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番外編3
最強パーティー肉を食む 1
「高級肉」
雄太の口からそんな単語が飛び出した。
ああ、あの魔大陸で特定の魔物からドロップするレア肉ね。
蕩けるような食感、濃厚な肉の旨味をギュッとその身に詰め込んだかのような幸福味のハーモニー。ただ焼くだけでも最高なのに、どんなソースにも合う奇跡の肉。霜降り高級牛肉よりもさらに旨味成分を多分に含んでいるであろうその肉は、すでに俺のインベントリの中にはない。この間ヴィデロさんの誕生日に大盤振る舞いして、全てを使い切ってしまったのだ。最高のバースデイパーティーになったとだけ言っておこう。
その高級肉がどうしたというのか。
じっと雄太を見上げると、雄太も俺をじっと見つめていた。
「この世の物とは思えないほどに美味い肉が魔大陸で手に入ると、長光から聞いた」
「ああ、うん」
長光さんも一緒に高級肉狩りをしたからね。本当は違うアイテム欲しかったのに、いつの間にやら高級肉ゲットに躍起になってて、俺たち全員目的を見失ったよね。それくらい美味しい高級肉。
「すんばらしい肉だと自慢され、でも長光は既に手持ちになく、その肉を手に入れる時マックも一緒に行ったとの情報を買い取り、ここに来た」
「うん。そうだね」
「その肉……言い値で買わせて欲しい。俺も……ほっぺのとろけるような最高に幸福中枢刺激されまくりの肉を食いたい。家が傾くほどの借金もやむなし。悔いない。売ってください、マック様」
静かに目の前で土下座する雄太。
しかしここは辺境の冒険者ギルド。
周りには魔大陸にも行ける猛者が山ほど。
こんなところでトップランカーの一角を担っている雄太に土下座させてる俺って、一体皆からどんな風にみられるんだろう。
それを考えると眩暈がしそうだ。
やめて欲しい、切実にやめて欲しい。肉があったら投げ付けて逃げているレベル。
でも、俺もすでに肉はない。
あの最高に美味い肉はない。
「高橋……顔を、上げて欲しい。そしてごめん。肉は、売れない」
「なんでだ! 金じゃないのか! 他の報酬か!? 俺、オーブ持ってるから! それも譲るし、魔大陸で集めた素材とアイテム、全て譲ってもいい! 俺、一度も『高級肉』なんてドロップする魔物に会ったことないんだよ! 頼む、後生だ……!」
大声で深々と頭を下げる雄太は、冒険者ギルドにいるプレイヤーたちの注目の的になっている。ほんと、やめてくれ。ガチでやめてくれ!
「俺も持ってないの! 『高級肉』! この間ヴィデロさんの誕生日に全部腕によりをかけて振舞ったんだよ! もう! ひとつも! ないんだよ! 売ってあげたいけれども!」
「そ……っ、そんな、マックが腕によりをかけて振舞う『高級肉』だと……!? こ、こんな時ばかりはヴィデロさんが羨ましすぎて血涙が出そうだ……!」
ぐっと拳を握る雄太の手を掴んで、俺は慌てて魔法陣を描いた。その場から逃げるためだ。
慌てたので跳んだのはトレの俺の工房。
雄太と手を繋いで、ヴィデロさんのいる目の前に出てきてしまった。
「……マックと高橋。おかえり」
少々驚いていたけれども、ヴィデロさんは笑顔でおかえりをしてくれた。つられるようににんまりとただいますると、雄太が「お誕生日おめでとうございます! 来年は俺もヴィデロさんの誕生日をお祝いしたいのでぜひぜひ俺も呼んでください!」と叫んだ。
どう考えても誕生日のごちそう目当て。俺が半眼になっている横で、ヴィデロさんは苦笑しながら「ありがとう」とお礼を言っていた。そして「俺も高橋の誕生日を祝わせてほしい」と天使のようなことを言っていた。欲にまみれた雄太の言葉とは大違いだ。好き。
「ところでヴィデロさんはこれから仕事っすか? ちょっとマックを借りたくて」
「どこに行くんだ? 俺の仕事はひと段落したから、何なら付き合うぞ」
「マジすか! ぜひ! 魔大陸へ一緒に行きましょう!!」
ヴィデロさんの言葉に飛びつくように、雄太はヴィデロさんの手を掴んで上下にぶんぶん振った。
「魔大陸か……異邦人たちがいる場所はいけないが」
「『高級肉』をドロップする魔物が出る場所だから、魔王がいた場所の近くだよ。多分他のプレイヤーはいないと思う」
思案するヴィデロさんにそう教えると、ヴィデロさんはホッとしたように顔をほころばせた。
「なら大丈夫か。そこまではローブを羽織るか兜を被れば何とか。『高級肉』か。気合い入るな」
「ヴィデロさんが食に食いつくところを見ると、ガチで美味すぎる肉なんすね」
目を輝かせて雄太が呟くと、ヴィデロさんは大きく頷いた。あの時の食いつきはいつもと違ったから、本当に美味しかったんだろうなあ。良し、気合入れて『高級肉』を集めに行こう。
フンフン鼻歌を歌いながらインベントリ操作をしていると、目の前にパッとティーロイが現れた。今まで聖域のブルーテイルの所にいたらしい。
『ティーロイモイク! フタリトイク!』
パタパタ騒ぎ始めて、ちょっとだけ困る。聖獣って魔大陸に行って大丈夫なんだっけ。ネーヴェはなんて言ってたっけ。
どうしよう、とヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんはティーロイを手に止めて、優しい顔で言い聞かせた。
「もし戦闘が始まったら、ティーロイは絶対にマックの近くにいること。俺たちの方には来るなよ。危ないから。そして俺たちが危なくなったらマックと二人で聖域まで魔法で逃げること。これだけ約束できるなら連れていってやる」
『ヤクソク! ヤクソクスル! マックノアタマニイル! マックトイル! ニゲル! マックトニゲル!』
嬉しそうに言ってるけど、教え込んでいる内容は不穏すぎる。待って、ヴィデロさんがやられそうになったら俺、ティーロイに光魔法で連れ去られちゃうの!? それはいやだ。蘇生薬使って生き返らせるという使命が俺にはあるんだ。
顔を顰めると、ヴィデロさんがそっと俺を抱き寄せて、「まあ、俺と高橋が組めばどんな魔物も怖くないけどな」なんてかっこいいことを言った。好き。惚れ直す。
こうして、俺とヴィデロさんとティーロイ、そして雄太は、魔大陸に『高級肉』を取りに行くことになった。
トレの工房から辺境に跳び、そこからギルドの魔法陣で魔大陸に行く。
ヴィデロさんは鎧を着て、頭まですっぽり覆っているので、外からだと誰だかわからない仕様になっている。その鎧は、実は俺がかねてから希望していた長光さん最新作の白い鎧。最近ようやく出来上がったから、と自ら届けに来てくれたのはつい二日前。
本人と共に調整したいから、と目の前で鎧を着たヴィデロさんはもう、この世の者とは思えないほどに神々しく、俺の心臓は爆発するかと思った。
ヴィデロさんが支払いをしようとするのを必死で阻止し、俺に貢がせてくださいと懇願し、鎧代金は俺が全額支払えたのはとても幸せなことだと思う。
しかもこの鎧、防御力が最高なのは当たり前だけれど、胸には闇魔法の魔石が入っている。ヴィデロさんが分身の魔法を唱えると、一瞬にして真っ白な鎧が黒く変化し、影と同じような見た目になるのだ。最高にかっこいい。反射すらしなくなる鎧は本当に影になったようで、長光さん本当に天才だな、と改めて実感させられた。作った本人もすごく満足したらしく、現時点でこれ以上の鎧は作れない最高作とまで言わしめた鎧は、なんていうか、最高オブ最高。ヴィデロさんのためだけにある鎧である。
未だに見慣れなくて、ヴィデロさんが鎧で動いているのを見ると、ドキドキで心臓が破裂しそうになる。カッコいい。あああそれ以外言葉が出てこない。最高にかっこいい。
隣にいる俺が兎ローブなのがチグハグすぎて申し訳ないくらいだ。もう耳つきにも慣れたし、ティーロイがことのほかローブの手触りを気に入ってしまって、俺に乗る時はこのローブを強要するのだ。もう慣れるしかない。
ティーロイは俺のローブの中に隠れ、三人で魔大陸に降り立つと、クラッシュに挨拶をして冒険者ギルド魔大陸支部の建物から外に出る。クラッシュがニヤニヤ見送っていたのは気のせいだ。
皆で建物の裏手に回り、人があまりいないのを確認すると、俺は転移を使おうと二人に手を差し出した。
「待ってくれ!」
ヴィデロさんが俺の手を取ったところで、建物の影から飛び出して来た人物がいた。
雄太の口からそんな単語が飛び出した。
ああ、あの魔大陸で特定の魔物からドロップするレア肉ね。
蕩けるような食感、濃厚な肉の旨味をギュッとその身に詰め込んだかのような幸福味のハーモニー。ただ焼くだけでも最高なのに、どんなソースにも合う奇跡の肉。霜降り高級牛肉よりもさらに旨味成分を多分に含んでいるであろうその肉は、すでに俺のインベントリの中にはない。この間ヴィデロさんの誕生日に大盤振る舞いして、全てを使い切ってしまったのだ。最高のバースデイパーティーになったとだけ言っておこう。
その高級肉がどうしたというのか。
じっと雄太を見上げると、雄太も俺をじっと見つめていた。
「この世の物とは思えないほどに美味い肉が魔大陸で手に入ると、長光から聞いた」
「ああ、うん」
長光さんも一緒に高級肉狩りをしたからね。本当は違うアイテム欲しかったのに、いつの間にやら高級肉ゲットに躍起になってて、俺たち全員目的を見失ったよね。それくらい美味しい高級肉。
「すんばらしい肉だと自慢され、でも長光は既に手持ちになく、その肉を手に入れる時マックも一緒に行ったとの情報を買い取り、ここに来た」
「うん。そうだね」
「その肉……言い値で買わせて欲しい。俺も……ほっぺのとろけるような最高に幸福中枢刺激されまくりの肉を食いたい。家が傾くほどの借金もやむなし。悔いない。売ってください、マック様」
静かに目の前で土下座する雄太。
しかしここは辺境の冒険者ギルド。
周りには魔大陸にも行ける猛者が山ほど。
こんなところでトップランカーの一角を担っている雄太に土下座させてる俺って、一体皆からどんな風にみられるんだろう。
それを考えると眩暈がしそうだ。
やめて欲しい、切実にやめて欲しい。肉があったら投げ付けて逃げているレベル。
でも、俺もすでに肉はない。
あの最高に美味い肉はない。
「高橋……顔を、上げて欲しい。そしてごめん。肉は、売れない」
「なんでだ! 金じゃないのか! 他の報酬か!? 俺、オーブ持ってるから! それも譲るし、魔大陸で集めた素材とアイテム、全て譲ってもいい! 俺、一度も『高級肉』なんてドロップする魔物に会ったことないんだよ! 頼む、後生だ……!」
大声で深々と頭を下げる雄太は、冒険者ギルドにいるプレイヤーたちの注目の的になっている。ほんと、やめてくれ。ガチでやめてくれ!
「俺も持ってないの! 『高級肉』! この間ヴィデロさんの誕生日に全部腕によりをかけて振舞ったんだよ! もう! ひとつも! ないんだよ! 売ってあげたいけれども!」
「そ……っ、そんな、マックが腕によりをかけて振舞う『高級肉』だと……!? こ、こんな時ばかりはヴィデロさんが羨ましすぎて血涙が出そうだ……!」
ぐっと拳を握る雄太の手を掴んで、俺は慌てて魔法陣を描いた。その場から逃げるためだ。
慌てたので跳んだのはトレの俺の工房。
雄太と手を繋いで、ヴィデロさんのいる目の前に出てきてしまった。
「……マックと高橋。おかえり」
少々驚いていたけれども、ヴィデロさんは笑顔でおかえりをしてくれた。つられるようににんまりとただいますると、雄太が「お誕生日おめでとうございます! 来年は俺もヴィデロさんの誕生日をお祝いしたいのでぜひぜひ俺も呼んでください!」と叫んだ。
どう考えても誕生日のごちそう目当て。俺が半眼になっている横で、ヴィデロさんは苦笑しながら「ありがとう」とお礼を言っていた。そして「俺も高橋の誕生日を祝わせてほしい」と天使のようなことを言っていた。欲にまみれた雄太の言葉とは大違いだ。好き。
「ところでヴィデロさんはこれから仕事っすか? ちょっとマックを借りたくて」
「どこに行くんだ? 俺の仕事はひと段落したから、何なら付き合うぞ」
「マジすか! ぜひ! 魔大陸へ一緒に行きましょう!!」
ヴィデロさんの言葉に飛びつくように、雄太はヴィデロさんの手を掴んで上下にぶんぶん振った。
「魔大陸か……異邦人たちがいる場所はいけないが」
「『高級肉』をドロップする魔物が出る場所だから、魔王がいた場所の近くだよ。多分他のプレイヤーはいないと思う」
思案するヴィデロさんにそう教えると、ヴィデロさんはホッとしたように顔をほころばせた。
「なら大丈夫か。そこまではローブを羽織るか兜を被れば何とか。『高級肉』か。気合い入るな」
「ヴィデロさんが食に食いつくところを見ると、ガチで美味すぎる肉なんすね」
目を輝かせて雄太が呟くと、ヴィデロさんは大きく頷いた。あの時の食いつきはいつもと違ったから、本当に美味しかったんだろうなあ。良し、気合入れて『高級肉』を集めに行こう。
フンフン鼻歌を歌いながらインベントリ操作をしていると、目の前にパッとティーロイが現れた。今まで聖域のブルーテイルの所にいたらしい。
『ティーロイモイク! フタリトイク!』
パタパタ騒ぎ始めて、ちょっとだけ困る。聖獣って魔大陸に行って大丈夫なんだっけ。ネーヴェはなんて言ってたっけ。
どうしよう、とヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんはティーロイを手に止めて、優しい顔で言い聞かせた。
「もし戦闘が始まったら、ティーロイは絶対にマックの近くにいること。俺たちの方には来るなよ。危ないから。そして俺たちが危なくなったらマックと二人で聖域まで魔法で逃げること。これだけ約束できるなら連れていってやる」
『ヤクソク! ヤクソクスル! マックノアタマニイル! マックトイル! ニゲル! マックトニゲル!』
嬉しそうに言ってるけど、教え込んでいる内容は不穏すぎる。待って、ヴィデロさんがやられそうになったら俺、ティーロイに光魔法で連れ去られちゃうの!? それはいやだ。蘇生薬使って生き返らせるという使命が俺にはあるんだ。
顔を顰めると、ヴィデロさんがそっと俺を抱き寄せて、「まあ、俺と高橋が組めばどんな魔物も怖くないけどな」なんてかっこいいことを言った。好き。惚れ直す。
こうして、俺とヴィデロさんとティーロイ、そして雄太は、魔大陸に『高級肉』を取りに行くことになった。
トレの工房から辺境に跳び、そこからギルドの魔法陣で魔大陸に行く。
ヴィデロさんは鎧を着て、頭まですっぽり覆っているので、外からだと誰だかわからない仕様になっている。その鎧は、実は俺がかねてから希望していた長光さん最新作の白い鎧。最近ようやく出来上がったから、と自ら届けに来てくれたのはつい二日前。
本人と共に調整したいから、と目の前で鎧を着たヴィデロさんはもう、この世の者とは思えないほどに神々しく、俺の心臓は爆発するかと思った。
ヴィデロさんが支払いをしようとするのを必死で阻止し、俺に貢がせてくださいと懇願し、鎧代金は俺が全額支払えたのはとても幸せなことだと思う。
しかもこの鎧、防御力が最高なのは当たり前だけれど、胸には闇魔法の魔石が入っている。ヴィデロさんが分身の魔法を唱えると、一瞬にして真っ白な鎧が黒く変化し、影と同じような見た目になるのだ。最高にかっこいい。反射すらしなくなる鎧は本当に影になったようで、長光さん本当に天才だな、と改めて実感させられた。作った本人もすごく満足したらしく、現時点でこれ以上の鎧は作れない最高作とまで言わしめた鎧は、なんていうか、最高オブ最高。ヴィデロさんのためだけにある鎧である。
未だに見慣れなくて、ヴィデロさんが鎧で動いているのを見ると、ドキドキで心臓が破裂しそうになる。カッコいい。あああそれ以外言葉が出てこない。最高にかっこいい。
隣にいる俺が兎ローブなのがチグハグすぎて申し訳ないくらいだ。もう耳つきにも慣れたし、ティーロイがことのほかローブの手触りを気に入ってしまって、俺に乗る時はこのローブを強要するのだ。もう慣れるしかない。
ティーロイは俺のローブの中に隠れ、三人で魔大陸に降り立つと、クラッシュに挨拶をして冒険者ギルド魔大陸支部の建物から外に出る。クラッシュがニヤニヤ見送っていたのは気のせいだ。
皆で建物の裏手に回り、人があまりいないのを確認すると、俺は転移を使おうと二人に手を差し出した。
「待ってくれ!」
ヴィデロさんが俺の手を取ったところで、建物の影から飛び出して来た人物がいた。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。