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761、ばったり会うのって嬉しいよね
俺の転移で辺境まで皆で戻ってくると、冒険者ギルドにヴィデロさんの姿が見えた。
こうやって偶然会えると滅茶苦茶嬉しくなる。
ヴィデロさんもすぐ俺に気付いたらしくて、目が合うと少し顔をほころばせて俺に手を上げてから、隣にいた赤片喰さんに声を掛けている。
「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」
振り返ってトランスメンバーに礼を言うと、閃光さんが俺の肩にポンと手を置いた。
「色々と頑張れよ。また連絡するから、ディーと遊んでくれ」
「はい! っていうか俺の方がディーにお世話になってる気がするんですけど」
『子は宝。それは我ら聖獣も変わりないことだ。その宝を育てる手伝いをするのは、当たり前のこと』
「うん。ありがとう」
じゃあまた、と皆に手を振って、俺はヴィデロさんのもとに走り寄った。
ヴィデロさんも笑顔で俺を迎えてくれる。隣では赤片喰さんが呆れたような顔をして俺を見下ろした。
「マックが辺境なんて珍しいな。しかも今日のお相手は『トランス』か」
「お相手って……赤片喰さんも、何でヴィデロさんと一緒なんですか」
「今日の調査はヴィデロと同行なんだよ。辺境の壁付近だからな。俺一人だと調査する前に魔物にやられるわ」
「今日は赤片喰の護衛が仕事だからな」
「ヴィデロさんの護衛……羨ましい」
いいなあ、と見上げると、ヴィデロさんが身を屈めて俺の頭にチュッとキスをして、「今度デートしようか。その際は最初から最後までずっと付きっ切りで護衛してやる」と耳元で囁いた。思わず変な声が出そうになる。耳が蕩ける。好き。
「デート行きたい」
「行こう」
「でもヴィデロさんと一緒ならデートでもデートじゃなくても嬉しい」
「俺も」
「お前ら、公衆の面前でイチャイチャと……周りの迷惑も考えろよ」
呆れたようにはいはいおわりおわりと俺たちの間に手を差し込んだ赤片喰さんに、ヴィデロさんが「羨ましいのか?」と軽口を叩く。赤片喰さんも軽く「あーあー羨ましいねえ」といなして、二人がいつの間にか仲良くなっていたことに驚く。
ヴィデロさんが運営の一員になってから、一緒に歩く時間が前より減ったからなあ。もっとずっと一緒にいれると思ってたけど。仕事だから仕方ないのかな。でもちょっと寂しい。
「そうだ。今日ね、卵のなかからコツって音がしたんだ。もうすぐ生まれるのかな」
「そうか。こいつも中で頑張ってるんだな」
卵の籠を掲げて見せると、ヴィデロさんはふわっと微笑んで、卵を優しく撫でた。その仕草ひとつで俺も嬉しくなる。好き。
「ディーがね、今度は聖域にヴィデロさんと一緒に行くといいって。この子、ヴィデロさんがいるともっと元気になるんだって」
「そうか。それじゃあ一緒に行かないとな」
そっと籠から卵を取り出して、包み込むように持ち上げたヴィデロさんは、そっとその卵に頬を寄せて、チュッと軽くキスをした。
「もう一度赤片喰と行ってくるんだ。戻ったらすぐマックの所に行くから。でも、遅くなるかもしれないから、先に寝ててくれ」
「起きて待っていたいんだけど」
「明日もやることがあるだろ」
「うん、でも。ヴィデロさん、ちゃんと寝てる? 最近俺より遅く寝て、先に起きてるじゃん」
「前よりよほどよく寝てる。ベッドは心地いいし、腕の中にマックがいるからな」
「ヴィデロさん」
前は起きてログインして門の所に行けばヴィデロさんに逢えたけれど、今はちょっと起きるのが遅れると、すでにヴィデロさんの姿がなかったりするのがちょっとだけ寂しい。その寂しさよりも心配なのが、ちゃんと寝てるのかってこと。ヴィデロさんもヴィルさんも寝る間も惜しんで仕事するからなあ。段々行動パターンが似てきた気がする。
ヴィデロさんたちを見送ると、俺はギルドの転移魔法陣で目立たないようにトレに戻った。
トレのギルドの転移魔法陣がある部屋から出ると、丁度階段を下りてきたエミリさんとばったり会った。
エミリさんはクラッシュそっくりの顔をほころばせて、「あらマック。丁度いいところに」と笑顔を浮かべた。
奥の部屋に拉致られて、指名依頼の紙を俺の前に出す。
見ると、それは調薬でも何でもない依頼で、しかもプレイヤーからの物だった。
「タルト注文が5点……こっちもタルト作り」
「全てあなたのタルトが食べたいっていう指名依頼よ。これでも依頼料が見合わないものはこっちで省いたのよ。それで残ったのがその8点の依頼票。どうする? ほぼ全てお菓子作りよ。薬師にこんな依頼渡していいのかいまだに悩むけれども」
「タルトかあ。もしかしてこの間のタルト、結構広まっちゃったのかな」
前にトランスとリターンズに渡したタルト、鉄骨さんが掲示板に載せていいかって許可を求めたので、軽く頷いちゃったんだよなあ。そのせいかな。見た目は自分でも上出来だと思ったから。味もだけど。
依頼票を見て、報酬を見て笑いそうになる。
「言い値で買おうっていう人、豪快ですよね」
「ほんとよね。言い値でって言葉の怖さをわかってないんじゃないかしら」
「こっちの人も。この報酬欄に並んでる素材、魔大陸の魔物素材じゃなかったでしたっけ」
「そうね。出にくい方の素材よね。売るとそこら辺の店のタルトなんて100個余裕で買える値段の物ばかりね」
「そっち買った方がいいんじゃないかなあ」
「そこら辺を決めるのは個人だから何も言わないわ。で、どうする? 断ってもいいのよ」
「いえ、報酬がおもしろいので受けます。早めに作って持ってきますね。まずは油ゲットからですけど。トレアムさんの所に行かないと」
花のバターがそろそろ切れそうなんだよなあ、と考えていると、エミリさんがおかしそうにくすくす笑い始めた。
「ほんとマックは人が良すぎよね。普通薬師に薬以外の依頼なんて断るわよ」
「これは趣味なんで、作るのは楽しいですから」
きっぱりとそういうと、エミリさんは「素敵な趣味ね」と俺の頭を撫でた。そんなに俺の頭撫でやすいのかな。
くしゃくしゃになった髪を手で戻しながら、俺は指名依頼の紙を手に取った。途端にピロンピロンピロンと沢山の通知音が来る。
ちらりとびっくりマークの付いているクエスト欄に視線を向ける。プレイヤーからの依頼でも、ギルドを通すとちゃんとクエストになるんだなあ、なんて変なところで感心しながら、俺はエミリさんの前を辞した。最後「ちゃんと預金とかの確認はマメにね」って釘を刺されてたけど、そうだね。確認はマメにしないとね。前に確認したのはいつだったかなあ。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。