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780、未来へ。
ステータス画面を開くと、しっかりとびっくりマークがついていたので、クリア通知が来たことがわかる。
クリア報酬が全て???となっていたのがちょっとドキドキするクエスト欄にそっと指を伸ばした。
もう片方の手の平では、ふわっふわのティーロイが産毛の生えている身体をくちばしで毛づくろいみたいな感じで手入れしている。可愛い。
『聖域を浄化しよう
教皇猊下、先見の魔術師、聖獣たちと共に聖域の魔物を殲滅し、浄化しよう
浄化範囲:100%
【クエストクリア!】
猊下と先見の魔術師、聖獣たちと共に聖域の魔物殲滅に成功した。
穢れた区域を全て浄化することに成功した。
クリアランク:A
クリア報酬:聖域(奥内部)への出入り権利(聖域への道使用可能) 聖域での採取権利 先見の魔術能力体験(特定の条件下一度のみ回避不可)』
「!?」
内容を読んで、俺は声もなく驚いた。
だって最後の報酬。
レガロさんの力を一度だけ体験できるってことだよね。
どういうことなんだろう。
何か未来予知が出来るってことかな。でもいつ使えるんだろう。ぱっと見ではステータス欄にそれっぽいスキルは現れていないけれど。
ブルーテイルのフワフワの背中を指で撫でながら首をかしげていると、レガロさんが目の前にしゃがみ込んできた。
「私にもティーロイちゃんを撫でさせてくださいませんか?」
『ピ!』
微笑で覗き込むレガロさんに、ティーロイはちょっと固まったみたいだった。でも差し出された指に恐る恐る近付いて、ちょっとだけ頬を寄せると、ささっと俺の手からヴィデロさんの手の方に移動していってしまった。
「ふふ、ありがとうございます。大変嬉しく思います」
『……ピィ?』
「自ら触れてくださったということは、私の魔力も少なからず感じてくださったということでしょう。そんな不思議そうな顔をなさらず。あなたのベッドの製作者は何を隠そうこの私です。今度はこのお体に合う物をおつくりしましょうね。先程あなたから挨拶して下さったお礼です。きっとマック君たちと一緒にいれば、すぐに成長できると思いますので、その都度その大きさに合ったベッドをおつくりしましょう。そして、あなたが成長しきり、こちらの蒼獣殿のように身体の大きさを変えられるようになったら、一番お気に入りのベッドを使うといいと思います」
『ピィオ』
「お礼などいりませんよ。これは先程の報酬だと申し上げましたでしょう。当然の権利です」
ナチュラルにティーロイと話をするレガロさんの言葉に、俺とヴィデロさんは顔を見合わせた。
なんか、商人にあるまじきことを言ってるような。
ベッドを身体の大きさごとにプレゼントとか。さっきティーロイが身体を頬擦りをした報酬とか。待って。レガロさんも一応商人だよね。
戸惑っていると、手を引っ込めたレガロさんが、ニコッと笑った。
「もしもベッド置き場に困りましたら、なんでも相談してくださいね。良い大工職の方を紹介いたしましょう。もちろん私の口利きですので、普段お願いする増築よりはかなりお安くさせていただきます」
「増築させるほど本気だった!?」
「もちろんです。ですから、お二人はぜひティーロイちゃんが大きくなるまで末永くこの世界に赴いて欲しいと思っております」
さて、とレガロさんが立ち上がり、元はブルーテイルの巣だったと思われる樹の枝を見上げた。
腕を広げ、ゆっくりと目を瞑る。
レガロさんがただそうやって立っているだけなのに、空気が震えた気がした。
段々と視界が歪んでいく。
「何……?」
ティーロイを手の平に包んで胸の辺りでガードする。
「マック君、大丈夫ですよ。今感じているのは、ここの魔素の動きですから」
目を瞑ったまま、レガロさんがいつも通りの声で教えてくれる。
「そしてこれは、クリア報酬です。一度きりなので、心して感じてくださいね」
ああ、これが、と考えることも出来ないくらい、眩暈に似た感覚が身体中を襲ってくる。
手にはちゃんとティーロイがいるのか、それすら認識できない。歪む暗闇の視界。
そして、それは唐突にやってきた。
遠くから近付く、光。
その光の中で、人々が暮らし、笑い、そして、泣いていた。
不思議なのは、どう見てもセィ城下街の街並みなのに、そこには汽車のような乗り物が走っていること。
人も増え、道は人であふれている。
人々の手には携帯端末のような物が握られていて、まるで向こうの世界の街のような錯覚に陥る。
俺は一体何を見てるんだろう。
フッと場面が変わり、今度は見たこともないような場所が映し出された。
頭からフードを被った人たちが鬱蒼とした森を行き来し、魔物を駆逐する。視線は空から、その旅人の一人に焦点を当てているような感じで、旅人を追っている。
その人はとても栄えた街に足を踏み入れた。
セィの街と変わりない程人がいて、街の人々の顔は明るい。
どこだろう、と思った瞬間、その人が街の中心に視線を向けた。
そこには、大きな守護樹が街を覆うように天に聳えていた。
もしかして。
あの守護樹は。
もっとしっかり見ようと目を凝らした瞬間、聖域の景色が目の前に戻ってきてしまった。
ほう、と残念なのか安堵なのかわからない溜め息が口から洩れる。
あの世界は一体。
未来視、のはずだよね。
あそこはもしかして、魔大陸……?
それに、あの汽車と携帯端末……。
「いかがでしたか。私が見たもの、そのままお伝え致しました」
道は繋がり、互いに交じり合い、その先の未来が拓かれていく。
レガロさんがゆっくりと声を紡ぐ。
「幸いにも、私はまだまだ若輩。これから先もしかとこの世界の先を見届けて行こうと思います。あなた方の引き寄せた未来を」
ブルーテイルと別れを告げて、俺たちは通れるようになったトレ方面への道を通って外に出ることになった。
レガロさんが見せてくれたあの景色は、しっかりとヴィデロさんもニコロさんも見えていたみたいで、ニコロさんはしばらくの間手を組んで祈りを捧げていた。
最終的には祈るニコロさんの周りが心地よかったのか、知らない聖獣たちまで寄って来て、綺麗になった広場で寛ぎ始めた。
どの聖獣も口々にティーロイにお祝いの言葉を述べていったので、皆がここでずっと暮らしていた聖獣だってことがわかる。
ティーロイは皆と遊ぶ約束をしたらしく、一生懸命翼をパタパタと動かしていた。まだ飛べないけれど。
洞窟から外に出ると、空は夕暮れ。
そんなにも長い時間、聖域にいたのか、とちょっと驚く。あっという間に一日が終わった。
「色んな事がありすぎて、頭が混乱してる」
「俺もだよ」
『ピィ』
ティーロイの返事に顔を緩めながら、俺たちは二人と一匹でトレの街に帰った。
なんとなく工房に帰ってしまうのが勿体なくて、門の外に転移する。
門にはマルクスさんが立っていて、俺たちを見ると、兜の面をあげて目を細めた。
ヴィデロさんと手を繋いで歩くトレの道は、ただ幸せで、ほんの少し懐かしい。
最近こんな風にゆっくりと手を繋いでこの街を歩いていなかった気がするから。
ティーロイはヴィデロさんの頭の上がお気に召したのか、ちょこんと青いポヤポヤの頭をヴィデロさんの髪の毛からはみ出させていた。ヴィデロさんも笑いながら乗せているのがとても平和で心に染みる。好き。
マルクスさんと話すヴィデロさんを見ながら、頭には先程見せられた映像がフッと流れる。
あれは、今の状態じゃ考えられないこの世界。
でもあの先見の力は本物で、いつかはわからないけれど、二つの世界がああして繋がるのかもしれない。でもそれは可能性の一つで。
この恋は報われない恋だ、と思ってた過去の俺、そして、どっちの世界でもヴィデロさんの隣にいることが出来る今の俺。
レガロさんの見せてくれた先見の世界には俺たちはチラッとも見えなかったけれども、きっと先見に見えていた人たちのように心から笑った顔でこれから先も生きていくんだろうなと思う。
まずは魔大陸を少しずつ人が住めるようにすれば。あんな未来になるんだろうか。
繋がれたヴィデロさんの手を少しだけ力を入れてきゅっとすると、ヴィデロさんが笑顔でこっちを見てくれる。
その笑顔に胸が躍って、俺も笑顔を返した。
ヴィデロさんの頭上では、ティーロイが羽をパタパタさせて、可愛らしくピィと鳴いた。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
次回最終話です。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。