最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

朝陽天満

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御子誕生編

やっぱりこれは、乙女ゲーム……?

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「それで、市井の女子生徒は、今アルバが面倒を見ているのでしょう? どう、なじめているの?」

 俺の強張った表情に、母は話題転換をしてくれた。
 俺もホッと肩の力を抜いて、口を開いた。

「なかなか難しいです。どうも女子生徒たちからよく思われていないらしく……もしかしたら僕が面倒を見ているからかもしれないんですが、一年生で彼女の助けになれそうな生徒がなかなか見当たらなくて」
「そうなの。偏見の目で見る子は多そうねえ。……私と同年代の方たちは、少しだけ爵位に対して頑なな方が多かったから、その方たちの子も同じ考えになってしまっているのかもしれないわね」
「そうなんですか?」

 母の口から飛び出した新情報に、俺を目を見開いた。

「オルシス君たちの時は、ヴォルフラム陛下とツヴァイト閣下が上手に生徒たちをまとめていてくれたから、とても穏やかな子たちが多かったように思うの。けれど、アルバと同じような年ごろの子たちは、私たちと同年代の親がほとんどでしょう」
「そうですね」
「私が学生の時に同級生たちはとても爵位に敏感でね。私もあなたのお父様も男爵家だったから、隅の方でおとなしくしていることが多かったわ。少しでも目立ってしまうと、色々と問題が起きてしまうから。お父様と二人で穏やかな学生生活を送ったわ。一緒に図書室に行ったのはとても楽しかった」

 旦那様には内緒よ、と母は可愛らしく笑った。
 そっか。年代的に、母たちの年代の人たちの子供が俺と似たような年代として集まってるのか。
 男爵家というと、序列的には一番最下層。もし目立ったりしたら即座に高位貴族に目をつけられてしまう。貴族の闇のようなものだよね。俺だって公爵家のくせに公爵家とは血がつながってないってだけで侮られていたわけだし。まあ、兄様が皆に俺のことを大事だよって伝えてくれたから落ち着いたわけだけど。

「そんな中にぽつんと市井の子がいたら、とても居辛いわよね……しかも市井の取りまとめをしているのはジュール君で、直接世話人としているのがアルバなのでしょう?」

 宰相子息と、公爵家子息が周りを固めていて、平民のくせに生意気な、となってしまうのは必然というか……

「そんなことを必然にしてしまったら、ヴォルフラム陛下がやろうとしていることが破綻してしまうじゃないですか。どうして皆陛下の意を汲まないで感情のままに動くのかなあ……もう大人に片足踏み込んでいる年のはずなのに……」

 はぁ、と溜息を吐くと、母が一人用ソファから立ち上がって俺の隣に腰を下ろした。
 そしてぎゅっと抱きしめられた。
 母の肩は薄くて、その身体は俺が憶えている記憶よりもよほど細く小さい。

「あなたは本当に小さなころから大人顔負けの考えを持っているわよね。そのことをとても誇りに思います」
「母様」
「だから、次は周りに甘えることを憶えなさい。そして、公爵家の子供であるという自覚を持ちなさい。あなたはどこに出しても恥ずかしくない私の誇りよ。オルシス君にもっと甘えて、旦那様にも甘えて、私に甘えなさい。もしあなたを貶めるような生徒がいたら、ちゃんと私に教えて欲しいのよ」

 俺を抱きしめながら言われた母の言葉に、俺は目をぱちくりさせた。
 俺を貶める生徒を教える……それは、いじめられてましたと伝えるようなものでは?

「そんな貶められるような息子で、母様は恥ずかしくないのですか?」

 兄様は何かを言う前に察してくれていたけれど、さすがに恥ずかしくて親に泣きつくなんてできるわけがない。
 なんて思っていたら、母はにこりと笑った。ちょっとだけ迫力があった。

「アルバは、オルシス君がもし誰かに貶められたら、腹が立たない?」
「その時は相手を完膚なきまでに叩き潰します、父様の力を借りてでも」

 母の問い間髪入れず答えると、母はそれよ、と腕を離した。

「私もね、同じなのよ。可愛い息子を貶めるような子は、親ともども一ひねりにしてしまいたいの。それこそ、旦那様の力を借りても。ふふ、旦那様も同じ気持ちだから、きっとその時は快く力を貸してくださるわ」

 ぐっと握られた母の手は、誰かの首をきゅっとしたような動きをしていた、気がした。気のせいだよね……

「あなたは、あなたの好きなようにのびのびと生活なさい。それを脅かされる場合は周りに甘えなさい。市井の子を守りたいと他ならぬあなたが決めたのであれば、サリエンテ家の名前を使ってでも守ればいいの。それが後に陛下とミラ妃殿下の助けになると考えているのでしょう?」
「母様……」

 あれえ、うちの母ってこんなに過激だったっけ。
 もっと穏やかな人だと思っていたけれど。
 でも、まあ、あの義父を掌でコロコロするような人だから、これが通常なのかな。
 それに、何やら筆頭貴族の夫人としての貫禄も身についている気がする。
 母が、俺のことをとても大事にしてくれているのは知っていたけれど、今の言葉でさらに実感した。
 けれど実際家名を出したところで、うまくいくのかな。女の子の気持ちなんて推測すらしたことないからなあ。

「実際学園で僕とジュール君がリリーアン嬢の面倒を見ている状態なんですけど、だからこそ女子生徒に睨まれてしまっているのに、さらに僕が家名を出してしまっても大丈夫なんですか? 余計にこじれそうな気がしますけど」
「だ、か、ら、そのための家名でしょう?」

 にこりと微笑む母の顔は、やっぱり迫力があった。



 母は一緒にお茶を一杯飲むと、ルーナに頼まれたことをするからとサロンから出て行った。
 リリーアン嬢を守るためには家名すら出していいって母は言っていたけれど。
 頭の中で状況を整理して、ふとおかしな考えが浮かんでしまう。

「セドリック君と俺とジュール君が攻略対象で、先生枠がロッソ先生……? なんか乙女ゲームみたいな状態だよね……」

 市井の女子が貴族ばかりの学園に通い始めて、けなげに頑張りながら高位貴族との仲を深めていく……
 そういえば入学式の時にもちらっとそんなことを考えて即忘れていた気がする。

「でも、今現在リリーアン嬢は孤立していて。それを見かねた学園側が俺の下につけたわけだから……リリーアン嬢とは話はするけれど絶対に恋愛には発展しないわけでしょ。でも今多分一番仲がいいのは俺……」

 うむむ、と腕を組んで唸る。
 何やら状況が乙女ゲームの様相を呈してきたような気がする。
 でも俺はすでに最愛の婚約者がいるわけで。
 ——考えすぎかなあ。
 女子生徒数人で囲んでリリーアン嬢に絡んでいくのは、一種のイベントのようでもあり。そこで助けに来るのがセドリック君とコレット嬢だったから……
 セドリック君ルート……?
 って何考えてるんだ俺。
 そもそもリリーアン嬢はそんな浮ついた気持ちで学園に入学したわけじゃない。
 家の利益になるように人脈を広げるため、という建前で学園に来ているんじゃないか。
 でもあの時の伏せた目が、本当は治癒院で働きたいんだと言外ににじみ出ていた。
 だからこそ、回復要員として配置されたときはとても嬉しそうだったんだよね。
 これが貴族たちと懇意になってどこかの継次じゃない子息なんかを捕まえたとしたら、その夢は潰えてしまうわけだ。
 ってことは、リリーアン嬢が誰かと恋仲になるっていうのはかなり難しいんじゃないかな。
 じゃあやっぱり乙女ゲームは始まらないってことか。
 ホッとしながらペンを手に取り、勉強を続けようとしてハッとする。

「ミラ妃殿下の時も恋愛のれの字もなかったのに、今は妃殿下としてヴォルフラム陛下とラブラブしてるじゃん」
 ……どこで転機があるかわからないってことか。
 どうか平穏に学園を卒業できますように……

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