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749、魔大陸の守護樹
そこで調薬をして店の中を潤わせていると、「超いいの手に入ったから買い取ってー」と言って雄太が店に入ってきた。
「あれ、マックじゃん。こんなところで会うなんて珍しいな」
「ほんとだ。いつもは辺境で待ち合わせだもんね」
今日はユイと雄太の二人組らしい。
ブレイブと海里が見当たらない。
「珍しいね、海里たちがいないなんて」
口に出すと、雄太はニッと笑った。
「今海里たちと競争してたんだよ。魔物素材を売ったトータルの総合金額」
「何あほなことやってるんだよ……ちょっと楽しそうじゃないか」
「楽しいぞ。今ん所俺らの方が優勢だよな、クラッシュ」
「クラッシュ君。もう一回買取してもらってもいい?」
ぐいぐいカウンターに来て、次々薄汚れた素材を積んでいく雄太に、クラッシュは非情の一言を告げた。
「残念ながら、ギガントドラゴンの羽を売りに来た時点で海里とブレイブの方が優勢」
「ギガントドラゴン……? ってか羽って超レアドロップじゃん! うわあ、隠し玉もってやがったのか」
くそお、と悔しがる雄太を横目で見ながら溜息を呑み込む。そんなドラゴンを二人で倒しちゃう君たちはもう別次元の人間だよ。俺とは違う世界の生き物なんだね……。
遠くを見ていると、クラッシュはさっさと買取金額を計算して、そのお金を雄太たちに渡していた。
そのスムーズな流れから、クラッシュも二組の仁義なき戦いを楽しんでるみたいだ。しっかりと買取金額総額を覚えてるみたい。
「今回ので僅差、ってところかな。でも次あの二人が何を売りに来るのかで変わってくるね」
「そっか。よし、ユイ。もっと気合い入れるぞ!」
「そうだね。でもマック君がいるってことは、出来立てほやほやのハイパーポーションがあるってことでしょ。買っていい?」
「いいよ。そうだね。特別にエールの意味も込めて、マックがいいよっていう上限まで売るよ。その代わり、11個目からは10%上乗せ。21個目からは20%上乗せね」
「クラッシュがめつい」
クラッシュがししし、と笑ってるので、冗談だとわかるのに、雄太は必死で計算しているみたいだった。そして宙を睨んで、よし、と頷く。
「なあマック。俺は今、100個くらい一気に買えるほどの金を持ってるんだ」
「そういう露骨アピールやめろ」
きっと上乗せ分も考えて言ってるんだろうな。数学得意だし。
皆に注目されて、俺はうーんと唸った。
「10かける10個、って感じかな」
「ってことは、100個?」
「違うよ。10個セットを10個までってこと」
俺がそういうと、クラッシュがえーと不満声を出した。
「それじゃ上乗せ分つかないじゃん。残念。マックにしてやられたから、10個セットを10組まで売るよ」
「海里とブレイブにもね」
お値段据え置きで100個手に入れることが出来た雄太は、心の友! と俺に向かって両手を広げた。
飛び込めと。はい無理。目の前に彼女いるのにそういうことするなよ。
そう突っ込めば、ユイはあっけらかんと「私高橋とマック君が仲良くしてるの見るのが好き」というおかしなことを言っていた。
「そうか……俺の胸板が薄いから飛び込む気も起きないんだな、マック」
「よくわかってんじゃん」
雄太も頓珍漢なことを言ってたので、めんどくさくなって頷いておく。確かに胸板厚くないと飛び込んでも面白くない気がするけど、しかしそれはヴィデロさんに限るんだよ。
そんなことをわいわいしていると、またも店のドアが開いた。
「クラッシュ、買い取って」
「なあなあクラッシュ、エクスプロージョンクロウの素材っていくらで買い取ってもらえる?」
入ってきたのは『高橋と愉快な仲間たち』の片割れ、海里とブレイブだった。
俺たちが視界に入ると、二人とも顔をほころばせた。
「マックも来てたんだ。ってことはハイパーポーション納品されたってことかしら?」
「マックの恩情により、10個セットを10組まで今日限定で買えるよ。買う?」
「もちろん! マックありがとう。でもなんで10個セット?」
「11個目から料金上乗せされるのをマックが防いでくれた」
「心の友!」
海里も雄太と同じ叫びをして、両手を広げた。
だから、恋人の目の前でそういうことをしないように。二人とも恋人に嫉妬して? 嫉妬しようよ。
「海里。マックはな、筋肉の胸じゃねえと飛び込む気にならねえんだってよ。俺も同じことをして袖にされた」
「え、私高橋と同レベル……?」
「そうだ、喜べ」
海里と雄太がじゃれてる間に、ブレイブがクラッシュにゲットした素材を買い取ってもらっていた。
そしてついでにハイパーポーションセットを買ってインベントリにしまっている。
クラッシュは雄太たちのやり取りを見て笑ってから、「結果発表」と口にした。
「高橋ユイペア、総額185万3021ガル。海里ブレイブペア、269万4400ガル。ダントツで海里ブレイブペアの勝ち」
クラッシュの結果発表に、海里ペアはハイタッチをして、雄太は地面に両手をついて悔しがっていた。ちなみにユイは相変わらずニコニコしている。
「明日の学食、私『松定食』がいいな」
「俺は『特製フルーツてんこ盛りパフェ』と『ネギトロ丼』な」
「畜生! 奢ってやるよ! 負けてやったんだからな!」
「パフェは二人で食べるの? 高橋、私達も二人でパフェ食べようよ。お金は私が出すから。あーんってして欲しいなあ」
「あーんなんていつでもしてやるよ! 今ここででもな! その代わり膝の上な」
「それは恥ずかしいからヤダ」
なるほど、学食賭けてたのか。楽しそうで何よりだよ。
「ところで今更だけど、マックはここで何してたんだ? 納品クエスト?」
ブレイブがそう訊いてきたので、俺は曖昧に頷いた。
「ランクアップ試験を受けて、その流れで納品してた」
「ランクアップ試験?」
「うん。ギルドの。クラッシュがギルド臨時職員だからって。なんか商売の関係上受けさせられた」
「ちょ、マックそれ人聞き悪いよ。ほんとのことだけど」
「ほんとなのかよ」
「ほんと」
俺とクラッシュで同時に頷くと、雄太たち全員が声を上げて笑った。ほら、クラッシュ笑われてるよ。そう言って肘で突くと、クラッシュが「マックがだろ」と返してきた。
「あ、そうだ。さっきマックに魔道具を託したからさ、教会が無事そうな村を適当に浄化してまわって欲しいんだよ。前にヴィルに託されたんだけど、俺じゃ何も出来ないから。高橋たちだったら色んな拠点知ってるだろ」
クラッシュが雄太たちにそう言うと、ピロン、とクエスト欄に「!」マークがついた。きっと今の浄化がクエストになったんだ。
雄太たちも視線を動かしてたから、きっとクエストになって来たんだと思う。
気楽に「暇な時でよければ」と雄太が頷くと、クラッシュは「よかったあ」とホッとした顔をした。
「ついでに守護樹もたまには見てってよね、マック。エルフの里の長老様にもよろしく言っておいてって頼まれてたんだよね」
「え、俺?」
「だってマックしか聖魔法使えないじゃん」
なるほど。植えた時以来見てないからな。
守護樹はここからならすぐ跳べる位置にあるから、と考えてると、ユイが俺に手を差し出した。
「そうと決まれば守護樹見に行こ。あそこね、村の外からは入れないけど、転移でなら村に入ることが出来るんだって。試したら本当に中に入れたから、よくマック君の聖水をあげに行くんだ」
既に三人はユイに掴まっていて、俺がくっついたらそのままユイが転移で跳んでくれる状態になっていた。
クラッシュに「いってらっしゃい」と見送られながら、俺たちは一番最初に浄化した村に跳んだ。
村は前に見た時とは全く様相が違っていた。
浄化された結界の中一面に、守護樹が枝を伸ばし、まるでドームの様に村を覆っていた。村の外から見ると、きっとすごく不思議な場所に見えるんじゃないかなってくらい神秘的だった。
「すごい……大きくなってる」
「マック君の聖水で育つんだって。この間ロウさんがここまで来て説明してくれたよ」
「ロウさんが……? 大丈夫だったの?」
「ここは空気が澄んでるから、村の中なら平気だって言ってたぞ。光魔法の移動で来るからって」
ああ、なるほど。ロウさんはそういえば転移じゃないけれどそういう魔法が使えるんだった。縁がある場所に跳べるんだったっけ。この守護樹が、エルフの里の守護樹の子供みたいなものだからここに来れるのかな。
太くなった幹に近付いて、樹を見上げる。
幹に手を添えると、枝がサワリ……と揺れた。
『分身は成長したよ』
『ここの大きな穢れは消えたよ』
『消してくれてありがとう』
『この地も僕が護るよ』
頭の中に声が響いてくる。
その声は、かつてエルフの里で聞いた声と同じで、この樹があの守護樹の分身だということが納得できた。
辺りは夕暮れ。もうそろそろ夜になろうかという時間だったけれど、村の外の魔素が黒いせいか、だいぶ暗くなっている。
そういえば前にエルフの里のクエストで作ったアイテム、使う機会がなかった。もう少し浄化範囲を広くすれば、もっとこの守護樹は大きくなるのかな。村を包み込むくらい横に広がったから、エルフの里の守護樹よりは幅広になってるけれど、あそこの樹はもっと高く伸びてたし。
分身っていうことは、全く同じ個体って考えていいのかな。
あのアイテムを使うと成長促進効果が付いたはずだから、もしかしたらこれに使ったら同じように育つかもしれない。
ギリギリ浄化された場所に広がってる状態で成長促進させたらどうなるんだろ。穢れに触れて枯れちゃうのかな。
樹に触れたままそんなことを考えてたのが良かったのか悪かったのか、樹が枝を震わせた。
『同じだけど違うもの』
『僕も欲しいよ』
『僕に撒いて』
『あれは僕に力をくれるもの』
サワサワと枝が揺れて、樹が意思を伝えてくる。っていうか請求されちゃった。
いつもは持ち歩いてないから、トレの工房にしまってるんだけど。取って来た方がいいのかな。
後を振り返ると、雄太たちは興味津々な顔で俺を見ていた。
「ちょっと工房に戻ってくる」
「お、なんか用事できたのか?」
「うん。この樹におねだりされちゃった」
「樹がおねだり……」
マックらしいと肩をふるわせる海里に「俺らしいってなんだよ」と突っ込むと、ユイが俺に手を差し出した。
「マック君の工房ならここから跳べるよ。二人なら」
何とも頼もしい言葉に、俺は思わず手を重ねていた。
一瞬後には、俺の工房に立っていた。
ユイ……さらに魔力増えてないか?
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。