精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-65 俺達が負けるわけがないだろ

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 モンステラは怒っていた。尻もちをついて、笑いものにされたと感じているからだ。

「だ、大丈夫ですよ。あの……」
「何が大丈夫だ! 貴様さえしっかりしておれば良かっただけだろう!」
「ご、ごめ、ごめんなさい」

 ひたすらに怒っているモンステラと、それを宥めるのに失敗して八つ当たりを受けているツルバギア。この二人を前に、ミリオンベルは一回下がった。
 あの大きな風の後に、スティアに「戻ってこい」とジェスチャーで呼ばれたからだ。

「あんな風に、捨て身で向かって行かれては困る。お前が負ければ試合はお終いなんだぞ」
「……ごめん」

 スティアからの注意は至極まっとうなもので、ミリオンベルは少し俯いた。柄にもなく突っ込み、あまつさえ私情で一人を執拗に狙ったのは、自覚があったのである。

「ていうかー、お前の精術のしぇいで危なかったんでしゅけどー?」
「は? 何だと貴様」
「ま、待って。今のは俺が悪かったからストップ」

 テロペアがスティアを煽ったのは、ミリオンベルへの配慮だ。現実はどうあれ、ミリオンベルはそう捉えた。

「……軽く作戦を立て直すぞ」
「もうしゃー、あの髭やっちまおうよ」
「ああ、そうするか」

 三人はちらっと、未だに苛立ちをツルバギアに向け続けているモンステラを見遣る。
 やるなら今だ。
 三人は皆、同じタイミングでそう思った。わずかに頷くと、直ぐにミリオンベルとテロペアはモンステラへと突進した。
 これを慌てて迎え撃とうと動いたのは、たった今まで八つ当たりをされていたツルバギアである。
 彼は魔陣符を構え、一瞬どちらを狙うか迷う。これが、彼にとってのミスと言えばミスか。
 一瞬のスキをついて、テロペアは受け取ったまましまっていた魔陣符を取り出し、ツルバギアを狙って発動させた。
 彼は何とか身を捩って避けたが、すれ違い様にミリオンベルからの一撃。これもなんとか受け止めた。

 ところが、だ。今度は二人の影に隠れて接近していたスティアにより攻撃をされ、さすがによけきれずにゼッケンを白く変えた。
 スティアがそうしてツルバギアを失格に追い込んだ頃。テロペアはモンステラの傍まで接近していた。
 モンステラは素早く魔陣符を弾き、石の飛礫を飛ばしてくる。
 テロペアはそれらを全て剣で撃ち落とした。二つの剣で巧みに、自らのゼッケンに礫が当たらないようにと完璧に動いたのだ。

「お、おのれ! たかが精術師のくせに! 1枚のくせに!」

 モンステラは焦りと激昂を混ぜ込んだ表情で、歯噛みする。

「お前はその1枚や精術師に負けるんだよ」

 ふと、モンステラの後ろから声がした。ミリオンベルだ。
 テロペアに正面を任せ、後ろに回り込んだのである。その顔には微笑みが浮かんでおり、会場からは女性の感嘆のため息が聞こえたほどだ。
 見る者を魅了する微笑みのまま、彼はモンステラの腹へ剣を強く叩き込んだ。

「――ぐ、ぅ……」

 痛みに顔を歪め、その場に崩れ落ちるモンステラ。

「13枚という事にただ胡坐をかいているだけの奴に俺達が負けるわけがないだろ」

 その彼に、やはりミリオンベルは微笑みを向けていた。
 試合終了の合図がされる。こうして、ミリオンベルのチームは、次の試合へと駒を進めたのだった。

   ***
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