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744、お土産
「っつうか全然意味わからねえんだけど」
ディーと二人で会話していたら、閃光さんが呆れたような顔をして俺たちを見ていた。
確かに、これだけじゃ全然わからないかも。
「変なクエスト入ってくるわ、変な所に行けるようになるわ、そしたらたまに連れてけってディーに頼まれるわ、いきなりすぎて」
『すまないな、久方ぶりにあの気を感じたら、懐かしくてな。沢山仲間がいたころは、我もあそこに住んでいたのだ。我が儘を言ってすまない』
「誰も連れて行かねえなんて言ってねえだろ。もっと我が儘言えっての。そうじゃねえとほんとにディーが俺のお守りみたいな感じじゃねえか。俺だって手のかかるやつの世話は慣れてるんだよ」
『フハ、主のそういうところが気に入っておるよ』
ディーが身を伸ばして閃光さんの鼻をぺろりと舐めると、閃光さんは顔を背けて肩を竦めた。
「いいか、ディー、そういうのを『ツンデレ』っていうんだ。閃光はツンデレなんだよ。照れるとツンになるんだよ」
鉄骨さんがワハハと笑いながらディーにけしからんことを教えている。
『つんでれ、とは』
「普段はツンツンしてるのに、たまにデレっと可愛らしくなることだよ」
『なるほど、納得した』
そのうんうん頷いた姿が、さっきの閃光さんと全く同じ動きだったので、皆が声を出して笑った。
途端に俺の身体にくっついていたリザが俺の頬をペチペチと可愛らしく叩いた。
『マック。ゴハン』
「あ、お土産出すの忘れてた!」
せっかく沢山用意していたのに、出し忘れるところだったよ。
俺はまずディーと閃光さんに用意したお礼の品をテーブルに取り出した。
見た目はバッチリだと思うんだけど、ディーって甘い物とか食べるのかな。閃光さんは目を輝かせてテーブルの上を見てるけど、ディーはどうなんだろ。
「す……っげえ。何このケーキ。超美味そう。え、これ、いくらした? 辺境でこういうお菓子って結構高かったよな。俺、クエスト報酬もがっぽりもらったらこれじゃ過剰にならねえ?」
「それとこれとは別ですし、俺が作ったやつなので、材料費のみ、しかも馴染みの店で仕入れたので、お金はかかってないので、遠慮なく貰って欲しいです。あと、皆の分もあるんで」
一人にひとホールずつ渡るようにテーブルに出すと、皆の喉がごくりとなった。
「甘いモノ好きならいいんですけど。エリモさんも、閃光さんとの仲介ありがとうございます」
「いやいや、紹介しただけでこんなん貰えねえよ。お互い信頼できるからって紹介してるからよ」
「貰ってください。気が済まないから。あと、もし甘いのが苦手な人ようにサンドイッチも用意してきたので、これも。それから、これも受け取って欲しいかな」
持ってきたお土産を全てテーブルに並べていると、周りの「なんだあれすげえ」「やべえ美味そう」「自分であんなん作れんのかよ」「料理スキル習ってくるかな」「俺人に貰いてえ」という声が聞こえてきたので、顔を上げて、俺は思わず固まった。
俺たちの周りには、ほぼ冒険者ギルドにいる全員の壁が出来ていた。
たった今気付いた俺に、魔法使いさんが声を上げて笑う。
閃光さんは、テーブルに溢れかえったアイテムを見ると、うん、と頷いた。
「マックがどれだけその卵を可愛がってるのかがなんとなくわかったよ。ありがとな。これは貰っとく。鳥、元気に生まれるといいな。あと、今度ディーと一緒にその子を連れて俺らが行った場所に行くか。もっと元気になるかもしれねえし」
にっこりと笑った閃光さんは、そういうと、取り分のお土産をカバンにしまった。
「お前らも。これを断ったらマックの気持ちを踏みにじることになるだろ。貰っとけ。何せあの有名な薬師マックの手作りケーキだ。自慢できるぞ。俺は自慢するね。絶対自慢する。だって超美味そうだし普通に売り物にできんだろこれ」
やった、と素直に喜んでくれた閃光さんに、俺はもう一度心からのお礼を言った。なんていうか、獣人の人たちと同じ懐の広さを感じる気がする。俺のために喜んでくれたような、そんな感じが。
『マック。リザノオミヤゲナイ。オイシイノ。ゴハン』
リザに急かされて、俺は慌てて香石をカバンから取り出した。
途端に目を輝かせるリザに、エリモさんが「こら、それは明らかに貰い過ぎだから!」と窘めた。確かに、香石は売値が高いもんね。
『オイシイノ! オイシイノ! ダイスキナノ! オウチトオナジニオイノ!』
リザはエリモさんが止めるのも聞かずにガリガリと香石を食べ始めた。大丈夫。原価はただのような物だから。作ったの俺だし。
それにしてもリザ、今おうちと同じ匂いって言ってたよね。もしかして、リザはこれに使われた花畑みたいなところで生まれたのかな。聖域にもそういう場所ってあるんだろうな。
「聖水茶もあるよ。飲む?」
『ノム!』
リザがはいっと手を上げると、閃光さんが「ほらな」とリザを指さした。
「こういうのをディーもたまにはやればいいんだよ」
『我に幼くなれと?』
「そうじゃなくてさ」
我には無理だ、とディーにすげなく断られると、閃光さんは苦笑して「うん、まあ、そうだろうな。キャラじゃねえよな。聖獣も十人十色だな」とディーの毛並みをわしゃわしゃにしながら撫でた。
俺から離れたリザは、エリモさんの膝に大人しく乗って聖水茶を飲むと、ぷはっと息を吐いて、キラキラし始めた。
一回り大きくなると、リザは円らな瞳を俺に向けて、チロリと舌を見せた。既にエリモさんはリザに隠れて見えないくらいに成長している。いつも唐突に大きくなるな、と感心してみていると、リザは口を開いた。
『あいかわらずおいしい。マック、ありがとう』
ちょっとだけ滑らか発音になったことに驚いていると、エリモさんがリザの横からひょこっと顔を出した。
「やっぱりマックが出してくれる聖水茶が一番成長早い気がするんだが」
「普段は大量に石の魔物を喰わねえとあんまり育たねえもんな」
「ほんとに。聖水で育つってのは聞いてたけど、ここまで一気には行かないもんな」
「濃いからですかね?」
三人が大きくなったリザを撫で繰り回し始めたので、俺も参加することにする。大きくなってもこのすべすべ心地よい素肌は変わりない。綺麗だし。と、思ったら、背中部分に生えていたひれが、少しだけ大きくなっていた。
それがピルピルと動くので、4人で注目していると、ディーが『翼が成長してきたな』と教えてくれた。
『その小さき者は玉龍と言って、翼竜の一種だから、そこから更に翼が大きくなるぞ。空も飛べよう。主ら三人ならば、簡単に乗せて跳べるだろうて』
『リザとべるの? とびたいの』
『成長すればな、飛べるようになる。主の大好きな者たちを主の背中で運べるようになるぞ』
『うれしい。リザやくにたつ』
リザは本当に嬉しそうに目を細めて、エリモさんの上半身に巻き付いた。すっかりエリモさんが見えなくなる。
「リザ、こら、前が見えない。乗るなら頭の上に乗りなさい」
「乗せるのかよ。大分重いだろ」
「女の子に重さの話をするなよ、陽炎はデリカシーのない……」
「リザってそもそも女の子なのかよ。見た目ではわからねえよ」
『おんなのこってなに?』
『女の子とは、雌の事だ、小さき者。しかし異邦人たちよ。我らに性別という概念はないのだ。そのような気遣いは無用。しかしその心意気は感謝する』
ディーがリザにそう教えると、皆が感心したようにほう、と声を出した。
そっか、聖獣って性別の概念ないんだ。思わぬ知識を仕入れてしまった。
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