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4章 咎人綾錦杯
3. 迫真の演技
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新進気鋭のチームが『黒鬼軍』と遭遇し、敵を全滅させて突破した。
噂は瞬く間に広がり、チームOathの視聴者は激増。プロ級のチームですら全滅必至の黒鬼軍をアマチュア三人のチームが退けたと言うのは、前代未聞の事態だった。
続く第12階層。黒鬼軍の奇襲に比べれば、第11階層のフロアボスなど取るに足らないものであった。
視聴者がかつてないほど伸びを見せているので、リオートはかなり緊張しつつも周囲を確認する。ペリが上手いこと解説で場を繋ぎ、視聴者のブラウザバックを抑えてくれているのだろう。
「このマップは……神殿か」
屋内ダンジョン。壁に立てかけられた松明が揺れ、三人の影を妖しく映し出す。
壁には奇妙な模様のレリーフが刻まれ、通路脇には破風彫刻が鎮座している。
「ヨミ、神殿の注意事項を」
「はいっ! 罠がめちゃくちゃ多いので注意! 狭い通路で戦うことになるので注意!
こうやって大声を出すと敵が寄ってくるので注意……しーっ」
ヨミの声を聞きつけ、前方から迫った邪教徒をレヴリッツが倒す。
彼女は小声で注意事項を語り続ける。
「地下通路を通る時は火気厳禁。隠し部屋が多いのでしっかり調べましょう。
……あと、教典はいらないっ」
「よし、オーケーだ。先に進もうか」
〔気をつけてー〕
〔神殿マップはめちゃくちゃ害悪〕
〔ここまで来ると思ってなかった〕
〔炎つけたら爆発するからなw〕
一行は慎重に罠を探知しながら進んでいく。壁から矢が飛んできたり、落とし穴が曲がり角にあったり……神殿ダンジョンはとかく罠が多い。
レヴリッツが先頭に立ち罠を解除していき、ある程度進んだころ。
「あれ……? こっちに空間があるかも」
ヨミが通路の壁を指さし、立ち止まった。
彼女特有の高い空間認識能力が働いたようだ。
「隠し部屋だろうね。どうする? 行ってみるか?」
〔行くしかない〕
〔いこう〕
〔(三・¥・三)_U~~
(三・¥・三)_U~~
(三・¥・三)_U~~ レヴ粒子砲〕
〔配信者なら行くしかねえよなあ?〕
隠し部屋は財宝が隠されているなどのメリットがある反面、落とし穴だったり魔物が待ち伏せしていたりとデメリットも存在する。ハイリスクハイリターンだ。
しかし腐ってもバトルパフォーマー。冒険せずにはいられない。
三人の意見は満場一致で隠し通路に入ってみるというものだった。
レヴリッツが先陣を切り、回転式の扉の先を覗く。
広さはテニスコート程度、縦長の石室だ。中央には巨大な棺。地面に罠はないようだ。
「ヨミは周囲の警戒、リオートは後方の警戒を。前方は僕が見る」
三人は室内へ踏み込み、周囲を警戒する。敵影なし、罠なし。
問題は中央の棺。死霊系の魔物が待ち受けているのか、それとも財宝が中に入っているのか。
レヴリッツは二人にここで待てとハンドサインを出し、棺へと接近していく。そして刀に片手を握りながら棺のふたを勢いよく開け放った。
そして視界に飛び込んだ物は……
「爆弾だーーーーー!」
〔草〕
〔うおおおおおおおお〕
〔爆弾だああああああああ〕
〔草〕
〔逃げてー!〕
棺には爆弾が仕込まれていた。爆破まで残り二十秒。棺が開くと同時にカウントダウンが始まる仕掛けになっていたらしい。
リオートは入り口の扉を叩くが、一向に開く気配はない。
完全に罠部屋でした。
「ははっ! 扉が開かねえ! これだからインフラはやめられねぇな!」
「ヨミ、能力でどうにかできないか!?」
「えっと、あと二十秒だと……発動が間に合わないね! えっへん!」
残り十秒。
おそらくレヴリッツだけならば、何とか生還できるだろう。しかしソロ攻略などすぐに死ぬ未来しか見えない。
一人でも多くのメンバーを生き残らせなければ。
「ああ……畜生! 二人とも、俺の後ろに来い!」
リオートは巨大な氷盾を展開し、二人を庇うように前に進み出る。
彼の瞳には強い意志が宿っていた。友人の瞳に浮かぶ強い勇気。
レヴリッツはリオートの瞳を盗み見て、声を震わせた。
「リオート、お前……消えるのか……?」
「フッ……レヴリッツ。お前と過ごした日々、悪くなかったぜ……」
〔リオート;;〕
〔王子、下がってください!〕
〔お前…消えるのか…?〕
〔なんか王子死にそうな雰囲気で草〕
──爆発まで、残り一秒。
バトルパフォーマーの養成所で鍛えた演技力が光る。
「リオートーーーーーッ!」
「我が生涯に、一片の悔いなしッ! ぐわあああああっ!
(よし……これで俺の見せ場も作れるし、ここから出られる……疲れたな……)」
すさまじい熱風が地を揺るがし、閃光が弾けた。
二人を庇うように爆発を受けたリオートは吹き飛ばされ、脱落。彼のお陰でレヴリッツとヨミは助かったようだ。
「リオート……いい奴だったぜ……
(ここ切り抜きできそう。再生数どんくらい回るかな)」
「うわー……服が真っ黒だよー!
(リオート、疲れたから適当に理由つけて抜けたみたい……)」
〔死んだww〕
〔草〕
〔ここで脱落はきちい〕
〔二人になったらもう終わりよ〕
〔駄目みたいですね〕
〔ペリちまた爆笑してら〕
二人は心中で率直な感想を呟きながらも、爆風で吹き飛ばされた入り口を潜る。
ここでのメンバー離脱は少し手痛い。せめてフロアボスの攻略戦で離脱してくれればよかったのだが。
「……なあヨミ。僕ら二人で何層まで行けると思う?」
「うーん……あと10層くらい進めるかな?」
「自信ありすぎだろ。もう少しシビアな目線を持とう」
「じゃあ、あと8層くらい?」
二人は何気ない会話を弾ませながら、神殿の深部へと進んで行った。
ー----
レヴリッツらは第12、13階層のフロアボスを撃破。翌日に続いて第14層に挑む。
そんな彼らの様子を一足先に脱落した二人が実況していた。
「ま、まさか第14層まで進むとは……ペリシュッシュ先輩、これってどうなんすか?」
「いや頭おかしいですよこれ。普通、二人になった瞬間全滅なんですけど。
あの人たち異世界を呑気に歩いて攻略してますよ? 散歩か何か?」
〔あいつら強すぎない?〕
〔予想外すぎる〕
〔散歩で草〕
〔もうあいつらだけでいいんじゃないかな〕
〔¥ 10,000
このまま最高記録塗り替えるぞ!〕
〔さすエビ〕
正直、ペリもリオートも自分のチームがここまで進むとは思っていなかった。難関で知られる第13階層で全滅すると思っていたので、リオートもさっさと自爆したのだ。
第14階層ともなれば相当に難易度が上がってくる。バトルパフォーマーの頂点たちが身を置く戦場。
アマチュア級の彼らが挑むのはバトルパフォーマンス史に残る衝撃だろう。
ー----
13層と14層の中間エリアでレヴリッツはヨミと話し合っていた。
現在は配信のカメラを切り、一時的な休息を取っている。
「ねえ……レヴ。ここまで行ったら私たちも人気になれるかな?」
「そうだね。きっと昇格できるよ。少なくともヨミは確実にね」
「……そんなこと言わないで。レヴも『上』に行かなくちゃいけないんでしょ。約束があるから」
二人は共にマスター級になると誓った。
レヴリッツは確かに胸に抱えた『契約』がある。
『契約』を果たすことはレヴリッツの本懐。
だが、ヨミがいなければ彼は契約を果たすためにバトルパフォーマーになることすら叶わなかった。これより先の道はヨミと歩むべき道だ。
たとえ彼の正体が大罪人であろうとも。
たとえ彼という人間が本当は──とも。
せめて約束を果たしてから──を受け入れるべきだ。
「行こうか」
「……うん」
レヴリッツは刀の柄に触れ、未だ見ぬ境地に想いを馳せた。
噂は瞬く間に広がり、チームOathの視聴者は激増。プロ級のチームですら全滅必至の黒鬼軍をアマチュア三人のチームが退けたと言うのは、前代未聞の事態だった。
続く第12階層。黒鬼軍の奇襲に比べれば、第11階層のフロアボスなど取るに足らないものであった。
視聴者がかつてないほど伸びを見せているので、リオートはかなり緊張しつつも周囲を確認する。ペリが上手いこと解説で場を繋ぎ、視聴者のブラウザバックを抑えてくれているのだろう。
「このマップは……神殿か」
屋内ダンジョン。壁に立てかけられた松明が揺れ、三人の影を妖しく映し出す。
壁には奇妙な模様のレリーフが刻まれ、通路脇には破風彫刻が鎮座している。
「ヨミ、神殿の注意事項を」
「はいっ! 罠がめちゃくちゃ多いので注意! 狭い通路で戦うことになるので注意!
こうやって大声を出すと敵が寄ってくるので注意……しーっ」
ヨミの声を聞きつけ、前方から迫った邪教徒をレヴリッツが倒す。
彼女は小声で注意事項を語り続ける。
「地下通路を通る時は火気厳禁。隠し部屋が多いのでしっかり調べましょう。
……あと、教典はいらないっ」
「よし、オーケーだ。先に進もうか」
〔気をつけてー〕
〔神殿マップはめちゃくちゃ害悪〕
〔ここまで来ると思ってなかった〕
〔炎つけたら爆発するからなw〕
一行は慎重に罠を探知しながら進んでいく。壁から矢が飛んできたり、落とし穴が曲がり角にあったり……神殿ダンジョンはとかく罠が多い。
レヴリッツが先頭に立ち罠を解除していき、ある程度進んだころ。
「あれ……? こっちに空間があるかも」
ヨミが通路の壁を指さし、立ち止まった。
彼女特有の高い空間認識能力が働いたようだ。
「隠し部屋だろうね。どうする? 行ってみるか?」
〔行くしかない〕
〔いこう〕
〔(三・¥・三)_U~~
(三・¥・三)_U~~
(三・¥・三)_U~~ レヴ粒子砲〕
〔配信者なら行くしかねえよなあ?〕
隠し部屋は財宝が隠されているなどのメリットがある反面、落とし穴だったり魔物が待ち伏せしていたりとデメリットも存在する。ハイリスクハイリターンだ。
しかし腐ってもバトルパフォーマー。冒険せずにはいられない。
三人の意見は満場一致で隠し通路に入ってみるというものだった。
レヴリッツが先陣を切り、回転式の扉の先を覗く。
広さはテニスコート程度、縦長の石室だ。中央には巨大な棺。地面に罠はないようだ。
「ヨミは周囲の警戒、リオートは後方の警戒を。前方は僕が見る」
三人は室内へ踏み込み、周囲を警戒する。敵影なし、罠なし。
問題は中央の棺。死霊系の魔物が待ち受けているのか、それとも財宝が中に入っているのか。
レヴリッツは二人にここで待てとハンドサインを出し、棺へと接近していく。そして刀に片手を握りながら棺のふたを勢いよく開け放った。
そして視界に飛び込んだ物は……
「爆弾だーーーーー!」
〔草〕
〔うおおおおおおおお〕
〔爆弾だああああああああ〕
〔草〕
〔逃げてー!〕
棺には爆弾が仕込まれていた。爆破まで残り二十秒。棺が開くと同時にカウントダウンが始まる仕掛けになっていたらしい。
リオートは入り口の扉を叩くが、一向に開く気配はない。
完全に罠部屋でした。
「ははっ! 扉が開かねえ! これだからインフラはやめられねぇな!」
「ヨミ、能力でどうにかできないか!?」
「えっと、あと二十秒だと……発動が間に合わないね! えっへん!」
残り十秒。
おそらくレヴリッツだけならば、何とか生還できるだろう。しかしソロ攻略などすぐに死ぬ未来しか見えない。
一人でも多くのメンバーを生き残らせなければ。
「ああ……畜生! 二人とも、俺の後ろに来い!」
リオートは巨大な氷盾を展開し、二人を庇うように前に進み出る。
彼の瞳には強い意志が宿っていた。友人の瞳に浮かぶ強い勇気。
レヴリッツはリオートの瞳を盗み見て、声を震わせた。
「リオート、お前……消えるのか……?」
「フッ……レヴリッツ。お前と過ごした日々、悪くなかったぜ……」
〔リオート;;〕
〔王子、下がってください!〕
〔お前…消えるのか…?〕
〔なんか王子死にそうな雰囲気で草〕
──爆発まで、残り一秒。
バトルパフォーマーの養成所で鍛えた演技力が光る。
「リオートーーーーーッ!」
「我が生涯に、一片の悔いなしッ! ぐわあああああっ!
(よし……これで俺の見せ場も作れるし、ここから出られる……疲れたな……)」
すさまじい熱風が地を揺るがし、閃光が弾けた。
二人を庇うように爆発を受けたリオートは吹き飛ばされ、脱落。彼のお陰でレヴリッツとヨミは助かったようだ。
「リオート……いい奴だったぜ……
(ここ切り抜きできそう。再生数どんくらい回るかな)」
「うわー……服が真っ黒だよー!
(リオート、疲れたから適当に理由つけて抜けたみたい……)」
〔死んだww〕
〔草〕
〔ここで脱落はきちい〕
〔二人になったらもう終わりよ〕
〔駄目みたいですね〕
〔ペリちまた爆笑してら〕
二人は心中で率直な感想を呟きながらも、爆風で吹き飛ばされた入り口を潜る。
ここでのメンバー離脱は少し手痛い。せめてフロアボスの攻略戦で離脱してくれればよかったのだが。
「……なあヨミ。僕ら二人で何層まで行けると思う?」
「うーん……あと10層くらい進めるかな?」
「自信ありすぎだろ。もう少しシビアな目線を持とう」
「じゃあ、あと8層くらい?」
二人は何気ない会話を弾ませながら、神殿の深部へと進んで行った。
ー----
レヴリッツらは第12、13階層のフロアボスを撃破。翌日に続いて第14層に挑む。
そんな彼らの様子を一足先に脱落した二人が実況していた。
「ま、まさか第14層まで進むとは……ペリシュッシュ先輩、これってどうなんすか?」
「いや頭おかしいですよこれ。普通、二人になった瞬間全滅なんですけど。
あの人たち異世界を呑気に歩いて攻略してますよ? 散歩か何か?」
〔あいつら強すぎない?〕
〔予想外すぎる〕
〔散歩で草〕
〔もうあいつらだけでいいんじゃないかな〕
〔¥ 10,000
このまま最高記録塗り替えるぞ!〕
〔さすエビ〕
正直、ペリもリオートも自分のチームがここまで進むとは思っていなかった。難関で知られる第13階層で全滅すると思っていたので、リオートもさっさと自爆したのだ。
第14階層ともなれば相当に難易度が上がってくる。バトルパフォーマーの頂点たちが身を置く戦場。
アマチュア級の彼らが挑むのはバトルパフォーマンス史に残る衝撃だろう。
ー----
13層と14層の中間エリアでレヴリッツはヨミと話し合っていた。
現在は配信のカメラを切り、一時的な休息を取っている。
「ねえ……レヴ。ここまで行ったら私たちも人気になれるかな?」
「そうだね。きっと昇格できるよ。少なくともヨミは確実にね」
「……そんなこと言わないで。レヴも『上』に行かなくちゃいけないんでしょ。約束があるから」
二人は共にマスター級になると誓った。
レヴリッツは確かに胸に抱えた『契約』がある。
『契約』を果たすことはレヴリッツの本懐。
だが、ヨミがいなければ彼は契約を果たすためにバトルパフォーマーになることすら叶わなかった。これより先の道はヨミと歩むべき道だ。
たとえ彼の正体が大罪人であろうとも。
たとえ彼という人間が本当は──とも。
せめて約束を果たしてから──を受け入れるべきだ。
「行こうか」
「……うん」
レヴリッツは刀の柄に触れ、未だ見ぬ境地に想いを馳せた。
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