736 / 744
番外編5
魔大陸開墾編 6
しおりを挟む店の前でルーチェさんと別れ、俺たちは雄太たちの言うシークレットダンジョンまでユイの魔法陣で跳んだ。
場所は大陸の南側の国。『エピ』という名の国の端のほうだった。
代り映えのしない景色の中、ブレイブが一点を指さした。
「まんまる、そこの次元の裂け目、見えるか?」
「……信じらんないけど、見える。お宝の匂いがする……」
「あるぜ、お宝。たんまりと」
ブレイブがニヤリと笑うと、まんまるさんがキャーと奇声を上げた。
「でもでも、どうやってここに入るの? 見えるだけじゃだめでしょ」
「だからこその、魔法陣魔法」
「フィットちゃん、やってみる?」
ユイにそそのかされて、フィットさんが頷いている。全員で十人という大所帯。この人数での転移は大変そうだな、なんて思っていたけれど、さすがは前線で魔術師を張っているフィットさん、無事全員シークレットダンジョンの中へと転移していた。
周りを見渡すと、うっそうと茂るジャングル。
鑑定眼で目を凝らしてみると、確かに全てが錬金素材だった。
垂涎のお宝である。
「本当にすべて錬金素材ね。マック、ここはエルフの里と違って取り放題よ。早速採取しましょ! 周りにはこんなに魔物護衛してくれる人たちがいるんだもの!」
サラさんが嬉しそうに素材に手を伸ばす。
確かに、俺以外の全員が魔大陸の魔物を対処できる人たちだから、護衛としてはピカ一。
「採取に時間かけていいの?」
周りに聞けば、皆すごく目を輝かせて頷いていた。
「錬金素材って……謎素材って錬金素材だったの?」
まんまるさんが早速ゲットした蔦を覗いている。
でも、あの蛇紋石のついたアクセサリーを使えるまんまるさんでも、ここの素材は『謎素材』と出るらしい。徹底してるよ、謎素材。
「えっと……じゃあ、薬師マックの副業って、あの激レアの錬金術師?」
「激レア……う、うん。もしかして錬金術師ってもう巷に出回ってたり?」
「あの新ジョブチャレンジあったじゃん。あれがじつは錬金術師なんじゃないかって推測が出回っててさ。『グランドメーテル』っていうMMOやったことある? あれの錬金術師がまさにあんな感じの釜を掻き混ぜてアイテムを作るやつだったのよ。面白いのよ」
私たちもチャレンジしたんだけどダメだったのよねー、とまんまるさんとルルーさんが頷き合っている。
「ああ、だからあの時門番さんが錬金釜の前にいたのね」
なるほど納得、と頷かれて、ルルーさんたちは俺たちの方じゃない方でチャレンジしたことがわかった。
「マックの旦那君も錬金術師の卵だものね」
「まあ……」
実際には鑑定を身に着けていないから謎素材の判別は見た目でしかできないんだけど。釜は扱えるからそうなのかな。
さすが俺のヴィデロさん、と一人ホクホクしていると、早速魔物が現れた。
そして、雄太たちに瞬殺されていた。
サラさんが出る間もない。というかサラさんは嬉々として素材採取をしている。
戦力は全く問題なさそうなので、俺も採取に勤しんだ。
進んでは採取、進んでは採取と、かなりのゆったりペースで進んでいた俺たちだったけれど、何やらいわくありげな遺跡が目の前に出て来た。
そこまで広くはなさそうだけれど、何やら雰囲気が怪しいその建物に、皆が目を輝かせる。
「こういうの待ってた!」
「すっげわくわくする」
ルルーさんと雄太のセリフである。
俺は建物自体より建物の周りに生えている鉱石みたいな錬金素材の方が正直気になる。
だってあれ、初めて見る素材だから。ここまでの道にはなかった素材だから。
そして今までの道中でわかったことだけど、『副業薬師』の皆さんはだいぶ好戦的。
でも前衛が魔物を倒している間に後ろの方で調薬とかしてるの見ると大分面白い。色んな人がいるよね。
「ねえマック、ツルハシ持ってる?」
「ショボい奴でよければ一応」
「貸してもらえると嬉しいわ。これ、新しい素材よね」
「ですよね。俺も採取しよ」
どうぞとツルハシを出してサラさんに渡すと、何故か慣れた手つきでツルハシを振るい始めた。
皆が建物に夢中になっている中、カーンと硬質な音が響く。
サラさんが二度ほどツルハシを振るうと、その鉱石はボロッと砕けて地面に落ちた。
「『紅蓮水晶』ね……いい色ね。このままアクセサリーに加工しても人気でそうね」
「ですね。全部採掘しちゃっていいのかな」
「ふふ、シークレットダンジョンはボスを倒して外に出れば消えてなくなるのよ。そのダンジョンの魔力が維持できなくなるから。だから、手に入れないと損よ! 沢山採りましょ!」
気合いを入れた超美人は、ガテン系のようなノリで力強くツルハシを振るう。
周りの人たちが笑っているけれど気にせずいい笑顔で次々と鉱石を崩してはカバンに詰め込んでいく。
二人で建物の周りにあった『紅蓮水晶』を全て取りつくすまで、雄太たちは出てくる魔物を次々切り刻んでいた。たまに魔法で爆散してる魔物もいたけれど。犯人は知ってる。
俺とサラさんが満足したところで、建物の内部に入ることにした。
一歩足を踏み入れると、サラさんが首を傾げた。
「ここの地下に大物がいるわね」
「わかるんですか?」
ユイに訊かれて、サラさんが頷く。
「魔素の流れを感じない? ユイちゃんほどの子なら絶対にわかるはずよ。下から濃い魔素の残滓が沸き上がってきているのが。目を閉じて、そう、全身で感じて」
サラさんの言葉通りに行動したユイは、しばらくの間動かずじっとしていたかと思うと、ハッと目を開けた。
「サラさん、わかりました。やった。魔力感知が上位変換された」
新しいスキルになったらしい。ルーチェさんもそうだけど、新しいスキルを獲得する手伝いをしてくれるサラさんたちって凄すぎる。
「それね、マップを見るよりも便利なのよ」
「え、サラさんマップって知ってるんですか?」
「ええ。クラッシュに詳しく教えて貰ったの。あれは便利ね。敵対心を持ってる者は赤くなるのね。ここで私が殺気を出したらあなたたちのマップに映る私が赤くなるのかしら」
そういうのやってみたいわよね、なんていうサラさんに、苦笑する。
クラッシュと言えば、よく俺たちの世界に遊びに来るんだけれど、この間ヴィルさんからギアを借りて会社の汎用アカウントでADOにログインしていたっけ。
あの時の大興奮はなかなかに面白かった。
クラッシュじゃないクラッシュと一緒に歩いてきたヴィルさんは、クラッシュのアカウントキャラがちゃんと古代魔道語と魔法陣魔法、上級魔法などを使えることを確認して満足していた。あれも仕事と好奇心の一環だったらしい。
一度死に戻りをしてみたいというクラッシュは、本当に一度魔物にやられてキラキラとした状態でヴィルさんの家に戻って来ていた。すごく複雑な顔をして。
その話はまあ置いといて。
皆で建物を地下に向かって下りていくことにした。
建物の中にある宝箱はどれもランクの高いレアアイテムばかりで、素材でホクホクしている俺とサラさん以外の人たちで山分けすることにした。
作り方がめっちゃ気になるエクスポーションなんかも出てきて、俺はブツよりレシピが欲しいと叫んだ瞬間『副業薬師』の人たちの同意を得てしまった。
そこから少し休憩することにして、休憩中に薬師講義が始まった。
1,928
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。