに、思わず顔が綻ぶ。
「もうすっかり元気だね。なんちゃってポーションで元気になったわけじゃないんだろうけど。でもよかった」
「ピィ」
俺の言葉に返事をした鳥は、肩の上からもう一度、ピィィィと鳴いた。
目の前の黒い線が、亀裂の様にひび割れていく。
もしかして、ようやくここから出られるのかな。
鳥の頭を撫でながら、目の前の亀裂を見つめていると、鳥が俺の指に頭を擦りつけてから、飛び立った。
俺の周りを一周してから、鳥は扉の開いたままだった本堂に飛び込んでいった。
目で追うのもやっとという速さだった。
鳥が飛び込んだと同時に、本堂のドアがパタンと締まり、更に目の前の亀裂が大きくなっていく。
その亀裂の間から、何か光る物が見えた。
次の瞬間。
「ケンゴ!」
胸が熱くなるような、俺を呼ぶ声が耳に飛び込んできて、俺は反射的に「ヴィデロさん!」と返していた。
亀裂から見えた光る物が、こじ開ける様に横に動き、亀裂を切り開いていく。
よく見ると、それがサバイバルナイフの切っ先だということが分かった。
もしかして、ヴィデロさんが亀裂を大きくしてる、とか。
まるで魔物を狩るときのように躊躇いなくナイフが空間を切り裂き、そこから一気に空まで亀裂がパリパリパリ、と入っていく。
まるで現実にはあり得ないような光景に息を飲んでいると、亀裂の入った景色が一気に崩れ落ちていった。まるで、ガラスが割れたかのように景色が割れて、俺を覆っていた世界が崩れ落ちていく。
崩れ落ちた景色の先には、泣きそうな顔をした、ヴィデロさんがいた。
ヴィデロさんは手に持ったナイフを投げ捨て、俺の方に走って来た。
そして、俺を腕に抱き込んで、苦しいくらいに抱きしめてきた。
「よかった、ケンゴ、無事で……っ」
「ほんとに? ヴィデロさん……?」
鳥が見せてくれた都合のいい夢なんかじゃなく?
呆然と抱き締められていた俺は、その力強い腕と、温かくて震えるその身体で、ぼんやりと「本物だ」と理解した。
「ヴィデロさん……」
抱き上げられて、首に腕を回す。
ああ。俺、帰ってきたんだ。
その呟きに、ヴィデロさんの腕が一層力強く俺を抱き締めた。
ヴィデロさんに抱き上げられたまま運ばれた俺は、鳥居の外で何かをしていたヴィルさんと合流した。ヴィルさんも俺を見るなりヴィデロさんごと抱き締めて来て、そのことにヴィデロさんが笑顔を浮かべた。
色々ありすぎて、ちゃんと帰ってこれたんだってことがいまだに実感できない俺は、ヴィデロさんの腕の中でヴィデロさんの体温を感じていた。
改めて中で起きたことを二人に説明すると、ヴィデロさんは渋い顔になり、ヴィルさんは目を輝かせた。
後ろを振り返っても、本堂は既に扉を閉じていて、ただ俺がなんちゃって調薬をした残骸と、ヴィデロさんが作った葉っぱのコップに残っているなんちゃってポーションだけがぽつんとある。
「俺たちがここにいた時には、そんな鍋とコンロはなかったから、空間はある程度繋がっているのか……どの器具を使えばここを調べられるか……」
ヴィルさんはブツブツ独り言を言いながら、何やらどこかに電話し始めた。
ヴィデロさんは、コップの中に入った緑色のなんちゃってポーションの近くに行くと、しゃがみ込んでそれを指先に取った。
そしてペロッと舐めて、目を見開く。
「ポーションだ……本物の」
「え。ほんとに? じゃあ、あの薬草は本物の薬草だったのかな」
「薬草なんてあったのか。こっちの世界にはない物だと思ってたんだけど」
「あっち側の裏手にあったんだよ。鳥に教えてもらって」
「その鳥はもういないのか? そういえば俺が出した水を飲んだって」
「え? うん。ええと、昨日、俺が言ったこと聞こえてた?」
「ああ、微かに。雑音が酷かったが。声で、無事なことがわかってホッとした」
「俺、ヴィデロさんの声聞こえなかったよ」
雑音しか聞こえなかったというと、ヴィデロさんが「仕方ないだろ。俺もほんの少し聞き取れただけだったから」と苦笑した。
鳥に教えてもらった薬草の場所にヴィデロさんと向かってみると、そこには何もなかった。
やっぱりあそこは別空間だったんだな、と顔を上げると、ヴィデロさんがすぐ近くで「残念だったな」と俺の頭を撫でた。
その手の感触、間近にいるヴィデロさんに、俺はなんだかわからないけれど、一気に「帰って来たんだ」という安堵がこみ上げてきた。
今度こそ自分からヴィデロさんに抱き着いて、帰ってこれた、と呟く。
きっと、あの鳥が力を貸してくれたんだ。だって鳥が鳴いたら空間が割れたから。
ヴィデロさんが空間をナイフで切り裂く姿もかっこよかったけど。
俺は本堂の方を向いて、ありがとうと呟いた。
あの後回る予定だった場所はキャンセルして、俺とヴィデロさんは帰路についた。
ヴィルさんは現地に残ると言って、二人分の旅費をヴィデロさんに握らせて、忙しそうにどこかに連絡を入れていた。
石段を下りると、そこに停まったオフロードバイクが目に入り、これでヴィルさんはここまで来たのか、と本当に何でもできるヴィルさんにちょっと感心してしまった。本人は既に神社の中を走り回っているのか、姿が見えなかったけれど。ヴィデロさん曰く、凄い音が森に響いていたんだそうだ。そして、これをかっ飛ばしてきたヴィルさんを見て、脱力したんだとか。
それ、ヴィルさんの姿を見て安心したからじゃないのかな、なんてちょっと思ったけれど、口には出せなかった。
道中、そしてバスの中、新幹線の中。ずっと俺とヴィデロさんは手を繋いでいた。
我が家、というか、ヴィルさんの持ちビルに帰ってくると、ドッと安堵感がこみ上げてきた。
もしかしたら、こうして二人でこの部屋帰ってくることが出来なくなるかもしれない、なんて、全然考えもしなかった。でも実はそんな普通が全然当たり前の事じゃなくて。
繋いだ手の温かさが、今はすごく稀有で大事な物なんだっていうのがわかる。
たった一晩離れていただけなのに。
でも、帰ってこれる保証もなくて。もし鳥がいなかったら。もしヴィデロさんが空間を切り裂いてくれなかったら。俺はあそこにとらわれたままだったのかな。なんて思ったら、いてもたってもいられなくて。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。