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番外編
番外編:タルトパニック2
「それは大丈夫だけど、どうしたの? キャンセル理由を聞いてもいい? お金は追加料金は頂かないよ」
「違うの。お手伝いをしてもう少しお金はたまったから大丈夫。でも、お祖母ちゃんの具合が悪くてタルトを食べられないかもしれないの。せっかく世界一のタルトを作って貰っても、お祖母ちゃんが嬉しくないのは私も嬉しくないの」
キャンセル理由は思ったよりも大変なものだった。
依頼を出したのは俺が依頼書を見る二日前。その時はお祖母さんは元気だったらしい。ところが一昨日、いきなり具合が悪くなり、今は臥せっているそうだ。
「原因は? お医者さん……はここにはいないから、誰かに見てもらったの?」
「ううん。お祖母ちゃんが、絶対に教会に連絡してはダメって。お母さんが今の教会はもう昔の教会とは違うのよって言っても全然聞いてくれなくて……」
「ああ、そっか……」
あの暴利をむさぼっていた教会が身近にあった人だから、とお祖母さんの言い分に納得してしまった。お母さんの言う通り、今はそんなこと絶対にないし、病気の場合は対処できるのが教会の聖魔法だけなんだけどね。不信感があったらだめだよね。
俺はしゃがみ込んでアマンダちゃんの目を見ると、口を開いた。
「俺ね、本当の職業は薬師なんだ。お薬を作るのが専門なの。治せるかはわからないけれど、お祖母ちゃんに会わせてくれないかな。原因くらいはわかるかもしれない」
「薬師さま……? でも、タルト……」
「タルトはね、俺が好きで作ってるんだ。もしお祖母さんが元気になって、俺の作った世界一のタルトを美味しいって食べてくれたら俺も嬉しいから、お祖母さんに会わせて欲しいな」
そして鑑定眼でどこが悪いのかを見て、俺の手に負える様なら、何とかなるかもしれない。
俺はそんなことを考えて、アマンダちゃんに頼んでみた。
「本当に治る? 治るなら治して、薬師さま……」
俺のローブの裾をギュッと握りしめたアマンダちゃんは、目にたくさんの涙を溜めて、俺を見上げた。
インベントリを開いて、ポーション各種、シックポーション、万能薬、蘇生薬、あらゆるものが揃っているのを確認すると、俺はよし、と心の中で気合いを入れて、アマンダちゃんの後ろをついていった。
お祖母さんは、服飾店の裏手の自宅でベッドに横になっていた。
「あらアマンダ、おかえりなさい。そちらの方は?」
お祖母さんは俺の顔を見ると、少しだけ心配げに眉を寄せたけれど、笑顔でアマンダちゃんを迎え入れてくれた。
「お祖母ちゃん気分はどう? お腹は空いてない?」
「大丈夫よ。ありがとう、アマンダ」
ベッドに駆け寄ったアマンダちゃんの頭をお祖母さんが穏やかな顔で撫でる。意識はあるから回復しているのかな、と鑑定眼で見てみると。
全くそんなことはなかった。
『身体を流れる血脈及び魔力が滞っている状態』となっていた。えっと、脳梗塞みたいな感じなのかもしれない。医学の知識はほぼないから、こういう時は何を使ったらいいのか全くわからない。これってシックポーションで治るのかな。血液関係のポーションって全くなかったからこれは難しいかもしれない。しかも魔力って。
「あのね、このお兄ちゃん薬師さまなんだって」
「薬師様……? そんな、薬師様をお呼びするなんて……」
アマンダちゃんの紹介で、お祖母さんはうろたえだした。
そっか。薬師っていう職の人たち前は表に出てこなかったんだっけ。今はかなりオープンになってるんだけどね。
戸惑うお祖母さんに、俺は頭を一つぺこりと下げた。
「お金は私が払うからね、お祖母ちゃん。だから安心して」
にっこり笑うアマンダちゃんは、先ほど二人の時に見せた憂い顔は絶対に出すことなく、始終笑顔でお祖母さんと話をしていた。まだ小学生になるかならないかくらいの歳に見えるんだけど、すごく大人だったと認識を改める。
俺はとりあえず、シックポーションを取り出して、お祖母さんに渡した。ランクはA。少しは効くといいけど。
「アマンダさんに依頼されました、薬師のマックです。まずはこれを飲んでください。俺お手製で、どこまで効果が出るかはわからないんですが」
効くかわからない薬を出すわけだから、そう言っておかないとだめだよね、と思って付け足すと、お祖母さんはなんだか納得したように穏やかな表情に戻った。
「ありがとう。薬師見習いなのかしら……? アマンダのお願いに付き合ってくれてありがとうね。アマンダ、キッチンにお菓子があるでしょう。お兄ちゃんに出して差し上げて。もちろんあなたも食べるのよ」
「はーいお祖母ちゃん! 薬師さまをちゃんとおもてなしするね! でもお祖母ちゃんは薬師さまが渡したおくすり飲まないと」
「はいはい。いただくわ」
お祖母さんはニコニコしながら、俺の渡したシックポーションを飲み干した。途中「あら、美味しい……」なんて感想を挟んで。味には自信があるからね。
アマンダちゃんに手を引かれる際、サッと鑑定眼でもう一度お祖母さんを見ると、魔力の流れは戻ったけれど、血脈は治っていないという状態になった。ダメだったかあ。
キッチンに案内されると、アマンダちゃんは椅子を用意して、慣れた手つきでお茶を淹れ始めた。
どうぞ、とお茶と焼き菓子を出されて、お礼を言うと、アマンダちゃんも目の前に座った。
そして、心配そうな顔つきになって、俺を見た。
「お祖母ちゃん……あの薬で良くなった……? お薬って高いんでしょう? 前にお母さんがそう話してるのを聞いちゃったの」
ポツリと聞かれた質問に、俺は笑顔を浮かべた。さっきの一言でわかる。お祖母さんは俺を薬師の弟子か何かで、まだ練習中の身だと思ってるからこそ、アマンダちゃんに乞われてここに来たんだと勘違いしている。
シックポーションは半分しか効果がなかったっていうのもあるし、俺はお祖母さんの勘違いに乗ることにした。
「あのね、アマンダちゃん。俺、さっきの薬、実は練習で作った物なんだ。だから、お祖母さんはまだ半分しか治ってない。半分は元気になったけれど、俺の腕ではまだ完全には治せないんだ。だから、お薬代はいただけない。でもね、俺の師匠がとても腕がいいから、相談してみようと思うんだ。すぐ会ってくるから、時間を貰えるかな」
「半分……治ったの?」
「うん。半分は治ったよ」
「薬師さま……もう半分、治せる……?」
「わからない。だから、俺の師匠に訊いてくる。待っていられる?」
「うん……! うん! 待ってる! だから、薬師さま、お願い、治して!」
「出来る限りのことはするよ」
俺はそう言うと、お茶とお菓子ありがとう、とお礼を言って家を出た。
「違うの。お手伝いをしてもう少しお金はたまったから大丈夫。でも、お祖母ちゃんの具合が悪くてタルトを食べられないかもしれないの。せっかく世界一のタルトを作って貰っても、お祖母ちゃんが嬉しくないのは私も嬉しくないの」
キャンセル理由は思ったよりも大変なものだった。
依頼を出したのは俺が依頼書を見る二日前。その時はお祖母さんは元気だったらしい。ところが一昨日、いきなり具合が悪くなり、今は臥せっているそうだ。
「原因は? お医者さん……はここにはいないから、誰かに見てもらったの?」
「ううん。お祖母ちゃんが、絶対に教会に連絡してはダメって。お母さんが今の教会はもう昔の教会とは違うのよって言っても全然聞いてくれなくて……」
「ああ、そっか……」
あの暴利をむさぼっていた教会が身近にあった人だから、とお祖母さんの言い分に納得してしまった。お母さんの言う通り、今はそんなこと絶対にないし、病気の場合は対処できるのが教会の聖魔法だけなんだけどね。不信感があったらだめだよね。
俺はしゃがみ込んでアマンダちゃんの目を見ると、口を開いた。
「俺ね、本当の職業は薬師なんだ。お薬を作るのが専門なの。治せるかはわからないけれど、お祖母ちゃんに会わせてくれないかな。原因くらいはわかるかもしれない」
「薬師さま……? でも、タルト……」
「タルトはね、俺が好きで作ってるんだ。もしお祖母さんが元気になって、俺の作った世界一のタルトを美味しいって食べてくれたら俺も嬉しいから、お祖母さんに会わせて欲しいな」
そして鑑定眼でどこが悪いのかを見て、俺の手に負える様なら、何とかなるかもしれない。
俺はそんなことを考えて、アマンダちゃんに頼んでみた。
「本当に治る? 治るなら治して、薬師さま……」
俺のローブの裾をギュッと握りしめたアマンダちゃんは、目にたくさんの涙を溜めて、俺を見上げた。
インベントリを開いて、ポーション各種、シックポーション、万能薬、蘇生薬、あらゆるものが揃っているのを確認すると、俺はよし、と心の中で気合いを入れて、アマンダちゃんの後ろをついていった。
お祖母さんは、服飾店の裏手の自宅でベッドに横になっていた。
「あらアマンダ、おかえりなさい。そちらの方は?」
お祖母さんは俺の顔を見ると、少しだけ心配げに眉を寄せたけれど、笑顔でアマンダちゃんを迎え入れてくれた。
「お祖母ちゃん気分はどう? お腹は空いてない?」
「大丈夫よ。ありがとう、アマンダ」
ベッドに駆け寄ったアマンダちゃんの頭をお祖母さんが穏やかな顔で撫でる。意識はあるから回復しているのかな、と鑑定眼で見てみると。
全くそんなことはなかった。
『身体を流れる血脈及び魔力が滞っている状態』となっていた。えっと、脳梗塞みたいな感じなのかもしれない。医学の知識はほぼないから、こういう時は何を使ったらいいのか全くわからない。これってシックポーションで治るのかな。血液関係のポーションって全くなかったからこれは難しいかもしれない。しかも魔力って。
「あのね、このお兄ちゃん薬師さまなんだって」
「薬師様……? そんな、薬師様をお呼びするなんて……」
アマンダちゃんの紹介で、お祖母さんはうろたえだした。
そっか。薬師っていう職の人たち前は表に出てこなかったんだっけ。今はかなりオープンになってるんだけどね。
戸惑うお祖母さんに、俺は頭を一つぺこりと下げた。
「お金は私が払うからね、お祖母ちゃん。だから安心して」
にっこり笑うアマンダちゃんは、先ほど二人の時に見せた憂い顔は絶対に出すことなく、始終笑顔でお祖母さんと話をしていた。まだ小学生になるかならないかくらいの歳に見えるんだけど、すごく大人だったと認識を改める。
俺はとりあえず、シックポーションを取り出して、お祖母さんに渡した。ランクはA。少しは効くといいけど。
「アマンダさんに依頼されました、薬師のマックです。まずはこれを飲んでください。俺お手製で、どこまで効果が出るかはわからないんですが」
効くかわからない薬を出すわけだから、そう言っておかないとだめだよね、と思って付け足すと、お祖母さんはなんだか納得したように穏やかな表情に戻った。
「ありがとう。薬師見習いなのかしら……? アマンダのお願いに付き合ってくれてありがとうね。アマンダ、キッチンにお菓子があるでしょう。お兄ちゃんに出して差し上げて。もちろんあなたも食べるのよ」
「はーいお祖母ちゃん! 薬師さまをちゃんとおもてなしするね! でもお祖母ちゃんは薬師さまが渡したおくすり飲まないと」
「はいはい。いただくわ」
お祖母さんはニコニコしながら、俺の渡したシックポーションを飲み干した。途中「あら、美味しい……」なんて感想を挟んで。味には自信があるからね。
アマンダちゃんに手を引かれる際、サッと鑑定眼でもう一度お祖母さんを見ると、魔力の流れは戻ったけれど、血脈は治っていないという状態になった。ダメだったかあ。
キッチンに案内されると、アマンダちゃんは椅子を用意して、慣れた手つきでお茶を淹れ始めた。
どうぞ、とお茶と焼き菓子を出されて、お礼を言うと、アマンダちゃんも目の前に座った。
そして、心配そうな顔つきになって、俺を見た。
「お祖母ちゃん……あの薬で良くなった……? お薬って高いんでしょう? 前にお母さんがそう話してるのを聞いちゃったの」
ポツリと聞かれた質問に、俺は笑顔を浮かべた。さっきの一言でわかる。お祖母さんは俺を薬師の弟子か何かで、まだ練習中の身だと思ってるからこそ、アマンダちゃんに乞われてここに来たんだと勘違いしている。
シックポーションは半分しか効果がなかったっていうのもあるし、俺はお祖母さんの勘違いに乗ることにした。
「あのね、アマンダちゃん。俺、さっきの薬、実は練習で作った物なんだ。だから、お祖母さんはまだ半分しか治ってない。半分は元気になったけれど、俺の腕ではまだ完全には治せないんだ。だから、お薬代はいただけない。でもね、俺の師匠がとても腕がいいから、相談してみようと思うんだ。すぐ会ってくるから、時間を貰えるかな」
「半分……治ったの?」
「うん。半分は治ったよ」
「薬師さま……もう半分、治せる……?」
「わからない。だから、俺の師匠に訊いてくる。待っていられる?」
「うん……! うん! 待ってる! だから、薬師さま、お願い、治して!」
「出来る限りのことはするよ」
俺はそう言うと、お茶とお菓子ありがとう、とお礼を言って家を出た。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。