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757、アリッサさんと宰相さん
『そこらへん詳しくはあとから。すぐに同行できるわけじゃないしな。本当に色々と巻き込み始めてるから、なかなか落ち着かねえらしいからよ』
「そうでしょうね……一人がひょこっと界渡りみたいなことをするわけじゃないし。ヴィデロさん一人の時ですらヴィデロさんがヘロヘロになるくらい手続きとか大変だったみたいだし」
俺の言葉を拾って、鳥の鳴き声と共にログに草が生えた。
何笑ってるんだよ。
『違うって。あの時はヴィデロ、女史の運転にやられてたんだって。女史って見かけによらず運転荒いから。下手に車の性能を把握しているからか、全てにおいてギリギリのタイミングで操作するんだよ。だから、普通より急ブレーキ、普通より急発進ってなるわけだ。女史曰く、『規定以上のスピードを出せば違反だけれど、そのスピードに達するまでの加速はどれだけ早くても違反にならない。時間をひねり出すなら加速よ』だそうでさ。女史とどこかに出かける際は頭下げて俺が運転させてもらってたんだわ。だって女史の車に乗るとどれだけ酔わない人でも大抵酔うし』
あ、はい。それでヴィデロさんはあれだけヘロヘロだったんだね……。性能把握が故の荒い運転って……自覚してやってるってことだね。アリッサさんの車には乗らないようにしよう。怖い。
『ただし、まだ他には話すなよ』
「話したところで信じてもらえませんよ」
『いや、健吾の友達は妙に聡いから、話さなくてもバレそうなんだよなあ。ああいう人材、うちに欲しいよなあ』
友達って雄太のことかな。確かに、俺が言ったことは全面的に信用してくれる。嘘を吐くと秒でバレるし。でも雄太と同じ職場って想像もつかないんだけど。
そんなことを思いながらユキヒラに佐久間さんからの言葉を要約して伝える。
「ロミーナちゃん、もうあいつらが言ってたことは忘れて。もし怖くてもう店をやりたくない場合は、俺がロミーナちゃんを何不自由ないように養うから。これでも俺、高給取りだからいくらでも贅沢させてあげられるよ。俺はロミーナちゃんが毎日笑って暮らせるようにしたいんだ。どうしたい? 貴族街に家を建てて住む? 俺はロミーナちゃんが笑って暮らしてくれるなら何でもしてあげる」
「ユキヒラ君は私をダメにしたいのかな。その言葉に甘えちゃったら、私、もう何も出来なくなっちゃうわ。店はたたまない。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの大事な店なの。私にとっても大事な店なのよ。思い出が沢山詰まってる。だから、頑張る。ユキヒラ君には、私を甘やかすんじゃなくて、背中を支えて欲しいなって思う。ダメな人族になりたくないから」
「ロミーナちゃん……そんな強いロミーナちゃんも愛しい。君はとても素敵だ。その心意気も、凛とした態度も、たまに見れる涙も、全て。俺も全力で支えてあげる」
ロミーナちゃんがユキヒラの袖をチョンと掴み、それに悶えながら思わず抱き締めたユキヒラに苦笑して、俺たちはその場を後にすることにした。
ユキヒラの囲い込み提案を凛として跳ねのけたロミーナちゃんは、さっきよりもすごく魅力的に見えた。
遅くなってしまったけれど、ヴィデロさんと共に王宮に向かう。
何事もなく宰相パスで王宮の入り口を潜り、ヴィデロさんも専用パスを持っていたので二人で並んでアリッサさんのいる離れの部屋に向かう。
ドアをノックしようとした時、中からアリッサさんの声が聞こえてきた。
「だから、今はまだ成功するとも何とも言えないの。アンドルースにしか言ってないわ。でも、そのうち現実になるかもしれない。それまでアンドルースはくたばっても宰相の座を降りても駄目よ」
「はは、わがままを言う。私は後継が育ったらこの地位を手放すつもりだったのに。どこまで老体にムチ打てと」
「50やそこらなんてまだまだ若造よ。あなたじゃないと多分無理ね。10年……いえ、出来ればもっと早くまとめる。そしたら私はまたこの地に戻ってくるわ」
「あなたはいつだって無理をする。あなたこそかけがえのない身体だ。あなたの身に何かが起きては、私があの男に怒られてしまう。ですが、生身のあなたに会えるのは素直に嬉しいですね」
ノックの手にしたまま、ヴィデロさんを見上げる。もしかしてこの二人って……ごくりと喉を鳴らすと、ヴィデロさんは二人の気安い様子に溜息を吐いていた。
「マック、すごく気を揉んでいる顔をしてるけどな。この二人はそういう関係じゃないらしいから安心してくれ。俺も最初そう思ったけれど、即座に否定されてしまった」
「そ、そっか。よかった、いや、何が良かったのかわからないけど。アリッサさん美人だし、もしかしたら再婚したっておかしくない年だし……」
あわあわとそう言うと、ヴィデロさんは肩を震わせた。
でもアリッサさんがもし再婚したら、俺の義理のお父さんがその人になるわけで。それが宰相さんかと思うとちょっと想像つかないっていうかなんて言うか。
あ、もしかして宰相さん、不倫……。
サッと青くなっていると、目の前のドアがバン! と開いた。
「不倫なんてしてないし、ましてこの人とそんな色っぽい関係じゃないわよ」
「マック君、申し訳ないが、私はこの年で独身ですよ……」
「わああごめんなさい!」
独り言は声に出ていたらしい。慌てて出てきた二人は、今にも笑い出しそうな顔で俺たちを迎え入れてくれた。
横を見ると、ヴィデロさんも口もとをかくして、笑いを堪えていた。
ヴィデロさんは、振られた仕事の内容をここでアリッサさんに報告していた。
カバンから魔道具を取り出して、その数値をチェックして、二人で話し合っている。俺には全く話の内容がわからない。専門用語がバンバン飛び交っている。俺、ここにいていいの? 報告内容、運営的目線の色々だよ。俺が聞いていいの? ダメでしょ。
じっとして話を聞かないようにしていると、斜め向かいの席に腰を下ろしていた宰相さんが面白そうにこっちを見ていた。
「さっきはホントすいません。アホなことを言ってしまって」
あれは不敬罪になるんじゃないだろうか。
そう思って深々と頭を下げていると、宰相さんは「気にしないでください」と笑った。
「ここにいる間は、あけすけに話をしても不敬に当たらないという決まりがあります。そうでもないと、彼女と建設的な意見交換などできませんから。周りの心情を読んで裏を読んでおべっかを使いながら使える者は持ち上げて、そして一歩踏み込み一歩引いての駆け引きなど、ここでは無駄でしかありません。そしてそんな彼女との意見交換はとてもしていて楽しいし心地よいのですよ」
「ううう、王宮の会議怖い」
「お薦めはしません。が、やり込めて、こちらの意見が優位に通った時の心地よさは何物にも代えられません」
にこやかにきっぱりと言い切る宰相さんは、きっと宰相さんになるべくしてなった人だと思う。適材適所。
「ありがとうヴィデロ。だいぶまとまったわ。後はそうね……案件一と三に着手してくれる? 期限は……一週間ってところかしら」
「わかった。でも途中一日休みを貰うから。マックと衣装の相談に行かないといけないんだ」
「いつ行くの? 三日後にしない? その日なら私も手が空くのよ。一緒に行きたいわ。衣装コーディネートを見たい。絶対可愛いじゃない。出資するから同行させて」
「行くのは4日後だから無理だ。その日は俺とマックの休みが被るからと、すでに予約が入っているんだ」
「ええ……私も見たいのに」
「当日見ればいいだろ」
「ヴィデロだけずるい」
「特権だ」
ニヤリとヴィデロさんが笑うと、アリッサさんは拗ねたような顔をしてヴィデロさんの胸をトンと叩いた。
そこにあきちゃん鳥がぴよと鳴く。
『激おこだと思ったらそんなでもなくね?』
そのログはアリッサさんにも流れたらしい。
アリッサさんは鳥を見上げて「怒ってるわよ。最高潮にね」とにこやかに言った。
「そもそも、最初にログインした時点で、ここでは倫理に悖る行為はダメって警告を出して、キル系のゲームじゃないこと、アダルトゲームじゃないこと、そして、そういう行為をした場合は垢消しすることは忠告してあるじゃない。それを踏まえたうえで別世界での新しい自由な活動をって。掲示板でもくどいくらいにADOは無双ゲームじゃないって織り込んでいる。これだけ情報が溢れる世の中で、これだけ警告しているにも関わらず「ゲームだから好きにしていい」なんて言えないわよ。こっちは禁止事項をはっきり出してるんだから」
アリッサさんは鳥に向かって、顔はにこやかに厳しい言葉を吐いた。
「でもゲームだから、そういう約束事は無視していい、っていう人がいるのも想定済み。でも、それでもこうでもしないとこの世界の発展は見込めなかったのよ」
魔王が討伐されてなお強くなる魔物。それをないがしろにして腐敗する王宮と教会。薬師の腕は上がらず病は相変わらず治らない。希望の教会の聖魔導士は既に他界。オルランド卿は日に日に弱り、自分の力が普通と違うせいで下を向く愛する息子。
「何より、他に沢山の無双ゲームや良作のRPGゲームが出ているんだから、もし残虐なことがしたいのであればここであるべきではないの。ここの人たちは感情がある。それは話をすればすぐわかること。感情がある人たちには自分たちと同じようにとまではいかなくても、非道な行いは出来ない、というそういう良心の感情こそが、ここには必要だったの。佐久間君ならわかるでしょ」
『わかるけど。まあ、そうなんでしょうねえ。はいはい、んで、さっきのはもう片付いたの?』
「ええ。もちろんよ。ついでにそこからリンクした他のサイトも同じように処理した。名前の挙がってた子達の周辺はしばらく人を着けるか鳥を飛ばすわ。そしてあとでその情報を流す予定」
『素早いこって』
「当り前よ」
キリッと宣言するアリッサさんにピヨと一声かけると、あきちゃん鳥は光になって消えていった。
最後はアリッサさんに向けていたらしく、俺のログには何も流れてこなかった。
「さて、と。アンドルース」
「なんでしょう」
「難しいとは思うけれど、ここではあなただけが頼りなのよ」
「ありがたくないお誘いですね。言語も違う、常識も違う、危険度もまるで違うここへ、誰が来たいと思うんでしょうか」
「私ね」
「あなたはもう向こうに家族が揃っているでしょうに」
「ここには、あの人の魂があるもの」
「なんともロマンチックな。あなたにはいささか似合いませんね」
「私もそう思うわ」
宰相さんがくすっと笑えば、アリッサさんが肩を竦める。
でも今の言葉で、宰相さんはヴィデロさんが俺たちの世界に来たってことを知ってるんだというのがわかった。
なんだか、ものすごい勢いで俺たちの所とこっちの世界が動いてるんだっていうのが感じられる。
そんな怒涛の流れの中に俺がいていいのかな、なんて、ちょっとだけ恐れ多くて引いてしまった俺なのだった。だって俺、庶民だし。
「そうでしょうね……一人がひょこっと界渡りみたいなことをするわけじゃないし。ヴィデロさん一人の時ですらヴィデロさんがヘロヘロになるくらい手続きとか大変だったみたいだし」
俺の言葉を拾って、鳥の鳴き声と共にログに草が生えた。
何笑ってるんだよ。
『違うって。あの時はヴィデロ、女史の運転にやられてたんだって。女史って見かけによらず運転荒いから。下手に車の性能を把握しているからか、全てにおいてギリギリのタイミングで操作するんだよ。だから、普通より急ブレーキ、普通より急発進ってなるわけだ。女史曰く、『規定以上のスピードを出せば違反だけれど、そのスピードに達するまでの加速はどれだけ早くても違反にならない。時間をひねり出すなら加速よ』だそうでさ。女史とどこかに出かける際は頭下げて俺が運転させてもらってたんだわ。だって女史の車に乗るとどれだけ酔わない人でも大抵酔うし』
あ、はい。それでヴィデロさんはあれだけヘロヘロだったんだね……。性能把握が故の荒い運転って……自覚してやってるってことだね。アリッサさんの車には乗らないようにしよう。怖い。
『ただし、まだ他には話すなよ』
「話したところで信じてもらえませんよ」
『いや、健吾の友達は妙に聡いから、話さなくてもバレそうなんだよなあ。ああいう人材、うちに欲しいよなあ』
友達って雄太のことかな。確かに、俺が言ったことは全面的に信用してくれる。嘘を吐くと秒でバレるし。でも雄太と同じ職場って想像もつかないんだけど。
そんなことを思いながらユキヒラに佐久間さんからの言葉を要約して伝える。
「ロミーナちゃん、もうあいつらが言ってたことは忘れて。もし怖くてもう店をやりたくない場合は、俺がロミーナちゃんを何不自由ないように養うから。これでも俺、高給取りだからいくらでも贅沢させてあげられるよ。俺はロミーナちゃんが毎日笑って暮らせるようにしたいんだ。どうしたい? 貴族街に家を建てて住む? 俺はロミーナちゃんが笑って暮らしてくれるなら何でもしてあげる」
「ユキヒラ君は私をダメにしたいのかな。その言葉に甘えちゃったら、私、もう何も出来なくなっちゃうわ。店はたたまない。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの大事な店なの。私にとっても大事な店なのよ。思い出が沢山詰まってる。だから、頑張る。ユキヒラ君には、私を甘やかすんじゃなくて、背中を支えて欲しいなって思う。ダメな人族になりたくないから」
「ロミーナちゃん……そんな強いロミーナちゃんも愛しい。君はとても素敵だ。その心意気も、凛とした態度も、たまに見れる涙も、全て。俺も全力で支えてあげる」
ロミーナちゃんがユキヒラの袖をチョンと掴み、それに悶えながら思わず抱き締めたユキヒラに苦笑して、俺たちはその場を後にすることにした。
ユキヒラの囲い込み提案を凛として跳ねのけたロミーナちゃんは、さっきよりもすごく魅力的に見えた。
遅くなってしまったけれど、ヴィデロさんと共に王宮に向かう。
何事もなく宰相パスで王宮の入り口を潜り、ヴィデロさんも専用パスを持っていたので二人で並んでアリッサさんのいる離れの部屋に向かう。
ドアをノックしようとした時、中からアリッサさんの声が聞こえてきた。
「だから、今はまだ成功するとも何とも言えないの。アンドルースにしか言ってないわ。でも、そのうち現実になるかもしれない。それまでアンドルースはくたばっても宰相の座を降りても駄目よ」
「はは、わがままを言う。私は後継が育ったらこの地位を手放すつもりだったのに。どこまで老体にムチ打てと」
「50やそこらなんてまだまだ若造よ。あなたじゃないと多分無理ね。10年……いえ、出来ればもっと早くまとめる。そしたら私はまたこの地に戻ってくるわ」
「あなたはいつだって無理をする。あなたこそかけがえのない身体だ。あなたの身に何かが起きては、私があの男に怒られてしまう。ですが、生身のあなたに会えるのは素直に嬉しいですね」
ノックの手にしたまま、ヴィデロさんを見上げる。もしかしてこの二人って……ごくりと喉を鳴らすと、ヴィデロさんは二人の気安い様子に溜息を吐いていた。
「マック、すごく気を揉んでいる顔をしてるけどな。この二人はそういう関係じゃないらしいから安心してくれ。俺も最初そう思ったけれど、即座に否定されてしまった」
「そ、そっか。よかった、いや、何が良かったのかわからないけど。アリッサさん美人だし、もしかしたら再婚したっておかしくない年だし……」
あわあわとそう言うと、ヴィデロさんは肩を震わせた。
でもアリッサさんがもし再婚したら、俺の義理のお父さんがその人になるわけで。それが宰相さんかと思うとちょっと想像つかないっていうかなんて言うか。
あ、もしかして宰相さん、不倫……。
サッと青くなっていると、目の前のドアがバン! と開いた。
「不倫なんてしてないし、ましてこの人とそんな色っぽい関係じゃないわよ」
「マック君、申し訳ないが、私はこの年で独身ですよ……」
「わああごめんなさい!」
独り言は声に出ていたらしい。慌てて出てきた二人は、今にも笑い出しそうな顔で俺たちを迎え入れてくれた。
横を見ると、ヴィデロさんも口もとをかくして、笑いを堪えていた。
ヴィデロさんは、振られた仕事の内容をここでアリッサさんに報告していた。
カバンから魔道具を取り出して、その数値をチェックして、二人で話し合っている。俺には全く話の内容がわからない。専門用語がバンバン飛び交っている。俺、ここにいていいの? 報告内容、運営的目線の色々だよ。俺が聞いていいの? ダメでしょ。
じっとして話を聞かないようにしていると、斜め向かいの席に腰を下ろしていた宰相さんが面白そうにこっちを見ていた。
「さっきはホントすいません。アホなことを言ってしまって」
あれは不敬罪になるんじゃないだろうか。
そう思って深々と頭を下げていると、宰相さんは「気にしないでください」と笑った。
「ここにいる間は、あけすけに話をしても不敬に当たらないという決まりがあります。そうでもないと、彼女と建設的な意見交換などできませんから。周りの心情を読んで裏を読んでおべっかを使いながら使える者は持ち上げて、そして一歩踏み込み一歩引いての駆け引きなど、ここでは無駄でしかありません。そしてそんな彼女との意見交換はとてもしていて楽しいし心地よいのですよ」
「ううう、王宮の会議怖い」
「お薦めはしません。が、やり込めて、こちらの意見が優位に通った時の心地よさは何物にも代えられません」
にこやかにきっぱりと言い切る宰相さんは、きっと宰相さんになるべくしてなった人だと思う。適材適所。
「ありがとうヴィデロ。だいぶまとまったわ。後はそうね……案件一と三に着手してくれる? 期限は……一週間ってところかしら」
「わかった。でも途中一日休みを貰うから。マックと衣装の相談に行かないといけないんだ」
「いつ行くの? 三日後にしない? その日なら私も手が空くのよ。一緒に行きたいわ。衣装コーディネートを見たい。絶対可愛いじゃない。出資するから同行させて」
「行くのは4日後だから無理だ。その日は俺とマックの休みが被るからと、すでに予約が入っているんだ」
「ええ……私も見たいのに」
「当日見ればいいだろ」
「ヴィデロだけずるい」
「特権だ」
ニヤリとヴィデロさんが笑うと、アリッサさんは拗ねたような顔をしてヴィデロさんの胸をトンと叩いた。
そこにあきちゃん鳥がぴよと鳴く。
『激おこだと思ったらそんなでもなくね?』
そのログはアリッサさんにも流れたらしい。
アリッサさんは鳥を見上げて「怒ってるわよ。最高潮にね」とにこやかに言った。
「そもそも、最初にログインした時点で、ここでは倫理に悖る行為はダメって警告を出して、キル系のゲームじゃないこと、アダルトゲームじゃないこと、そして、そういう行為をした場合は垢消しすることは忠告してあるじゃない。それを踏まえたうえで別世界での新しい自由な活動をって。掲示板でもくどいくらいにADOは無双ゲームじゃないって織り込んでいる。これだけ情報が溢れる世の中で、これだけ警告しているにも関わらず「ゲームだから好きにしていい」なんて言えないわよ。こっちは禁止事項をはっきり出してるんだから」
アリッサさんは鳥に向かって、顔はにこやかに厳しい言葉を吐いた。
「でもゲームだから、そういう約束事は無視していい、っていう人がいるのも想定済み。でも、それでもこうでもしないとこの世界の発展は見込めなかったのよ」
魔王が討伐されてなお強くなる魔物。それをないがしろにして腐敗する王宮と教会。薬師の腕は上がらず病は相変わらず治らない。希望の教会の聖魔導士は既に他界。オルランド卿は日に日に弱り、自分の力が普通と違うせいで下を向く愛する息子。
「何より、他に沢山の無双ゲームや良作のRPGゲームが出ているんだから、もし残虐なことがしたいのであればここであるべきではないの。ここの人たちは感情がある。それは話をすればすぐわかること。感情がある人たちには自分たちと同じようにとまではいかなくても、非道な行いは出来ない、というそういう良心の感情こそが、ここには必要だったの。佐久間君ならわかるでしょ」
『わかるけど。まあ、そうなんでしょうねえ。はいはい、んで、さっきのはもう片付いたの?』
「ええ。もちろんよ。ついでにそこからリンクした他のサイトも同じように処理した。名前の挙がってた子達の周辺はしばらく人を着けるか鳥を飛ばすわ。そしてあとでその情報を流す予定」
『素早いこって』
「当り前よ」
キリッと宣言するアリッサさんにピヨと一声かけると、あきちゃん鳥は光になって消えていった。
最後はアリッサさんに向けていたらしく、俺のログには何も流れてこなかった。
「さて、と。アンドルース」
「なんでしょう」
「難しいとは思うけれど、ここではあなただけが頼りなのよ」
「ありがたくないお誘いですね。言語も違う、常識も違う、危険度もまるで違うここへ、誰が来たいと思うんでしょうか」
「私ね」
「あなたはもう向こうに家族が揃っているでしょうに」
「ここには、あの人の魂があるもの」
「なんともロマンチックな。あなたにはいささか似合いませんね」
「私もそう思うわ」
宰相さんがくすっと笑えば、アリッサさんが肩を竦める。
でも今の言葉で、宰相さんはヴィデロさんが俺たちの世界に来たってことを知ってるんだというのがわかった。
なんだか、ものすごい勢いで俺たちの所とこっちの世界が動いてるんだっていうのが感じられる。
そんな怒涛の流れの中に俺がいていいのかな、なんて、ちょっとだけ恐れ多くて引いてしまった俺なのだった。だって俺、庶民だし。
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一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。