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三章
3-66 怪我をしているから手当をしなければー
しおりを挟む「貴様たちが弱いがばかりに!」
控室を通って、何でも屋の面々がいる場所へと戻ろうとした時だった。
怒鳴り声が控室いっぱいに広がり、ミリオンベルは顔を顰めた。彼は元来、大きな音は苦手なのだ。それが怒鳴り声ともなると、余計に。
声の主はモンステラだ。
彼は自らの前にツルバギアとモカラを並べ、地団太を踏んでいる。大の大人がじたばたと足を踏み鳴らす様子は、やや滑稽だ。
「貴様たちさえ後れを取らなければ、私が辱められることはなかったというのに!」
「す、すみません」
ツルバギアは縮こまっている。
「すみません! しかしそれは、モンステラさんの筋肉が足りなかったからではないでしょうか!」
「何だと! 私にたてをつくのか!」
何故かモカラは反論した。
その三人組の様子を、ミリオンベルは顔を顰めながらじっと見続ける。
テロペアは少し動こうかとも思ったようだが、試合直前のミリオンベルの態度を思い出してか「うーん」と僅かに唸るにとどめた。
「どこまで私を愚弄すれば気が済むんだ!」
そうして、モンステラが激昂して腕を振り上げた時だった。唐突にミリオンベルは動き出し、ツルバギアの元へと向かうと強引に腕を取る。
「あー、大変だー。怪我をしているから手当をしなければー」
わざとらしく、明らかな棒読みで。彼は顔を顰めたまま平たんな声を出し、ぐいぐいとツルバギアの腕を引いて控室の出入り口へと向かった。
「え? あ、あの。え?」
「手当てしてやるから、一緒に来い」
困惑しきりのツルバギアの腕を取ったまま、モンステラの事は完全に無視している。
「そうだねー。手当しにゃきゃー」
これに乗っかったのはテロペアだ。どうしたものかと見ていたのだが、ネックになっているミリオンベルが動いたとなれば別である。
ミリオンベルとは反対側の腕を取って、三人仲良くとっとと出入り口へと向かった。
「ふむ」
そんな中、スティアが一人で頷く。正確には一人で、ではなく、ツークフォーゲルから『ツルバギアのいもうと、クルトたちといっしょ』『ツルバギアつれてきてー』と報告があったからなのだが、この場ではスティアとテロペア以外には聞こえていない。
「お前は私達と来た方がよさそうだ。お前の妹がこちらの仲間と一緒にいるらしい」
「え!? 何で!?」
『クルトがかいしゅうした』
『へんたいにゆうかいされそうだったから』
なんとまぁ、というのが、スティアとテロペアの感想だった。
「……変態に誘拐されそうになっていたところを保護したらしい」
「是非、一緒に行かせてください」
簡単に伝えると、ツルバギアはしゃんと立ち、スタスタと歩き出した。
後ろでモンステラが吠えているが、もう何も聞く気もない。やがて控室を出て扉を閉めると、完全に彼の声は聞こえなくなった。
「八つ当たりするくらいなら、ふんぞり返って戦うなんて馬鹿なことをしなければよかったのに」
ミリオンベルは鼻で笑うと、ツルバギアに向き直る。
「ちょっとやりすぎた。ごめん」
「え、いや、大丈夫です。ははは」
少しのやり取りの後。四人はクルトたちの待つ席へと向かったのだった。
***
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