精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-14 環境的に、色々あったからさ

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「ラナは後方から支援、クルトは中間地点で戦況を見ながらの援護、俺が前線で引っ張っていくって感じでどうかな」

 作戦会議を始めると、直ぐにディオンが提案してくれた。

「大将自ら前線でいいのか?」

 それに対してオレが首を傾げると、直ぐにラナが「兄さんは強いんだよ! 凄いんだよ!」と間に入った。

「兄さんは、きっと大会に出る誰よりも強いし、やっぱり前線で活躍して注目を浴びて欲しいっていうか」
「お、おう。そうか」

 上手く返せず、オレは引き気味に頷く。ブラコンが凄すぎて、対処の仕方が全然わからない。

「えっと、ラナのいう事は一回置いておいて」
「うん、僕の言う事なんて一回置くんでも彼方に放り投げるんでもいいんだよ。気にしないで!」

 ど、どうしよう。オレ、どんな反応するべき?
 ディオンも困ったように笑っている。だよなぁ……。

「元々オレは前線タイプだからさ。援護はまかせたいんだ」

 そういう事か。ラナの説明じゃ何にもわからなかった。
 ……それに、まぁ、どの道オレが前に出たところで役に立たないしな。

「クルト」
「……ん?」

 ディオンがオレを呼ぶ。別に何もやらかしてないと思うけど、何だろう。

「もしかして、自分は役に立たないから前に出されないんだ、なんて思ってない?」
「お、思って、ない、し?」

 見透かされたか。ドキッとしたが、オレは必死に誤魔化す。ちゃんと誤魔化せているかは別として。

「そっか。でも、ちゃんと説明はさせて貰えるかな?」
「おう」

 これ、誤魔化せてないよな? オレが誤魔化したから配慮してくれただけだよな?
 オレがソロっとツークフォーゲルに視線を向けると、大きく頷かれた。やっぱりお前から見ても配慮されてるんだな?

「さっき、クルトは役に立たなかったって言ったよね」

 先日の一件の話か。オレはコクンと頷く。
 ついでにオレの肩に留まったツークフォーゲルもコクンと頷いた。それ、いる? ちょっと傷つくんだけど。

「それって、実際敵を目の前にすると上手く動けなかった、っていう意味だと思ったんだけど、間違ってる?」
「間違って、ない」

 詳しく話したわけではないが、どうも大体の状況を予想していたようだ。

「しかも、身体が硬くなって動けなくなる、というよりは、自分の考えに従って動いているはずなのに、他の人の邪魔になってしまった、という事もあった」
「……間違ってない」

 なんで、見てなかったのに分かるんだ。何らかの能力者か。
 いや、理由は分かっている。こいつが頭の中で整理し、この結果を導き出したから。つまりこのムキムキは……頭がいい……。

「あのさ……きっと、その理由は、クルトにはまだ戦況を見る能力が足りていないからなんじゃないかな」
「それ、は、まぁ、そうだと、思うけど」
「あぁ、ごめん。責めてるわけじゃないんだ」

 事実だが悲しくなるな、と思った瞬間にはフォローが入った。え、やっぱり人の心が読める能力者か?

「というか、そんな事に慣れていない人の方が多いと思うし」
「ディオンは?」
「俺?」

 この言い方だと、こいつはいろんな修羅場をくぐっている事になりそうだ。だって、他の精術師とはあまりかかわってこなかったんだろ。で、シュヴェルツェの一件を知らなかったんだから、それら以外で何かがあったって事だ。

「そう。ディオンは慣れているのか?」
「……なんて言ったらいいかな」

 彼は困ったように笑った。ごめん、ラナみたいに困らせて。……ラナみたいには困らせてないか。

「環境的に、色々あったからさ」
「……そっか」

 環境的に、か。
 それじゃあ、これ以上聞くものじゃないな。オレにだって聞かれたくない過去の一つや二つ、あるし。

「とにかく、そういう事だっていうのが分かったのなら話は早い」

 ぱん、と手を打った。
 同時に、近くにいたエーアトベーベンの大元も立ち上がって、ぱん、と手を打った。開いた手からツークフォーゲルが出てきて『いりゅーじょん、だいせいこう』などとわけのわからないことを言わなければ、多分スルーしていたのだろう。
 さてはこいつら、飽きてきたな?

「やっぱりさっき言った作戦の通りでいこう」

 ディオンは精霊の謎行動をスルーし、続けた。

「それで、この大会で、クルトの戦況を見る練習をしよう」
「いいのか? だって、オレはただの人数合わせの助っ人なのに……」

 オレもとりあえず精霊はスルーして、人間側の話に集中する。

「シュヴェルツェが動いているみたいだからね。同じ精術師として君の役に立てるなら協力したい」

 どうして、とオレが疑問を口にするより先に、ディオンは「なんてね」と続けた。

「言い訳しているけど、ただお節介をしたいだけなんだ」

 微笑んでいる顔に、嘘は浮かんでいない。

「折角出来た縁なんだから、大切にしたくて。その為の、言い換えれば俺の為の提案なんだけど……駄目かな?」

 ズルい。こんなアプローチがあるだろうか。
 オレは「ありがとう」と礼を言う。彼の好意は、ありがたく受け取る事にしたのだ。

「でも、ラナはそれでいいのか?」
「えっ、僕の事、ラナって呼んでくれるの?」
「そっち?」

 オレの疑問へは答えず、こいつは愛称へ反応した。心の中ではさっきからずっとラナと呼んでいたわけだが、口に出したのは初めてだった。
 とはいえ、こんなに急に、それも過剰に反応されるとは思っておらず、困惑しすぎて困惑に食べられそうだ。

「嬉しいなぁ。僕、あまり愛称で呼んで貰えないから、本当に嬉しい!」
「い、いや、それはいいんだけど……」

 嬉しいのはいいけど、その、一人で盛り上がるの、止めて貰えないか。

「もうこれは友達だよね! 友達の助けになれる事を、どうして僕が拒否しなければいけないの?」
「えっ、ちょ、えっ……」

 と、友達? なんだこの違和感まみれの友達は。
 急に距離を詰められて困惑しっぱなしだ。こんなに複雑な気持ちになる友達も存在するのか。
 慌ててディオンの方を見れば、口パクで「ごめん」と言っていた。と、止めないのか!

「クルト! 頑張ろうね!」

 ラナはぐいぐいとオレに近付き、ぎゅっと両手でオレの手を握ってくる。どうしよう。

「僕は友達である君の為になるのなら、何でも協力するよ!」
「お、おう。ありがと、な?」

 こ、怖い。こんな事思うのって良くないんだろうけど、やっぱりこいつ、人との距離の取り方がわからないんだな。ラナって言ったの、失敗だった?
 い、いやいや、でも、結果的に結束も固くなったっぽいし? いい、事にして、おこう……。

「こんなに仲良くしてくれる友達が、同じ精術師だなんて嬉しいよ」
「ラナ、その辺にしておこう」

 オレ、こいつに良くした記憶、ない。正直ディオンが止めてくれて安心したくらいだ。

「クルト、心配はないからね。明日の予選は楽しもう」
「……おう」

 こいつには何でもお見通しなのかもしれない。ディオンは駄目押しとばかりにオレをフォローすると、微笑んだ。

「何でも屋さんに帰ろうか。こちらも作戦会議が終わったんだし、きっと向こうもそろそろいいんじゃないかな」
「あ、そっか」

 オレはその辺で遊んでいたツークフォーゲルの方を見た。こいつらに確認してきてもらおうっと。

「ツークフォーゲル、スティアにもういいか聞いてくれ」
『がてんしょうちー』
『ききほうだいよー』

 ツークフォーゲルは直ぐに数体、何でも屋の方へと飛んで行った。その間にオレ達は立ち上がり、ちょっと伸びをしたりしていると帰ってきた。

『だいじょうぶだけどはずかしいって』
『おだんごおだんごー』
『ネメシアとアルメリアにまけたってー』
「えっと、作戦会議は?」
『おわってたー』

 聞いたのは最後に答えていた、どうしてその報告を最後にするのか。緊急事態ってわけじゃないから遊んでるのか。
 ……スティア、何されてるんだろう。

「大丈夫そうだな!」
「そうみたいだね」

 スティアは、まぁいい。帰ればすぐにわかるし。
 オレ達は頷き合って、何でも屋の方へと向かったのだった。

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