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769、家族でお出掛け!
ヴィルさんとお祖父さんの打ち合わせは続く。
言葉もわからないので大人しく座っていると、お祖母さんがそっと『この人たちこうなっちゃうと長いから私たちは向こうでお話ししましょう』と声を掛けてくれて、違う部屋に移動することになった。
驚いたことに、他にも応接室みたいな部屋があって、本当にここは何部屋あるんだろう、とちょっと呆然としてしまった。
『改めて、おめでとう、ヴィデロ君、健吾君』
お祖母さんは優しそうな笑顔で俺とヴィデロさんの手を順番にとってギュッと握った。
『本当に素敵なお式だったわ。神前式というのも趣があっていいわね』
アリッサさんが通訳を買って出てくれたのがありがたい。
どうやらお祖母さんは、初めて見る孫とその相手、つまり俺とヴィデロさんと会うのをすごく楽しみにしてたみたいなんだ。
ヴィルさんから手紙を貰って、しかもその孫が結婚式を挙げると知って、サプライズで驚かせようと思ってお祖父さんと二人ワクワクしながら来たらしい。
くすくす笑う顔は、どことなくアリッサさんに似ているけれど、雰囲気はもっと丸くてフワッとしていて、とても上品な老婦人、という言葉が本当にしっくりくる女性だった。
そっか。ヴィルさんとヴィデロさんは、お祖父さんと似てるんだ。ってことはお祖父さん、若いころは滅茶苦茶イケメンだったんだね。今もすごく渋い感じでかっこいいけど。
最初から本当にフレンドリーで、ヴィデロさんもたじたじっぽい。
今までどうしていたの、全く違う言葉を話していたんでしょう、どんなものが好きなの、特技はなに、二人はどうやって出会ったの、今幸せなの、等々、ヴィデロさんが質問攻めにあっている。
「母さん、何とかしてくれ」
「無理よ。ママンはあなたを可愛がりたいのよ。そうなっちゃうともう止まらないわ。諦めて可愛がられなさい」
ああ、アリッサさんいい笑顔。アリッサさんもヴィルさんもヴィデロさんを甘やかす気満々な上にお祖母さんまでとか、俺が甘やかすスペースがなくなっちゃいそう。
『ところでアリッサ、健吾君って本当にもう入籍できる歳なのかしら?』
『19歳よ。もう入籍済みで、戸籍上でもちゃんと二人はパートナーよ』
アリッサさんが何かお祖母さんの質問に答えた瞬間、お祖母さんはぐわっと目を見開いた。
何か見ちゃいけない者を見る目でこっちを見て、『ダヴェッロ!?』と声を上げる。
頬を両手で押さえて、何かを呟いているけれど、笑いを堪えているヴィデロさんを見て、ちょっと察した。
あれですね、アリッサさんが前に言っていた東洋の神秘的アレですよね。わかります。俺、だってきっと外国の人から本当の歳より数歳は若く見られるから。……もう慣れたよ。
「ケンゴクン、ヨロシク」
お祖母さんが日本語でゆっくりとそう言ってくれた。すごくカタコトだけど、なんかすごく嬉しい。本当は日本語を話せないんだってアリッサさんがこっそり教えてくれたけれど、もしかしてこの時のために覚えてくれたのかな。
お茶の時間を楽しんでいると、ようやくヴィルさんが俺たちのいる部屋に顔を出した。
話し合いはとりあえずひと段落ついたから、遊びに行かないかって。
「遊び?」
俺とヴィデロさんが首をかしげると、ヴィルさんはすごくいい笑顔で頷いた。
それから一時間後、俺とヴィデロさんは私服姿になっていた。ホテルの一室に、俺たちの大きさにぴったりの私服が用意されていたんだ。それに着替えろと渡されて、首を傾げながら言われるままに着替えた俺たち。さっきまで身に着けていたスーツはすっかりクリーニング行きになっている。俺の一張羅がホテルマンの人に回収されて持っていかれてしまった。
どこに行くとは教えてもらってないので、ヴィデロさんと二人でどこ行くんだろうね、と話をしていると、ヴィルさんがやっぱりラフな格好で別の部屋から出て来た。
最初の部屋で待っていると、お祖父さんとお祖母さんもポロシャツとワンピースに着替えていた。さっきとは全く雰囲気が違っていて、ちょっとびっくりした。
「さてと。出掛けようか。どうしても家族で行ってみたかった場所があるんだ」
ヴィルさんはそういうと、とてもいい笑顔で笑った。
ヴィルさんが佐久間さんの車を運転して着いた場所は、世界的に有名なキャラクターのテーマパーク。
俺も小さいころ家族で一度来たことがあるそこに、ヴィルさんはどうしても弟と共に来たかったんだそうだ。
最も、そう思っていたのは小学生の頃らしいけれど。今ならこうして夢もかなえられる、なんて言って、お祖父さんに「まったく……」と呆れられていた。と言いつつ、お祖父さんは携帯端末を駆使して、色々なアトラクションにすでに予約を入れて、存分に楽しむ気満々だった。えっと、お祖父さん、もしかしてお祖父さんも来たかったのかな。お祖母さんは聳え立つ建物を見て、まあ、おとぎの国みたいで素敵ねえ、とゆったりと笑っている。
お祖父さんが俺の分までチケットを購入してくれて、皆でゲートをくぐると、ヴィルさんとお祖父さんが額を突き合わせてどこから回ろうか相談し始めた。
ここ、ジェットコースターとかもあるんだけど。ええと、それはちょっと勘弁してほしいかな。
そう思いながら大人しくしていると、ヴィデロさんは遠くに見えるジェットコースターを見て、顔を顰めていた。
「ああいうもの、ケンゴは苦手じゃなかったか? 高橋たちの飛翔で怖がっていたしスピードが速いのも好きじゃないだろ」
ジェットコースターの見える場所を指さしたヴィデロさんに、俺はうんうん頷いた。めっちゃ苦手だよ。乗ったら気絶しそうなくらい苦手だよ。
でもすごく楽しそうにお祖父さんと色々と調べてるヴィルさんを見ると、そんなこと言えない。
ギュッとヴィデロさんの手を握って、「楽しみだね」と笑うと、ヴィデロさんは「そうだな」と一緒に笑ってくれた。
『おじい様、まずはトーテムコースターから攻めますか。心臓はぽっくりいかないですか?』
『私はそんなやわじゃない。よし、今なら40分待ちだ。走るか』
『おばあ様はどうします』
『彼女はこういう物は乗らん。ゆっくりと景色を楽しむと言っていた』
『そうですか。では……』
ヴィルさんは携帯端末から顔を上げて、ヴィデロさんの手をがしっと掴んだ。
「行こうか、弟よ! いざ! 山の頂上へ!」
「山の頂上って……あれか。俺はいい」
ヴィデロさんはゆっくりと首を振った。
「あの速い物だろう。ああいう物は乗らない」
「どうしてだ」
「そもそもあれは面白いのか? ただ速く動くだけだろう」
ヴィデロさんはジェットコースターが走っている山を見て、呆れたような声を出した。
そっか。グランデにはこういう遊ぶ場所がないから。っていうか毎日がジェットコースターよりもスリリングだからね。魔物は襲ってくるし。娯楽に割く余力は完全にこっちよりも少ないだろうな。
ってことは、俺が怖がってたらヴィデロさんが遊園地を満喫できないってことか。
せっかく皆で来たんだし、楽しんで欲しいけど。
っていうかヴィデロさんはジェットコースターとかに乗ったらどうなるんだろう。反応はちょっと見てみたい、気がしないでもない。それに、ヴィデロさんが何を面白いと思うか、それが知りたい気がする。だったら、ここで俺に合わせて何も乗らないっていう手はないんじゃないかな。
俺はぐっと手を握りしめて、ヴィデロさんを見上げた。
「……お、俺も、乗りたい……ような気がしないでもない……」
若干涙目かもしれないけど、気のせい気のせい。
お祖母さんとアリッサさんはゆっくりとパークの中を見て回るということで、俺たち男陣が別行動で移動を開始した。正直アリッサさんたちのゆったり班に混ざりたい気もしたけれど、そうなるとヴィデロさんと別行動か弟とこういうところで思いっきり遊びたかったヴィルさんの期待を裏切ることになっちゃうから、と思うと何も言えないし、何より、ヴィデロさんがおもしろいと思う物を知るということが出来なくなるから、素直にヴィルさんたちについていく。
長い人の列に並ぶ。待ち時間が恨めしい。サッと乗ってサッと終わっちゃえば怖いと思う間もなく終わるのに。この長い待ち時間が緊張をさらに高めてくれる気がする。
「ケンゴ? 本当に大丈夫か?」
「うん。大丈夫。ヴィデロさんと一緒だから大丈夫!」
ぐっと握り拳を作ると、前に並んでいたヴィルさんが振り向いた。
「健吾、怖いんだったらそっちのベンチで待っていてもいいんだぞ。端末で連絡を取り合えば合流も出来るし」
「でも俺、ヴィデロさんが面白いと思うことを一緒にやりたいから」
「……俺がこれを面白いと思うかはわからないが……ケンゴが苦手なら違うところに行きたいと思う」
「でも」
「でもはなし」
ヴィルさんは人差し指を俺の鼻にくっつけて、ニコッと笑った。
「昔から、俺はおじい様とこういうところで遊びたかったんだ。でも俺も勉強で忙しい、おじい様も仕事が空かずに忙しい、と、今までかかってしまったんだ。だから、おじい様と乗れるだけでも楽しいんだ。無理はダメ」
『今日は楽しむために来たんだぞ、健吾君。君が楽しくなかったらそれは私の失策だ。無理はダメ』
「じゃあ俺たちは違うところを見て回る。正直、こういう遊ぶための場所は初めて来たから、どれを見ても新鮮なんだ。ケンゴ、俺は向こうの方が気になるんだけど、一緒に行ってくれるか?」
口々に言われて、俺は思わず安堵の息を吐いていた。
ヴィデロさんが指さしたのは、森の中に立つお城のような建物。あのアトラクションは確かゆったり進むやつだったはず。
俺が返事をする前に、お互い心行くまで楽しんだら、携帯端末で連絡を取り合おうと約束してヴィデロさんは俺の手を取って人の列を抜け出した。
そのまま手を繋いで道を歩く。
「ヴィルさん、ヴィデロさんと遊びたかったんじゃないかなあ」
「俺はあいつよりケンゴを優先したい」
きっぱりと言われて、ごめんなさい、と呟く。雰囲気おかしくなっちゃったかな、と思ったら、ヴィデロさんが繋いだ手を持ち上げて、チュッとキスをした。
「俺はケンゴが楽しそうな顔をするのが一番楽しい」
「ヴィデロさん……好き」
人目もはばからずヴィデロさんに抱き着くと、ヴィデロさんは笑いを含んだ声で、「俺も」と返してくれた。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。