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番外編2
大型イベント来る! 9
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俺の説明を聞いた勇者は、ニヤリと笑うと、「面白くなってきたな」と副団長の背中をバンバン叩いた。副団長はうんざりしたような顔をして、溜め息を吐いている。
「道理で最近ここらへんで活動するやつが減るわけだ。確かに魔大陸の方が凶悪な魔物が多いしな。ってことはポイントも貯まるんだろうよ。ってことは、俺らは全力で生産職を支援だな」
「どうするんですか一体」
朗らかによくわからない宣言をする勇者に、副団長が突っ込む。
っていうか仮にも騎士団長である勇者が生産職支援?
戦闘職プレイヤーの支援じゃなくて?
混乱していると、勇者は腕を組み、足を組んだまま、副団長に指示を出した。
「今武器庫にある耐久値のやべえ武器、全部補修に出せ。でもって、新しい剣五十注文。あとは……鎧、見た目は同じで一つ上の素材に今ある在庫の三割を交換、いらなくなった素材は値を下げて売りに出せ。全て、異邦人鍛冶師を抱えているところだ」
「その予算はどこから」
「俺の懐に決まってんだろ」
「うわあ、団長太っ腹ですね。公私混同甚だしいですが」
「うるせえ。金はある。俺の金だ。俺の好きにさせろ」
言ってることはすごく横暴に聞こえるけれど、やってることは慈善事業以外の何物でもないのがなんだかおかしい。
うわあ、という顔で二人の会話を聞いていると、勇者がこっちを見てニヤリと嗤った。
えっと。もしかして、俺も巻き込まれたのかな?
俺も勇者から、色々とお願いされてしまった。調薬関係で。しかもランクの高い物であればあるだけポイントは上がるというお墨付き。手を抜かなくていいから全力で調薬して、それを納品してくれ、と身体能力向上系ポーション各種の注文を数無制限で受けてしまった。売りたければ売りたいだけ買い取ると。売りたくなければ売らなくてもいいと。さあ、どうする? とニヤリ顔で言われてしまっては、出来る限り納品しないといけない気がしてくる。あからさまに挑発してくるんだもん。あの顔で「まあ、マックには期待してるんだ」なんて言われたらさ、手を抜けないじゃん。手なんて抜いたら悔しいじゃん。すっごい心理ついてくるよね、勇者。絶対に脳筋に見せかけておいてなんでもできる人だよあの人。怖い。
「団長、弟子たちへの支援等はよろしいのですか?」
「ああ? あいつらは支援なんていらねえだろ。今頃魔大陸のど真ん中で大笑いしながら魔物狩りまくってるだろうからな」
「ああ……」
納得して、早速勇者の指示を実行しようと部屋を出ていった副団長を見送ると、勇者は「ようやく堅苦しいのが出てったな」と肩を竦めた。
「ところでマック。何かすぐに俺に売れる菓子類はあるか?」
「お菓子、ですか? 何種類かありますけど」
いきなりの質問に戸惑いつつ、インベントリに入っている手作りスイーツを出して並べると、勇者は比較的フルーツの多い数点を売って欲しい、と頭を下げて来た。
「最近ジャスミンの食が細くてな」
「王女様の? どこか体調が悪いんですか? だったら薬……」
「薬は遠慮しておこう。今ジャスミンは俺との愛の結晶を腹に宿していてな」
「え……!」
いきなりの朗報に、脳に情報が行くまでほんの少しタイムラグがあった。
王女様が妊娠。赤ちゃんを産むってこと?
ってことは、食が細いのって、つわり?
うわああああ、凄い。おめでたい!
「おめでとうございます! ああ、でもつわりじゃ心配ですよね。俺、どんなんだかよくわからないけど、じゃあ、ポーション類はお腹の子に障るのかな」
「まあな。そう言われている。粗悪品なんか飲ませたら余計に具合が悪くなる、なんて話も聞く。何分俺も初めてのことだからジャスミン以上にオロオロするばかりなんだ。でもどうやらフルーツと多少の癖のない甘い物なら食えるらしくてな。だからこそ、直接来てもらって訊きたかったんだ。すまんな、こんなプライベートなことで」
「いいえ、全然問題ないです。何なら全部持ってって食べれそうなものを後で送ることもできますから!」
「それはありがたい」
嬉しそうに目の前のスイーツを次々自分のカバンにしまい込む勇者は、いつも王女様の前でだけ見せる笑顔を浮かべていた。
とりあえず、手持ちの身体能力上昇系のハイポーションランクSをインベントリに入っているだけ納品してきた俺は、更に追加で作るべく、トレの工房に戻った。スイーツも作らないと。王女様、さっき渡してきた物の中で気に入るやつあるかな。でもフルーツと甘い物しか食べられないってことは、甘いフルーツで何かを作れば一応栄養も取れるし甘味も取れるってことなんでは?
倉庫から買い貯めておいたペスカの実を取り出すと、それを凍らせてひんやりペスカパフェを作る。他のフルーツを使ったタルトも作って、インベントリにそっと入れる。
王女様の食べ物を先に作ってみた俺は、その後ようやくポーション類の製作にかかった。
二日をかけて『耐久値上昇薬』245本、『脚力上昇薬』202本、『神経研磨薬』156本、『魔力増強薬』素材の関係で7本、を納品した。久しぶりに睡眠時間を大幅に削ってログインした。仕事とは全く関係のないところで。
納品しに行ったときにサラッと聞いたんだけれど、ごく一部のプレイヤーは生産職の人たちを下に見ているんだとか。店先で「俺らが使ってやってる」発言を聞いて、勇者も思うところがあったとか。鍛冶師がいなかったらそもそも戦闘職は成り立たないのに、とちょっとだけ忌々しそうにつぶやいた勇者が、どうして生産職支援をし始めたのかようやく納得できた。
ヴィデロさんは、このイベントが終わったら大々的に連休を取るからと、今はかなり走り回っている。どういう内容なのかは俺も知らないし、社外秘は多いらしい。そもそも所属会社が違うから聞く権利は俺にない。ヴィデロさんもそこらへんははっきりしているから、俺にも情報を漏らさない、とはいえ、俺を巻き込む気満々のヴィルさんがなんてことないように俺にも情報を回してくるんだけれども! ヴィデロさんも俺も困るからほんとやめて欲しい。
そんなこんなで、後半は調薬に奔走して、雄太発、冒険者ギルド主催のイベントは、残すところあと1日となった。
「道理で最近ここらへんで活動するやつが減るわけだ。確かに魔大陸の方が凶悪な魔物が多いしな。ってことはポイントも貯まるんだろうよ。ってことは、俺らは全力で生産職を支援だな」
「どうするんですか一体」
朗らかによくわからない宣言をする勇者に、副団長が突っ込む。
っていうか仮にも騎士団長である勇者が生産職支援?
戦闘職プレイヤーの支援じゃなくて?
混乱していると、勇者は腕を組み、足を組んだまま、副団長に指示を出した。
「今武器庫にある耐久値のやべえ武器、全部補修に出せ。でもって、新しい剣五十注文。あとは……鎧、見た目は同じで一つ上の素材に今ある在庫の三割を交換、いらなくなった素材は値を下げて売りに出せ。全て、異邦人鍛冶師を抱えているところだ」
「その予算はどこから」
「俺の懐に決まってんだろ」
「うわあ、団長太っ腹ですね。公私混同甚だしいですが」
「うるせえ。金はある。俺の金だ。俺の好きにさせろ」
言ってることはすごく横暴に聞こえるけれど、やってることは慈善事業以外の何物でもないのがなんだかおかしい。
うわあ、という顔で二人の会話を聞いていると、勇者がこっちを見てニヤリと嗤った。
えっと。もしかして、俺も巻き込まれたのかな?
俺も勇者から、色々とお願いされてしまった。調薬関係で。しかもランクの高い物であればあるだけポイントは上がるというお墨付き。手を抜かなくていいから全力で調薬して、それを納品してくれ、と身体能力向上系ポーション各種の注文を数無制限で受けてしまった。売りたければ売りたいだけ買い取ると。売りたくなければ売らなくてもいいと。さあ、どうする? とニヤリ顔で言われてしまっては、出来る限り納品しないといけない気がしてくる。あからさまに挑発してくるんだもん。あの顔で「まあ、マックには期待してるんだ」なんて言われたらさ、手を抜けないじゃん。手なんて抜いたら悔しいじゃん。すっごい心理ついてくるよね、勇者。絶対に脳筋に見せかけておいてなんでもできる人だよあの人。怖い。
「団長、弟子たちへの支援等はよろしいのですか?」
「ああ? あいつらは支援なんていらねえだろ。今頃魔大陸のど真ん中で大笑いしながら魔物狩りまくってるだろうからな」
「ああ……」
納得して、早速勇者の指示を実行しようと部屋を出ていった副団長を見送ると、勇者は「ようやく堅苦しいのが出てったな」と肩を竦めた。
「ところでマック。何かすぐに俺に売れる菓子類はあるか?」
「お菓子、ですか? 何種類かありますけど」
いきなりの質問に戸惑いつつ、インベントリに入っている手作りスイーツを出して並べると、勇者は比較的フルーツの多い数点を売って欲しい、と頭を下げて来た。
「最近ジャスミンの食が細くてな」
「王女様の? どこか体調が悪いんですか? だったら薬……」
「薬は遠慮しておこう。今ジャスミンは俺との愛の結晶を腹に宿していてな」
「え……!」
いきなりの朗報に、脳に情報が行くまでほんの少しタイムラグがあった。
王女様が妊娠。赤ちゃんを産むってこと?
ってことは、食が細いのって、つわり?
うわああああ、凄い。おめでたい!
「おめでとうございます! ああ、でもつわりじゃ心配ですよね。俺、どんなんだかよくわからないけど、じゃあ、ポーション類はお腹の子に障るのかな」
「まあな。そう言われている。粗悪品なんか飲ませたら余計に具合が悪くなる、なんて話も聞く。何分俺も初めてのことだからジャスミン以上にオロオロするばかりなんだ。でもどうやらフルーツと多少の癖のない甘い物なら食えるらしくてな。だからこそ、直接来てもらって訊きたかったんだ。すまんな、こんなプライベートなことで」
「いいえ、全然問題ないです。何なら全部持ってって食べれそうなものを後で送ることもできますから!」
「それはありがたい」
嬉しそうに目の前のスイーツを次々自分のカバンにしまい込む勇者は、いつも王女様の前でだけ見せる笑顔を浮かべていた。
とりあえず、手持ちの身体能力上昇系のハイポーションランクSをインベントリに入っているだけ納品してきた俺は、更に追加で作るべく、トレの工房に戻った。スイーツも作らないと。王女様、さっき渡してきた物の中で気に入るやつあるかな。でもフルーツと甘い物しか食べられないってことは、甘いフルーツで何かを作れば一応栄養も取れるし甘味も取れるってことなんでは?
倉庫から買い貯めておいたペスカの実を取り出すと、それを凍らせてひんやりペスカパフェを作る。他のフルーツを使ったタルトも作って、インベントリにそっと入れる。
王女様の食べ物を先に作ってみた俺は、その後ようやくポーション類の製作にかかった。
二日をかけて『耐久値上昇薬』245本、『脚力上昇薬』202本、『神経研磨薬』156本、『魔力増強薬』素材の関係で7本、を納品した。久しぶりに睡眠時間を大幅に削ってログインした。仕事とは全く関係のないところで。
納品しに行ったときにサラッと聞いたんだけれど、ごく一部のプレイヤーは生産職の人たちを下に見ているんだとか。店先で「俺らが使ってやってる」発言を聞いて、勇者も思うところがあったとか。鍛冶師がいなかったらそもそも戦闘職は成り立たないのに、とちょっとだけ忌々しそうにつぶやいた勇者が、どうして生産職支援をし始めたのかようやく納得できた。
ヴィデロさんは、このイベントが終わったら大々的に連休を取るからと、今はかなり走り回っている。どういう内容なのかは俺も知らないし、社外秘は多いらしい。そもそも所属会社が違うから聞く権利は俺にない。ヴィデロさんもそこらへんははっきりしているから、俺にも情報を漏らさない、とはいえ、俺を巻き込む気満々のヴィルさんがなんてことないように俺にも情報を回してくるんだけれども! ヴィデロさんも俺も困るからほんとやめて欲しい。
そんなこんなで、後半は調薬に奔走して、雄太発、冒険者ギルド主催のイベントは、残すところあと1日となった。
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