これは報われない恋だ。

朝陽天満

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770、帽子は辞退します

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 そこからは楽しんだ。

 二人でヴィデロさんが指さした森の中のお城をテーマにしたアトラクションに並んで、ゆっくりと進む座席に座って城の中を堪能したり、パーク内を循環している馬車風バスを見送ったりして、歩きながらお菓子を食べたり。お城はさすがに本場のグランデの城の方が立派だよね、なんて話がかなり盛り上がり、ヴィデロさんに騎士のとっておき裏話を聞いて大笑いしたのが本当に楽しかった。騎士って甘いモノ好きな人多いんだって。だから王宮でパーティーが開かれた時は警護について休憩時に給仕待合の王宮御用達お菓子を摘まむのが楽しみだとか。実は近衛騎士専用の通路があるとかそれ俺に教えちゃっていいの? っていう話題が沢山出て来た。

 途中アリッサさんから連絡が入って合流して皆でゆったりと水上ボートを楽しんだり、スピード系乗り物を制覇したヴィルさんたちと合流して古風なレストランに入ったりした。

 ニコニコとステーキを頼むヴィルさんの頭には、ちょっと普段は被れないような帽子が乗っている。

 お祖父さんの頭にも似たような帽子が乗っている。どうした二人。



「これを被るとここを堪能してる気がしてくるだろ」



 俺の視線に気が付いたヴィルさんは、そう言って俺にウインクを飛ばして来た。



「それを被ってなくてもめちゃくちゃ堪能してると思います……」



 俺の心からの呟きに、ヴィデロさんは深く頷いていた。

 俺の分もあるよ、とヴィルさんに渡されたけれど、俺は静かに遠慮しておいた。だって兎の耳なんだもん。そんなの、ADOにログインしたらいつでも被れるから!





 その後は皆でショーを見たり、お土産屋さんを覗いたり、ソフトクリームを食べたりして、すごく楽しんだ。

 お祖母さんが『はしたないけれど今日は目を瞑ってね』と言いながら大きな口を開けて笑ったのを見た時は、お祖父さんが凄く驚いた顔をしていた。その後お祖父さんも嬉しそうにしていたから、きっと普段お祖母さんはこんな風に笑わないんだろうな、なんて見ていた。

 お祖父さんは射撃の腕が凄くて、ほぼ百発百中だった。ほれ、なんて特大ぬいぐるみを渡された時はどうしようかと思ったけれど、もう一つゲットしてヴィデロさんにも渡してた時は笑った。『孫たちには自分の腕で勝ち取ったものを贈りたいだろ』なんて、お祖父さんカッコ良すぎかな。その後ヴィデロさんとの勝負になって、実はヴィデロさんも射撃が上手いことが判明。弓で狙いを定めるよりよほど簡単だなんて滅茶苦茶かっこいいことを言っていた。そしてヴィデロさんが取ったキャラクターお菓子詰め合わせのリュックは、ヴィルさんの手に。「やる」なんて渡した瞬間、ヴィルさんはヴィデロさんに有無を言わせずハグしていた。ヴィデロさんが「やめろ! 離れろ!」と顔を赤くして大騒ぎしてたのが最高だった。好き。

 アリッサさんはずっと携帯端末で俺たちの写真を撮っていて、全員が笑ってぬいぐるみを持ってる画像をトップ画像に飾っていた。すごく、幸せそうな顔をしていた。





 夜にナイトパレードを見て、テーマパークを出た俺たちは、ヴィルさんお薦めのお寿司屋さんに行って皆でお寿司を食べてから、家まで送ってもらった。

 アリッサさんはもう一泊泊まったら明日は朝から仕事に行かないといけないらしいので、またしばらくは顔を見れないんだとか。

 ヴィルさんはお祖父さんたちをホテルに送ってきたら戻ってくるんだって。佐久間さんに車を返すからって。久しぶりの自分の部屋だから今日はぐっすり寝れるかな、なんてニヤリとしている。やっぱり寝不足だったんだ。

 明日は会社に顔を出すから朝飯もよろしく、とヴィルさんに言われて頷くと、俺とヴィデロさんは部屋に戻った。



「それにしても、今日行ったところは凄かったな。アレが全て機械制御で動いているってことか……この世界に魔法がないのが不思議でならない。魔法だと言われた方がしっくりくる」

「そうだよね。俺たちにとっては魔法を使えるっていう方が夢のようだけど」

「世界の隔たりは……恐ろしいほどだな。あいつは……もし、道が繋がったらどうするつもりなんだろうな」



 ヴィデロさんはソファに座ると、お茶を淹れようとキッチンに立った俺を手招きした。

 まだお湯が沸いてないんだけど、と首をかしげると、ヴィデロさんは「今日は慌ただしかったからゆっくりしよう」と腕を広げた。俺は火を止めて、まるで誘蛾灯に吸い込まれる蛾のようにふらふらとヴィデロさんの腕の中に飛び込んでいった。だって誘惑に逆らえないもん。めちゃくちゃ誘惑されるあの腕に。



 ヴィデロさんの腕の中にスポッと収まり、肩に頭を預ける。はあ、至福。

 ヴィデロさんも俺を腕の中に包むように抱き込んで、俺が後ろに落ちないようにお尻を押さえる。

 向き合ってヴィデロさんの膝の上とか、どんなご褒美なんだろう。ゼロ距離がもう最高。これからは名実ともにこの位置は俺の場所なんだと思うと、感無量。

 俺、絶対にヴィデロさんが後悔しない伴侶になるから。だから、飽きたりしないで欲しい。

 ちょっと肩口をおでこでグリグリすると、ヴィデロさんが身を捩ってくぐもった笑い声を上げた。くすぐったかったのかな。



「昨日、あれだけ盛大に愛し合ったのに、今日一日大騒ぎだったんだ、疲れただろ」

「うん……言われて気付いたけど、疲れてるかも。すごくヴィデロさんの膝の上が心地いい」



 お疲れ様、なんて耳にキスをするヴィデロさんの声にぐっと来ていると、ヴィデロさんはそのまま頬にもチュッとキスした。



「それにしても……あいつは何をしているんだろうな。向こうとこっちを繋いだとして……文化が違い過ぎて両方に混乱を招きそうだ」

「俺もそれを思ってたんだけど、ヴィルさんだったら悪いようにはしないんだろうなとは思ってるんだ」

「あの母の両親まで巻き込んでるということは、かなり大掛かりなことをしようとしてるんだろ。あいつたまに無茶苦茶だからそれが怖いな。……悪いようにならないっていうのは、信じてるけれど」



 うん、俺もヴィルさんのことは信じてる。



「最初はさ、もしこっちの人も向こうに行けるようになったら、ユキヒラも輪廻も好きな人と一緒にいられるようになるのかも、なんて簡単に考えてたんだけど。もちろん俺が向こうに行こうとしてた時みたいに。でも、ログインする人たちみたいな人がそのまま向こうになだれ込んだら、なんて思うと、それは絶対にだめなんじゃないかって」

「ケンゴ……向こうも大事に思ってくれてること、嬉しく思う」

「だってヴィデロさんの故郷だもん。俺もあの世界すごく好きだから」



 ヴィデロさんがいつでも故郷に帰れるようになるのはすごくいいと思う。

 もし、いつか、向こうに帰ると言い出したら、俺だって絶対についていく気満々だし。

 それと同時に、ヴィデロさんはちゃんとこっちの世界は居心地よく感じてるのかな、なんて心配になる。

 なんとなく思うんだけど、ヴィルさんは、もしヴィデロさんが帰りたいと思ったときに、憂いなくいつでも帰れるように道を作ろうとしてるんじゃないかなって。前はアリッサさんを迎えに行くために細々と研究を続けていたヴィルさんは、アリッサさんが自力で帰ってきたことによって、実はそれ以上の研究はいらなかったんじゃなかったのかな。それでも続けたのは、アリッサさんが残してきたヴィデロさんを探して連れて来るため? それとも自分で探しに行くため。ヴィデロさんもこっちに来た今、向こうにつながる道を開くことは、どんな意味があるんだろうって。ヴィルさんは「自分が行ってみたいから」って言ってたみたいだけど、きっとそれだけじゃないんだよ。

 お祖父さんまで巻き込んで、ヴィルさんは何をするんだろう。家族全員がこっちに揃ったのに。

 それを考えると、やっぱりヴィデロさんのためなんじゃないかなっていう考えが次から次へと湧き上がってくる。



「もし、ヴィルさんがやろうとしてることが成功して、向こうに行き来できるようになったらさ、ヴィデロさん、里帰りするときは絶対に教えてね。俺もついてくから。言葉も頑張るから」



 背もたれに体重をかけているヴィデロさんの背中に無理やり腕を回すと、俺は小さくそう呟いた。でもゼロ距離じゃ絶対に聞こえてるはずで。ヴィデロさんは俺に回した腕にぐっと力を込めた。



「……俺が帰るところは、ケンゴがいるところだけだ。向こうだろうとこっちだろうと」



 そう呟いたヴィデロさんの声は、少しだけ掠れていた。





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