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三章
3-9 大会のルールは知っているかな?
しおりを挟むオレ達は森で作戦会議をする事にした。街を出て、森にちょっと入ったあたりで、それぞれ切り株などに座った。
ここ、アマリネとビデンスと戦ってたあたりだよな……。
「えっと、何をするんだ? オレの実力とか知っときます? も、模擬戦とか」
「いや、明日の予選に疲れは残したくないから、ここは作戦会議だけにしておきましょう」
ディオンさんがにっこりと笑って提案すると、すぐにラナンキュラスさんが「さすが兄さん。完璧な作戦だね!」と続けた。
兄の事を持ち上げるのはいいと思うけど、毎回こんな風にされたらしんどそう。オレ、もしスティアに何かするたびに「さすがクルト!」って言われたら怖いと思う。
「……えっと、同じチームになるんだし、もう少し砕けてもいい、ですかね?」
「え? あ、そうか! 確かに!」
オレが「さすがクルト」からさらに飛躍し、幼い頃のスティアが「大きくなったらお兄ちゃんと結婚する」と可愛い事を言っていたころまでトリップしていると、次なる提案が出された。
しまった、昔の事を考えている場合じゃなかった。
「俺達の事は呼び捨てで、ですます無しって事でどうでしょう?」
「あ、オレの事もそんな感じで」
「僕の事も同じようにして欲しいな」
ラナンキュラスさ……ラナンキュ……ラナでいいか。ラナは人見知りとかそういうのないのかな。あっという間に旧知の仲かのような馴染みっぷりをアピールした。
「明日勝ち抜けたら、しばらく何でも屋にお世話になるだろうし、他の所員さんにもそんな感じでいいで……いいかな?」
「いいとは思うけど、夕食の時にでも言ってみるよ」
ディオンさんは一瞬ですますになりかけて、ちょろっと修正した。わかる。
「今のところ、あの小柄な子は快諾しそうだとは思っているけど」
「……シアが快諾しない光景が思い描けない」
おそらく彼の提案は受け入れられるし、何でも屋のメンバーは何かする時に、この二人を仲間外れのように扱う事はない。
例えば、ご飯を食べに行く、とかなっても、オレが同じチームである以上、一緒に行く。勿論、この二人が嫌がるようなら、無理強いもしないが。
「それで、作戦会議の続きに移るけど」
「お、おう」
「大会のルールは知っているかな?」
大会のルール。えーっと……なんだっけな……。
「兄さん、僕は予習しているよ」
「うん、ラナが知っているのはわかっているから。偉いね」
「やったー、兄さんに褒められた!」
オレが、そもそもルールなんて知ってたっけ、という風に考えていると、ラナが撫でられてにこにこしていた。こいつの兄業、滅茶苦茶大変なのでは?
「それで、クルトは?」
「ごめん、実は知らないんだ」
やっと回ってきた質問に、オレは素直に答えた。嘘をついても仕方がないしな。
「それじゃあ、俺から説明をするね」
「ありがとう、兄さん。僕の負担にならないようにと自らかって出てくれるなんて、素晴らしいよ。嬉しい」
「え、あ、う、うん。もちろんだよ」
ディオン、さては大分疲れてるな? このチーム、大丈夫か?
「まず、試合に出る人は全員、支給されるゼッケンをつける事になる。これは入場した時に渡されるんだ。ゼッケンとはいっても、簡単に着脱出来るタンクトップみたいな形状だよ」
それ、ゼッケンじゃなくてタンクトップって名称じゃダメなのか? 様式美ってやつ?
「このゼッケンは、大将が赤、大将以外は青」
「このチームの場合は、兄さんが赤だね!」
「……ラナ、その決め事はまだしてないよ」
ディオンはラナをたしなめたが、オレは慌てて首を左右に振って間に入った。
「あっ、ディオンが依頼主だし、その辺は全然問題ないぞ。それにオレが大将なんて……絶対無理だろうし……」
「クルト、その辺も含めて後でゆっくり話そう。いいね?」
「お、おう」
なんか諭されてしまった。
「このゼッケンは攻撃を受けると白く変わる魔法がかけられているんだ」
そのまま説明は続けられる。魔法の効果があるゼッケンって、結構高そう。
「勝敗は、チーム全員のゼッケンの色が変わる、あるいは大将のゼッケンの色が変わった時点で負けが決まる。極端な話、大将さえ生き残れば、チームとしては勝ちって事だね」
なるほど。チームとして勝てればそれでいいから、大将を守ればいいんだな。
「試合中にゼッケンの色が白くなった人は、速やかに場外に出るんだ」
負けたのにずっといたら、他の人の邪魔になるもんな。
「それから、今年から精術の使用も許可される事になったんだよ。ただ、精術師の武器の使用はダメ。というか、武器も向こうで支給される、あまり危なくない木製のやつね」
そういえば、そんな話も聞いたような気がする。
「魔法の使用も支給される魔陣符に限られる。確か、突風の魔法と、石の礫が飛ぶ魔法だったはずだよ」
何で魔陣符を支給? とも思ったが、よく考えたら当たり前の事だった。
魔法使いもいればそうでない人もいる、というのはもちろんの事、魔法使い同士でも1枚と13枚では威力がかなり違う。その辺の「不公平感」を軽減する為の措置だろう。
……精術に武器以外の制限がないのは、まだ一回目だから様子を見ているのか、ナメられているのか、どっちなんだか。
「大会は、第一都市、第二都市、第三都市、管理局の全四ブロックからなる。俺達が参加する予選は、第三都市ブロックの出場者を決めるものになるんだ」
という事は、第一都市、こと王都ハイル、第二都市ヒュムネ、第三都市クヴェルから代表を選ぶのが予選か。管理局の出場者を決める予選って、凄そう。皆戦えるもんな。
「各ブロックから三人一組のチームを四つ選び、本戦で戦う事になる。本戦に出るのは、全部で十六チームになるんだ」
そう言われると多い気もするが、それぞれの代表が四チームだと少ない気もする。どっちだろ。明日の予選に出て見ないと、実感はわかないのかもしれないな。
「まぁ、この辺はクルトにはあまり関係ないかもしれないけど、村や町出身の人は、一番近い都市の予選に出る事になるよ。俺達の場合は、第三都市で仲間を見つけたわけだけど」
とりあえず、国民全員予選に出る権利はあるよ、という解釈でいいのだろうか。うん、いいか。
「本戦に出てくる管理官はクジでチームを決めて、管理局内での大会で勝利した四組だから、毎年かなり手強いとは聞くよ」
つまり、出てくる四組の管理官は、管理官の中の精鋭って事か。それ、一般市民が勝てるのか?
「ただ、まぁ、それに勝てたら本当に実力があるって事だね」
それはそうだけど……。こいつ、勝てるくらい強いって事?
あぁ、でも、強いかも。ムキムキだもんな。兄弟でどっちもムキムキ。
「まだどんなチームが出るのかはわからないけど、巷ではさっき会ったジギタリスさん辺りが出るんじゃないか、って予想されているみたい」
ジギタリスか……。絶対強いじゃん。え、それ、勝てるの?
ムキムキ対決だったら勝てるだろうけど、ジギタリスの実力はよくわかっている。単純な筋肉量だけじゃ、今回の勝利には貢献できないだろう。
「多分大体説明したと思うけど、何か質問はある?」
「えっと、多分ない、かな」
「そりゃあそうだよ! 兄さんの説明は完璧だったからね!」
オレが頷くと、何故かラナも大きく頷いた。すげぇ、兄弟ってこういう形もあるんだな。
あとオレ、このやり取りに慣れないとダメなんだな。
ディオンは「ははは」と乾いた笑いをしてから、オレに向き直る。超絶ブラコンに対しては、多少流さないと疲れるんだろう。大変そうだ。
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