精術師と魔法使い

二ノ宮明季

文字の大きさ
155 / 228
三章

3-49 託されたと解釈して始めるか

しおりを挟む

 もしかして……グレてたのか? 制服とかビリビリに破いて、自分の事を「俺様」とか呼んでた時期がある? え……所長、ワルだ。

「そんなに、ワルだったんですか?」
「ワルではないよ? どんな姿を想像してたの」
「えっと……悪そうな?」

 どう説明したらいいんだろう。困ったな、とスティアを見るも、スティアはすでにオレを無視して食事をしていた。五分も無駄に過ごさないとは、やるな。

「生意気ではあるけど、ワルではなかったぞ」
「もうその話はいいでしょう!」
「所長のクソ生意気だった話、聞きたいな」
「ベル、勘弁して。お願いだから……お願いだから!」

 ベルがニヤッと笑って所長を見た。なるほど、ベルに聞かれたくないからこんな風に嫌がってるのか。

「いやー、こいつはな――」
「そろそろ五分なのでは? ほら、先生、五分ですよ!」
「お、そうか」

 所長は苦し紛れに、オレ達の話へと強引に戻した。大人組の方で、テロペアのお父さんが「くっ、戻された」と呟いている。
 やっぱり親父の話をさせたくなかったらしいが、直ぐにキラキラ集団のお母さんっぽい人が「往生際の悪いヘタレね」と鼻で笑ったので、聞かなかった事にしてあげよう。

「それじゃあベル、これは今度聞かせてやるからな」
「わかった」
「止めてぇぇぇ……!」

 もう、本当は所長の方がヘタレなんじゃ……。

「で、クルト。どうだ?」
「どうだ、ツークフォーゲル」
『むごん』
「あー、無言だって」
「やっぱりな。じゃ、託されたと解釈して始めるか」

 ルースのお父さんが肩を竦めると、スティアがススっと近付いて来た。お前ってヤツは……。

「お前達のお父さんが学生の頃、シュヴェルツェを倒した、っていう話は聞いてるか?」
「ああ、聞いている」

 話が始まると、スティアが大きく頷く。
さっきまでご飯食べてたじゃん! なんでそんなに直ぐに混ざって来られるの! お兄ちゃん、びっくりしちゃったよ!

「その時に、負傷した事も?」
「知っている」

 オレよりも先に、スティアが相槌を打つ! 良いんだけど……なんか、なんかなぁ!
 さっきの間にオレもご飯食べておけばよかった。瞬発力はご飯の差なんじゃないかなぁ。

「あの時、シュヴェルツェが何に入っていたか、は、どうだ?」
「何、って」

 やっと先に口を開いたものの、結局何も答えられなかった。質問の意図を理解しきれなかったのだ。

「あの時、今は管理局の牢屋で過ごしているであろう、同級生が作り出したものに入っていたんだ」
「ちょっと待って! それって、タブー中のタブーを犯したって事?」
「タブー中のタブーって?」

 突然飛び込んできたシアの言葉に、思わず疑問を返す。

「人間を作る、だよ」

 人間を、作る……? 何それ、魔法ってそんな事も出来るの?

「お、正解。さっすが、その年頃の中では一番の天才と噂されている大魔法使いってだけの事はあるな」
「え? 誰が?」
「ん? この子が。ネメシア・ツェーン・ディースターヴェークだろ?」
「だよ」

 シアは頷く。いや、「だよ」じゃなくて。お前、凄い噂されてるみたいだぞ。

「お噂はかねがね」
「……どんな噂なのか聞くのが怖い」

 奇遇だな。オレも。

「何で分かったんだ?」
「ルースから、シアちゃんという名前と魔法が作れる事、それから年齢を聞いていた。あの年頃で魔法を作れるシアちゃんと言えば、という程度には有名人だからだ」
「……シア、何をしたんだ?」
「何もしてないよ。同級生にプリンの魔法をかけただけだよ」
「十分しているではないか。だが……この男はお前の学校の教師ではなかったようだが、プリン程度でそこまで広がるものなのか?」

 今度はスティアが口をはさんだ。言われてみればそうだな。
 同級生をプリンにするってもの凄い事だとは思うけど、こんな、第一都市から第三都市まで噂が広がる程の事ではない気がする。
 ……た、多分。最近オレもシアに感化されて、なんかちょっとその辺があいまいになりつつある気がするからなぁ。どうなのかな。

「確かにシアちゃんはハイルの生徒で、俺はクヴェルの教師と場所は離れているが、もの凄いとは噂になっていたからなぁ。プリン以外にも、色々やってただろ?」
「や、やってないよ」
「作ってただろ?」
「作ってはいた」

 やらかしたのはプリンだけで、色々作っていたから有名だ、と。

「で、でも、あたしの話はいいじゃん! ルトとスッティーのパパの話、しよ!」
「おう、そうだそうだ」

 うっかりシアの話になるところだった。危ない危ない。

「でもその前に、一応お前に注意しておくな」

 ルースのお父さんは、真面目な顔でシアを見る。

「いいか、人体に影響のある魔法を作ってはいけない、というのは当然。その中でも、魔法で命を生み出そうとするのは絶対にやってはいけない。やろうとするなよ」
「誰がやるものか! あたしはあたしのときめくものが作りたいだけだもん。それは、他の人にとって、良い事のあるものだよ」
「プリンは?」
「目が幸せ」

 そういう魔法だったのか……。
 あと、あれか。不快な虫にも簡単に引導が渡せる、って感じだっけ。

「よし、とりあえず危険な事をするつもりは無いようだし、話を戻すぞ」

 やっとだ。オレがそう思ったのとほぼ同時に、スティアも「やっとか」と小さく息を吐き出した。だよなー。

「その同級生が、この天才娘の言う通り、人間を作り出した。正確には、レヴィンのコピー人間を」

 親父の、コピー?

「それも、出来損ないだ。本来なら自立も出来ないような、まるで人間の着ぐるみのような存在だったが、動き出す方法が一つだけある。わかるな?」
「……シュヴェルツェが中に入り込む」
「そう、正解だ。よくやった、偉いぞ!」

 えへへ、照れるな……。照れてる場合じゃないような話の内容だけど。

「まぁ、とにかくその、平たく言うと人工生命体にシュヴェルツェが入り込んで、好き勝手動き回った。同級生はとりわけお前達のお父さんを気に入っていたから、お前達のお父さんへの執着は凄かったんだ」

 うへぇ……性根と性質の悪いシアみたいなのに執着されたって事だよな?

「ところが、お前達のお父さんは、人を信用せず、人をいいように使おうとする、ツンツンの国の王子なんじゃないかってくらいの勢いの、人嫌いで打算的な男だったものだから、人工生命体を生み出す前の同級生を利用しようと接触していた。正確には、接触されたのを容認していた、と言うべきか」

 つんつんおうじ……。親父、全然王子っぽくないと思うんだけど。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

処理中です...