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三章
3-49 託されたと解釈して始めるか
しおりを挟むもしかして……グレてたのか? 制服とかビリビリに破いて、自分の事を「俺様」とか呼んでた時期がある? え……所長、ワルだ。
「そんなに、ワルだったんですか?」
「ワルではないよ? どんな姿を想像してたの」
「えっと……悪そうな?」
どう説明したらいいんだろう。困ったな、とスティアを見るも、スティアはすでにオレを無視して食事をしていた。五分も無駄に過ごさないとは、やるな。
「生意気ではあるけど、ワルではなかったぞ」
「もうその話はいいでしょう!」
「所長のクソ生意気だった話、聞きたいな」
「ベル、勘弁して。お願いだから……お願いだから!」
ベルがニヤッと笑って所長を見た。なるほど、ベルに聞かれたくないからこんな風に嫌がってるのか。
「いやー、こいつはな――」
「そろそろ五分なのでは? ほら、先生、五分ですよ!」
「お、そうか」
所長は苦し紛れに、オレ達の話へと強引に戻した。大人組の方で、テロペアのお父さんが「くっ、戻された」と呟いている。
やっぱり親父の話をさせたくなかったらしいが、直ぐにキラキラ集団のお母さんっぽい人が「往生際の悪いヘタレね」と鼻で笑ったので、聞かなかった事にしてあげよう。
「それじゃあベル、これは今度聞かせてやるからな」
「わかった」
「止めてぇぇぇ……!」
もう、本当は所長の方がヘタレなんじゃ……。
「で、クルト。どうだ?」
「どうだ、ツークフォーゲル」
『むごん』
「あー、無言だって」
「やっぱりな。じゃ、託されたと解釈して始めるか」
ルースのお父さんが肩を竦めると、スティアがススっと近付いて来た。お前ってヤツは……。
「お前達のお父さんが学生の頃、シュヴェルツェを倒した、っていう話は聞いてるか?」
「ああ、聞いている」
話が始まると、スティアが大きく頷く。
さっきまでご飯食べてたじゃん! なんでそんなに直ぐに混ざって来られるの! お兄ちゃん、びっくりしちゃったよ!
「その時に、負傷した事も?」
「知っている」
オレよりも先に、スティアが相槌を打つ! 良いんだけど……なんか、なんかなぁ!
さっきの間にオレもご飯食べておけばよかった。瞬発力はご飯の差なんじゃないかなぁ。
「あの時、シュヴェルツェが何に入っていたか、は、どうだ?」
「何、って」
やっと先に口を開いたものの、結局何も答えられなかった。質問の意図を理解しきれなかったのだ。
「あの時、今は管理局の牢屋で過ごしているであろう、同級生が作り出したものに入っていたんだ」
「ちょっと待って! それって、タブー中のタブーを犯したって事?」
「タブー中のタブーって?」
突然飛び込んできたシアの言葉に、思わず疑問を返す。
「人間を作る、だよ」
人間を、作る……? 何それ、魔法ってそんな事も出来るの?
「お、正解。さっすが、その年頃の中では一番の天才と噂されている大魔法使いってだけの事はあるな」
「え? 誰が?」
「ん? この子が。ネメシア・ツェーン・ディースターヴェークだろ?」
「だよ」
シアは頷く。いや、「だよ」じゃなくて。お前、凄い噂されてるみたいだぞ。
「お噂はかねがね」
「……どんな噂なのか聞くのが怖い」
奇遇だな。オレも。
「何で分かったんだ?」
「ルースから、シアちゃんという名前と魔法が作れる事、それから年齢を聞いていた。あの年頃で魔法を作れるシアちゃんと言えば、という程度には有名人だからだ」
「……シア、何をしたんだ?」
「何もしてないよ。同級生にプリンの魔法をかけただけだよ」
「十分しているではないか。だが……この男はお前の学校の教師ではなかったようだが、プリン程度でそこまで広がるものなのか?」
今度はスティアが口をはさんだ。言われてみればそうだな。
同級生をプリンにするってもの凄い事だとは思うけど、こんな、第一都市から第三都市まで噂が広がる程の事ではない気がする。
……た、多分。最近オレもシアに感化されて、なんかちょっとその辺があいまいになりつつある気がするからなぁ。どうなのかな。
「確かにシアちゃんはハイルの生徒で、俺はクヴェルの教師と場所は離れているが、もの凄いとは噂になっていたからなぁ。プリン以外にも、色々やってただろ?」
「や、やってないよ」
「作ってただろ?」
「作ってはいた」
やらかしたのはプリンだけで、色々作っていたから有名だ、と。
「で、でも、あたしの話はいいじゃん! ルトとスッティーのパパの話、しよ!」
「おう、そうだそうだ」
うっかりシアの話になるところだった。危ない危ない。
「でもその前に、一応お前に注意しておくな」
ルースのお父さんは、真面目な顔でシアを見る。
「いいか、人体に影響のある魔法を作ってはいけない、というのは当然。その中でも、魔法で命を生み出そうとするのは絶対にやってはいけない。やろうとするなよ」
「誰がやるものか! あたしはあたしのときめくものが作りたいだけだもん。それは、他の人にとって、良い事のあるものだよ」
「プリンは?」
「目が幸せ」
そういう魔法だったのか……。
あと、あれか。不快な虫にも簡単に引導が渡せる、って感じだっけ。
「よし、とりあえず危険な事をするつもりは無いようだし、話を戻すぞ」
やっとだ。オレがそう思ったのとほぼ同時に、スティアも「やっとか」と小さく息を吐き出した。だよなー。
「その同級生が、この天才娘の言う通り、人間を作り出した。正確には、レヴィンのコピー人間を」
親父の、コピー?
「それも、出来損ないだ。本来なら自立も出来ないような、まるで人間の着ぐるみのような存在だったが、動き出す方法が一つだけある。わかるな?」
「……シュヴェルツェが中に入り込む」
「そう、正解だ。よくやった、偉いぞ!」
えへへ、照れるな……。照れてる場合じゃないような話の内容だけど。
「まぁ、とにかくその、平たく言うと人工生命体にシュヴェルツェが入り込んで、好き勝手動き回った。同級生はとりわけお前達のお父さんを気に入っていたから、お前達のお父さんへの執着は凄かったんだ」
うへぇ……性根と性質の悪いシアみたいなのに執着されたって事だよな?
「ところが、お前達のお父さんは、人を信用せず、人をいいように使おうとする、ツンツンの国の王子なんじゃないかってくらいの勢いの、人嫌いで打算的な男だったものだから、人工生命体を生み出す前の同級生を利用しようと接触していた。正確には、接触されたのを容認していた、と言うべきか」
つんつんおうじ……。親父、全然王子っぽくないと思うんだけど。
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