精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-15 望むところだ!

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 何でも屋の中に入ると、皆揃っていたし、スーさんまでいた。

「えっと……」
「クルト君、こんにちは」
「こんにちは」

 相変わらず穏やかそうな人だ。この人が高級な制服を作る人……。

「初めまして。何でも屋の隣の雑貨屋、ドルンリートの店主のスターチスと申します」
「あっ、は、初めまして」

 スーさんはなんだかごてごてしているんだかスッキリしているんだかわからない服で、綺麗に頭を下げた。あまりにも綺麗だったものだから、どこぞの高級な場所に仕えている人っぽい。
 あれ、でも、スーさん自身が高級な人なんだっけ?

「ディオンさんとラナンキュラスさんでしょうか?」
「は、はい」

 ディオンが目に見えて緊張している。

「この度は、妹が大変失礼致しました」
「い、いえ、とんでもないです。むしろ有難いお話を頂いて」

 やっぱり、凄い人って知ってると緊張するのかな。
 スーさん、怖くないぞ。穏やかだし、やんわりコスモスの暴走を止める人だし。
 むしろディオンに似てるじゃん。暴走する下の子を止める兄。見た目とか物腰は全然違うけど。

「本当に、うちでよろしいのでしょうか? その……妹が強引に推し進めた話ではないか、と、少々不安になりまして」
「そんな事はないです。有難いので、出来たらお部屋を貸して頂けたら……」

 スーさんは、ふわっと笑った。コスモスとは全然違う、柔らかな花がほころんでいるような顔だ。
 もしかしてお兄さんの方が麗しいんじゃ……。

「短い間ですが、よろしくお願い致します」
「いえ、こちらこそ!」

 大丈夫だって。スーさん怖くない。
 とはいえ、このタイミングでそんな事を言ったら、話の腰を折る事になる。ちょっと黙っておこう。

「お部屋の準備はすでに整っておりますので、いつでもお越し下さい」
「ご丁寧にありがとうございます」

 スーさんはディオンとラナに会釈をしてから、くるっとスティアの方へと向き直った。
 おお、スティア、頭がなんか可愛くなってる。いつものポニーテールの変わりに、頭には大きな三つ編みの団子が出来ていた。しかもピンクのリボン付き。

「スティアさん」
「な、なんだ」
「その髪型、よくお似合いですよ。とてもお可愛らしいです」
「こ、これは、その、だな……」
「お揃いにしたんだよ!」

 シア、やはりお前の仕業か。正確にはシアの隣で満足げににこにこしているアリアさんの仕業でもあるだろうが。
 アリアさん、その満足気な顔が可愛いです。ちょっと子供っぽく見える表情も、アリアさんがやれば不思議と絵になる。可愛い。
 この顔を見る為ならば、オレでも喜んで頭を差し出す。残念ながら三つ編みにするほどの髪の長さはないが。

「皆三つ編みのお団子にしたから、コモちゃんにも教えてあげて」
「わかりました。コモちゃんの髪も三つ編みのお団子にしておきますね」
「うん!」

 シアは何を言っているのか、と呆れたのも束の間。スーさんは見事な返し技でにこっと笑った。これが大人の余裕か。
 あと、コスモスは話を聞いたら本当にお揃いにしそう……じゃない! スーさんがコスモスの髪形を変えるのか!

「それでは、そろそろ失礼しますね。ディオンさんとラナンキュラスさんに確認をしに来ただけですから」

 微笑んでいるスーさんに、所長が「ありがとねー」と軽く声をかけている。

「スーさん、またその内飲もうね」
「うん。フーさんといろんなお話が出来るのを楽しみにしているね」

 ですますじゃないし、コスモスの暴走と止めているわけでもないスーさんって、ちょっと新鮮だ。

「では、失礼致します」

 彼はそう言い残すと、何でも屋を後にした。

「よし、おれも帰ゆねー」
「わかった」

 突然片手を上げたテロペアに、ベルが名残惜しそうな顔をしながらも頷く。

「また明日の朝、迎えに来ゆから。ベユ、泣かないで待ってるんたよー」
「何で泣くんだよ。明日、楽しみにしてる」
「おれもー。ベユと大会に出ゆの、楽しみにしてゆね」

 おお、仲がいい! 友達だもんなぁ。

「あ、お前と会うのは別に楽しみじゃないから」

 ベルに対しての蕩けた顔はどこへやら。テロペアはスティアの方をちらっと見てから鼻で笑った。

「はっ。それはこっちのセリフだ。明日は精々足を引っ張らないでいて貰おうか」
「はぁ? そっちこそ、こっちの足を引っ張ゆどころか、切り落とさないように注意してよね」

 な、仲が悪い。

「じゃあね、テーくん! 帰りに色んな人と喧嘩しちゃ駄目だよ!」
「誰がするか、クソチビ」
「やだなぁ、テーくん。あたしがちっちゃいんじゃなくて、テーくんが大きいんだよ。あと、足が長い」
「……しょうだね」

 あ、テロペア負けた。

「アリアも、無理しちゃダメらからね。しゅーぐ熱出しゅんだから」
「だ、出さないわ……」
「いいから。今日はもう休むこと」
「……わかったわ」

 テロペアはシアとの会話を無かった事にしたようで、今度はアリアさんに向き直った。
 そうそう。アリアさんは直ぐ無理するし、気を付けないと。

「ベユ、見ておいてあげてね」
「わかった」

 すぐにベルが頷いた。うんうん。オレも注意しておこう。

「クソ女、見ておいてやれよ」
「ふん、言われなくても見ておく。クソ野郎」

 す、スティアには普通に言った! しかもクソって! スティアもクソって言い返したけど!

「じゃあねー! お邪魔しましたー」

 オレの驚きなどなんのその。他のメンツに見向きもせず、所長にだけは会釈して、彼は去っていった。すげぇ、怒涛の勢い。

「えっと、俺達もそろそろお暇しますね」
「あ、そう! それ!」

 すかさずスティアが「どれだ」と突っ込んだ。

「なぁ、ディオンとラナもタメ口でいい?」

 オレが何でも屋の面々に尋ねると、皆「好きにしろ」という態度で頷いた。だがディオンが「所長さんだけはちょっと……」と言葉を濁す。
 あー、まぁ、何でも屋の所員もそんな感じじゃないのに、お客さんでそれは気になるかもな。

「えっと、クルト。そろそろお暇してもいいかな?」
「あ、ごめん。大丈夫」

 ディオンが困ったようにオレを見ている。ごめん、話の腰を折った。骨折させた。出鼻をくじいた方かもしれないけど。

「それじゃあ、俺達も明日の朝、ここに来るから」
「クルト、また明日! 君と仲良く予選に出る事が出来るのを楽しみにしているよ。興奮して眠れるかどうかわからないくらいには、ね」
「あ、うん。夜は寝ろよ」

 なんでそこまで?
 あまりにも距離感の近いラナに引き気味に返すと、ディオンが半ばラナを引きずるようにしながら、何でも屋を後にした。大変そうだ。

「クルト、明日お前と当たっても手加減はしないからな」
「そうだ。クルトと当たったら、こてんぱんにしてやる!」

 ベルとスティアはやる気満々だ。オレもさっきのディオンとのやり取りもあって、元気が出てきた。

「……望むところだ!」

 ニカっと笑う。久しぶりに笑えた気がした。

   ***

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