695 / 744
連載
778、我が子と同胞
しおりを挟む『我が子の気配がする……!』
その口がそんな言葉を紡ぐ。
ディーが怒ったように声を上げた。次いで、ノワールも。
『どうしてここに来た!』
『引け、蒼獣!』
『これはアレとは違うモノだ』
『知っています。でも、私も何かせずにはいられない! あの子の気配を感じてしまっては、何もせずにはいられないのです……!』
シュッとした身体で長い尾をなびかせながら飛ぶ青い鳥は、その言葉から、ブルーテイルだということが分かった。
でも見た目が全然違う。もっとモフモフだったはずなのに。めっちゃかっこよくなってる!
ブルーテイルは大きな羽根でヴィデロさんの横に並び、並走し始めた。
『この命の源である水よ、我が子に水の祝福を! 『水の盾』!』
飛びながらヴィデロさんに魔法でバフがけをしていく。
さらに風の祝福であるスピードアップの魔法を掛けると、そこから離れて、俺の方に向かって飛んできた。
俺の肩に足を乗せ、羽根を閉じる。
そこでまた水の盾を俺たちの前に展開した。
『私には戦う力はありません。ですが、癒し、そしてその者の力を引き出すことは出来ます。我が同胞は私が護ります。あなた方はそちらを』
ブルーテイルの言葉に、前線組さらに猛攻撃を開始し始めた。
ブルーテイルが俺の肩に乗った状態で、俺は聖短剣を構えて中央の浄化に乗り出した。
さっきよりも安心の浄化。ブルーテイルの水の膜に守られながら、俺とニコロさんは残りの浄化を開始した。肩で息をするニコロさんは、スタミナが尽きかけているようで、かなり顔色が悪い。少し離れて休んでいて欲しいと言ってもニコロさんは全く聞いてくれない。
魔物の爪に飛ばされたノワールにニコロさんが回復魔法を飛ばしたところで、ニコロさんの身体が傾ぐ。
慌てて支えようと手を伸ばすと、ブルーテイルが風魔法でニコロさんの身体を支えてくれた。
『少しおやすみなさい。あなたはまだなくてはならない者。ここで倒れてはなりません』
「わかっているのですが、私ばかり休むのは……」
『仲間を信じて』
「俺が繋ぎます!」
ブルーテイルの言葉に頷くと、ニコロさんは悔しそうな顔をしながら「少しだけ、休ませてもらいます」と水の膜に守られながら後ろに下がった。
ニコロさんと俺の間に、厚い水の壁が現れる。
ブルーテイルの魔法だった。防御が凄い。
よし、と気合を入れ直した俺は、剣を構えて浄化魔法の詠唱に入った。
「『円状鎮魂歌』!」
魔物を中心に浄化魔法をかけると、悲鳴のような咆哮を上げ、魔物が後ろに身を引いた。
そして、俺に再度焦点を合わせる。
魔物が俺に向かって飛び出した瞬間、俺と魔物の軌道の間にレガロさんが割り込んできた。
剣を魔物に向かって突き出すと、その剣に自ら飛び込むように魔物が剣に突き刺さっていく。まるで剣を呑み込んでいくように、口の中に剣が消えていった。
その一撃で、ぐん、とHPバーが減った。
レガロさんの腕が肘まで魔物の口の中に入っているけれど、レガロさんの顔には微笑が浮かんでおり、一歩も引く気はないみたいだった。
『ゴァァァァァァァ……ガ……』
咆哮をあげようとした魔物はしかし、口から出る音はおおよそ圧のかかった咆哮にはならず、代わりにダラダラと血なのかよ誰なのかわからないほど黒い液体を口から垂らした。
と同時に頭の上からヴィデロさんの剣が突き刺さり、さらにぐっとHPが減っていく。
口から飛び出した液体は、レガロさんの腕や服を容赦なく黒く染めていく。
前と上から剣に刺し貫かれ身動きが取れなくなった魔物の身体を、聖獣たちが噛み千切り、爪で裂いていく。
「レガロさん!」
ヴィデロさんが険しい顔で呼ぶと、レガロさんは目を細めた。
「大丈夫ですよ。この場所が綺麗になるなら、腕の一本など惜しくないです」
そんなことを言うレガロさんの表情は、言葉通りとても満ち足りているようで、俺は次の言葉が出なかった。
剣二本に貫かれていた魔物は、レガロさんの目の前でとうとうキラキラと光になり、宙に消えていった。
ようやく見えたレガロさんの腕は、牙に裂かれてボロボロになった袖と、黒く汚れた手袋を身に着けたまま、黒い靄のような物を纏っていた。
「それは……!」
駆け寄ってきたニコロさんが、「失礼します……!」とレガロさんの袖を無理やり引っ張ると、袖は簡単にビリっと裂けて腕がむき出しになった。
その腕は、さっきの魔物と同じように真っ黒に染まっており、やっぱり黒い靄を纏っていた。この状態は見たことがある。穢れた状態だ。しかも、腕まで真っ黒になってるなんて、かなりひどい状態だというのがわかる。
俺がインベントリからディスペルポーションを取り出そうと指を宙に這わせた瞬間、ニコロさんが詠唱を始めた。
「この地、この場所、この尊き命に蔓延る邪なる気を包み込み消し去り給え。『浄化鎮魂歌』」
中央の穢れた魔素と共に、レガロさんの腕を聖なる光が纏って包んでいく。
黒い痣が光に消化吸収されるようにサラサラと消えていき、その光が収まると、レガロさんの腕はただ傷だらけの肌色の腕に戻っていた。
俺の肩に止まっていたブルーテイルが間を置かずに水属性の回復魔法をその腕にかけると、すぐにレガロさんの腕は傷ひとつない肌色の腕に戻った。
「お手数をおかけしました。ありがとうございます、猊下、蒼獣殿」
「こんな無茶はもうしないでください」
『この程度しか返せない私の力の無さを不甲斐なく思います』
眉間の皺を深くするニコロさんと、落ち込んだような響きの言葉を噤むブルーテイルに、レガロさんがフワッと優しい顔を向けた。
「もう、大丈夫です。逆に、お子さんの危機に間に合わず、本当に申し訳ありませんでした」
『それが定めだったのでしょう。それでも、少しでも同胞の力になれるのならと、若輩ながらここまで来てしまいました』
ブルーテイルが俺の胸に抱かれている卵に顔を近づける。
『 』
聞き取れない言葉で、何事か卵に話しかける。
そして、俺の頬に頭を摺り寄せてから、近くに立っていたヴィデロさんの方に視線を動かした。
『あの者から、我が子の気配がします……とても懐かしい、そして、愛おしい……』
ブルーテイルが震える声で呟く。
ヴィデロさんはしっかりと聞きとれたみたいで、「ああ」と頷いて、指を宙に這わせた。
一瞬後には、その腕に、俺が前にプレゼントしたアクセサリーが現れた。
『ああ……っ! 坊や……!』
感極まった声で、ブルーテイルが俺の肩を飛び立つ。ヴィデロさんが腕を出すと、ブルーテイルは迷わずその腕に止まった。
「これは、あなたが無事卵を孵化させ巣を飛び立った後に残されたあなたの子の羽だ。マックが俺に贈ってくれたものだけど、あなたが持っていた方がいいのかもしれない」
ヴィデロさんが腕輪を外して、その羽根をブルーテイルの前に差し出すと、ブルーテイルはゆっくりとかぶりを振った。
『いいえ、そこには、沢山の想いが込められています。その想いは全てあなたのもの。私は受け取れません……我が子の形見を大切に扱ってくださって、ありがとう。そして、我が同胞を慈しんでくださって、ありがとう』
ブルーテイルはヴィデロさんの腕から飛び立つと、俺とヴィデロさんの上を旋回し、甲高い鳴き声を上げた。
ブルーテイルが飛んだ場所にサァ……と霧雨のような雨が降り注ぐ。それはとても綺麗で、とても心地よかった。
『 』
もう一度、聞き取れない言葉を紡いだ瞬間、胸にくくった布の中からパキっと音が聞こえた。
「うま、うまれ……!」
俺は慌てて胸の布を外しにかかった。ヴィデロさんも驚いたような顔をして、卵が落ちないように布ごと押さえてくれる。
布から卵を取り出して、手の平に乗せる。喉がごくりと鳴った。
パキ。コツ。パキ……。
皆で見守っていると、小さな穴の開いた殻の奥から、青くて小さなくちばしが飛び出してきた。
2,249
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。