精術師と魔法使い

二ノ宮明季

文字の大きさ
154 / 228
三章

3-48 お前今、悔しがってるな?

しおりを挟む

「……その辺にツークフォーゲルがいるな?」
「そりゃあ、まぁ」

 オレが答えると、ルースのお父さんはニタァと笑う。怖い怖い。

「レヴィン、俺との事はお前の心の中だけで大切にしてるんだな。嬉しいよ。その内会いに来い。って、伝えておいて」
『おっけー』
『グラジオラス、あいかわらずレヴィンのこと、すきすぎー』

 あ、愛が重い。

「なんて言ってる?」
「え?」

 一瞬何の事かと思ったが、ツークフォーゲルの事か。

「えっと、オッケー、って。あと、親父の事好きすぎって」
「違いないな!」

 オレは素直に答えると、ルースのお父さんは大きな口を開けて豪快に笑った。

「それを伝えた後に、ちょっとだけ時間を置いて、お前今、悔しがってるな? も追加で頼む」
『いいよー』
『ばくしょう』
「どうだ? いいって?」
「おう。いいって。あと、爆笑って」

 これ、絶対親父悔しがるよな。すげぇ、性格を熟知してる。

「で、クルト」
「何だ?」
「お前、ですますをどこかに置き忘れてるぞ。忘れたままでもいいんだけど」

 しまったー! でもいいなら、いい、か?

「それなら私もいらないな?」
「おう。どっかに置いてこい」

 いいのか。

「それはそれとして、本題」

 ルースのお父さん、チャラいっていうよりもおおざっぱな人だな。見た目はチクチクしそうな髭も生えてるし、だらしない印象なんだけど……どうしても、大雑把って感じが抜けない。

「二人とも、俺達の事を何も聞いてないんだよな? 正確には、お父さんの学生時代の事」
「お、おう」
「聞いていないな。全く」

 オレもスティアも、勢い良く頷いた。

「あの、聞いたら教えてくれるのか?」
「聞くんだったらオレも気になるッス。この前、かつての大親友とか、シュヴェルツェっぽいものに言われたんスよ」
「それは、ぽいじゃなくてシュヴェツルェだろうが。バカ息子」

 ルースに溜息を吐きつつ、ルースのお父さんは「んじゃ、やっぱちょっとだけ話しておくか」と頷いた。
 すげぇ! お金を払っていないのに教えてくれるんだって! あの親父の事を!
 親父の事を知ろうとしたら、必ず金よこせって言われるんだよなぁ。払えないくらいの額。

「お、おい、いいのか?」
「よう、ヘタレのヴァイスハイト」
「お、お前は!」

 待ったをかけたのはテロペアのお父さんだった。今日はひたすらヘタレって言われてる気がするな、この人。

「現状として、少しでも耳に入れておかないとまずい事になってると俺は思うぞ」

 ルースのお父さんは肩を竦めて見せる。

「何しろ、あのシュヴェルツェが動き始めたんだ。あの時のメンバーの子供が狙われないわけがないだろう。事実、既にレヴィンの子供と、うちのバカ息子が接触されている」
「お父さん、バカバカ言われると悲しくなるんスけど」

 ついにルースがルースのお父さんに抗議した。テロペアのお父さんがヘタレヘタレ言われているように、ルースもバカバカ言われていたもんな、今日。スティアが「中々話が進まんな」と溜息を吐いた。
 いやいや、ただで情報を貰う為だから、我慢しよう。タダの対価なんだから、このくらい時間を浪費するって。

「いや、だってお前」
「何スか」
「迂闊にも女に刺されたじゃん」
「……そう、ッス、けどぉ」

 女に刺される、って、そんなに言ってやらなくても。皆ルースに「女に刺された」って話をしてるよな。テロペアとか。それに同意するベルとか。

「お父さん、女に刺された事はないから。あるのは尻を叩かれる事だけ」
「それはうちの家族は全員もれなく通る道じゃねーッスか!」
「ジオ、ルース。それ以上この話をしたら……わかるわね?」

 ルースのお母さんがにっこり微笑む。この家……まさか全員、お母さんにお尻を叩かれてるのか?

「お、お父さんが変な事を言うからッス」
「人のせいにすんなって。女に刺されたのはうちの一族でお前だけっていう事実は変わんないだろ?」
「いやいや、ご先祖様のどこかできっと刺されてるッス」

 代々女に刺されなきゃいけない家系なのかよ。
 気になると言えば気になるが、そろそろ本題を進めて貰おうかな。このままだとルースの女性関係の話にまで発展しそうだ。

「えっと、親父の話を聞かせて貰えるんじゃ……?」
「あ、悪い悪い」

 ルースのお父さんは軽い調子で答えて、ヘラっと笑った。

「話す前に、一つだけレヴィンに伝えてくれ」
「お、おう」

 そっか。親父の話をするんだもんな。一応何か言わないとだよな。
 この人、意外と律儀だなー。さっきは絶対からかって遊んでたけど。

「あの時の事、今ここで全部話すぞ。それが嫌なら出てきて自分で話せ。出て来ないのなら、俺に委ねたと解釈するからな……って、伝えて貰って」
「……ツークフォーゲル、頼む」
『りょーかい!』
『いやーん、グラジオラス、かげきー』

 別に過激ではないんじゃないかな、って思うけど。

「了解。グラジオラス過激、だって」
「過激で結構。あ、五分以内に返事がなかったら勝手に喋るから、も追加で」
『おっけー。さすが、せいかくをよくわかってるな』
『ぜったいレヴィン、ぐぬぬってなるよー』

 親父を悔しがらせる天才かよ。オレもちょっとその能力分けて貰いたい。
 たまには親父にギャフンと言わせてみたいもんな! 言ってる所、見た事ないし!

「何か言ってたか?」
「親父の性格がよくわかってる、って。絶対悔しがるなー、だって」
「ははっ、そりゃあそうだ。あいつとはちゃんと正面切って、付き合ってきたんだから」

 えー、オレだって正面きって付き合ってるのに。解せない。

「あ、そこの串焼き一本頂戴。旨そう」
「どう、ぞ?」

 オレが頷くと、ルースのお父さんはオレ達が買って来た串焼きを一本ひょいっととった。これが情報料になるのなら、安いものだ。

「あとフリチラリア。俺にも一杯頂戴!」
「え? あ、はい」

 しょ、所長を呼び捨てにした! え? 何で?
 っていうか、所長に頼んだ一杯ってお酒だよな!? 飲むの!?

「所長と、どんな関係?」
「そりゃあ、教師と元教え子だ。あのクソ生意気なガキの面倒を見てきたんだよ。俺は」
「クソ生意気ですみませんでしたね。飲んで忘れて下さい」

 所長はげんなりとしながら、小麦色に白い泡の乗った飲み物をルースのお父さんに手渡した。ルースのお父さんは串焼きを頬張って、酒で流し込むと「この程度では忘れられねーな」と不敵に笑った。
 所長、ちょっと笑顔が引きつってるぞ。子供の頃の話をされるのは嫌なのか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...