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3章 猛花薫風事件
14. 最大の敵は無能な味方
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「……というわけです。つまりですね、アルヘナ・ハナンスに関する過去は知れましたが、居場所はわかりませんでした」
庁舎の入り口に戻ったレヴリッツ。玄関付近ではペリが鳩と戯れていた。
レヴリッツは聞いた話を簡潔に彼女に伝える。
「なるほど。逆恨みで何の罪もないエリフが呪われたんですか。クソが……何としてもアルヘナだかアナルへだかの居場所を特定し、ケツに薔薇の花を突っ込んでやります」
「さすがペリ先輩、素晴らしい考えですね。さっきウェズンさんから娘のことを頼むと言われましたが、そんな気は早々に失せました。
さて、肝心のアルヘナ・ハナンスの捜索ですが……僕が探してもいいんですけど、使える人脈はフルで使って効率化を図ります」
「人脈? レヴリッツくんの人脈ねえ……プッ」
「ははは。まあ、先輩がお笑いになるのも無理はないでしょう。僕の人脈はないですけど……使い方は人並み以上には心得ているので。少なくとも、どこぞの引き籠り乞食系パフォーマー女とは違ってね」
「ひえっ……センセンシャル」
これまではからかっても反撃してこなかったレヴリッツが、普通に皮肉交じりに反撃してくる。
ペリは先輩としての威厳の喪失感を味わった。
「国に直接通報するのは、アルヘナに妹さんの命を握られている以上は避けたい展開です。国はいつも大規模に目立って動く無能組織ですので、アルヘナ側に察知される恐れがありますから。なので……」
レヴリッツはつい最近知り合った、とある軍人に接触をはかった。
ー----
数日後。
都市から遠く離れた国境沿いにある、深い深い山の中。レヴリッツとペリは鬱蒼とした森を進んでいた。
曰く、この森にアルヘナが住んでいるとのこと。
連携を取った相手は陸軍中将ゼノム。呪竜駆除の際、彼と連絡先を交換していたレヴリッツは事情を説明し、アルヘナの居場所を調べてもらったのだ。
術式照合により、アルヘナが呪術を私人に行使したという証拠が得られた。これにより、ゼノムも個人情報を調べる権限が与えられたのだ。
「……あの家ですか?」
やがて木々が開け、一軒の小屋が見えた。
おそらくアレが呪術師アルヘナの住処。こんな森の奥深くに居を構えるということは、他言できない呪術の実験などを行っているのだろう。
「そうですね。中から人の気配を感じます。先輩、早速しばきに行きますか?」
「ええと……ゼノム中将も遅れて来てくれるんですよね? 突入は待った方がいいんじゃないですか?」
「いつ来るかわかりませんし。五時間後とかに来られても待つのしんどですよね。もしかしてビビってますか先輩w」
「べべべべ別にビビってませんし! 妹を救うためにいざ行かん! さあ行きますよレヴリッツくん!」
ペリは木陰から身を出し、佇む小屋に直進していく。
レヴリッツは足早に彼女に追いつき、先立って扉の前に立った。
ペリが固唾を飲んで見守る中、一拍置いてからドアをノック。
コンコン、と乾いた音が森に響いた。
しばしの静寂の後、扉はわずかに開く。扉の内側から腐敗臭が漂った。
「……誰」
姿を見せたのは、赤毛の女。毛先はチリチリと乱れ、目の下には大きな隈がついている。
間違いない。事前に見た顔写真とおおむね一致している。
「こんにちは。アルヘナ・ハナンスさんですね? 僕はレヴリッツ・シルヴァ。そして……後ろの彼女はペリシュッシュ・メフリオン」
「──!」
メフリオン。
その音の波を聞いた瞬間、アルヘナの動きは速かった。
わずかに開いたドアが閉められたかと思うと、内側から響いたのは施錠音。メフリオン家に対して後ろめたい事情がなければ、この行動は説明できない。
レヴリッツはペリを抱えて咄嗟に扉から飛び退く。窓から入り口に向かって、噴出型の呪霧が飛び出たのだ。
「防犯対策はバッチリですね。いや、犯罪者はアルヘナさんの方でしたか。そのままご自宅に引き篭もってもらえるとありがたいです」
小屋に煽りを飛ばすレヴリッツ。
恐怖したのか、中から人が慌てて動く気配を感じ取れた。
ドアの向こう側から怒号が響き渡る。
「……だ、誰なのよアンタ達は!」
まさかこの局面において誰何されるとは。
ペリは怒りと共に言葉を返す。
「はあ!? それはこちらのセリフですよ! 卑怯者!
私の妹はッ! お前の呪いで眠ってるんですけどおお!?」
「し……知らないわよ! 文句ならウェズンに言えばいいじゃない!? アイツが私を解雇したのが悪いのよ!」
「はああああ逆恨みですかそうですか! ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!」
ペリは怒り狂い、もはや冷静さはないようだ。
彼女の激昂に呼応して周囲の魔力が熱気を増している。
「先輩、ここは落ち着いてください。相手は仮にも魔導学術会議の構成員であった実力者。下手に仕掛ければ、どんな魔術を使ってくるかわかりません」
「よっこらああああああああああ!!」
「あ」
レヴリッツの制止も虚しいかな。
気がつかぬ内にペリは炎弾を小屋にぶっこんでいた。
「ひぃいいい!?」
悲鳴が家屋の中から上がった。
小屋の一角が崩れ、赫々と炎が舞い上がる。
森の中で炎魔術を使うなど、レヴリッツもさすがに想定していなかった。まさか隣に立つ先輩がここまでアホだとは。
「先輩!? 何してんすか、やめてくださいよ本当に!」
「うるせえ! さっさと出て来い卑怯者! お前の家ぜんぶ燃やしてやるぜぇええええ!! エリフを返せぇえええええ!!!!」
もう言葉は届かない。
こうなったらペリという狂犬を巧みに操り、何とかアルヘナを捕縛するしかない。
「え、ええと……アルヘナさん! とりあえず出て来てくだされば、手荒な真似はしませんので……我々の要求はメフリオン家に付与された血統呪詛を解呪することであり、あなたを殺すことじゃないんで!」
「いや処しましょう! 処す! 火あぶりやで!」
「だから先輩は黙れよ!? 救える命も救えなくなるんだよ!」
小屋の外側から飛び交う罵声、徐々に燃え広がっていく炎。
アルヘナは中に閉じこもりながら狂乱していた。しかし、メフリオン家に対する呪いを解除する気はない。未だに自分を解雇したウェズンへの恨みは消えていない。
家族もろとも、一族もろとも呪いで苦しめばいいのだ。
「わ、私は……悪くない! あの超古代術式を複製したのだって、魔導科学の技術をより高めるためだった!
それなのに、ウェズンのクソ野郎は私を解雇して……国に突き出した! 許さない……!」
目を血走らせながら、アルヘナは小屋の隅から魔法陣を取り出した。
屋根裏から呪術骸晶を。床下から人間のミイラを。
こうなったらヤケクソだ。
最悪の禁術に手を染めて、小屋の外で喚くクソガキ供を駆逐してやる。
「はぁ……はぁ……クヒヒヒッ! 何が来ようが、もう全部ぶっ殺してやるわ!
さあ、来なさい……!」
ー----
レヴリッツは強烈な重圧を感じ、ペリの頭を引っ叩く。
「たぁあっ!? 何すんですかレヴリッツくん!」
「いったん攻撃を止めてください。今まではなんだかんだネタでガイガイしてましたが、洒落にならない雰囲気になりました。
感じませんか? なんかすごい気配を」
「いや別に。それより小屋をもっと燃やしましょうよ」
「あの、まじで洒落にならないんで。これ以上僕の邪魔をするなら、少し気絶してもらいますけど」
マジトーンで詰め寄られると、急にペリは冷や汗をかいて押し黙る。
これでレヴリッツの敵が一人減った。あとはアルヘナの対処だ。
しかし、内部から感じる気配は異様なもので。
悍ましい殺気が徐々に強くなり、ねばつくような悪寒が周囲一帯に広がりつつある。おそらく何かしらの呪術を発動されたのだろうが……
「──!」
瞬間、小屋が弾け飛ぶ。
即座に抜刀した彼は、飛来した木片を全て斬り伏せた。舞い上がる土煙と黒煙。
目を細めて煙の先にある姿を視認する。
先程まで一つしかなかった気配が、二つに増えている。
まさか、
「……召喚魔術?」
だとすれば最悪の可能性が現実となってしまう。
召喚魔術とは、強大な力を持つ存在を莫大な代償によって呼び覚ます魔術。まさかアルヘナがそこまで大規模な魔術を行使可能だったとは。個人が扱える範疇を優に超えている。完全な誤算だ。
そして、呪術によって召喚可能な存在と言えば。
「悪魔召喚か」
悪魔。
それは俗に幻想の存在とされている。しかしながら、一部の人間には『悪魔』が実在の存在であると知れ渡っていた。
悪魔の喚起は非常に大きなリスクを伴うため、一般には秘匿されている。
『──ご明察。いや、すごい状況だ。まさか俺も燃え盛る家の中で召喚されるとは思っていなかった』
煙を払って姿を現したのは、緑髪を長く伸ばした燕尾服の男。
圧倒的強者のオーラに身を包み、男は2人を睨みつけた。
『どうも、悪魔だ。
名をドムスポット。さっき、そこの女に召喚された。よろしく』
「え、悪魔? ねえレヴリッツくん、あの人悪魔って言いました?
悪魔自称するとかちょっと痛くないです?w さすがに子供でももうちょいマシな設定考えますよねwwwww
アルヘナァアアアアア!!wwww」
(うるさい……静かにしてくれ……)
レヴリッツは、いよいよ隣の女の頭を疑った。
この圧倒的な戦意を放つ悪魔(本物)を前にして、まさか煽り倒すなど。彼女は本当に何の気配も感じていないのだろうか?
いや、それとも感覚が麻痺しているのか?
「アルヘナァアアアア! まさかお前の最後の頼みの綱が、この自称悪魔の痛い男ですかああああ!? 愛人ですか!? アルヘナァアアアア!!wwww」
(頼む……静かに……)
『なんだ、この女……?』
悪魔もレヴリッツも困惑していた。
悪魔を召喚したアルヘナも、倒壊した小屋の陰で困惑していた。
「アルヘナァアアアア!!」
(どうしてこの先輩は……俺の邪魔ばかりするんだ……!)
堪忍袋の緒が切れたレヴリッツは、ペリに素早く手刀を入れた。
庁舎の入り口に戻ったレヴリッツ。玄関付近ではペリが鳩と戯れていた。
レヴリッツは聞いた話を簡潔に彼女に伝える。
「なるほど。逆恨みで何の罪もないエリフが呪われたんですか。クソが……何としてもアルヘナだかアナルへだかの居場所を特定し、ケツに薔薇の花を突っ込んでやります」
「さすがペリ先輩、素晴らしい考えですね。さっきウェズンさんから娘のことを頼むと言われましたが、そんな気は早々に失せました。
さて、肝心のアルヘナ・ハナンスの捜索ですが……僕が探してもいいんですけど、使える人脈はフルで使って効率化を図ります」
「人脈? レヴリッツくんの人脈ねえ……プッ」
「ははは。まあ、先輩がお笑いになるのも無理はないでしょう。僕の人脈はないですけど……使い方は人並み以上には心得ているので。少なくとも、どこぞの引き籠り乞食系パフォーマー女とは違ってね」
「ひえっ……センセンシャル」
これまではからかっても反撃してこなかったレヴリッツが、普通に皮肉交じりに反撃してくる。
ペリは先輩としての威厳の喪失感を味わった。
「国に直接通報するのは、アルヘナに妹さんの命を握られている以上は避けたい展開です。国はいつも大規模に目立って動く無能組織ですので、アルヘナ側に察知される恐れがありますから。なので……」
レヴリッツはつい最近知り合った、とある軍人に接触をはかった。
ー----
数日後。
都市から遠く離れた国境沿いにある、深い深い山の中。レヴリッツとペリは鬱蒼とした森を進んでいた。
曰く、この森にアルヘナが住んでいるとのこと。
連携を取った相手は陸軍中将ゼノム。呪竜駆除の際、彼と連絡先を交換していたレヴリッツは事情を説明し、アルヘナの居場所を調べてもらったのだ。
術式照合により、アルヘナが呪術を私人に行使したという証拠が得られた。これにより、ゼノムも個人情報を調べる権限が与えられたのだ。
「……あの家ですか?」
やがて木々が開け、一軒の小屋が見えた。
おそらくアレが呪術師アルヘナの住処。こんな森の奥深くに居を構えるということは、他言できない呪術の実験などを行っているのだろう。
「そうですね。中から人の気配を感じます。先輩、早速しばきに行きますか?」
「ええと……ゼノム中将も遅れて来てくれるんですよね? 突入は待った方がいいんじゃないですか?」
「いつ来るかわかりませんし。五時間後とかに来られても待つのしんどですよね。もしかしてビビってますか先輩w」
「べべべべ別にビビってませんし! 妹を救うためにいざ行かん! さあ行きますよレヴリッツくん!」
ペリは木陰から身を出し、佇む小屋に直進していく。
レヴリッツは足早に彼女に追いつき、先立って扉の前に立った。
ペリが固唾を飲んで見守る中、一拍置いてからドアをノック。
コンコン、と乾いた音が森に響いた。
しばしの静寂の後、扉はわずかに開く。扉の内側から腐敗臭が漂った。
「……誰」
姿を見せたのは、赤毛の女。毛先はチリチリと乱れ、目の下には大きな隈がついている。
間違いない。事前に見た顔写真とおおむね一致している。
「こんにちは。アルヘナ・ハナンスさんですね? 僕はレヴリッツ・シルヴァ。そして……後ろの彼女はペリシュッシュ・メフリオン」
「──!」
メフリオン。
その音の波を聞いた瞬間、アルヘナの動きは速かった。
わずかに開いたドアが閉められたかと思うと、内側から響いたのは施錠音。メフリオン家に対して後ろめたい事情がなければ、この行動は説明できない。
レヴリッツはペリを抱えて咄嗟に扉から飛び退く。窓から入り口に向かって、噴出型の呪霧が飛び出たのだ。
「防犯対策はバッチリですね。いや、犯罪者はアルヘナさんの方でしたか。そのままご自宅に引き篭もってもらえるとありがたいです」
小屋に煽りを飛ばすレヴリッツ。
恐怖したのか、中から人が慌てて動く気配を感じ取れた。
ドアの向こう側から怒号が響き渡る。
「……だ、誰なのよアンタ達は!」
まさかこの局面において誰何されるとは。
ペリは怒りと共に言葉を返す。
「はあ!? それはこちらのセリフですよ! 卑怯者!
私の妹はッ! お前の呪いで眠ってるんですけどおお!?」
「し……知らないわよ! 文句ならウェズンに言えばいいじゃない!? アイツが私を解雇したのが悪いのよ!」
「はああああ逆恨みですかそうですか! ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!」
ペリは怒り狂い、もはや冷静さはないようだ。
彼女の激昂に呼応して周囲の魔力が熱気を増している。
「先輩、ここは落ち着いてください。相手は仮にも魔導学術会議の構成員であった実力者。下手に仕掛ければ、どんな魔術を使ってくるかわかりません」
「よっこらああああああああああ!!」
「あ」
レヴリッツの制止も虚しいかな。
気がつかぬ内にペリは炎弾を小屋にぶっこんでいた。
「ひぃいいい!?」
悲鳴が家屋の中から上がった。
小屋の一角が崩れ、赫々と炎が舞い上がる。
森の中で炎魔術を使うなど、レヴリッツもさすがに想定していなかった。まさか隣に立つ先輩がここまでアホだとは。
「先輩!? 何してんすか、やめてくださいよ本当に!」
「うるせえ! さっさと出て来い卑怯者! お前の家ぜんぶ燃やしてやるぜぇええええ!! エリフを返せぇえええええ!!!!」
もう言葉は届かない。
こうなったらペリという狂犬を巧みに操り、何とかアルヘナを捕縛するしかない。
「え、ええと……アルヘナさん! とりあえず出て来てくだされば、手荒な真似はしませんので……我々の要求はメフリオン家に付与された血統呪詛を解呪することであり、あなたを殺すことじゃないんで!」
「いや処しましょう! 処す! 火あぶりやで!」
「だから先輩は黙れよ!? 救える命も救えなくなるんだよ!」
小屋の外側から飛び交う罵声、徐々に燃え広がっていく炎。
アルヘナは中に閉じこもりながら狂乱していた。しかし、メフリオン家に対する呪いを解除する気はない。未だに自分を解雇したウェズンへの恨みは消えていない。
家族もろとも、一族もろとも呪いで苦しめばいいのだ。
「わ、私は……悪くない! あの超古代術式を複製したのだって、魔導科学の技術をより高めるためだった!
それなのに、ウェズンのクソ野郎は私を解雇して……国に突き出した! 許さない……!」
目を血走らせながら、アルヘナは小屋の隅から魔法陣を取り出した。
屋根裏から呪術骸晶を。床下から人間のミイラを。
こうなったらヤケクソだ。
最悪の禁術に手を染めて、小屋の外で喚くクソガキ供を駆逐してやる。
「はぁ……はぁ……クヒヒヒッ! 何が来ようが、もう全部ぶっ殺してやるわ!
さあ、来なさい……!」
ー----
レヴリッツは強烈な重圧を感じ、ペリの頭を引っ叩く。
「たぁあっ!? 何すんですかレヴリッツくん!」
「いったん攻撃を止めてください。今まではなんだかんだネタでガイガイしてましたが、洒落にならない雰囲気になりました。
感じませんか? なんかすごい気配を」
「いや別に。それより小屋をもっと燃やしましょうよ」
「あの、まじで洒落にならないんで。これ以上僕の邪魔をするなら、少し気絶してもらいますけど」
マジトーンで詰め寄られると、急にペリは冷や汗をかいて押し黙る。
これでレヴリッツの敵が一人減った。あとはアルヘナの対処だ。
しかし、内部から感じる気配は異様なもので。
悍ましい殺気が徐々に強くなり、ねばつくような悪寒が周囲一帯に広がりつつある。おそらく何かしらの呪術を発動されたのだろうが……
「──!」
瞬間、小屋が弾け飛ぶ。
即座に抜刀した彼は、飛来した木片を全て斬り伏せた。舞い上がる土煙と黒煙。
目を細めて煙の先にある姿を視認する。
先程まで一つしかなかった気配が、二つに増えている。
まさか、
「……召喚魔術?」
だとすれば最悪の可能性が現実となってしまう。
召喚魔術とは、強大な力を持つ存在を莫大な代償によって呼び覚ます魔術。まさかアルヘナがそこまで大規模な魔術を行使可能だったとは。個人が扱える範疇を優に超えている。完全な誤算だ。
そして、呪術によって召喚可能な存在と言えば。
「悪魔召喚か」
悪魔。
それは俗に幻想の存在とされている。しかしながら、一部の人間には『悪魔』が実在の存在であると知れ渡っていた。
悪魔の喚起は非常に大きなリスクを伴うため、一般には秘匿されている。
『──ご明察。いや、すごい状況だ。まさか俺も燃え盛る家の中で召喚されるとは思っていなかった』
煙を払って姿を現したのは、緑髪を長く伸ばした燕尾服の男。
圧倒的強者のオーラに身を包み、男は2人を睨みつけた。
『どうも、悪魔だ。
名をドムスポット。さっき、そこの女に召喚された。よろしく』
「え、悪魔? ねえレヴリッツくん、あの人悪魔って言いました?
悪魔自称するとかちょっと痛くないです?w さすがに子供でももうちょいマシな設定考えますよねwwwww
アルヘナァアアアアア!!wwww」
(うるさい……静かにしてくれ……)
レヴリッツは、いよいよ隣の女の頭を疑った。
この圧倒的な戦意を放つ悪魔(本物)を前にして、まさか煽り倒すなど。彼女は本当に何の気配も感じていないのだろうか?
いや、それとも感覚が麻痺しているのか?
「アルヘナァアアアア! まさかお前の最後の頼みの綱が、この自称悪魔の痛い男ですかああああ!? 愛人ですか!? アルヘナァアアアア!!wwww」
(頼む……静かに……)
『なんだ、この女……?』
悪魔もレヴリッツも困惑していた。
悪魔を召喚したアルヘナも、倒壊した小屋の陰で困惑していた。
「アルヘナァアアアア!!」
(どうしてこの先輩は……俺の邪魔ばかりするんだ……!)
堪忍袋の緒が切れたレヴリッツは、ペリに素早く手刀を入れた。
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